はじめに
本記事の目的
本記事は、日本の労働基準法に関連する「生理休暇」について、制度の仕組みから実務上の対応までを分かりやすく整理することを目的としています。法律上の根拠や取得条件、給与の扱い、手続き、職場での配慮などを段階的に解説します。労働者・企業の双方が実務で迷わないための手引きとなるよう心がけました。
誰に向けた記事か
- 生理休暇の取得や運用に関心のある労働者
- 勤怠や人事を担当する企業のご担当者
- 管理職で職場の配慮を求められる方
具体例を交えて、すぐに使える知識を提供します。
本記事の読み方
全9章で構成します。第2章で法的根拠、第3章で取得条件、第4章で給与の扱い、第5章で手続きとプライバシー配慮、第6章で不利益取扱いの禁止、第7章で現場の課題、第8章で企業の対応ポイント、第9章でまとめを示します。必要に応じて該当章だけを参照してください。
注意事項
ここでは概要を示します。個別の事案や詳細な判断を要する場合は、労働基準監督署や社労士などの専門機関に相談することをおすすめします。
労働基準法における生理休暇の法的根拠
概要
労働基準法第68条は、生理日に就業することが著しく困難な女性について、請求があれば使用者は就業させてはならないと定めています。実務上は「生理休暇」として扱われる法的根拠です。
法文の趣旨(やさしい説明)
条文は本人の申告を重視します。医師の診断書や事前の届出を必須としません。労働者がその日の就業を困難と判断して請求すれば、使用者は応じる義務があります。
法的性質
これは法定休暇であり、使用者は原則として拒否できません。権利は個人ごとに発生し、必要に応じて都度請求できます。企業側が独自に規定を設けることは可能ですが、労基法の定めを下回る扱いは認められません。
具体例
・生理痛がひどく立ち仕事が困難な場合、当日の午前に申し出て休むことができます。
・生理日であることを伝えたくない場合、理由を詳しく尋ねずに休ませる運用が望ましいです。
注意点
給与の取り扱いや手続き、プライバシー配慮は別章で詳しく説明します。
生理休暇の取得条件と対象者
概要
生理休暇は、生理に伴う症状で就業が著しく困難なときに取得できる休暇です。痛みや吐き気、めまいなどで業務に支障が出る場合に該当します。
取得条件
- 「就業が著しく困難な状態」であることが条件です。具体例として、強い腹痛で立ち仕事が続けられない、嘔吐やめまいで安全に働けない、といったケースが当てはまります。
- 医師の診断や証明書は原則不要です。本人の申告をもって取得できます。
- 申請は当日でも可能です。急な体調不良にも対応できます。
対象者
- 雇用形態や業種を問いません。正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣社員など、すべての女性労働者が対象です。
- 年齢や勤続年数の条件もありません。妊娠中の方と生理による症状は別扱いとなるため、状況に応じて相談してください。
取得日数・回数
- 法律上、取得日数や回数の制限はありません。必要なときに休むことができます。
留意点
- 具体的な取得方法(誰に申請するか、当日の連絡方法など)は職場ごとに決められている場合があります。事前に就業規則や職場のルールを確認してください。
- 休暇の扱い(有給か無給か)は契約や就業規則によって異なります。詳細は第4章で説明します。
生理休暇中の給与(有給・無給)の取り扱い
概要
労働基準法は生理休暇中の賃金支払いを義務付けていません。つまり、法的には無給でも問題ありませんが、事業所ごとの規定で有給にすることも可能です。
法的扱い(わかりやすく)
使用者に賃金支払い義務はないため、原則として無給が適法です。ただし、労使協定や就業規則、雇用契約で有給と定めればその取り扱いが優先されます。
企業の選択肢(具体例)
- 就業規則で「生理休暇は有給扱い」と明記する
- 年次有給休暇や傷病休暇と合算して扱う
- 一部を有給(給与の一部支給)とする
就業規則と周知のポイント
有給化する場合は就業規則へ明記し、全従業員へ周知します。労働条件通知や雇用契約書にも反映すると誤解が減ります。
実務上の注意点
給与計算や勤怠管理のルールを決め、事前に社内マニュアルや担当者を明確にします。差別や不利益扱いがないよう統一基準で運用してください。
手続きとプライバシー配慮
申請の方法
- 口頭・電話・メール・社内申請フォームなど、会社が定めた方法で申請できます。簡潔な申請で構いません。例:「本日、体調のため午後の休暇を取得します。よろしくお願いします。」
診断書・証明書の扱い
- 労働基準法上、原則として医師の診断書は不要です。会社が独自に証明を求める場合は、必要性を慎重に判断してください。
プライバシー配慮のポイント
- 具体的な症状の開示を求めないでください。必要最小限の情報(休暇の日時・時間)にとどめます。
- 申請情報は関係者のみが閲覧できるよう制限し、紙・電子ともに適切に管理します。
半日・時間単位での取得
