はじめに
概要
この文書は、有給休暇の消化期限や取得義務について分かりやすく解説するために作成しました。主に有効期限(時効)、年5日の消化義務、初年度の付与、複数付与日やパート・アルバイトへの適用、繰り越し、退職時の取り扱いを扱います。
目的
有給に関する基本的なルールを整理し、労働者と使用者の双方が日常の運用で迷わないようにすることが目的です。実務でよくある誤解や注意点も具体例を交えて説明します。
対象読者
- 会社の人事・総務担当者
- 労働者(正社員、パート、アルバイト)
- 有給の扱いで疑問がある方
読み方のポイント
各章は独立して読みやすい構成です。まず第2章で有効期限の基本を確認し、その後、消化義務や特例を順にご覧ください。具体的なケースでは、雇用形態や付与日によって対応が変わる点に注意してください。必要に応じて会社の就業規則や労使協定も併せてご確認ください。
有給休暇の有効期限は2年間
概要
有給休暇は付与された日から起算して2年間に限り取得できます。労働基準法はこの2年という期限を短くすることを認めていません。
期限の扱い
たとえば、入社1年で10日付与された場合、その10日は付与日から2年の間に使えます。2年を過ぎると、使わなかった日数は消滅します。企業は従業員が権利を行使できるよう管理する責任があります。
就業規則での延長
企業は就業規則で期限を2年以上に延ばすことができます。たとえば、付与日から3年以内に取得できるよう規定すれば、従業員は長めに休暇を残せます。
注意点
未消化の有給は放置すると消滅します。自分の付与日と残日数は就業規則や賃金台帳で確認してください。問題があれば総務や労働基準監督署に相談しましょう。
年5日の消化義務と基準日
概要
2019年の働き方改革関連法により、年次有給休暇が10日以上付与される労働者には、付与日から1年以内に5日分の有給を取得させる義務が事業主に課されました。管理監督者や有期雇用の方も対象です。
対象と基準日
- 対象:入社後に付与される年10日以上の有給がある労働者。パートやアルバイトで付与日数が10日以上となる場合も含みます。
- 基準日:有給が付与された日(付与日)を起点に1年以内に5日を取得させる必要があります。付与が複数日に分かれる場合は、それぞれの付与日が基準日になります。
事業主の具体的な義務
- 労働者に取得を促す努力をすること
- 労使で相談して時期を決めること
- 労働者が取得を拒む場合は、事業主が時季を指定して取得させることができます
- 取得状況を記録・管理すること
具体例
- 例:4月1日に10日付与された場合、次の4月1日までに5日を取得させる必要があります。会社が時期を指定しても、残りの日数は従来どおり利用できます。
注意点
- 5日取得は義務ですが、有給全体の扱いや繰越には別のルールがあります。
- 違反した場合、行政指導や罰則の対象になり得ます。疑問があれば就業規則や労務担当に確認してください。
初年度の有給休暇付与と消化義務
概要
入社後6か月間、所定の出勤要件を満たすと、初めて10日の有給休暇が付与されます。以降は継続勤務年数に応じて付与日数が増えます。初年度は、付与された日から起算して1年以内に5日を消化する義務があります。
付与の仕組み
- 入社から6か月後に一律で10日付与(勤務日数が基準を満たす場合)。
- その後、勤務年数に応じて付与日数が多くなります。
消化義務の内容
- 初年度に付与された10日のうち、5日を付与日から1年以内に取得する必要があります。
- 5日を取得しないまま期限が過ぎると、企業側が取得を促す措置をとる場合があります。
取得手続きと企業の対応
- 休暇の時期は社員が申し出るのが基本です。業務に支障がある場合、会社は時期変更を求めることができます。
- 社員が自発的に5日を取得しないときは、会社が時期を指定して消化させることが期待されます。
実例
- 例:4月1日入社→10月1日に10日付与→その日から1年以内(翌年9月30日まで)に5日を使う必要があります。
有給休暇の時効と消滅
制度の基本
有給休暇は、会社が付与した日から2年間で時効となり、期限を過ぎると自動的に消滅します。期限内に使わなかった日数は消滅し、翌年以降に持ち越せません。
時効の数え方(具体例)
付与日を起点に2年後の前日までが有効期間です。たとえば、2023年4月1日に年間有給が付与された場合、有効期限は2025年3月31日になります。期限が過ぎると残日数は失効します。
よくある状況と対処
- 繁忙期で消化できない場合:会社は取得を促す配慮をする必要があります。従業員も早めに計画を立てると安心です。
- 付与日が複数ある場合:それぞれの付与日ごとに2年で時効になります。日ごとの管理が重要です。
会社の役割と注意点
会社は有給の付与日と残日数を正確に管理し、失効が近い場合は従業員に知らせると良いです。企業側の管理不足で消滅した場合、説明責任が生じます。従業員は自分の付与日と期限を確認して、計画的に取得してください。
注意事項
時効になると自動的に消えるため、使えるうちに取得するのが基本です。わからない点は人事や労働基準監督署に相談すると安心です。
複数の付与日がある場合の消化義務(ダブルトラック)
