はじめに
本書の目的
本記事は、退職時に残る年次有給休暇(年休)をどのように消化するか、退職届に年休消化のことを記載すべきか、その書き方、そして会社が有休消化を拒否した場合の法的な扱いまでを分かりやすく解説します。実務で迷いやすい点を具体例を交えて丁寧に説明します。
誰に向けているか
転職や退職を考えている正社員・契約社員・パート・アルバイトのみなさん、そして人事担当の方にも役立つ内容です。たとえば「残りの年休が10日ある場合、退職日をいつにすればよいか」「退職届に有休消化の希望を書くべきか」といった実務的な疑問に答えます。
読み方のポイント
第2章で年休の基本を押さえ、第3章で退職日と最終出社日の関係を確認してください。第4章・第5章では退職届の具体的な書き方と文例を紹介します。第6章では法的なポイントやトラブル時の対応を解説します。あらかじめ雇用契約書や年休残日数の確認書を用意して読むと、理解が深まります。
退職と年休消化の基本を押さえる
年休消化とは
年休消化とは、会社から与えられた年次有給休暇を従業員が希望する日に取得して使うことです。例えば、引越しや病院の通院、退職前の余暇としてまとめて取得できます。取得日は原則として労働者が指定できます。
年次有給休暇の付与と権利
有給は一定の勤続期間を満たすと付与されます。会社は業務に支障がある場合に取得日を調整できますが、原則として有給取得を一方的に拒否できません。具体例として、急にすべての社員が同時に休むと困る場合は別の日に変更を求められることがあります。
退職時の取り扱い
退職前に残っている年休をまとめて消化できます。退職日を過ぎると残日数は消滅するため、消化を希望するなら退職前に手続きをしましょう。
時効と注意点
有給には2年の時効があります(付与日から2年で消滅)。退職手続きや最終出勤日との関係を確認し、早めに上司や人事に相談してください。
退職日と最終出社日と有給消化期間の関係
概要
退職時のスケジュールは「最終出社日」「有給消化期間」「退職日」に分かれます。最終出社日は実際に会社に出る最後の日、有給消化期間はその翌日から退職日までの有給取得期間、退職日は雇用契約が終了する日です。
用語の整理
- 最終出社日:引き継ぎや最終業務をする日です。
- 有給消化期間:有休を使って会社に来ない期間です。
- 退職日:雇用が正式に終わる日で、社会保険や給与の扱いに影響します。
パターン1:退職日=最終出社日
最終出社日まで断続的に有休を取りつつ引き継ぎを進めます。出社日と有休日が混在するため、引き継ぎの区切りを自分で管理しやすいです。短期間での手続きや引き継ぎが必要な場合に向きます。
パターン2:退職日=有給消化終了日
最終出社日の翌日から連続して有給を取り、その最終日をもって退職とする方法です。連続休暇で心身の整理がしやすく、引き継ぎは出社している間に集中的に行います。
スケジュール調整の実務ポイント
上司や人事と早めに相談して決めます。引き継ぎの重要度、残有休日数、会社の就業規則を考慮してください。連続有休にすると引き継ぎの細かい調整が必要になります。
具体例
- 例1(パターン1):最終出社が3月20日、3月21・22は有休、3月25に退職(出社日と有休が混在)。
- 例2(パターン2):最終出社が3月20日、3月21〜3月31を有休、4月1日が退職日(連続休暇)。
決めるときのチェックリスト
- 引き継ぎに必要な日数は足りているか
- 残有休日数は十分か
- 給与や保険の処理日を確認したか
- 上司・人事と合意できたか
これらを踏まえ、早めに相談して無理のないスケジュールを組んでください。
年休消化を前提にした退職届の基本の書き方
まず押さえるべき項目
- タイトル:「退職届」
- 宛名:会社名と代表者名(例:株式会社〇〇 代表取締役 山田太郎様)
- 提出日:実際に提出する日付
- 本文:退職の意思、退職理由、退職日(有休消化後の日付)
- 提出者情報:所属部署、氏名、押印
退職日と有休消化の記載方法
最終出社日の翌日から退職日前日までが年休消化期間になります。退職届に記載する退職日は、その年休消化期間がすべて終わった翌日とします。例:最終出社日が6月10日で、有休を6月11日〜6月20日に消化するなら、退職日は6月21日です。
本文の書き方の例
退職理由は簡潔で構いません。「一身上の都合により退職いたします。」と記し、退職日は上で計算した日付を明記します。さらに有給消化について一文添えると誤解を防げます。例文:
私事で恐縮ですが、一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたします。なお、同日までは年次有給休暇を消化いたします。
提出時のポイント
- 押印は忘れずに。原本の提出を求められる場合が多いです。
- 事前に上司へ口頭で伝え、退職日と有休の扱いを確認しておくと安全です。
- 退職届の提出日は提出時点の日付にするのが一般的です。
年休消化を退職届にどう盛り込むか(具体表現)
概要
退職届に年休消化を明記する方法は主に3つあります。ここではそれぞれの書き方と注意点、例文を示します。
方法1:本文中に一文を入れる
最も簡潔な方法です。退職の意思表明の後に、取得期間を明記します。
例文:
「なお、〇年〇月〇日から退職日(〇年〇月〇日)までの間、年次有給休暇を取得させていただきたく存じます。」
注意点:期間と退職日を明確に書き、上司と事前に相談してください。
方法2:表題を「退職届兼有給休暇消化申請書」とする
退職届と有給申請を一つの正式書類にまとめます。会社に記録が残りやすい利点があります。
例文(表題下):
「退職日:〇年〇月〇日 有給取得期間:〇年〇月〇日〜〇年〇月〇日」
方法3:退職届と年休申請書を分ける
会社の運用に合わせ、別途「年次有給休暇申請書」を提出します。退職届は退職日だけ記載し、有給申請書で期間や勤務調整事項を記載します。
よくある場面別の例
・最終出社日まで全て有給にする場合:期間を明確に記載。
・一部は出社して引継ぎを行う場合:引継ぎ日と有給開始日を併記。
提出時のチェックリスト
・退職日と有給開始・終了日を明記
・提出先(上司・総務)に一通り確認
・署名・日付・控えの確保
以上を参考に、会社の運用に合わせて柔軟に表現してください。
退職時の年休消化に関する法律上のポイント
法律上の基本原則
年次有給休暇は労働者の権利です。会社は業務上のやむを得ない事情があれば取得日を変更できますが、原則として労働者の取得請求を正当な理由なく拒めません。退職時の有給消化もこの権利の一部として認められます。
時季変更権と退職者
会社には「時季変更権」がありますが、退職を理由に有給取得を一方的に拒むことはできません。特に退職日直前の取得希望について、会社は退職後にずらすことはできないため、退職者の有給消化を原則妨げられません。
退職日以降の扱い
有給は退職日を過ぎると消滅します。したがって、残日数がある場合は退職日前に取得するか、会社と調整して消化する必要があります。
会社が拒否したときの対応
まずは書面やメールで取得希望を残してください。口頭だけだと証拠になりにくいです。それでも拒否されたら、最寄りの労働基準監督署や労働相談窓口に相談するとよいです。行政の指導で解決するケースが多くあります。
証拠の残し方と手順
・有給取得希望の日時と期間をメールで送る
・退職届に有給消化の希望を明記する
・会社からの返信や指示は保存する
これらがあれば、相談時に状況を説明しやすくなります。早めに申し出ることをお勧めします。


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