はじめに
この記事では、日本の労働基準法に基づく「月ごとの労働時間」の考え方と実務での扱い方を分かりやすく解説します。法定労働時間の基本(1日8時間・週40時間)から、月ごとの計算方法、月平均所定労働時間の意味、残業や36協定の上限、勤怠・給与計算での注意点までを一つずつ取り上げます。
目的
- 労働時間の基礎を理解し、日常の勤怠管理や給与計算で誤りを防ぐことを目的とします。
対象読者
- 人事・総務担当者、経営者、勤怠管理に携わる方、働く本人など幅広く想定しています。専門知識がなくても読み進められるよう配慮しました。
この記事で学べること
- 法定労働時間の基本と月ごとの目安
- 月平均所定労働時間の計算と実務上の使い方
- 残業や36協定の考え方と上限の概要
- 勤怠・給与計算で注意すべきポイント
読み方のヒント
各章は順に読むと理解が深まります。具体例を多めに示しますので、自社の勤怠ルールに当てはめて考えてみてください。ご不明点があれば次章以降で丁寧に説明します。
労働基準法の基本 ― 1日・1週間の法定労働時間
基本のルール
労働基準法では、原則として1日8時間、1週間40時間が法定労働時間の上限です。企業はこれを超えて労働させることができず、やむを得ず超えた場合は時間外労働として割増賃金(残業代)を支払う必要があります。
具体例で見ると
例えば、月~金で毎日9:00〜18:00(休憩1時間)の勤務なら、1日あたりの実労働時間は8時間、1週間では40時間になるため法定内です。土日に勤務がある場合や、平日に長時間働けば法定時間を超える可能性があります。
留意点(ポイント)
- 所定労働時間と法定労働時間は異なります。就業規則で定めた所定時間が8時間未満でも、法定を超えれば割増賃金が発生します。
- 変形労働時間制を導入すると、一定期間での平均が基準となり、日単位や週単位の上限が調整されます。
- 36協定(労使協定)があれば時間外労働が可能ですが、協定の範囲内で運用する必要があります。
次章では、月ごとの法定労働時間の計算方法と目安について分かりやすく解説します。
月ごとの法定労働時間 ― 計算方法と目安
概要
月ごとの法定労働時間は、週40時間制を月の日数で按分して求めます。モデルは1日8時間・週5日勤務のフルタイム労働者です。
計算方法
計算式は簡単です。
月ごとの法定労働時間 =(月の日数 ÷ 7日)× 40時間
7日間を単位として週40時間を月の日数に応じて配分します。少ない日数の月は目安の時間が少なく、多い月は多くなります。
具体例
- 28日(月): 28 ÷ 7 = 4 → 4 × 40 = 160時間
- 30日(月): 30 ÷ 7 ≈ 4.2857 → × 40 ≈ 171.4時間
- 31日(月): 31 ÷ 7 ≈ 4.4286 → × 40 ≈ 177.1時間
小数点は実務上、分単位に直して処理するか、社内の規程で四捨五入のルールを決めると管理しやすくなります。
注意点と実務上の扱い
- 所定労働時間が1日8時間・週5日以外の勤務形態では、この計算はそのまま使えません。シフト制や変形労働時間制の場合は別の算定方法が必要です。
- 月の中に祝日や有給があっても法定上の上限は按分で決まりますが、給与計算や勤怠管理では出勤日数や休暇の扱いに応じた調整が必要です。
- 実務の目安として、この算出方法を使い、月ごとの労働時間が法定上の目安を超えていないかを確認すると、残業管理や人員計画が行いやすくなります。
不明点があれば、就業規則や労務担当に相談すると安心です。
月平均所定労働時間とは ― 実務での使い方と重要性
定義と役割
月平均所定労働時間は、1年間の所定労働時間を12で割った平均値です。残業代や割増賃金の1時間当たり賃金を算出する基礎となり、月ごとの労働時間変動を平準化します。
計算方法(手順)
- 年間の所定労働日数を求める(例:365日−年間休日)。
- 1日あたりの所定労働時間を掛けて年間所定労働時間を算出。
- 年間所定労働時間÷12で月平均を出す。
例:1日8時間、年間休日125日 → 年間労働日240日、年間所定1920時間、月平均1920÷12=約160時間。
実務での使い方
- 月給を時間単価に換算するとき(時間給=月給÷月平均所定労働時間)。
- 残業代や深夜割増、休日手当の基礎に用います。月ごとの出勤日数に差があっても均等に計算できます。
注意点
- 有給休暇や祝日の扱いは就業規則で定めます。