概要
複数の有給付与日が重なり、消化義務の対象期間が重複する場合があります。その際は、義務となる日数を重複期間に応じて比例按分する扱いが認められています。分かりやすく説明します。
比例按分の考え方
重複する期間の長さに応じて、各付与日に対応する消化義務日数を按分します。たとえば重複が半年分であれば、その期間に対応する義務日数は半分にします。
具体例
Aさんは4月1日に年10日付与、10月1日に年10日付与があったとします。両者の消化義務が重なる期間が6か月なら、通常の義務(仮に年5日)を6か月分に按分して、各付与日の消化義務を2.5日ずつにします。実務上は端数処理を会社規定で定め、社員と合意することが重要です。
実務上の手順と注意点
- 付与日と義務期間を明確にする。2. 重複期間を日数で算出し按分する。3. 端数処理は就業規則か運用で決める。4. 記録を残し、社員に説明する。
端数や合意の扱いでトラブルが生じやすいので、会社は基準を整え、社員と丁寧に調整することをおすすめします。
パートやアルバイトへの適用
概要
有給休暇のルールはパートやアルバイトにも適用されます。雇用形態にかかわらず、労働基準法は労働者の年次有給休暇を保障しています。
対象となる条件
有給休暇は、原則として同じ事業所で継続して6か月以上勤務し、所定労働日の8割以上出勤した人に付与されます。パートやアルバイトでもこの条件を満たせば対象です。
日数の算定と具体例
有給の日数は勤務日数を基に決まります。代表的な目安は次の通りです(6か月継続後の付与日)。
– 週5日勤務に相当:10日
– 週4日勤務に相当:8日
– 週3日勤務に相当:6日
– 週2日勤務に相当:4日
– 週1日勤務に相当:2日
たとえば週3日勤務で6か月以上働いていれば、初回は6日が付与されます。
年5日の消化義務の扱い
年5日の有給消化義務は、付与日数が10日以上ある労働者に対して課されます。したがってパートで初回付与が6日や8日の場合は、年5日義務の対象になりません。逆にフルタイム相当で10日以上付与されれば、パートでも5日の確保が必要です。
実務上の注意点
- 付与日数や基準日は就業状況で変わります。必ず出勤記録で確認してください。
- 有給の取得や付与に関する運用を就業規則や雇用契約書で明示するとトラブルを避けられます。
- 企業は有給を適正に管理し、取得しやすい環境を整える義務があります。
よくある質問への対応例
- 週ごとに勤務日が変わる場合は、直近6か月の実績から平均的な週の勤務日数を算定して日数を決めます。
- 付与前に退職した場合は、条件を満たさなければ有給は付与されません。
有給休暇の繰り越しと保有日数の管理
繰り越しの基本
年度末に消化されなかった有給休暇は、原則として翌年度に繰り越せます。繰り越した分と、その年に新たに付与された分を合算して保有できます。個人ごとに残日数を把握することが大切です。
計画的付与の範囲
計画的付与は、付与日数のうち「5日を超える部分」が対象になります。例えば、その年の付与が10日であれば、5日を超える5日を会社が計画的に指定できます。繰り越し分には原則として計画的付与は適用されませんので、意味合いを確認してください。
具体例
年末に残7日あったとします。翌年の付与が10日なら、合計で17日になります。そのうち会社が計画的に指定できるのは新たに付与された10日のうち5日分だけです(繰り越しの7日は別扱い)。
保有日数の管理方法
- 就業規則や年休台帳で付与日と残日数を確認します。
- 有効期限(時効)を意識し、早めに消化する計画を立てます。
- 会社が計画的付与を行う際は、事前に周知されているか確認してください。
日々の管理を丁寧にすれば、有給を無駄にせず使いやすくなります。
退職時の有給消化
退職時の一般的な流れ
退職時は、業務引継ぎを終えてから有給休暇を消化することが多いです。会社は一定の業務事情を理由に時期を調整できますが、社員の有給取得の権利を一方的に奪うことはできません。
使用者が消化を拒否した場合の対応
- まずは話し合いで解決を図ります。希望する日程と理由を明確に伝えてください。例:引継ぎは○月○日までに完了するため、その後○日間休みたい。
- 話し合いで合意できないときは、労働基準監督署に相談してください。行政が会社に指導することがあります。
- 会社の指示で有給を取得させてもらえなかった場合、未消化分の賃金相当額の請求が可能です。裁判例では、会社の責めに帰すべき事由で取得できなかった場合に賃金の支払いが認められています。
証拠と相談先
・有給申請のメールや書面、会社からの回答は必ず保存してください。
・まずは社内の総務や人事に相談し、それでも解決しない場合は労働基準監督署や労働相談センターに相談します。
実務上の注意点
・退職日や有給消化の希望は書面で提出すると後の証拠になります。例:メールや申請フォーム。
・退職の申し出時点で会社が業務都合で取得を止める場合でも、代わりの賃金請求が可能なことを念頭に置いてください。
・円満退職を目指しつつ、権利は冷静に主張してください。


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