はじめに
2025年の位置づけ
2025年は、労働基準法本体の大規模な改正は予定されていません。ただし、育児・介護休業法、労働安全衛生法、雇用保険法など関連する周辺法令の改正が集中して施行されます。働き方の多様化やワークライフバランスの推進を背景に、育児・介護、障害者雇用、安全衛生、教育訓練支援など広い分野で実務影響が出ます。
企業に求められる対応
企業は次のような対応を検討してください。
– 就業規則の見直し(育児・介護休業の規程、短時間勤務など)
– 給与計算・勤怠システムの設定変更
– 社内周知と労働者からの意見聴取や労使協議の実施
– 管理職や人事担当者への研修・マニュアル整備
具体例:育児休業の取得条件が変わる場合、申請フローと給与連動処理をあらかじめテストしておくと実務で混乱しません。
なぜ事前準備が重要か
2026年に労働基準法本体の大改正が予定されているため、2025年の周辺法改正は準備期間とも言えます。影響範囲を早めに把握しておくことで、システム改修や社内合意形成をスムーズに進められます。
次章では、2025年の改正の全体像を分かりやすく整理します。
2025年の労働基準法改正の全体像
概要
2025年は労働基準法そのものの大規模な改正は確認されていません。一方で、育児・介護休業法、労働安全衛生法、雇用保険法などの関連法令の改正が集中して施行されます。労働基準法は最低基準を示す法律ですが、周辺法の見直しにより実務上の対応が広がります。
背景と目的
働き方の多様化やワークライフバランス推進に伴い、育児や介護の取得支援、在宅勤務やハイブリッド勤務における安全衛生、職業訓練や雇用保険の手続き整備が求められています。これらを通じて、働きやすい環境整備と雇用の安定を図ることが目的です。
影響の範囲(企業・労働者)
- 企業:就業規則や人事制度、労務管理の見直しが必要になります。手続きや帳票の更新、研修実施が求められます。
- 労働者:休業取得や両立支援、健康管理の方法が変わる可能性があり、利用しやすい制度設計が重要になります。
企業が取るべき全体的対応
- 改正内容の早期確認とスケジュール化
- 就業規則・制度の点検と改定案作成
- 社内周知と管理職向け研修の実施
- 必要に応じて社会保険労務士など外部専門家を活用
具体例(想定)
- 育児・介護支援の制度拡充に伴う休業ルールの整備
- テレワークに関する安全衛生管理の明確化
- 雇用保険手続きや教育訓練給付の運用見直し
以上を踏まえ、まずは各改正の施行日と自社影響を洗い出すことをお勧めします。
主な改正内容と施行時期
2025年1月
- 労働安全衛生法の電子申請義務化
- 労働安全衛生関係の届出や申請を電子で行うことが原則になります。紙の書類を減らし、手続きの迅速化を図ります。企業は電子申請のためのアカウント整備や社内手順の見直しが必要です。例:まずは提出頻度の高い届出を洗い出して対応を決めましょう。
- 厚生年金保険法施行規則の養育特例手続き簡素化
- 養育特例に関する手続きが簡単になります。保険料や手続き書類の負担を減らすことが目的です。人事・総務は従来の申請フローを確認し、新しい簡素化手順に合わせて社内案内を準備してください。
2025年4月
- 育児・介護休業法の改正(柔軟な働き方措置の義務化)
- 事業主に対して、テレワークや時差出勤、短時間勤務など柔軟な働き方の導入・検討を義務付けます。就業規則や制度の整備、従業員への周知が必要です。例:まずは対象者・適用条件を定め、試行ルールを作ります。
- 介護両立支援制度の強化
- 介護と仕事を両立する社員への支援を拡充します。相談窓口や勤務形態の配慮を整備すると良いでしょう。
- 子ども・子育て支援法、労働安全衛生規則、障害者雇用促進法の改正
- 子育て支援や安全衛生、障害者雇用に関する規定が見直されます。企業は影響範囲を確認し、必要な対応計画を立ててください。
2025年10月
- 雇用保険法の教育訓練支援拡充
- 教育訓練に対する支援が拡大します。研修費の補助や制度活用の機会が増える見込みです。人材育成計画を見直して活用を検討しましょう。
- 高年齢雇用継続給付の給付率変更
- 高年齢者の雇用継続を支える給付率が変更されます。影響額は企業ごとに異なるため、試算を行ってください。
- 育児・介護休業法の追加義務(柔軟な働き方実現)
- 4月施行分と合わせ、柔軟な働き方の実効性を高める追加的な義務が予定されています。段階的に制度を整備し、従業員の利用しやすさを重視してください。
労働基準法本体の改正状況
概要