- 小数点処理や端数処理は就業規則や給与規程に従います。別の章で残業上限や36協定との関係を詳しく説明します。
法定労働時間を超えた場合 ― 残業・36協定の上限
残業(時間外労働)とは
法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて働くことを時間外労働といいます。時間外労働には割増賃金の支払い義務があります。具体例:月の法定を超えて45時間働いた場合、その超えた時間は残業です。
36協定が必要な理由
使用者が労働者に時間外労働をさせるには、労使で締結する「36協定(労使協定)」が原則必要です。協定がなければ法定時間を超える労働をさせられません。
上限規制の基本(原則)
原則として、36協定の上限は月45時間、年間360時間です。この範囲内であれば、特別な追加手続きなしに残業を設定できます。
特別条項付き協定について
上限を超えて残業させる場合は、いわゆる特別条項付き36協定が必要です。この場合でも法で定められた厳しい制限や手続きがあります。使用者は労働者の健康確保や繁忙期の代替措置を考慮する義務があります。
実務上の注意点
・残業を行う際は36協定の有無・内容を確認してください。
・割増賃金の計算と勤怠記録を正確に残してください。
・上限を超える運用が常態化する場合は労働条件の見直しや人員配置の検討が必要です。
困ったときは労働基準監督署や社会保険労務士に相談すると安心です。
実務への影響 ― 勤怠・給与計算での注意点
勤怠管理で気をつけること
月ごとの法定労働時間を超えないよう、毎月の上限を把握して勤怠を管理します。目安は「月の日数÷7×40時間」です。勤怠システムに月ごとの法定時間を登録し、アラート設定をしておくと超過を早期に察知できます。
シフト作成のコツ
シフト作成時は暦日数の違い(28・30・31日)を考慮します。例えば30日の月は30÷7×40≈171.4時間、31日は約177.1時間です。週ごとの配置で偏りが出ないよう、1週間単位でもチェックしてください。
残業代・給与計算のポイント
残業代は実働時間と月平均所定労働時間を基に算出します。月ごとの法定を超えた部分は割増賃金の対象です。端数処理は就業規則で明確にし、支払漏れや過少支払いを避けます。36協定の上限や割増率とも整合させて計算してください。
実務上の注意例(具体例)
- 30日月の法定: 30÷7×40≈171.43h → 171.43hを基準にシフト調整
- 31日月の法定: 約177.14h → 長めの月は超過しやすい
- 週単位で40hを超える週がないかも確認
チェックリスト(実務で使える)
- 勤怠システムに月法定時間を登録
- 超過アラートを設定
- 就業規則で端数処理を明記
- 給与計算は実働・所定の差を明確化
- 36協定上限の確認と整合
これらを習慣化すると、法令順守と適正な賃金支払いが実現しやすくなります。
まとめ:労働基準法「月ごとの労働時間」管理のポイント
管理の要点
法定労働時間は1日8時間・週40時間です。月ごとの上限は勤務日数で変わり、目安は160時間(20日勤務)〜177時間程度(22〜23日勤務)です。これを超えない運用を基本とし、残業が発生する場合は36協定の範囲や割増賃金の支払いを必ず確認してください。
実務チェックリスト
- 日次・週次で勤怠を記録し、法定時間を超えていないか確認する。
- 月ごとの法定上限(勤務日数×8時間)を計算してシフト作成に反映する。例:月22日勤務→22×8=176時間。
- 月平均所定労働時間も把握し、残業の割増計算や給与計算に使う。
- 36協定で認められた上限や深夜・休日の割増率を給与明細に正確に反映する。
運用のコツ
- シフトに余裕日を入れて、想定外の残業を減らす。
- 勤怠管理ソフトやアラート機能を活用して、基準に近づいたら通知する。
- 管理者と従業員で月ごとの見込み時間を共有し、早めに調整する。
注意点と教育
法令の理解不足から計算ミスが起きやすいので、給与担当者や管理職に対する定期的な教育を行ってください。疑問があれば社労士など専門家に相談すると安心です。
労働時間は従業員の健康と企業のコンプライアンスに直結します。日々の記録と月単位の把握を習慣化することで、適正な労務管理と給与支払いが実現できます。
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