はじめに
目的
本章は、本記事全体の入口です。無断欠勤が職場でどのような問題を生むか、法律や実務の観点から何を学べるかを分かりやすく示します。日常の事例(朝になって連絡なく出社しない、急な連絡がないまま数日欠勤するなど)を念頭に置いて読み進めてください。
無断欠勤が重要な理由
無断欠勤は業務に支障を与え、他の社員の負担や信頼関係の低下を招きます。企業は対応を誤ると法的トラブルになる一方で、放置すれば職場秩序が乱れます。そこで法律に基づく適切な対応と、段階的な対処が求められます。
本記事の構成と読み方
第2章以降で定義や企業対応、懲戒と解雇の実務、正当な理由の判断基準、長期欠勤時の扱い、就業規則の整備、労働者側の注意点まで順に解説します。具体例を交えて、企業側・労働者側の視点両方で理解できるようにしています。
注意点
法律の解釈や運用は個別事情で変わります。具体的な対応が必要な場合は、労務の専門家や弁護士に相談することをおすすめします。
無断欠勤の定義と法律上の位置づけ
無断欠勤の定義
無断欠勤とは、従業員が出勤日や勤務開始時刻に会社へ事前の連絡や許可をせず、正当な理由なく勤務しない行為を指します。たとえば、朝に連絡せずに欠勤したり、連絡なく早退して出勤しない場合が該当します。
法律上の位置づけ
日本の法律(労働基準法など)に無断欠勤の明確な定義はありません。法律は労働契約の履行を求めますが、無断欠勤の扱いは主に就業規則や労働契約で決まります。したがって、具体的な扱いは会社ごとに異なります。
就業規則・労働契約との関係
多くの企業は就業規則に無断欠勤の定義や懲戒の基準を定めています。就業規則に基づき欠勤の届出方法や、無断欠勤とみなす基準(連絡の有無、期間、理由の内容など)を明確にすると、トラブルを減らせます。
通常の欠勤や有給・病気休暇との区別
無断欠勤は、事前に承認された欠勤や有給休暇、病気による欠勤と区別します。病気で連絡が遅れた場合でも、事後に理由を説明して認められれば無断扱いにならないことがあります。事情によって扱いが変わるため、まずは就業規則と個別の状況を確認してください。
無断欠勤が発生した場合の企業の対応
初動対応
無断欠勤が確認されたら、まず本人に連絡を取ります。電話(携帯)、ショートメッセージ、メールの順で試み、出なければ緊急連絡先にも連絡します。例:欠勤初日に電話→つながらなければメールとSMSで出社予定の確認を行います。
段階的な対応例
- 1日目〜3日目:口頭での出社督促と事情確認を行います。上司が面談を申し込み、状況を聞きます。
- 3日目〜7日目:書面で事情説明の要請を出します。期限(例:3日以内)を明示します。返信がなければ次の段階へ進みます。
- 7日目以降:内容証明郵便で出社要請や事情説明の期日を通知します。本人に届いた記録が残るため、後の手続きで重要な証拠になります。
退職勧奨・指導を優先する理由
いきなり解雇するのは法的リスクが高いです。まずは指導・注意や退職勧奨を行い、本人の事情(病気や家庭の問題など)を確認します。例えば病気であれば、診断書の提出を求めて休職制度を利用できるか検討します。
記録と証拠の保全
連絡履歴、送付した文書、面談記録は必ず保存します。日時・内容・対応者を記録すると、後でトラブルになったときに説明しやすくなります。
長期無断欠勤への対応と相談
長期間の連絡不能が続く場合は、就業規則に基づいて給与の扱いや懲戒の検討をします。ただし、解雇する際は慎重に手続きを踏む必要があります。不安があるときは社会保険労務士や弁護士に相談してください。
無断欠勤と懲戒処分・解雇の実務
無断欠勤は懲戒事由になり得ます。ここでは、処分の種類、法的制約、手続きの実務的な進め方を分かりやすく説明します。
懲戒の種類
主な処分は減給、出勤停止、懲戒解雇です。まずは就業規則で懲戒事由と手続きを明確にしておきます。懲戒は合理的な範囲で、程度に応じて行います。
減給の上限
減給は労働基準法の上限内で行う必要があります(総賃金の1回につき10分の1、1支払期の合計で10分の1までとされる点を確認してください)。上限を超える減給は無効となるおそれがあります。
解雇の可否と目安
無断欠勤が続く場合、最終的に解雇が認められることがあります。一般的な目安は2週間以上の継続ですが、個別事情や就業規則の記載が重要です。解雇は濫用が禁止され、30日以上の解雇予告(または予告手当の支払い)が必要です。
手続きと証拠保全
出勤記録、社内連絡の履歴、警告文書などを保存します。まずは文書での注意・警告を行い、出勤命令や呼び戻しを記録します。社員に説明の機会を与えることが望まれます。
実務的対応の流れ(例)
1) 初期の無断欠勤は連絡を試みる(電話・メール・書面)。
2) 連絡つかない場合は始末書や警告書を交付する。
3) 改善がない場合は減給や出勤停止を実施。
4) 長期で改善がなく重要な業務に支障をきたす場合は、規定に従い解雇を検討する。
事実確認と手続きの適正さを重視し、安易な処分は避けてください。
無断欠勤の理由と正当性
よくある理由
無断欠勤の背景は多様です。急な体調不良(発熱や腹痛)、家庭の緊急事態(子どもの急病や介護)、通勤トラブル(交通機関の大幅遅延)、仕事への不満や燃え尽き、メンタル不調(不安や抑うつ)などが挙げられます。具体例を挙げると、夜間に子どもが高熱を出し翌朝連絡が遅れた場合や、起きられないほどの強い不安で出勤できない場合などです。
