はじめに
この資料の目的
本資料は、有給休暇(有給消化)について基本的な意味や仕組みをやさしく解説します。労働者の権利や企業の対応義務を理解できるように、具体例を交えて説明します。
対象読者
正社員、パート・アルバイト、派遣社員など、働くすべての人と人事・管理担当者を想定しています。例:正社員のAさん、週3日勤務のパートBさんにも関係する制度です。
本資料で扱う主な内容
- 有給休暇とその消化の意味
- 年次有給休暇との関係
- 付与条件や取得のルール
- 2019年の法改正による義務化内容
- 退職時の有給扱い
章ごとに丁寧に説明していきますので、まずは全体像をつかんでください。
有給休暇が重要な理由
有給休暇は労働者の基本的な権利です。休むことで心身の回復や家庭の事情に対応できます。企業にとっても適切に運用することが信頼の維持や労働環境の改善につながります。
有給消化の基本定義
定義
有給消化とは、従業員が持っている年次有給休暇を実際に使って休むことを指します。一般に「有給」と呼ばれるのはこの年次有給休暇のことで、労働基準法で労働者の権利として定められています。取得すると休んだ日の賃金が支払われる点が特徴です。
対象者
正社員だけでなく、アルバイトやパートなどの非正規社員も一定の条件を満たせば有給が付与されます。雇用形態に関係なく、勤務日数や勤続期間など所定の要件を満たすと権利が発生します。
消化の方法
有給を使う際は、従業員が取得時季(いつ休むか)を指定して申請します。会社は業務の都合を考慮して調整することができますが、理由なく一方的に拒否することはできません。例:週5日勤務で年10日付与されている場合、1日ずつ消化できます。
賃金の扱い
有給で休んだ日は原則として賃金が支払われます。支払額は通常の賃金を基準に計算されますが、具体的な計算方法は就業規則や給与規定に沿います。
よくある誤解
・有給は会社が自由に取り消せると思われがちですが、従業員の権利です。\n・有給は正社員だけのものではありません。\n実際に使うときは、事前に申請方法やルールを確認してください。
有給休暇の付与条件
法律で定められた2つの要件
労働基準法第39条は、有給休暇を付与するために次の2点を満たすことを求めています。
1. 雇入れの日から起算して6か月間継続勤務していること
2. その6か月間の全労働日の8割以上を出勤していること
この2点を満たせば、雇用者は年次有給休暇を付与します。
初回の付与日数
上記条件を満たした最初の付与時には、原則として10労働日の有給が与えられます。会社により付与日(基準日)を定め、そこで付与手続きを行います。
その後の付与と基準日
初回付与後は、基準日から1年ごとに勤続年数に応じた日数が付与されます。勤続年数が延びるごとに付与日数が増える仕組みです。
出勤率の計算例
例えば、6か月間の所定労働日が120日だった場合、8割は96日です。96日以上出勤していれば出勤率の要件を満たします。
企業独自の付与(例)
法定の要件を満たしていなくても、企業は独自に有給を付与できます。入社祝い休暇や特別休暇など、福利厚生としての付与が該当します。
パートや短時間労働者への取扱い
パートタイム労働者も勤続期間や出勤率に応じて按分して付与されます。勤務日数や時間に合わせた計算が必要です。
2019年の法改正による義務化
概要
2019年4月の労働基準法改正で、いわゆる「年休5日ルール」が義務化されました。年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、企業は年5日分を確実に取得させる義務を負います。これは有給を使いやすくするための制度です。
対象者の範囲
正社員だけでなく、パート・アルバイトなども対象になります。条件は「年10日以上の付与があるかどうか」です。たとえば、入社1年以上で所定の条件を満たし年10日付与されれば対象です。
企業の対応例
企業は労働者の希望を聞きつつ、取得計画を提示したり、時期を指定したりできます。具体例として、業務に支障が出ない範囲で希望日に取得を調整したり、会社が指定して年休を取得させる「計画年休」を導入したりします。
罰則と運用のポイント
義務を怠ると罰則の対象になります。運用では労使で調整することが大切です。厚生労働省の令和4年就労条件総合調査では、令和3年度の有給取得率が58.3%と過去最高を記録し、法改正の影響で取得が進んでいることが示されました。
有給休暇の取得条件と制限
取得の基本
年次有給休暇は労働者が請求して初めて取得できます。会社の申請方法(書面、メール、所定の申請システム)に従って請求してください。実務では事前に届出して了承を得る流れが一般的です。記録を残すと後のトラブルを避けられます。
取得できる日
