はじめに
本書の目的
本書は、源泉徴収票の電子交付に関する基礎知識と実務上の手続き、特に転職時の扱い方をわかりやすく解説することを目的としています。制度の背景から具体的な操作、確定申告での注意点まで順を追って説明します。
対象読者
給与担当者、人事担当者、転職予定の従業員、また源泉徴収票の受け取りや管理に不安がある方を想定しています。専門用語は最小限に抑え、具体例を交えて説明します。
本書の構成と読み方
第2章で電子交付の仕組みを説明し、第3章で実際の交付方法を詳述します。第4章では企業が行うべき同意手続きや注意点を扱い、第5章で転職時の確定申告での扱い方を示します。第6章で導入によるメリットを整理します。必要な箇所から順にお読みください。
源泉徴収票の電子交付とは
概要
源泉徴収票は、従業員がその年に受け取った給与から差し引かれた所得税の額などを示す重要な書類です。近年、この書類を紙で渡す代わりに電子データで交付する「電子交付」が広がっています。平成18年度の税制改正以降、従業員の同意があれば電子交付が認められ、平成31年4月以降は確定申告で源泉徴収票の原本添付が不要となり、普及がさらに進みました。
電子交付の意味とポイント
電子交付とは、源泉徴収票をPDFやWeb上の専用画面、スマホアプリなどで提供することを指します。従業員の同意が前提で、企業は交付した記録や同意の履歴を残す必要があります。受け取る側は、データを保存して必要に応じて印刷したり、税務手続きに利用したりします。
具体例
- 例1: 会社が社内ポータルに源泉徴収票のPDFをアップロードし、従業員が自分でダウンロードする。
- 例2: メールで暗号化したPDFを送付し、本人がパスワードで開く。
- 例3: 勤怠管理システムや給与明細アプリ内で閲覧・保存できる。
従業員が気をつけること
- 交付方法や保存方法を事前に確認する。
- 同意は書面や電子同意の形で求められることが多いので、内容をよく読む。
- データを紛失しないように定期的にバックアップを取る。
電子交付は便利ですが、アクセス方法や保存の仕方を確認してから同意すると安心です。
源泉徴収票の電子交付方法
方法1:電子メールでの送信
源泉徴収票をPDFなどのファイルにして従業員へ添付送信します。ファイルにパスワードを付けたり、メール本文でパスワードを別送したりして保護する運用が一般的です。送信履歴を保存し、送信日時と宛先を記録してください。
方法2:社内ネットワークやインターネット経由での閲覧・ダウンロード
社内ポータルや専用のクラウドサービスにアップロードし、従業員がログインして閲覧・ダウンロードします。アクセス制限やログイン認証、通信の暗号化(HTTPS)を設定すると安全です。ダウンロード履歴や承認フローを残すと管理が楽になります。
方法3:USBメモリーやCDなどの物理媒体
ネット環境がない場合や紙交付の代替としてUSBやCDに保存して渡します。媒体は暗号化やパスワード保護を行い、手渡しで受領印をもらうなど配布記録を残してください。
共通の注意点
ファイル形式はPDFが一般的で互換性が高いです。本人の同意を得ていること、個人情報保護の観点から暗号化やアクセス制御を行うこと、一定期間の保存とログ管理を実施することを忘れないでください。従業員には閲覧方法とパスワードの扱いを分かりやすく説明してください。
電子交付実施時の必須手続き
同意の取得
電子交付を行うには、従業員からの事前の同意が法的に必須です。会社は書面やメールなど記録に残る方法で同意を得ます。口頭だけでは不十分なため、必ず記録を残してください。
同意時に伝えるべき項目
同意を得る際は、次の点を明確に伝えます。
- 電子交付を行う方法(メール、社内システムなど)
- ファイル形式(PDFなど)や暗号化の有無
- 交付予定日と閲覧期間
- 印刷や保存の方法(必要な場合)
具体例:交付は社内ポータルでPDF配布、交付日は毎年1月31日、保存は個人の端末に可能、など。
同意の取扱い(令和5年度の改正)
改正により、会社が提示した回答期限内に従業員から同意がない場合でも、あらかじめ定めた手続きに基づき同意とみなすことが可能になりました。ただし、事前に期限や同意の意味を十分に説明しておく必要があります。
電子交付基準と提供方法
電子交付は、従業員が確実に閲覧・印刷できる状態で提供しなければなりません。ファイルの読みやすさやアクセス権の設定、保存方法の案内を整備してください。
電子機器を持たない従業員への対応
端末を持たない従業員には、紙での交付も求められます。社内で印刷・閲覧の場を用意するか、郵送で送付するなど、利用しやすい手段を準備してください。
転職時の確定申告における源泉徴収票の扱い
概要
平成31年4月以降、確定申告で源泉徴収票の原本添付は不要になりました。電子交付されたデータや電子ファイルのコピー(印刷物)でも申告できます。ここでは転職した方が確定申告で源泉徴収票をどのように扱えばよいか、具体例を交えて説明します。
電子交付の源泉徴収票を使うとき
電子で交付されたPDFや画像ファイルをそのままe-Taxで添付できます。紙の申告書を提出する場合は、電子ファイルを印刷して添付して問題ありません。大切なのは金額や会社名、支払期間などがはっきり確認できることです。
複数の勤務先がある場合の扱い
転職で年の途中に退職し、別の会社から給与を受け取ったときは、それぞれの源泉徴収票(電子版可)を申告書に反映してください。たとえばA社で1〜3月、B社で4〜12月に働いた場合、A社とB社双方の額を合算して申告します。
印刷・保存の注意点
印刷して使う場合は文字が読みやすい解像度で出力してください。電子ファイルはバックアップを残し、必要に応じて提示できるよう保存しておきます。発行元に不明点があれば、勤務先に再発行を依頼してください。
トラブル時の対応
金額や社名に誤りがあるときはまず勤務先に確認・訂正を求めます。必要に応じて税務署に相談すると安心です。
源泉徴収票の電子交付によるメリット
はじめに
電子交付は企業と従業員の双方に利点があります。ここでは具体的にわかりやすく説明します。
企業側のメリット
- コスト削減:印刷・用紙・郵送費を削減できます。たとえば従業員数が多いほど効果が大きくなります。
- 業務効率化:配布作業や再発行対応が減り、検索や一括配信で作業時間を短縮できます。
- セキュリティ管理:アクセス権やログ記録で誰がいつ見たかを管理できます。
- 環境配慮:紙資源の節約につながります。
従業員側のメリット
- 紛失リスクの低減:紙を失くす心配が減ります。
- いつでも確認可能:パソコンやスマートフォンから即時に閲覧・ダウンロードできます。転職や確定申告の際に便利です。
- 再発行の手間が不要:企業に再発行を依頼する回数が減ります。
実務で期待できる効果と注意点
- 効果例:再発行対応や郵送作業が減り、担当者の工数が大幅に下がります。規模によっては年間で数十万円〜のコスト削減が見込めます。
- 注意点:電子交付には従業員の同意が必要です。また、長期保存やバックアップ、本人確認の仕組みを整えることが重要です。
以上が主なメリットです。導入前に体制や運用ルールを整えると、効果を最大化できます。


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