はじめに
「有給休暇の年5日取得義務」という言葉を耳にして、何をどう管理すればよいか迷っていませんか?
本記事は、企業の人事・労務担当者と従業員を主な読者に想定し、実務で混乱しやすい「年5日取得義務」とその起算日(基準日)について、わかりやすく整理して解説します。難しい法律用語はできるだけ避け、具体例を使って実務で使える考え方と計算方法を示します。
この記事で学べること
– 年5日取得義務の趣旨と義務範囲
– 起算日の原則と企業での決め方
– 一斉付与や複数回付与がある場合の運用ポイント
– 重複期間の按分(プロレート)計算の考え方
– 有給消化の順序と企業の管理義務
– よくある誤解と実務上の注意点
– 具体例による計算の手順
読む順序は章立てに沿って進めると理解しやすいです。まずは本章でこの記事の全体像を把握し、続く章で具体的な手順と計算例を確認してください。
有給休暇「年5日取得義務」と起算日の原則
概要
2019年の改正により、企業は全従業員に対し「有給休暇の付与日から1年以内」に5日分の取得をさせる義務を負います。要は、付与日を起点に1年の間に最低5日を必ず消化させる必要がある、ということです。
起算日はどこか
起算日は個々の従業員の「有給休暇の付与日」です。多くは入社日を基準に年ごとに付与されますが、会社が一斉付与する場合はその一斉付与日が起算日になります。同一の従業員については、付与日から1年ごとに義務期間がリセットされます。
会社で一律に設定している場合の注意点
会社が社内ルールで一律の起算日を設けていても、実際の付与日が個別に異なる場合は、個人ごとに1年以内に5日取得させる必要があります。つまり、見かけ上は統一していても、法的義務は付与日基準で運用すべきです。
実務上のポイント
- 従業員ごとの付与日を把握し、1年以内に5日取得の未達をチェックしてください。
- 年5日の取得が難しい場合は、計画的付与や取得促進の措置を検討してください。
具体例
- 例1:4月1日付与の人は、翌年3月31日までに5日取得が必要。
- 例2:一斉付与の7月1日が付与日であれば、その日から1年以内に5日消化が必要。
一斉付与・複数回付与がある場合の起算日と運用
基本的な考え方
中途入社者が半年後に付与され、その後に会社が行う一斉付与でもらう場合は、原則として「新しく付与された日」をその後1年の起算日とする運用が多いです。つまり、一斉付与日を基準にして、その日から1年間に年5日の取得を促せば義務を果たせます。
具体例
例:入社1月1日、6月30日に勤続6か月で5日付与、10月1日に会社の一斉付与(追加で付与)があった場合。
– 多くの運用では、10月1日が新しい起算日になります。10月1日から1年以内に5日取得させればよいです。
– ただし、6月30日〜10月1日の間に既に5日消化していれば、その時点で義務は満たされたと扱えます。消化の記録を残してください。
運用上の注意点
- 就業規則や労使協定に起算日の扱いを明確に記載しましょう。裁量の余地がある部分は誤解を招きやすいです。
- 付与日が複数あると管理が煩雑になります。労働者ごとに付与日を一覧化し、どの付与分を基準にしているか明示してください。
- 既に取得済みの場合は記録で確認し、必要なら説明を行ってください。重複や取り扱いで争いにならないためです。
以上の点を踏まえ、運用ルールを社内で統一して運用することをおすすめします。
重複期間や按分計算(プロレート)の考え方
概要
複数の有給付与期間が重なる場合や、特例的に長い期間を対象とする場合は按分(プロレート)で対応します。期間全体で義務化された取得日数を計算し、その期間中の取得で要件を満たします。
基本の計算式
一般に「年5日」を起点にするなら、月数で按分します。計算式は次の通りです。
5日÷12カ月×該当月数=必要取得日数
端数の扱い
半休制度がない事業所では端数を切り上げる運用が多く見られます。事業所で統一したルールを就業規則や運用マニュアルで定め、従業員に周知してください。