2025年時点で労働基準法本体の大規模な改正は確認されていません。ただし、労働基準関係法制研究会で以下の点が議論されています。2026年に約40年ぶりの大改正が予定されており、2025年は周辺法の改正が中心の年と位置づけられます。
主な論点
- 労働者の定義見直し:パートや業務委託などの境界を明確にする議論が進んでいます。例)フリーランスや副業者をどのように扱うか。
- 事業単位の見直し:グループ企業や派遣の実態に応じた事業単位の整理が検討されています。例)親会社と子会社で業務がまたがる場合の判断。
- 労使コミュニケーション強化:労働時間や働き方の変更を企業と労働者が協議する仕組み作りが議題です。
2025年の位置づけと実務影響
2025年は周辺法の整備が中心のため、企業は就業規則や雇用契約、外注契約などの運用を点検すると良いでしょう。具体例)外注先との契約で指揮命令の有無や報酬の決定方法を明文化しておくと、後のトラブルを防げます。
注意点と準備
今すぐ本体法の全面改正に合わせて大きく変更する必要は多くありませんが、2026年の改正を見据えて現行ルールの棚卸しと実態把握を進めてください。必要に応じて労務の専門家に相談すると安心です。
実務対応のポイント
影響のある業務・部門の洗い出し
まず、誰がどの制度変更で影響を受けるかを明確にしてください。人事、総務、給与、現場管理、情報システムなど関係部署にヒアリングし、影響範囲の一覧を作ります。具体例:育児短時間勤務の対象者、テレワーク申請フロー、出勤形態変更の対象チーム。
就業規則・労使協定の見直し
改正点を規程に反映します。就業規則は条文を具体的に書き換え、労使協定は過半数代表者の意見聴取手続きや保管方法を整備してください。例:テレワーク手当、所定労働時間の定義、育児介護休暇の取得方法を明記。
勤怠・給与システムの対応
勤怠システムで新制度の勤怠区分を追加し、給与計算ルールを検証します。試行データで支給額、控除、休暇消化の反映を確認してください。外部ベンダーと連携する場合は、改修スケジュールを早めに合意します。
過半数代表者対応と労働者への周知
過半数代表者からの意見聴取は手続きの記録を残します。変更点は文書・社内掲示・メールで周知し、説明会やQ&Aを実施してください。個別相談窓口を設けると混乱を防げます。
障害者雇用義務・合理的配慮
障害のある社員への職場環境整備を進めます。具体的には業務配慮、設備改修、支援ツールの導入、職場内教育を実施し、必要な外部支援の手配も検討してください。
安全衛生・メンタルヘルス対策
柔軟な働き方に伴う健康リスクを評価し、面談や産業医の面接、相談窓口の強化を行います。ハラスメント防止や長時間労働の監視も徹底してください。
実務マニュアルと社内研修
各手続きを手順書に落とし込み、担当者用チェックリストを作成します。管理職向けの研修と現場向けの説明会を計画し、ロールプレイやQ&Aで理解を深めます。
実行のための短期チェックリスト
- 関係部署の責任者を決定
- 就業規則の改定案作成と労使協議
- 勤怠・給与システムのテスト
- 周知計画と説明会の日程確定
- マニュアル整備と研修実施
- 記録保存とフォローアップ体制の構築
これらを時限付きで計画し、効果測定と改善を繰り返すことが重要です。
今後の動向と注意点
2025年は労働基準法本体の大改正は少なく、周辺法の改正が中心になります。企業はこれを踏まえ、2026年以降の大改正に備えて継続的に情報を収集し、段階的に対応を進める必要があります。
継続的な情報収集
- 官公庁の通知や労働局の解説、業界団体の情報を定期的に確認してください。
- 改正の施行時期や猶予期間を社内カレンダーに反映させましょう。
就業規則・実務マニュアルの見直し
- 改正ごとに該当条項(労働時間、割増賃金、テレワーク規程など)を点検します。
- 変更履歴を残し、管理職向けの運用マニュアルを整備してください。
社内体制と研修
- 法改正対応の窓口を明確にし、担当者を決めてください。
- 管理職・人事向けに短期集中の研修を実施し、運用の定着を図ります。
実務上の優先対応
- 就業規則の改定手続き、労使協定の見直し、給与計算システムの更新を優先しましょう。
- 影響が大きい項目はシミュレーションで労務コストを試算します。
注意点
- 解釈に不明点がある場合は早めに専門家へ相談してください。
- 変更内容は文書化し、従業員への周知を徹底して労使の合意形成を図ってください。
日常的に小さな改善を積み重ねることで、大きな法改正にも柔軟に対応できます。


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