有給は「本来働くべき日」にのみ取得できます。平日出勤の人は平日、シフト制の人はそのシフト日に使います。会社で休日と定めた日(例:日曜、祝日)には原則として取得できません。
休日との関係と例外
労働契約で休日とされた日は有給を付与できないため、祝日に有給を当てることはできません。逆に会社が出勤日とする場合は有給が使えます。
保有期限(時効)
有給は付与日から2年で消滅します。付与された分はできるだけ早めに消化してください。期限を過ぎると権利がなくなります。
退職時の扱い
退職日以降に有給を取ることはできません。退職前に申請して消化するか、残日数は退職手続きで確認してください。
実務上の注意点
会社は業務に支障がある場合、時季変更権を行使して取得日を変更できますが、代替日を提示する義務があります。申請は書面やメールで行い、承認の有無を記録に残すと安全です。
有給休暇の付与日数
付与日が決まる仕組み
年次有給休暇は「入社日」を基準に付与日が決まります。まず「6か月継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した」場合に最初の有給が発生します。その後は勤続年数に応じて所定の時期に日数が増えていきます。
付与日数の増え方(目安)
一般的なフルタイム勤務(日常的に週5日程度出勤する場合)の標準的な付与日数は、おおむね次の通りです。
– 継続勤務6か月:10日
– 継続勤務1年6か月:11日
– 継続勤務2年6か月:12日
– 継続勤務3年6か月:14日
– 継続勤務4年6か月:16日
– 継続勤務5年6か月:18日
– 継続勤務6年6か月以上:20日
このように、勤続年数が増すごとに付与日数も段階的に増え、最長で20日になります。
パート・短時間勤務の場合
所定労働日数や所定労働時間が短い方は、付与日数を按分して計算します。企業は労働日数・時間に応じて比例配分した日数を付与しますので、まずは就業規則や雇用契約書で具体的な計算方法を確認してください。
具体例
例1)4月1日に入社したAさんは、10月1日に最初の有給(10日)が付与されます。その後、翌年の10月1日(継続1年6か月)には11日に増えます。例2)週3日勤務のBさんは、その勤務形態に応じた日数が按分されます。
注意点
会社ごとに付与日や細かい運用は就業規則で定めます。基本の仕組みは労働法に基づいていますが、詳細は雇用契約や就業規則を確認してください。
退職時の有給消化
概要
退職時に残っている年次有給休暇を一括で使うことは原則可能です。取得は労働者の権利とされており、退職届と併せて消化の希望を伝えます。企業が対応を拒む場合もありますが、話し合いで調整することが大切です。
企業側の対応と注意点
会社は業務の都合で時期の変更を求めることがあります。完全に拒否できない点を根拠に、引継ぎや業務調整を提案してください。合意が得られない場合は労働相談窓口へ相談する選択肢があります。
選べる対応
- 消化:退職直前にまとめて取得し、最終出社日が早まることがあります。具体例:最終出社日を1か月後に設定してその間を有給で過ごす。
- 買取:会社が買い取る場合もありますが、必ず認められているわけではありません。契約や就業規則を確認してください。
- 消滅:手続きや期限を踏まえ放置すると権利が無くなることがあります。
手続きの進め方
- 退職希望日と有給消化の希望期間を早めに伝える。2. 就業規則や労使協定を確認する。3. 引継ぎ計画を提示して調整する。4. 合意が得られない場合は書面で記録を残すと後の相談に役立ちます。
最後に
有給の扱いは人によって事情が違います。早めに会社と話し、必要なら外部窓口へ相談して納得できる形で退職を迎えてください。
有給消化の目的と意義
目的
有給休暇は、従業員が心身を休め、生活と仕事のバランスを整えるための制度です。病気や通院、家族行事、旅行など、さまざまな私的事情に使えます。休息によって疲労を回復し、仕事の効率を保つ役割があります。
従業員にとっての意義
有給は単なる休日ではなく、健康と生活の保障です。例えば、連続して休むことで慢性的な疲労を改善できますし、子どもの学校行事や病院の付き添いなど、急な用事にも対応できます。安心して休めることが仕事への集中力を高めます。
企業にとっての意義
従業員が計画的に有給を取れる職場は、生産性や定着率が向上します。職場の信頼関係も深まり、長期的には採用や評価にも好影響を与えます。企業は取得しやすい仕組み作りと促進が求められます。
実践のポイント
- 従業員:早めに申請し、引継ぎや業務整理を行うとスムーズです。
- 企業:休暇カレンダーや取得促進の仕組みを整え、上司から声掛けを行ってください。
有給の適切な消化は、個人の健康と職場の持続性を支える重要な取り組みです。


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