はじめに
本調査の目的
本調査は、源泉徴収票に記載される「丙欄適用」の意味と実務上の扱いをわかりやすく整理することを目的としています。丙欄は日雇い労働者や短期契約者に関わる税区分の一つで、どのような場合に使われ、どんな影響があるのかを丁寧に解説します。
誰に向けた記事か
- アルバイトや派遣で複数の雇用先がある方
- 会社の人事・経理担当者
- 税金の基礎を知りたい個人事業主
どなたでも読みやすいよう、専門用語はできるだけ抑え、具体例を用いて説明します。
本稿の範囲と進め方
第2章以降で、源泉徴収の基本構造、丙欄の定義、適用条件、甲欄・乙欄との違い、税額の計算方法、実務上の注意点を順に解説します。本章では全体の概要と読み進め方を示しました。以降の章で具体的なケースや計算例も紹介しますので、実務での確認に役立ててください。
源泉徴収の基本構造と3つの税区分
概要
給与から所得税を差し引く際に使うのが「給与所得の源泉徴収税額表」です。税額表は従業員の申告や雇用形態に応じて3つの区分(甲欄・乙欄・丙欄)に分かれています。これは毎月の給与から適切に税金を天引きするための仕組みです。
甲欄・乙欄・丙欄の違い(簡潔な説明)
- 甲欄:主たる勤務先で「扶養控除等申告書」を提出している人に使います。扶養の有無などを反映した税額になります。
- 乙欄:副業などで主たる勤務先に申告書を出していない勤務先が使います。税額は多めに見積もられます。
- 丙欄:日雇いや臨時の短期勤務など、継続的でない働き方に対して使われます。簡易な計算で天引きします。
選び方の例
- Aさん:会社ひとつで申告書を提出 → 甲欄
- Bさん:本業とアルバイト。申告書は本業に提出 → アルバイト先は乙欄
- Cさん:単発のイベントスタッフ → 丙欄
仕組みの目的
給与支払者(会社)が、手元で税金を差し引き納付することで、従業員が確定申告をしなくても税負担をほぼ調整できる点にあります。
丙欄適用の定義と基本的な意味
定義
源泉徴収票に「丙欄適用」と記載されている場合、その給与等が所得税法上の「日雇賃金」に該当することを示します。日雇いの労働に対する賃金に対して、源泉所得税を日額表の丙欄で算出したことを意味します。
丙欄の基本的な意味
丙欄は日額表だけに存在し、月額表にはありません。日単位で支払う給与や短期のアルバイトなど、雇用期間や労働日数が限定される場合に使います。丙欄は一般の給与と区別して、簡便に税額を決めるための扱いです。
日額表との関係と実務上の使い方
日雇い労働者に対する源泉徴収は、支払日ごとに日額表の丙欄を参照して税額を決めます。雇用が継続せず、給与が日額計算されるケースで適用されます。たとえば、日給8,000円の単発アルバイトに対して、雇用主は日額表の丙欄を見て源泉税を差し引きます。
注意点
- 丙欄表示があっても、確定申告で扱いが変わる場合があります。税額の過不足は申告で調整されます。
- 丙欄は月額表にないため、月給者や継続雇用には通常適用しません。
以上が丙欄適用の定義と基本的な意味です。疑問があれば具体例を挙げて教えてください。
丙欄が適用される対象者と条件
対象者
丙欄は、短期間の契約で日給や時間給で支払われる労働者に適用されます。具体的には、日雇いや短期アルバイト、単発の現場作業など、雇用期間が2か月以内の人が該当します。
主な適用条件
- 雇用契約の期間が原則として2か月以下であること
- 給与の支払いが日給または時間給で行われること
- 継続的な給与支払の意思が乏しく、一時的・臨時的な労働であること
具体例
- 建設現場で単発の土日だけ働く日雇い労働者
- 繁忙期に1ヶ月だけ雇われる倉庫のピッキング作業員
- イベント会場で数日のみ働くスタッフ
適用されない例
- 3か月以上の契約で働くパートタイマー
- 月給制で継続雇用される従業員
手続き上のポイント
雇用者は雇用形態と支払方法を確認し、該当する場合は源泉徴収簿で丙欄を適用します。労働者側は扶養や他の給与収入の有無を伝えるため、必要書類を提出してください。
甲欄・乙欄との違い
概要
甲欄・乙欄・丙欄は給与の源泉徴収で使う区分です。甲欄は扶養控除等申告書を提出した通常の従業員に適用され、乙欄は提出がない場合に適用されます。丙欄は日ごとに支払われる短期の給与などに使います。
主な違い(わかりやすく)
- 申告の有無:甲欄は扶養控除等申告書を提出していることが前提です。乙欄は未提出の場合です。
- 支払形態:甲・乙は月給など継続的な支払いが中心です。丙欄は日払いや日雇いなど、働いた日ごとに支払う給与に当たります。
- 扶養人数の扱い:甲欄では扶養人数に応じた控除を反映します。乙欄・丙欄は扶養人数を反映しません。
- 課税ベース:丙欄は社会保険料控除後の支払額を税額表に当てて源泉徴収額を決めます。
具体例
- 会社員A(扶養申告書提出・月給):甲欄で源泉徴収。扶養人数に応じた税額。
- アルバイトB(扶養申告書未提出・月単位):乙欄で源泉徴収。
- 日雇いC(日払):丙欄で、社会保険料を差し引いた後の金額で税額を決めます。
実務上の注意
従業員は扶養控除等申告書を適切に提出すると税負担が変わります。雇用者は支払形態と提出状況を確認して正しい欄で源泉徴収してください。
丙欄の税額計算方法と特徴
計算の基本手順
- 給与から社会保険料等を差し引きます(これを課税対象額と呼びます)。