- 半日・時間単位での申請を可能にすると、利用しやすくなります。申請方法や単位のルールを明示してください。
実務上の注意点
- 上司や人事には対応方法を周知し、差別や詮索を防ぐ環境を作ります。
- 申請書類の保存は、業務上必要な期間に限定し、不要になれば速やかに廃棄します。
生理休暇取得による不利益取扱いの禁止
禁止される主な行為
生理休暇を理由に、解雇・降格・降給などの不利益な扱いをしてはいけません。具体例を挙げると次の通りです。
- 解雇や雇い止めをする
- 賞与や昇給の決定で不利に扱う
- 欠勤扱いとして扱い、出勤率で不利にする
- 職務やシフトを一方的に不利益に変更する
これらは労働者の権利を侵害します。違反すると行政の指導や罰則の対象になる可能性があります。
違反が疑われるときの対応
被害を受けたと感じたら、まずは社内の相談窓口や労働組合に相談してください。記録を残すことが重要です。たとえば、休暇申請のメールやシフト表、給与明細などを保管します。自治体の労働相談や労働基準監督署にも相談できます。必要なら弁護士に相談して法的手段を検討します。
企業側に求められる姿勢
企業は生理休暇の取得を妨げない体制を整え、差別的な扱いをしないことを明確に示すべきです。就業規則や人事評価の運用を点検し、管理職に対する教育や周知を行うと良いでしょう。
最後に
生理休暇の取得が不利益につながらない環境を作ることは、働きやすさと信頼の基礎です。問題があれば早めに相談することをおすすめします。
実務上の課題と現場の声
課題の整理
生理休暇は多くの場合無給です。そのため経済的負担を理由に取得をためらう人が多く見られます。職場では症状の重さをめぐり判断が曖昧になりがちで、主観的な基準で認められたり却下されたりすることが課題です。取得しにくい雰囲気がある職場では、本来の目的である体調回復が阻まれます。
現場の声(具体例)
- 従業員の声:無給なので欠勤で給料が減ると生活が苦しくなる。言いづらく席を外しにくい。\
- 管理職の声:症状の程度が分かりにくく対応に困る。業務調整が難しい日がある。
不正取得と懲戒の問題
虚偽申告や常習的な長期欠勤があれば懲戒対象になる場合があります。企業は不正防止の観点で厳しく運用しすぎると、正当な取得も減ってしまいます。
企業に求められる対応(実務的ポイント)
- 明確な運用ルールを文書化し周知する。例:申請方法、連絡先、必要な証明の範囲。\
- 取得しやすい職場風土を作る。例えば代理対応の仕組みやシフト調整のルールを整える。\
- 経済的負担への配慮を検討する。無給のままでは取得をためらうため、一部有給化や有償の短時間休暇導入を考える企業もあります。\
- 相談窓口とプライバシー配慮を明確にし、安心して申告できるようにする。
これらの実務対応で、当事者が安心して休める環境を目指すことが重要です。
企業が取るべき対応・実務ポイント
就業規則での明記
生理休暇の有給・無給、申請方法、対象範囲を就業規則に明記してください。具体例として、申請書の様式・提出先・事前連絡の有無を載せると運用が安定します。
プライバシー尊重と申請しやすさ
申請窓口は人事だけでなく匿名相談やウェブ申請も用意すると安心です。記録には必要最小限の情報だけ残す運用を徹底してください。
周知と教育
管理職や労務担当に法的義務と配慮点を研修で伝えてください。従業員には休暇の目的や手続き方法を分かりやすく案内すると申請が増えます。
相談体制と職場の配慮
休暇取得後のフォロー(業務調整、時短措置など)を整備しましょう。相談窓口は複数設け、対応履歴を共有して連携を図ってください。
不利益取扱いの防止
休暇取得を理由に評価や配置で不利益があってはいけません。違反事例を匿名で共有し、予防策を明示してください。
実務チェックリスト(簡易)
- 就業規則の記載はあるか
- 申請方法は複数用意しているか
- 研修と周知を定期実施しているか
- 取得後の業務フォローがあるか
- 不利益防止の措置を周知しているか
これらを実行すると、社員が安心して休暇を取得できる職場になります。
まとめ
生理休暇は労働基準法で保障された女性労働者の権利です。本人の申告だけで取得でき、会社は原則としてこれを妨げてはいけません。給与の支給については法で定められておらず、就業規則や労使協定で扱いを明確にする必要があります。
- 取得の要点:本人申告が基本で、医師の証明は不要です。申請のハードルを下げる運用が重要です。
- 給与の取扱い:有給にするかどうかは企業判断です。明文化して従業員に周知してください。
- 職場配慮:プライバシー尊重、柔軟な勤務調整、相談しやすい窓口を整備しましょう。
- 実務課題:経済的負担や理解不足が根強く、差別的取り扱いは違法です。教育や相談体制で解消を図ってください。
企業と従業員が互いに理解を深め、運用を改善していくことが求められます。小さな配慮が働きやすさと職場の信頼につながります。


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