はじめに
本章では、本資料の目的と読み方をやさしく説明します。
目的
本資料は、日本の労働基準法に関する有給休暇の最低取得日数について、分かりやすく整理したものです。2019年4月の法改正により、有給休暇の最低消化日数が年5日に義務化されました。本資料は、その対象者や条件、罰則、具体的な取得の方法などを順を追って解説します。
読者の想定
・会社の人事担当者や管理職の方
・働く方ご自身で休暇の権利を確認したい方
内容の流れ
以下の章で、誰が対象か、何日付与されるか、時効や保有上限、取得の実務、違反時の対応と背景までを網羅します。例えば、有給が10日付与される人について最低5日を取得させることが求められるといった具体例を交えて説明します。もし特定のケースについて詳しく知りたい場合は、次章以降をご覧ください。
有給消化の最低日数:年5日が義務
概要
2019年4月の労働基準法改正により、年次有給休暇のうち最低5日を取得させることが企業の義務になりました。付与された有給休暇の中から、年1回の付与日から1年以内に最低5日を消化させる必要があります。
いつまでに消化するか
付与日から起算して1年以内が期限です。たとえば、2024年4月1日に有給が付与された場合、2025年3月31日までに5日間を取得させなければなりません。
具体的な扱い方(例)
- Aさんに付与された有給が10日ある場合:そのうち5日を1年以内に取得させる必要があります。
- Bさんの付与日が異なる場合:各付与ごとに1年の期限が設けられます。
企業と従業員の対応
企業は従業員が5日取得できるよう予定を調整したり、取得を促したりする義務があります。従業員は自ら希望日を申請し、会社は可能な範囲で取得機会を提供してください。
義務化の対象者
■ 対象となる労働者
年に付与される有給休暇の日数が「10日以上」の労働者が対象です。付与日数が基準を満たせば、正社員だけでなくパートやアルバイトも該当します。会社の雇用形態にかかわらず、実際に付与される日数が基準になります。
■ 付与日数の決まり方
有給の付与日数は勤続年数とその人の所定労働日数(週の労働日数や所定労働時間)で決まります。勤務年数が長くなるほど付与日数は増える仕組みです。
■ 対象外となる場合
所定労働日数が週4日以下で、かつ週の所定労働時間が30時間未満の人は、日数を割合で調整して付与する(比例付与)場合があります。比例付与の結果、年間の付与日数が10日に満たないときは、年5日の有給消化義務の対象外になります。
■ 具体例
・フルタイムで通常の条件を満たし、年10日以上の有給が付与される人は対象です。
・週3日勤務や短時間労働で比例付与により付与日数が9日になる人は対象外となります。
■ 職場での確認方法
自分が対象か不明なときは、就業規則や雇用契約書、または人事・総務に確認してください。付与日数の計算方法や対象判定を説明してもらうと安心です。
有給休暇の付与日数一覧
概要
有給休暇の付与日数は勤続年数と所定労働日数で決まります。フルタイム(一般に週4日以上、年間169日以上の勤務)とみなされる場合の基準日数をまず示します。
フルタイムの付与日数(代表例)
- 勤続6か月:10日
- 勤続1年6か月:11日
- 勤続2年6か月:12日
- 勤続3年6か月:14日
- 勤続4年6か月:16日
- 勤続5年6か月:18日
- 勤続6年6か月以上:20日
パートタイム(所定労働日数が少ない場合)の扱い
パートタイムの方は、所定の労働日数に応じて付与日数が少なくなります。基本的にはフルタイムの付与日数に対して、週の所定労働日数の比率で按分(プロ rata)します。実務では会社が定める表や計算式を使うことが多いです。
具体例
- フルタイムが週5日で6か月経過後に10日付与される職場で、週4日勤務なら概ね(4/5)×10=8日、週3日勤務なら(3/5)×10=6日程度のイメージです。
注意点
- 実際の端数処理や細かい適用は就業規則や労使協定で決まります。給与担当者や労働基準監督署に確認してください。
有給休暇の時効と保有上限
概要
有給休暇は、付与日から2年間で時効により消滅します。原則として保有できる日数の上限は40日です。ただし、会社の就業規則で40日を超える保有が明示的に認められている場合は、その規定に従って保有できます。
時効の具体例
例えば、2023年4月1日に有給が付与された場合、その消滅日は2025年3月31日になります。2年を過ぎると未消化の有給は法律上消えてしまいますので、定期的に確認すると安心です。
保有上限と例外
原則の上限は40日です。会社が就業規則で「特別な積立制度」や「繰越を多く認める」などの規定を設ければ、40日を超えて保有することも可能です。就業規則や労使協定でどのように扱うかを確認してください。
実務上の注意点
- 勤怠システムや給与明細で残日数をこまめにチェックしてください。
- 就業規則に消滅日や繰越のルールが書かれているか確認し、人事に質問してください。
- 時効で消える前に計画的に取得することをおすすめします。
