はじめに
本記事は、就業規則における有給休暇の扱いと、労働基準法の基本的な基準をわかりやすく解説することを目的としています。有給休暇は働く人の大切な権利であり、会社側も取り扱いを明確にする必要があります。具体例を交えて、実務ですぐ使えるポイントを示します。
この記事で学べること
- 就業規則に記載すべき事項の基本
- 有給休暇の付与条件と日数の考え方
- 取得手続き、時季指定、繰越のルール
- 2019年の改正で導入された取得義務のポイント
対象読者
人事・総務の担当者、経営者、そして有給のルールを知りたい働く人すべてに向けています。法律の専門知識がなくても理解できるよう、専門用語は最小限にし、具体例で補足します。
読み方のポイント
各章で「ルール」「会社の決め方」「よくある例」を順に説明します。実際の就業規則を作成・見直す際は、該当箇所が実務に即しているかを照らし合わせてください。
就業規則と有給休暇の基準
概要
就業規則は使用者と従業員が守る雇用上のルールをまとめたものです。事業所ごとに作成が求められ、有給休暇についても明確に記載します。これは労働者の権利を守るための重要な基準です。
就業規則の役割
- 労働条件を明示し、トラブルを防ぎます。例:勤務時間、休日、休暇の取り方。
- 会社と社員の共通理解を作ります。就業規則に基づき運用すると日常対応がスムーズになります。
有給休暇の位置づけ
有給休暇は、一定の勤続要件を満たした労働者に与えられる権利です。付与日数や基準日は就業規則で定めます。具体的には付与日、日数、繰越の扱い、半日取得の可否、申請手続きなどを明記します。
記載例(項目)
- 付与時期と日数(例:入社1年後に10日)
- 使用方法と申請手続き(書式や提出期限)
- 繰越や時季変更の取り扱い
実務上の注意点
- 社員に周知し、就業規則を常に閲覧できるようにします。
- 変更時は手続きが必要です。規則だけでなく運用も合わせて整えましょう。
具体例
社員Aさんは入社1年で10日付与されます。半日単位の取得を認める場合は、申請フォームや勤怠システムにその旨を明記してください。
有給休暇の付与条件と日数
基本的な付与条件
有給休暇は、原則として「入社から6か月継続勤務」かつ「その6か月間の全労働日の8割以上出勤」が条件です。継続勤務とは同じ使用者のもとで働き続けることを指します。欠勤や長期の無断欠勤があると、条件を満たさない場合があります。
「8割出勤」の計算イメージ
出勤率は、実際に出勤した日数を全労働日数で割って計算します。目安として、週5日勤務なら6か月は約26週間でおよそ130日分の所定労働日があります。この場合、80%は約104日です。遅刻・早退や欠勤が多いと出勤率が下がるため注意してください。
付与日数(勤続年数別の目安)
通常の労働者へは勤続年数に応じて段階的に増え、代表的な付与日数は次の通りです。入社6か月後:10日、1年6か月後:11日、2年6か月後:12日、3年6か月後:14日、4年6か月後:16日、5年6か月後:18日、6年6か月後:20日。
週所定労働日数が少ない場合(比例付与)
週の所定労働日数が5日未満の労働者には、働く日数に応じて日数を按分して付与します。具体的な日数は労働基準法の算定表や会社の就業規則で定めます。例として、週4日勤務の方は同じ勤続年数でも付与日数が少なくなることが多く、初回で概ね8日前後になることがあります。
具体例
- フルタイム(週5日)で6か月継続、出勤率80%以上:初回10日付与。
- パート(週3日)で同条件:比例により付与日数が減ります。会社の規則で算定表を確認してください。
就業規則への記載ポイント
1) 対象者と付与日数
- 誰に有給を与えるかを明確にします(正社員・契約社員・パートなど)。
- 勤続年数や所定労働日数に応じた付与日数を表で示すと分かりやすいです。例えば「勤続6か月で10日、以後1年ごとに増加」といった具体例を記載します。週の所定労働日が異なる場合は、例を挙げて比例配分の方法を示します。
2) 取得の手続き(申請方法・タイミング)
- 申請の方法(書面・メール・社内システム)と必要な提出期限を明記します。例:「休暇開始の3日前までに申請」など。
- 緊急時の対応方法も記載しておくと実務上役立ちます(電話連絡のフローなど)。
3) 時季指定のルール
- 会社が時季を指定する場合の条件と手続き(業務に支障がある場合の指定理由や通知期限)を定めます。具体的な通知期間を示すと社員も納得しやすくなります。
4) 繰越に関する規定
- 翌年に繰り越せる日数や繰越の手続き、消滅する条件を明記します。例:「最大20日まで翌年へ繰越可、繰越分は2年で消滅」など。
5) 記載の仕方と運用上の注意
- 誰が判断・承認するかを明確にし、運用ルールを統一します。例や図表を用いると現場での理解が進みます。
労働基準法の改正と義務化
背景
2019年の改正で、一定の条件を満たす労働者に対し「年5日以上」の有給休暇取得を企業に義務付けました。単に付与するだけでなく、確実に取得させることが目的です。
企業の主な義務
- 条件に該当する従業員に対して年5日以上の取得を促す。
- 取得状況を把握し、必要があれば時季指定などの措置を取る。
違反した場合の取り扱い
取得させなかった場合は監督署の指導や罰則の対象となる可能性があります。企業は記録を残し、要請があれば提示できるように整備してください。
実務のポイント(具体例)
- 年間の有休計画を作成して希望日を早めに調整する。
- 半日単位での取得や連続休暇の導入で取りやすくする。
- 上司が取得状況を管理し、未消化分を早めに把握する。
これらの対策を通じて、労働者の休暇取得を確実にし、法令遵守を図ってください。


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