はじめに
目的
本書は「有給消化 新しい方から」というキーワードを中心に、消化順序に関する実務上の疑問と対応方法を整理するために作成しました。法的な基本ルールと、企業が採る独自ルールの違いをわかりやすく示します。
対象読者
職場で有給休暇を取得する従業員、労務担当者、人事部門の方々を主な対象としています。管理職や労働組合の担当者にも参考になる内容です。
本書の読み方
各章で基礎知識と具体的な対応例を並べて説明します。たとえば「新しい有給から消化する」という運用がある場合、就業規則や給与システムの設定、通知方法など実務で必要な点を順を追って解説します。具体例やチェックリストを用いて、すぐに確認できる形にしています。
注意事項
本書は一般的な解説を目的とします。個別の事案は就業規則や労使協定、労働基準監督署への確認が必要です。疑義がある場合は、まず社内の人事担当に相談してください。
有給休暇消化の基本ルール
法的な位置づけ
年次有給休暇は労働者の権利であり、労働基準法で定められています。会社は付与された有給を労働者が取得できるよう配慮する義務があります。
付与と取得の基本
有給は勤続期間や出勤率に応じて付与されます。受け取った有給は、原則として本人が本来勤務すべき日に取得します。たとえば平日が勤務日の人は、その平日に有給を申請して休みます。休日を有給に当てることや、退職日の翌日以降に取得することはできません。
会社側の時季指定と社員の申請
2019年の法改正では、年間10日以上の有給が付与される労働者に対し、会社が年間5日以上の取得を促す(時季指定を行う)義務を負います。社員が希望する取得日を申請できますが、業務に重大な支障がある場合は会社が時季を指定することがあります。具体例:繁忙期に重なる希望日が多い場合、会社は別の日での取得を調整します。
賃金と記録
有給休暇は有給であり、休んだ日について賃金が支払われます。会社は有給の付与・取得状況を記録し、適切に管理することが必要です。
よくある誤解と実務上の対応例
・誤解:休日に有給を使えると思っていた→原則として不可です。\n・誤解:退職後にまとめて取れると思っていた→退職後の取得はできません。\n実務例:社員が有給を取れないと訴えた場合、会社は時季を指定して最低5日分を取得させる手続きをとります。
企業独自ルールとしての「新しい有給から消化」
趣旨
企業は有給管理を簡素化するため、付与された直近の有給から優先的に消化するルールを定めることがあります。基準日ごとの管理がしやすくなり、残日数や有効期限の把握が容易になります。
メリット
- 管理が分かりやすくなりミスが減ります。例:毎年付与日が同じ社員の残日数を一元管理できます。
- システムで自動消化しやすく、事務負担が軽くなります。
注意点(法との整合性)
法令では、年10日以上の有給がある社員に対して最低5日間を取得させる「時季指定」の義務があります。この企業ルールを運用しても、企業は時季指定の義務を果たす必要があります。たとえば、古い有給が消えそうな場合は社員の希望を優先させたり、会社が時季指定で取得日を定めたりしてください。
運用のポイント
- 就業規則や社内規程で明確に定め、社員に周知します。
- 勤怠システムに「新しい有給から消化」のロジックと、時季指定対応の例外フローを設定します。
- 有効期限が近い古い日数は優先的に案内し、消滅防止に努めます。
具体例
社員A:付与日Aで3日、付与日Bで7日保有。会社ルールで付与日B(新しい)から消化すると、付与日Aの古い3日は残ります。付与日Aがまもなく期限切れになる場合、会社は時季指定でその3日を取得させるか、Aの希望に応じて古い日から消化させる対応が必要です。
ダブルトラック発生時の対応
背景
複数の基準日があると、同一年内に複数回の有給付与日(ダブルトラック)が発生します。例:2024年9月1日入社で入社直後に6日、6か月後に4日、1年後に11日といったケースです。企業ルールで「新しい有給から消化」を定めると、どの付与分を消化するかの判断が必要になります。
基本的な考え方
法令上は事業主に時季指定義務があり、従業員が時季を指定しない場合は事業主が取得時期を指定できます。ダブルトラックでは対象となる付与日を明確に区分し、時季指定や消化順序の運用が混乱しないようにします。
実務上の対応手順
- 付与単位で管理する:付与日ごとに残日数・消滅日を記録します。帳票やシステムで「付与日=区分」を必須にします。
- 就業規則で明記する:新旧どちらから消化するか、時季指定時の扱いを具体例つきで書きます。
- 従業員への通知:年休残日数を付与日単位で示し、申請時にどの付与分を使うか選べるようにします。
- 時季指定の運用:事業主が時季指定する場合は、消化順序に関係なく最優先で消化対象を明示します。
具体例
入社直後に6日付与後、社員がすぐに2日取得を申請したら、運用で「新しい有給から消化」を採る企業では入社直後の6日分から消化します。事業主が時季指定する場合は、指定した付与分から消化することを明記してください。
注意点
給与計算や退職時の残日数清算で誤りが出やすいので、労務管理システムで付与日単位の処理を必須にしてください。運用に迷うときは労務担当や社労士に相談しましょう。
退職時の有給消化における注意点
1) まずは正確な残日数を把握する
退職申し出の前に、有給の残日数と取得可能な日付を必ず確認してください。勤怠システムや人事に問い合わせ、書面やメールで残日数を証拠として残すと安心です。
2) 退職日を有給と照らして決める
有給をすべて使いたい場合は、逆算して退職日を決めます。たとえば残日数が20日あるなら、引き継ぎ期間を考慮して申し出時期を早めます。
3) 早めに上司へ申し出し、調整する
有給消化は会社の調整が必要になるため、早めに上司へ伝えます。口頭だけでなくメールで提出し、承認や日程調整は書面で残してください。
4) 引き継ぎが長引く場合の対応
引き継ぎが終わらないと有給取得が難しくなることがあります。業務を分割して一部だけ有給にする、引き継ぎ資料を充実させる、ほかのメンバーに協力を依頼するなど工夫してください。
5) 会社ルールや例外の確認
就業規則や人事の運用で取り扱いが異なります。未消化分の扱いや申請手続きについては人事に確認し、必要なら相談窓口や書面での確認を取ってください。
法改正と企業ルールの整合性確保
法改正の要点
2019年4月の働き方改革で、年次有給休暇のうち年5日について使用者が時季を指定する義務が生じました。対象となる有給は労働者が取得可能な範囲で指定する必要があります。
企業ルールとの照合方法
就業規則や運用ルールで「新しい有給から消化する」と定める場合、まずその運用が年5日指定義務と矛盾しないか確認します。具体的には、時季指定を行う際にどの年度の有給を使うかを明確に決め、記録を残します。
実務上の判断例
例:付与された前年繰越の有給が10日、新年度付与が10日の場合。会社のルールで新しい有給から消化するとしても、時季指定義務の5日は会社がどちらの年度分を充当するかを決め、労働者に説明しておく必要があります。
退職時の取り扱いとの整合
退職時に未消化の有給を買い上げる場合、どの年度分を消化扱いとするかで計算に差が出ます。就業規則に明確な基準を設け、労使で合意しておくとトラブルを防げます。
実務チェックリスト
- 就業規則に消化順序と時季指定時の扱いを明記
- 時季指定の記録を残す書式を整備
- 退職時の計算方法を明確化
- 厚生労働省の案内を定期的に確認
従業員対応
問い合わせに備え、説明資料と窓口を用意します。具体例を示して説明すると理解が進みます。法改正の趣旨(労働者の有給取得促進)を踏まえ、公正で分かりやすい運用を心がけてください。


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