はじめに
忙しい総務・人事担当の方向けに、本記事は「会社側が従業員の退職時に行うべき手続き」と「準備・交付すべき書類」「従業員から回収・提出してもらう書類・物品」を、実務ベースで分かりやすく整理しています。
対象読者
– 中小企業の総務・人事担当者
– 人事マニュアルを整備したい管理職や経営者
この記事で学べること
– 退職時に会社が用意・交付すべき書類の一覧と簡単な説明
– 従業員から回収すべき証明書や貸与物の具体例
– 手続きの進め方(基本フロー)と現場での注意点
– 後続章で扱う法的根拠やチェックリスト作成のポイント
使い方
– まずは本章で全体像を把握してください。次章以降で書類ごとの詳細と雛形、法的注意点を示します。この記事をそのままマニュアルやチェックリストの骨子として使えます。
注意点
– 企業ごとに就業規則や雇用契約が異なります。個別の取り決めはそれに従ってください。法的な解釈が必要な場合は、社労士や弁護士に相談することを推奨します。
会社側が退職時に準備・交付すべき書類一覧
退職時に会社が準備・交付すべき主な書類を、目的と手続きのポイントとともにわかりやすくまとめます。
- 源泉徴収票
- 目的:その年の給与・税額を証明します。
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手続き:原則として翌年1月31日までに交付します。年の途中で退職しても発行します。
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健康保険資格喪失証明書(被保険者資格喪失証明)
- 目的:国民健康保険や転職先での手続きに使います。
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手続き:資格喪失日を正確に記載し、速やかに交付します。
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離職票
- 目的:失業給付の申請に必要です。
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手続き:会社は離職票に基づく離職理由をハローワークに提出し、離職票を従業員へ交付します。手続きに時間がかかるため説明を添えて渡します。
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退職証明書(労基法第22条)
- 目的:在職期間や職務内容などを証明します。
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手続き:従業員から請求があれば発行義務があります。事実を正確に記載してください。
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雇用保険被保険者資格喪失届
- 目的:雇用保険の資格喪失を届け出ます。
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手続き:退職の翌日から10日以内にハローワークへ提出します。
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健康保険・厚生年金の資格喪失届
- 目的:社会保険の資格変更手続きです。
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手続き:速やかに年金事務所や協会けんぽへ届けます。
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退職所得の受給に関する申告書(退職金支給時)
- 目的:退職金の税務処理のために必要です。
- 手続き:退職金支給時に提出を求めます。未提出時の税率に注意してください。
上記は代表的な書類です。交付時に説明書や窓口案内を添えると、従業員の手続きが円滑になります。
会社側が従業員から回収・提出してもらう書類・物品
退職届(書面)
退職届は原本での提出を受け取ります。提出日と退職日、氏名の記載を確認し、受領印または受取サインを残します。理由の記載は任意です。控えは会社と従業員で一部ずつ保管します。
健康保険証
健康保険証は原則返却してもらいます。加入先変更や資格喪失の手続きに必要ですので、受領後は速やかに社内担当へ引き渡します。
名刺・社員証・会社備品(PC・スマホ・鍵・制服等)
所持品は一覧で確認します。PCやスマホはデータの引き継ぎと初期化(会社方針に沿って)を行い、鍵や制服は状態を確認して返却受領書を作成します。破損や紛失がある場合は事実関係を記録します。
業務関連書類・データ
引き継ぎ資料、顧客情報、社内ファイルの所在を明示した引継書を提出してもらいます。電子データはアクセス権の解除とバックアップを確認し、個人の私物データは削除を依頼します。
退職所得の受給に関する申告書(退職金がある場合)
退職金支払いの際は、源泉徴収のために申告書を提出してもらいます。期日を明示し、提出が遅れると税処理に影響する旨を伝えます。
実務上のポイント
回収物はチェックリストで管理し、受領日と受領者を記録します。電子と紙の双方で確認し、不足がある場合は速やかに従業員へ連絡してください。
退職手続きの会社側フローと注意点
退職手続きは順序を決め、担当と期限を明確にすることが重要です。以下は実務で使える流れと注意点です。
手続きフロー(基本順序)
- 退職届の受理・記録(書面で受け取る、受理書を交付)
- 社内通知と担当者割り当て(総務・人事・経理・現場に周知)
- 社会保険・雇用保険の手続き(雇用保険は退職翌日から10日以内にハローワークへ)
- 備品・書類の回収と引継ぎ(PC、IDカード、鍵、機密書類など)
- 最終給与・退職金の計算と支払い、源泉徴収票等の準備
- 退職証明書・離職票の交付(請求があれば速やかに)
各工程の実務ポイント
- 退職日は双方で合意し、書面に残す。口頭だけで終わらせないことが大切です。
- 備品回収はリスト化し、返却時に従業員の署名をもらって受領書を保管します。
- ITアカウントは最終出勤日に無効化します。データのバックアップを事前に取ってください。
- 給与は就業規則や労使協定に従い支払います。退職金規定がある場合は計算根拠を明示します。
トラブル防止のための証拠整備
- 退職届、受領書、通知メール、手続きの提出コピーをファイルで保存します。
- 手続きごとに担当者と期限を明記したチェックリストを作成し、実施日時を記録します。
透明性を保ち、早めに手続きを進めれば不要なトラブルを防げます。
退職手続きに関する法的根拠とポイント
退職手続きには法律の根拠と実務上の注意点があります。会社側は法に基づいて対応を整える必要があります。
主な法的根拠
- 労働基準法第22条:退職証明書の交付義務を定めます。退職者が請求した場合、事実を記載した証明書を交付します(例:勤続期間、職名)。
- 民法第627条:期間の定めのない雇用契約は原則2週間前の通知で解約できます。就業規則や労使協定で別段の定めがあればそれに従います。
- 雇用保険関係法令:離職票や雇用保険資格喪失届の提出が必要で、退職理由によって受給手続きが変わります。
退職理由の取り扱い
会社都合か自己都合かで手続きや給付に差が出ます。離職票の記載は正確に行い、誤記がある場合は速やかに是正します。判断に迷うときは記録(事実関係の書面)を残してください。
書類交付と実務ポイント
退職証明書、源泉徴収票、雇用保険関係書類は適切な時期に交付します。就業規則で手続きや期間を定めている場合はそれに従い、交付日や方法を記録しておくと紛争予防になります。個人情報は慎重に扱い、求めに応じ速やかに対応してください。
まとめ:会社側が押さえるべき実務ポイント
- 書類準備と交付の徹底
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離職票、雇用保険関係、源泉徴収票、健康保険・厚生年金の手続案内などをリスト化し、交付漏れを防ぎます。発行期限(例:雇用保険関係は10日以内)を目安に管理してください。
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回収物と精算の確認
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備品(PC、鍵、社員証)、会社貸与の書類やIDを回収します。未払い給与や未消化の有給の精算時期と金額を明確に伝え、振込日を約束します。
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記録でトラブル回避
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退職届、メール、面談記録、手続きの控えを保存します。何がいつ行われたか分かるようにしておくと説明責任を果たせます。
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丁寧な説明と窓口設置
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退職後の保険・年金、再発行手続きの案内を丁寧に行い、問い合わせ窓口を明示します。感情的なやり取りを避け、礼儀正しく対応してください。
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実務チェックリストの活用
- 退職者ごとにチェックリストを用意して担当者が項目を確認・署名する運用にすると抜け漏れが減ります。
これらを日常業務に組み込むことで、手続きのミスを減らし、従業員との信頼関係を保てます。
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