はじめに
目的
本調査は、会社が従業員の退職時に行うべき手続き全般を分かりやすく整理し、特に離職票の発行に関する具体的な流れと対応方法を詳しく解説します。実務でよく起きる疑問点や注意点を押さえ、トラブルを未然に防ぐことが狙いです。
対象読者
人事・総務担当者や経営者、退職手続きを担当する方を想定しています。初めて退職対応を行う方でも理解できるよう、具体例を交えながら説明します。
本書の使い方
各章は退職前、退職日、退職後の流れに沿って構成します。貸与品の回収、保険証や雇用保険の資格喪失手続き、離職票の作成・提出期限、本人確認の方法、税務関連の対応まで順を追って説明します。書類のチェックポイントやよくあるトラブルとその対処例も紹介します。
注意点
手続きは期日や記載内容の正確さが重要です。誤りや遅延は従業員の給付や会社の信頼に影響します。必要に応じて行政窓口や社労士に相談してください。
退職手続きの全体的な流れと重要性
全体の流れ
退職手続きは大きく「退職前」と「退職後」の二段階に分かれます。退職前は退職届の受理、上司との面談、業務引継ぎ、貸与品の回収などを行います。退職後は健康保険や雇用保険の資格喪失届の提出、離職票の作成・送付など法的な手続きを進めます。
退職前に行うべき代表的な項目
- 退職届の受理と受付日時の記録(例:退職届の受取日を社内システムに登録)
- 業務の引継書作成と引継ぎの実施(具体的な作業手順や連絡先を明記)
- パソコンや社用携帯など貸与品の回収と在庫管理
- 社内関係者への周知と最終出勤日の調整
退職後に行うべき代表的な項目
- 社会保険・雇用保険の資格喪失届の提出(所定の様式で手続きを速やかに)
- 離職票の作成・本人への送付
- 未払給与や有給消化の精算、源泉徴収票の発行
チェックリスト活用のポイント
チェックリストを用意して担当者を明記すると、抜け漏れを防げます。例:貸与品回収担当、社会保険手続き担当など。期限を明確にして進捗を管理してください。
トラブルを防ぐための注意点
法定の手続きを遅延すると、従業員や会社に不利益が生じます。書類はコピーを残し、本人への説明を丁寧に行って同意を得る習慣をつけてください。
退職日決定から退職届受理までのプロセス
1. 退職の意思表示
従業員が退職の意思を会社に伝えます。まずは上司と面談して理由と希望日を伝えるとスムーズです。口頭でも効力はありますが、記録のために書面やメールで残すことをおすすめします。
2. 退職日の決定
原則として、申し出から14日後以降の日を退職日とします。例:3月1日に申し出た場合、原則は3月15日以降が退職日です。会社が同意すれば、期間を短縮して早めることも可能です。業務引継ぎや有給消化の調整をしながら、双方で日付を確定します。
3. 退職届の提出方法
退職日が確定したら、従業員に退職届を提出してもらいます。様式は一般的に簡単な書面で十分です(氏名・退職日・署名)。メールや添付ファイルで提出する場合も受理の証拠を残すため、返信をもらいましょう。
4. 会社の受理と記録管理
会社は退職届を正式に受理し、受理日を記録します。受理書や受領印付きのコピーを従業員に渡すと、後の誤解を防げます。人事側は退職日を基に保険・給与処理の準備を始めます。
5. 注意点
・口頭のみでも効力はありますが、書面でのやり取りを残すとトラブルを避けられます。
・急な退職希望には相談して双方で日程調整してください。
・退職届の内容に不明点があれば、早めに確認しましょう。
退職日までに行うべき会社側の対応
退職手続きの説明と担当窓口
退職者に対して、必要書類や手続きの流れを分かりやすく案内します。担当者(人事または総務)を明確にし、連絡先と受付時間を伝えてください。例:退職届の写し、年金手帳、健康保険証の提出方法。
最終給与と精算の確認
未消化の有給休暇、精算すべき手当や残業代を確実に計算します。振込先口座の確認や支払日を事前に伝え、金額に疑問があれば早めに説明します。例:有給の換算方法や精算タイミングの説明。
退職時誓約書(機密保持・競業避止)
