はじめに
概要
本調査は、退職届を提出する際の「提出期限」に焦点を当て、その法律的な位置づけと実務上の取り扱いを整理したものです。法律で定められた最低期限、就業規則による定め、円満退職のための推奨時期などを分かりやすく解説します。
本書の目的
退職の手続きに不安を感じる方向けに、実際の事例や分かりやすい説明を通じて判断の助けになる情報を提供します。トラブルを避け、職場での最後の日まで円滑に進めることを目指します。
対象読者
- 退職を考えている社員
- 人事担当者や管理職
- 退職手続きに関心のある方
読み方の案内
次章以降で法律(民法627条)、就業規則、実務的な推奨時期、提出方法や書き方まで順に解説します。具体例を交えて、実務で使える知識を丁寧に説明します。
法律上の規定(民法627条)
概要
民法627条は、期間の定めのない雇用について、退職の意思表示をした日から2週間で雇用関係が終了すると定めています。企業の承諾は不要です。例えば、8月1日に退職の意思を示した場合、2週間後の8月15日が退職日になります。
条文の要点
- 適用対象は「期間の定めのない雇用」です。
- 「2週間」は最低限の予告期間です。これを満たせば法律上の退職が成立します。
- 企業の同意がなくても効力が発生します。
企業対応と実務上の扱い
雇用主は従業員の退職の意思表示に対し、同意しなくても雇用を終了できますが、業務引継ぎや人員配置の調整は現実的な課題になります。退職の期間中は通常どおり賃金が支払われます。雇用主が早期の離職を望む場合は、双方の合意で退職日を繰り上げることが可能です。
例
8月1日に退職届を提出した場合、8月15日が法律上の退職日です。届出日を起算点として2週間後に終了します。
注意点
- 就業規則や雇用契約で別途の定め(より長い予告期間など)がある場合は、その取り決めが関係します。
- 有期雇用(契約期間の定めがある場合)は別の扱いになりますので注意してください。
- トラブルがある場合は、会社の人事担当や労働相談窓口に相談すると安心です。
就業規則による定め
就業規則でよくある定め
多くの企業は退職の届け出時期を就業規則で定めています。一般的には「1か月前」や「1~2か月前」の提出を求め、これは業務の引き継ぎや事務手続きを円滑にするためです。例えば製造現場なら設備の引き継ぎに時間がかかるため1か月以上、営業職なら得意先の引継ぎで2か月を想定することがあります。
就業規則に従う理由と注意点
就業規則は職場でのルールを示す重要な文書です。職場内の秩序や安全、採用・配置の調整のため、規定に従うことが原則です。ただし、各社で内容が異なるため、まず自分の会社の就業規則を確認してください。規定が分かりにくい場合は人事や上司に問い合わせて書面で確認すると安心です。
実務的な対処法
- 就業規則の該当項目をコピーして保存する。
- 退職予定日は早めに相談し、引き継ぎ計画を作る。
- 必要であれば就業規則に基づく期間より長めの準備期間を提案する。
これらを行えば、トラブルを避けつつスムーズに退職準備できます。
実務的な推奨時期
概要
円満退職を目指すなら、法律上の最低限(民法上の2週間)を守るだけでは安心できません。実務では、退職の申し入れ時期がその後の引き継ぎや人事手続きに大きく影響します。
具体的な推奨時期
- 法律上の最低:2週間前(即時の問題回避に必要)
- 就業規則の通例:2週間〜2ヶ月前(会社による)
- 実務的推奨:1〜2ヶ月前(個人の負担と会社の準備のバランス)
- 引き継ぎを含めた最適:約2ヶ月前
例:業務の引き継ぎが多い職種やプロジェクト責任者なら、退職希望日の2ヶ月前に伝えると余裕を持って作業を整理できます。
月給制の場合の注意点
月給制では給与計算や社会保険の調整が必要になります。月の途中で退職する場合は、会社側で調整作業が発生するため早めに申し出ると誤解や手続き遅延を防げます。
引き継ぎの目安
- 日常業務のみ:1〜4週間の引き継ぎで対応可能
- 専門的・複数部署に関与:6〜8週間の余裕を推奨
伝え方のポイント
- まず直属の上司に口頭で相談し、正式に文書(退職届)を提出する流れが一般的です。
