はじめに
目的
本章は、退職願を3か月前に提出することに関する全体の位置づけを示します。本調査の範囲は、法的根拠、実務的な手続き、企業の就業規則との関係性です。読者が次章以降を読み進める際の地図となる説明をします。
背景
労働法では一般に2週間前の申し出で退職が可能とされています。一方で企業は「3か月前申告」を求めることがあります。本記事は、法的な最低要件と企業側の運用上の事情を分かりやすく比較します。
この章で得られること
・本調査の目的と範囲が分かります
・以降の章で扱う法的論点と実務的手順の全体像を把握できます
以降の章では、具体的なスケジュールや注意点、就業規則との関係まで順を追って丁寧に解説します。
法律上の退職タイミング
民法の基本ルール
無期雇用(終期のない雇用)の場合、民法第627条により、退職の意思表示をした日から2週間経てば退職できます。つまり「今日辞めます」と伝えれば、14日後が原則の退職日です。
就業規則との関係
会社が就業規則で「3ヶ月前申告」を定めしていても、法律の2週間ルールを上回る強制力はありません。ただし、業務上の引継ぎや募集の都合から、早めに申し出るよう求められることは多いです。とはいえ、法的には2週間で退職可能です。
有期契約や管理職の扱い
有期契約(期間が定められた契約)は契約内容が優先され、一方的に辞められない場合があります。管理職でも法的なルールは同じですが、実務上は長めの引継ぎが期待されるケースが多いです。
実際の例と実務的助言
例:4月1日に退職の意思を伝えれば、4月15日が退職日になります。円満退職のために、可能なら1〜3ヶ月前に上司に相談し、引継ぎ資料を準備すると安心です。書面での意思表示(メールや退職届の提出)はトラブル防止に有効です。
企業が3ヶ月前申告を定める理由
1. 業務引継ぎ期間の確保
企業は退職までに業務を引き継ぐ時間を確保したいです。重要な業務やノウハウを残すため、引継ぎ計画や教育の余裕が必要です。例:プロジェクトリーダーなら後任のOJTに数週間〜数ヶ月要します。
2. 有給休暇や勤務調整の計画的消化
退職前に残る有給の扱いや休暇の調整を計画できます。これにより急な穴を減らし、チーム全体の負担を軽くします。
3. 人員確保と採用活動
採用や配置転換に時間がかかるため、早めの申告で後任採用や業務再配分を進められます。中途採用や募集準備、面接の日程調整に数週間〜数カ月かかります。
4. 人事管理上の理由
給与計算、手続き、退職金や社会保険の処理など事務的な手続きの準備が容易になります。規模の大きい会社ほど前もっての調整が必要です。
補足(柔軟性)
就業規則で3ヶ月を目安にしている企業が多いですが、法律で必ず3ヶ月と定められているわけではありません。業種や職務内容に応じて短縮や相談が可能な場合もあります。
3ヶ月前申告時の具体的なスケジュール
3か月前(意思表明)
まず直属の上司に口頭で退職の意思を伝え、同時に退職願を提出します。書面で残すことで誤解を防げます。人事にも報告し、退職日を正式に調整します。
2か月前(引継ぎ開始)
引継ぎ資料を作成して優先順位を付け、後任やチームに業務を引き継ぎます。具体例:業務フロー、重要連絡先、パスワード管理方法、進行中案件の状況。引継ぎ会議を設定して実演やQ&Aを行います。
1か月前(最終調整と有給消化)
有給休暇の消化計画を立て、未処理の業務を完了します。会社所有物の返却(ID、PC、備品)や精算(経費、貸与品)を済ませ、最終給与や保険手続きの確認も行います。
退職当日
離職票や源泉徴収票など必要書類を受け取り、上司や同僚に挨拶します。引継ぎの最終確認をして、連絡先交換を忘れないようにします。
転職活動の進め方(早めの開始が望ましい)
面接日程や引継ぎ期間を調整しやすくするため、転職活動は早めに始めます。内定後は退職日との調整を速やかに行い、入社手続きに備えた書類準備も進めておきます。
注意点:会社によって細かい手順は異なります。必要な手続きは上司や人事と確認してください。
退職願と退職届の提出タイミングの違い
要点
退職願は「退職したい」という意思表示、退職届は「退職する」ことを確定させる正式な書面です。段階を踏むことで、円滑に手続きを進められます。
退職願(提出時期と目的)
- 提出時期:退職希望日の1〜3ヶ月前が一般的です。業務引き継ぎや後任探しの時間を確保できます。例:4月末退職なら1月〜3月に相談するイメージです。
- 目的:まずは意思を伝え、上司と相談するためのものです。会社側と話し合って退職日や引き継ぎ方法を決めます。
退職届(提出時期と目的)
- 提出時期:退職日が正式に決まった後、退職日直前または退職日当日に提出します。日付を記載して確定扱いにします。