必要に応じて、機密情報の扱いや退職後の競業に関する誓約書を取り交わします。文面は簡潔にし、拘束範囲や期間を明記します。署名をもらう際は、内容を口頭でも説明してください。
退職証明書の準備
労働基準法第22条に基づき、従業員が求めれば退職証明書を交付します。記載項目は在職期間、職務内容、役職などが一般的です。請求があれば速やかに発行し、押印や署名を忘れないでください。
貸与品回収とアクセス解除
PC、携帯、IDカード、作業着などの回収リストを用意し、引継チェックを行います。同時にシステムや入退室のアクセス権を退職日に合わせて解除してください。
引き継ぎと退職面談
業務引継書を作成させ、後任者と確認します。退職面談で退職理由や会社への要望を聴き、今後の改善に活かします。連絡先の確認も忘れずに。
社内連絡と記録保持
関係部署(経理、IT、総務)に退職日を共有し、必要な処理を依頼します。退職関連の書類は法令に沿って適切に保管してください。
貸与品と保険証の回収手続き
はじめに
退職日までに会社が回収すべき物品と健康保険証について、具体的な手順と管理のポイントを説明します。回収漏れや紛失を防ぐため、明確な担当者と期限を設けます。
回収対象の例
- パソコン(PC本体、充電器、周辺機器)
- 社員証・入館証・IDカード
- 名刺・名札・制服・作業着
- ロッカー鍵・セキュリティトークン
- 会社支給の交通ICカードや携帯端末
- 健康保険証(原本)
回収手順(実務)
- 退職通知を受けた時点で返却リストを作成します。
- 退職日までに社員と返却日時を調整し、直接手渡しか書類確認で受領します。
- 受領時に担当者が一覧にチェックし、受領印または署名をもらいます。
- 郵送で返却する場合は着払いや追跡番号を利用します。
健康保険証の扱い
健康保険証は原本を必ず回収します。会社側で保管と処理(資格喪失手続きに伴う扱い)を行います。紛失時は本人に報告を求め、再発行の手続き案内をします。
管理のコツ
- チェックリストを用意し、回収状況を見える化します。
- 受領者の氏名・日時・状態(破損・紛失の有無)を記録します。
- 個人情報は厳重に保管し、不要なコピーは速やかに廃棄します。
これらを徹底することで、退職時のトラブルを未然に防げます。
離職票の作成と重要性
離職票とは
離職票は失業給付(雇用保険)を受けるために必須の書類です。企業が作成する書類は「離職票-1」と「離職票-2」の2種類で、どちらも申請時に必要になります。
会社の責任と作成手順
会社は退職者の勤務状況や退職理由を正確に記載します。記載内容は雇用保険の給付判定に直接影響しますので、事実に基づいて丁寧に記入してください。一般的な流れは以下のとおりです。
- 離職事由や最終給与、勤続期間などを確認して記入
- 記入後、退職者本人に内容を説明して確認を取る
- 本人の合意が得られたら署名・捺印をもらう
本人確認と署名の重要性
離職票の記載内容に異論があると、給付の判定が遅れる可能性があります。そのため会社は退職者に説明し、納得の上で署名・捺印してもらう必要があります。署名は本人確認の一環であり、後のトラブル防止につながります。
実務上の注意点
- 記録は控えとして会社と本人双方で保管する
- 書き間違いがあれば速やかに訂正し、訂正理由を明示する
- 嘘や過少記載はトラブルや行政処分の対象になり得る
離職票は退職者の生活に直結する重要書類です。正確・丁寧に作成し、相互確認を確実に行ってください。
離職票の提出期限と手続き方法
提出期限
退職日(最終出勤日)の翌々日から10日以内に、会社は手続きを行います。例:退職日が4月1日なら、4月3日から数えて10日以内、4月12日までに提出します。
提出する書類と提出先
主な書類は「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」です。提出先は事業所を管轄するハローワークです。
手続きの具体的な流れ
- 退職情報を確認し、離職理由や期間を記入します。具体例:自己都合か会社都合かを明確にします。2. 必要書類を揃え、社内で押印や確認を行います。3. ハローワークへ持参、郵送、または電子申請で提出します。