- 課税対象額が9,300円未満なら源泉徴収税額は0円です。
- 9,300円以上の場合は、源泉徴収税額表の丙欄に当てはめて金額を確認します。
具体例でのイメージ
- 例1:給与12,000円、社会保険料控除2,500円 → 課税対象9,500円 → 丙欄の表で該当行の税額を確認します(9,300円未満であれば0円)。
- 例2:給与20,000円、控除3,000円 → 課税対象17,000円 → 表の該当額を源泉徴収します。
変更と年末調整の扱い
雇用期間が2か月を超えて丙欄から甲欄や乙欄に変わった場合、年末調整でその年の給与所得と合算して精算します。したがって、丙欄で源泉税が少なかった・なかった場合でも、年末に不足分が徴収されることがあります。
丙欄の特徴(実務上のポイント)
- 小口の臨時・短期の給与に向くため、9,300円未満なら課税されない点が特徴です。
- 税額の確認は必ず源泉徴収税額表を使って行ってください。表の適用ミスを防ぐため、支給額と控除額を明確に記録しておくと安心です。
実務上の重要なポイント
短期労働に適用される丙欄は、運用上の注意点がいくつかあります。ここでは事業者側と労働者側それぞれの実務ポイントを分かりやすく整理します。
- 雇用期間の確認
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契約書や雇用開始時の合意で「雇用期間が2か月以内」かを明確にします。例:契約書に「期間:4月1日〜5月31日」と記載すれば丙欄が妥当です。
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2か月を超えたときの対応
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実際の勤務が当初の見込みを超えて継続する場合、速やかに甲欄または乙欄へ切替えます。給与計算・源泉徴収の設定を更新してください。
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複数の勤務先と年末調整
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丙欄は年末調整の対象外になることが多く、複数の職場で働く人は確定申告が必要になる場合があります。メインの職場で年末調整を受けるか、年度末に確定申告するかを確認します。
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記録と証憑の保管
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契約書、タイムカード、給与明細などを保存すると後の照会に役立ちます。特に雇用形態が変わった場合の証拠は重要です。
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給与計算システムの設定
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勤務形態ごとに源泉区分を管理できるように設定し、誤って甲や乙で処理しないよう注意します。
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労働者への説明
- 丙欄の特徴(短期・年末調整対象外の可能性)を雇用時に説明して納得を得てください。例:短期のイベントスタッフには説明書を渡すと安心です。
これらの点を確実に実行すると、誤徴収や後日の手続きトラブルを防げます。
まとめ
丙欄適用は、日雇いや短期契約など一時的・臨時的な勤務に対して用いる源泉徴収の計算方法を示す表記です。甲欄や乙欄と異なり、扶養や前歴に関わらず基本的に簡便な税額計算が行われます。重要なポイントを分かりやすくまとめます。
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意味の確認:丙欄は一時的な給与や日払いに多く使われます。支払額から社会保険料などを差し引いた後の金額が9,300円未満であれば、源泉徴収は発生しません。
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誰に関係するか:スキマバイト、ギグワーカー、単発のアルバイトや短期派遣など、雇用が恒常的でない労働者に特に関係します。
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労働者への助言:勤務形態と給与の支払い方法を確認してください。源泉徴収が行われているか、差引後の金額をチェックすると安心です。
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事業者への助言:支払形態を正しく判定し、給与計算や源泉徴収を適切に行ってください。誤りを防ぐために勤怠・支払記録を残し、必要なら給与ソフトや税理士に相談してください。
現代では短期・単発の働き方が増え、丙欄の理解は労働者と事業者双方のトラブル予防につながります。丁寧に扱うことで、税の適正な処理と安心な働き方を実現できます。


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