- 目的:退職の意思を確定させる法的に重要な書面と位置づけられます。会社は原則として受理して処理を進めます。
実務上の流れ(例)
- 退職願を上司に口頭・書面で提出して相談する
- 引き継ぎスケジュールを作成し調整する
- 退職日が決まったら退職届を提出して確定する
提出時の注意点
- まずは直属の上司に口頭で伝えるのが円滑です。書面はその後に提出します。
- コピーを保管し、受領印やメールの記録を残すと安心です。
- 早めに意思表示すると職場の準備がスムーズになります。
実務的な推奨タイミング
基本的な目安
一般的には退職の意向を1.5〜3ヶ月前に伝えると実務上スムーズです。企業側で退職願を受け取るタイミングは2ヶ月前が多いため、逆算して早めに上司に口頭で申し出ると安心です。急に1ヶ月前に伝えると引継ぎや採用準備が慌ただしくなります。
管理職・専門職の場合
管理職やプロジェクト責任者、専門職は3〜6ヶ月前の申告をおすすめします。引継ぎ範囲が広く、採用や顧客引継ぎの調整に時間がかかるためです。早めに伝えて、後任選定や体制変更の準備期間を確保してください。
引継ぎと具体的な手順例
- 口頭で上司に意向を伝える(1.5〜3ヶ月前)
- 退職願を正式に提出(目安:2ヶ月前)
- 引継ぎ計画を作成し、担当者を決める
- 資料作成・業務の段階的移譲(期間:申告から退職日まで)
- 最終確認と書面での退職日確定
例:退職希望日が6月末なら、4月上旬に口頭、4月中旬に退職願、4月〜6月に引継ぎ作業を進めると良いです。
実務的な注意点
有給休暇の消化、機器や資料の返却、最終給与や社会保険手続きの確認を早めに行ってください。上司や人事とこまめに連絡を取り、引継ぎリストを作るとトラブルを防げます。礼儀正しく段階的に進めることが、円満退職につながります。
就業規則の強要に関する注意点
背景
就業規則に「退職の意思は3ヶ月前までに申し出る」との定めを置くこと自体は珍しくありません。記載だけで直ちに違法とは限りません。問題は、会社がその規定を理由に退職を認めない、または不利益を与えるなどの強要をする点です。
何が問題になるか
企業が一方的に従業員の退職を阻止したり、退職届を受け取らない、最終給与や有給を不当に差し止める行為は不当な労働行為になる可能性があります。解雇や雇用継続の強制は、労働者の自由を侵すおそれがあります。
契約形態ごとの違い
- 正社員:就業規則や雇用契約に定めがあれば影響しますが、合理性が求められます。
- 有期契約:契約期間中の中途解約は原則できません。契約内容を確認してください。
- 管理職や裁量労働制の場合も個別の契約条項を確認します。
実務的な対応
まず雇用契約書と就業規則を確認し、書面でやり取りを残します。会社と話し合いで解決を図り、妥協案(引継ぎ期間短縮、交代要員の確保、有給消化など)を提案します。会社側の強硬な対応が続く場合は、労働相談窓口や弁護士に相談してください。
相談先
労働基準監督署、都道府県や市の労働相談窓口、労働組合、労働問題に詳しい弁護士に相談すると安心です。
第8章: まとめ
退職願の「3ヶ月前提出」は法的な義務ではありません。法律上は原則として2週間前の予告で退職できます。ただし、実務面では引継ぎや有給消化、職場との円満な関係維持のために、3ヶ月程度の余裕を持って申告することが広く推奨されています。
- 法的ポイント
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民法上は2週間前の予告で足ります。会社が一方的に長期間の申告を課すことはできませんが、就業規則や雇用契約は必ず確認してください。
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実務的にやること(手順)
- まず就業規則で提出時期や手続を確認します。
- 退職の意思が固まったら上司に早めに相談し、引継ぎ計画を立てます。
- 退職願(相談段階)→最終的に退職届を正式提出する流れが一般的です。
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有給消化や最終出社日、仕事の引継ぎ・資料整理は書面で残しておくと安心です。
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トラブル回避の注意点
- 会社の規定に納得できない場合は労働相談窓口などへ相談を検討してください。
したがって、退職を考えたらまず就業規則を確認し、上司と早めに話し合って計画的に進めることをおすすめします。円満退職に向けて、記録を残し、誠実に対応してください。


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