期限を守るための実務ポイント
- 退職発生後は速やかに担当者を決め、スケジュールを作ります。- 記入ミスを防ぐため二重チェックを行います。- 提出の控えを保存します。
期限を過ぎた場合の影響と対応
期限を過ぎると、従業員が失業給付を受ける手続きに支障が出ます。期限切れに気付いたら、速やかにハローワークへ相談し、状況説明と必要な補正を行ってください。
チェックリスト(簡潔)
- 離職日を確認
- 書類に必要事項記入
- 社内確認・押印
- ハローワークへ提出(控え保存)
離職票作成時の本人確認と署名
本人署名の意義
雇用保険被保険者離職証明書では、記載内容について退職者本人の署名が原則必要です。署名は記載事項が本人の意思と一致することを示し、後のトラブル防止につながります。
署名時の本人確認方法
署名を受ける際は、社員証、運転免許証、マイナンバーカードなどで本人確認を行ってください。対面で確認できない場合は、コピーと連絡履歴(メールや郵送控え)を保管します。
署名が得られない場合の対応
病気や海外滞在などで署名が得られないときは、その理由を明記して事業主が代わりに記入できます。代筆する際は、代筆者名、代筆の理由、日付を明記し、可能であれば後日本人の押印・署名を求める旨を記録します。
実務上の注意点
郵送で返送を依頼する際は返信用封筒と記入例を同封してください。退職日までに余裕を持って作成し、署名が間に合わない恐れがある場合は早めに本人へ連絡を取ります。記録を残すことで後の確認が容易になります。
社会保険と雇用保険の資格喪失手続き
概要
離職票と並行して、社会保険と雇用保険の資格喪失手続きを進めます。期限を守ることで、社員の保険や年金の継続に支障を出しません。
手続きの期限
- 社会保険(健康保険・厚生年金):資格喪失日から5日以内に提出
- 雇用保険:退職日から10日以内に完了
社会保険の具体的な流れ
- 被保険者資格喪失届を年金事務所や保険者へ提出します(氏名、生年月日、喪失日など)。
- 被保険者の健康保険証は回収します。社員には国民健康保険への加入や任意継続の選択肢を説明してください。任意継続は最長2年で、手続きは退職後20日以内に申請が必要なケースがあります。
雇用保険の具体的な流れ
- ハローワークへ必要書類を提出し、被保険者資格を喪失させます。2. 離職理由や賃金の証明が求められるため、最終月の給与明細や離職理由の記録を準備します。社員が失業給付を受ける際に必要な書類を速やかに渡してください。
退職日までに準備するチェックリスト
- 被保険者番号、個人情報の確認
- 健康保険証の回収
- 最終給与・退職金の確定資料
- 離職理由や勤務期間の記録
手続きは会社側の責任で期限内に行う必要があります。期限を過ぎると社員に不利益が出るため、退職前に準備を整えておくことをおすすめします。
税務関連の手続き
所得税(源泉徴収票)
退職時は最終給与の支給時に源泉徴収票を交付します。源泉徴収票には当該年の支払金額と源泉徴収税額が記載され、次の勤務先や確定申告で必要になります。郵送する場合は現住所を確認し、速やかに渡してください。
住民税(期限と手続き)
住民税の手続きは退職月の翌月10日までに完了させる必要があります。会社は退職者の情報を自治体へ報告し、特別徴収(給与天引き)から普通徴収(個人への請求)への切替手続きを行います。例:6月末退職なら7月10日までに対応します。
年末調整と確定申告
退職時に年末調整を受けられない場合、本人は翌年2月16日〜3月15日の確定申告で税金の精算をします。医療費控除や寄附金控除などがある場合は確定申告を案内してください。
注意点
源泉徴収票の発行遅れや住民税手続きの不備は従業員の税務申告に支障をきたします。源泉徴収票の交付、住所確認、送付方法、転職先情報の有無を事前に確認し、期限内に手続きを済ませてください。


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