- 相手の業務負担を考え、引き継ぎ計画を簡潔に示すと印象が良くなります。
退職届の効力発生と提出方法
概要
退職届の効力は、原則として「会社に到達した日」から発生します。到達の判断は提出方法や会社の実務により変わるため、事前に確認すると安心です。
効力の発生時期
- 手渡し:直接上司や人事に手渡した日が到達日になります。対面で受け取ってもらえば、その日から効力が出ます。
- 郵送:普通郵便は会社が受け取った日、配達証明や書留は配達記録の日が到達日です。内容証明郵便は内容と日付の証拠になります。
- 電子メール:会社の規定で認められている場合に到達とみなされます。受信確認や返信をもらうと記録になります。
提出方法の種類と手順
- 手渡し:事前に面談の時間を決め、退職届を渡して受領印や受領書をもらうと確実です。上司経由で人事に渡すルールがある会社もあります。
- 郵送:書留や内容証明を使うと到達日や内容の証拠になります。コピーを同封せず1通で送ると扱いやすいです。
- メール・社内システム:就業規則で認められているか確認し、送信記録や受信確認を保存します。
提出時の注意点
- 就業規則や雇用契約で提出方法の指定がある場合は従ってください。
- 受領印や受領書、配達記録は必ず保管してください。証拠があるとトラブルを避けやすくなります。
- 退職日について会社と認識がずれることがあるため、口頭だけでなく書面で確認しましょう。
受理後の対応例
- 受理書をもらえるなら貰っておく。無い場合はメールで受領確認を依頼する。会社が受け取りを拒んでも、到達さえすれば効力が生じ得ますが、問題が起きたら労働基準監督署や労働相談窓口に相談してください。
よくある事例
- 手渡しで渡したが上司が受け取りを保留した場合:受領印や同席者がいれば証拠になります。内容証明で再度送ると日時の証明になります。
- メール送信後に返信がない場合:送信証拠と社内の規定を確認し、必要なら内容証明郵便で補強します。
退職届と退職願の違い
定義と目的
退職願は「退職したいという希望」を伝える書類です。会社の承認を待つ段階で、提出は通常1〜3か月前が目安です。退職届は「退職日が決まった確定的な通知」です。これを出すと本人の意思が明確になり、手続きが進みます。
会社の承認の有無
退職願は会社が受理して初めて形になります。受理前なら撤回できる余地があります。一方、退職届は会社の承認を必要としません。提出後は退職手続きが進むため、撤回が難しくなります。
効力発生と実務上の扱い
退職願は話し合いのきっかけと考えます。例えば引継ぎや退職日調整を行うために使います。退職届は退職日を明記して提出し、給与や保険の手続きを確定させます。取り扱いに迷ったら、まず退職願で意思を示し、最終決定後に退職届を提出するのが安全です。
注意点(具体例)
- まだ調整中なら:退職願を提出
- 日付が決まっているなら:退職届を提出
提出は担当者に手渡しし、控えを残すようにしてください。
退職届の書き方
以下は、実務で使いやすい退職届の書き方と記入例です。丁寧に記載すれば余計なトラブルを避けられます。
・提出日(右上)
例:令和○年○月○日
・宛先
例:株式会社○○ 代表取締役 ○○ 様
・表題(中央)
退職届
・本文冒頭
私儀
・本文(退職理由と日付)
例:一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたします。
退職日は断定的に書きます。「~する予定です」や「~の見込みです」は避けます。
・結び
以上
・所属・氏名・捺印(左下)
例:○○部 ○○ ○○(印)
記入のポイント:
– 手書きが無難ですが、読みやすければワープロでも差し支えありません。
– 捺印は実印である必要はありませんが、会社ごとの慣例に従ってください。
– 提出方法は手渡しが基本です。郵送する場合は配達記録が残る方法(書留等)を使うと安心です。
最後に、念のためコピーを自分で保管してください。必要なら提出前に上司や人事に一言伝えておきましょう。


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