実務上の注意点
・付与日数が変わる期間(例えば10日→11日)をまたぐ場合は、それぞれの期間で按分して合算します。
・義務の判定期間が重なる場合は、重複期間全体で必要日数を算出すると整理しやすいです。
計算例
18カ月の重複期間がある場合:
5日÷12カ月×18カ月=7.5日→端数処理で8日(半休なしの場合)
実務では記録を残し、端数処理の基準を明確にしてください。
有給消化の順序と企業の管理義務
消化順序の決め方
企業はどの付与分から消化するかを明確に決め、就業規則や社内規程で定めます。一般的には先入先出(FIFO)を採る例が多いですが、最新付与分を優先するなど別のルールを採用しても差し支えありません。重要なのは運用ルールを明文化し、従業員に周知することです。
重複期間の扱い(具体例)
付与の有効期間が重なる場合、取得日をどの付与分に充当したかを明示できる状態にします。例えば、Aさんが2022年4月付与の10日分と2023年4月付与の10日分を持ち、2023年5月に5日取得したなら、ルールが先入先出なら2022年付与から5日消化したと記録します。
記録・保存のポイント
・付与日、付与日数、有効期限を個別に記録する
・取得申請時に「どの付与分を使用するか」を指定させるか、システムで自動割当を表示する
・割当結果を勤怠データや申請書で保存し、いつでも説明できるようにする
運用と企業責任
企業は社内ルールを守らせるだけでなく、説明責任を果たす体制を作る必要があります。労基署からの確認時に、付与ごとの残日数や消化の割当が提示できるように整備してください。
実務上の注意点とよくある誤解
前年度繰越分は原則カウント対象外
前年度からの繰越分は、当年度に新たに付与された日数ではありません。したがって、年5日取得義務の対象には原則含めません。運用で混同すると義務違反に見えるため注意してください。
個別の付与日と管理の徹底
一斉付与や途中入社で付与日がばらつくと、誰が対象か分かりにくくなります。従業員ごとに付与日・有効期限・取得日を一覧で管理し、年5日の達成状況を常時確認してください。
重複や按分の誤解に注意
重複期間や按分計算は誤差が出やすい作業です。付与日を基準に按分し、端数処理を就業規則で定めるとトラブルを防げます。
企業側の対応例と記録保持
企業は取得促進の措置(期限の通知や指定取得)を講じる義務があります。従業員とのやり取りや社内決定は書面で残し、労基署や専門家から問われた際に提示できるようにしてください。
不明点があれば専門家へ
法解釈や特殊ケースで不安があるときは、社労士や労基署に相談してください。独自判断で運用するとリスクが生じます。
具体例で理解する有給消化義務の計算
ここでは具体例で計算方法と運用をわかりやすく確認します。
例1:3月21日付与分から1年で5日取得義務
- 付与日から起算して1年間が基準です。例えば2024年3月21日付与なら、2025年3月20日までに5日取得する義務が発生します。
- 途中で別の付与が入るケース:たとえば2024年9月1日に新たな付与があると、新しい付与日(2024年9月1日)から1年(2025年8月31日)を新基準として扱います。つまり消化義務はその新しい期間で見直され、実務上はリセットされることが多いです。企業はその旨を記録・周知してください。
例2:14か月の期間にまたがる場合(按分計算)
- 期間が12か月を超えると按分(プロレート)します。計算式の例:14÷12×5=5.83…
- 実務では小数を切り上げて6日と扱うことが一般的です。端数処理は就業規則で明確にしておくと安心です。
実務での手順(簡潔)
- 付与日と期間を確認する。
- 必要な日数を(期間÷12×5)で算出する。
- 小数の扱いは就業規則に従う(多くは切り上げ)。
- 記録を残し、社員へ周知する。
具体例をもとに計算ルールを決め、日々の記録を忘れないようにしてください。
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