正当性が認められる場合
会社が理由を合理的だと判断すれば欠勤は正当と扱われます。医師の診断書や病院の受診記録、公共交通機関の遅延証明、家族の入院証明などがあれば説明が整います。メンタル不調でも産業医や主治医の診断書があれば理解されやすくなります。
正当性が認められにくい場合
連絡を一切しなかった、理由に矛盾がある、虚偽の申告が判明した場合は無断欠勤扱いになりやすいです。例:旅行中に体調不良と説明したがSNSで行先が明らかになった場合など。
企業側の確認と労働者の対応
会社は証拠を求める権利がありますが、個人情報の保護に配慮して扱う必要があります。欠勤した場合はできるだけ早く連絡し、受診したら診断書を提出する、事情が続くときは産業医や上司と相談するなど誠実に対応してください。
虚偽があった場合の注意
故意に虚偽の理由を用いたと認められると懲戒の対象になり得ます。正直に説明し、必要書類を整えることが最も重要です。
無断欠勤が続いた場合の退職・損害賠償・給与の扱い
概要
無断欠勤が長期間続くと、企業は懲戒解雇や退職の手続きを検討します。ただし、手続きや規定の明確化が不可欠です。ここでは実務で気をつける点を具体例で示します。
退職・解雇の考え方と手順
まず当事者確認を何度も試みます(電話、書面、メール)。連絡が取れず就業不能な状態が続けば、会社は懲戒処分や退職扱いを検討します。目安として、数日〜数週間の経過と書面での最終通告を踏まえ、就業規則に従って処分を決めます。例:3日間無断欠勤で注意、10日以上で最終通告、30日以上で退職扱いの運用例があります。
損害賠償の可能性
企業が損害を立証できれば賠償請求します。例えば、急な欠員で外部に依頼した費用や受注キャンセルの損失などです。ただし、損害と無断欠勤の因果関係、金額の証明が必要です。アルバイトでも請求は可能ですが、請求額は実損が中心となります。
給与の扱い
無断欠勤分の給与は原則として支払う必要がありません。出勤しない日は賃金非支給とする運用が一般的です。欠勤扱いの始期・終期や控除方法は就業規則で明確にしておきます。
手続き上の注意点
・就業規則や労働契約で処分基準を明示する。
・連絡記録や最終通告の写しを保存する。
・感情的な対応を避け、段階的に措置を行う。
アルバイト・パートの場合の実務例
短期雇用でも同様に段階的対応を取ります。例えば、シフト欠勤で店舗が損害を被った場合、実損を根拠に賠償請求や今後の採用制限を検討します。証拠を整えた上で冷静に対応してください。
就業規則・労働契約の整備
趣旨
無断欠勤への対応は書面で明確にしておくと、会社と社員の双方が安心できます。事前にルールを定め、運用するとトラブルを減らせます。
定めるべき項目
- 無断欠勤の定義:連絡なしで欠勤した状態を具体的に示します(例:始業時刻から1時間以上連絡がない場合)。
- 報告手続き:欠勤・遅刻の連絡方法と期限を明記します(電話、メール、専用システムなど)。
- 懲戒の種類と基準:始末書、減給、出勤停止、懲戒解雇などを具体的な事例で示します。
- 正当な理由の扱い:病気や災害などの事情をどう認めるか、証明書類の提出方法を決めます。
- 給与・休暇の取り扱い:欠勤時の給与控除や有給の適用ルールを示します。
実務上の工夫
- 具体例を示す:何回の無断欠勤で処分するか、日数や回数で基準を明確にします。
- 柔軟な運用:初回は注意、再発で厳格にするなど段階的な運用を検討します。
- 記録を残す:連絡履歴や注意・処分の記録を必ず残します。
周知と同意
就業規則は全員に周知し、入社時に説明して同意を得ます。変更時も説明会や書面で通知してください。
法的手続きと届出
就業規則を作成・変更した場合は、労働基準監督署への届出が必要です。内容が不明瞭だと無効になる恐れがあります。
最後に
就業規則は形だけでなく、日常の運用が大切です。明文化と現実的な運用の両方を整えてください。
労働者側の注意点
はじめに
無断欠勤は会社との信頼を損ないます。軽く考えると懲戒や解雇、給与不支給など重大な不利益につながる可能性があります。ここでは具体的に気をつける点を整理します。
無断欠勤が招く影響
・上司や同僚の業務に負担がかかります
・就業評価や昇進に悪影響が出ます
・最悪の場合、懲戒処分や解雇に発展します
連絡と説明の基本
欠勤する場合は、できるだけ早く会社へ連絡します。電話が基本ですが、出られないときはメールやチャットで状況を伝え、折り返しの可否やいつ復帰できるかを明示します。出勤予定時刻の前に連絡することが理想です。
病気や家庭の事情がある場合
病気なら診断書や領収書を保管します。家族の急病や災害なら事情を具体的に説明できる書類や証拠を用意します。後で提出を求められることが多いです。
記録の残し方
連絡した日時、相手の名前、やり取りの内容をメモします。メールやメッセージの控えは必ず保存してください。証拠があると誤解を解きやすくなります。
会社からの連絡への対応
会社が事情を確認してくる場合は誠実に応じます。疑義がある場合や不当な扱いを受けたと感じたら、労働組合や労働相談窓口、専門家(弁護士)に相談することを検討します。
欠勤の代替手段
事前に分かる場合は有給休暇や休職申請を活用します。急な場合でも上司と相談し、代替の勤務調整を提案すると印象が良くなります。


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