有給消化の方法と柔軟性
半日単位での取得について
有給は半日(0.5日)単位で取得できます。忙しい時期にまとまった休みが取りにくい場合は、半日を複数回使うことで計画的に休めます。例として、半日を10回取得すれば規定の5日分に相当します。
分割や連続での取り方
・分割取得:1日を複数回に分けて休むことで業務負担を分散できます。
・連続取得:まとまった休みが必要なときは連続で取得します。業務調整を前もって行うと影響を抑えられます。
取得日決定の流れと使用者の義務
使用者は、労働者の希望日を聴いて調整する義務があります。会社はその意見を尊重するよう努め、業務に重大な支障が出る場合のみ調整を求めます。
繁忙期の対応と代替案
繁忙期は早めに申請して調整します。交代勤務や業務の前倒し、引き継ぎで負担を軽くできます。緊急時は相談窓口を活用してください。
申請時の実務ポイント
・早めに希望日を出す。・上司と引き継ぎ内容を明確にする。・半日か全日かを忘れずに申請する。これらでスムーズに有給を消化できます。
違反時の罰則
罰則の概要
年10日以上の有給が付与される従業員が、基準日から1年以内に最低5日間の有給を消化できなかった場合、企業に罰金が科されます。対象の労働者1人につき30万円以下の罰金となり、労働基準法第120条および第39条第7項の違反に当たります。
具体例
例:社員Aは年20日の有給が付与されていますが、基準日から1年で5日を取得しませんでした。この場合、Aについて会社は最大で30万円の罰金対象になります。社員が複数いれば、人数分の責任が生じる可能性があります。
適用時のポイント
罰則は企業の管理義務違反を問います。取得を妨げた事情があるか、会社が取得を促したかなどが重視されます。取得記録や申請の有無が判断材料になります。また、監督署による是正指導や調査につながることもあります。
予防策(実務的な対応)
・有給管理簿で取得日数を記録する
・事前に取得計画を立て、従業員に周知する
・取得しやすい運用(分割取得、半休の認め方など)を整備する
・上司が適宜声かけを行い、取得を促す
これらを実行すると、罰則のリスクを下げることができます。必要であれば、運用例や書式の案もご案内します。
義務化の背景
目的
有給休暇の消化義務化は、従業員の心身のリフレッシュを図ることを目的としています。日々の業務で疲労が蓄積すると集中力や生産性が落ち、家庭や趣味の時間も確保しにくくなります。制度はその改善を目指します。
背景の問題点
日本では長時間労働が課題となり、有給取得率が低い職場が多くありました。忙しさや業務の引き継ぎ難、職場の雰囲気から休みを取りにくい例が見られます。たとえば、上司が休暇を取らない職場では部下も遠慮してしまいます。
改正の狙い
改正は企業に一定の日数の有給取得を義務付け、取得を促す仕組みを作ります。これにより、休みを取りやすい職場文化を作り、ワーク・ライフ・バランスを改善します。短期のリフレッシュが長期的には生産性を支えると考えられます。
企業と従業員への影響
企業は計画的に休暇を調整する必要があります。業務の引き継ぎや人員配置を見直す労力はありますが、疲労軽減や離職率の低下といった効果が期待できます。従業員は休暇を取りやすくなり、家族との時間や自己研鑽に使えます。
注意点
有給の取り方や時期は業務に合わせて柔軟に決める必要があります。企業は無理に押し付けず、従業員の事情に配慮しつつ計画を立ててください。
まとめ
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有給消化の最低日数は「年間5日」で、年10日以上の有給が付与されるすべての労働者が対象です。2019年4月に義務化されました。
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違反した企業には1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。半日単位での取得も認められ、運用に柔軟性があります。
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企業へのアドバイス:最低5日を確実に取得させるために、年初に計画を立てたり、部署ごとの調整を行ったりしてください。取得状況は記録しておくと安心です。
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労働者へのアドバイス:自分の有給日数を確認し、取得の希望は早めに相談してください。半日での取得や時期のずらし方など、職場と話し合うことで予定が立てやすくなります。
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最後に:有給消化は労働者の健康と働きやすさに直結します。企業と労働者が協力して、制度を実際に活かしてください。


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