はじめに
本ドキュメントは「会社の退職ルール」について、法律と実務の両面から分かりやすくまとめたものです。主に正社員(無期雇用)と契約社員(有期雇用)の退職に関する基本的な考え方、手続きの流れ、注意点を取り上げます。具体例や簡単な図解(章内説明)を交え、初めて退職を考える方や人事担当者にも役に立つようにしています。
本書の目的は次の通りです。
– 退職の法律的な位置づけを理解する
– 雇用形態ごとのルールの違いを把握する
– 実務で迷いやすい場面での対応方法を示す
読み方のポイント:各章は独立しているため、知りたいテーマから読んでください。実際の手続きやトラブル対応については第6章と第7章を優先して参考にするとよいです。
退職とは何か — 法律上の定義と2つの種類
定義と法律の扱い
退職は雇用契約を終わらせる行為を指します。労働基準法に明確な定義はなく、手続きの根拠は主に民法や就業規則にあります。まずは「契約をどう終わらせるか」という視点で考えます。
2つの種類
- 合意退職(合意による終了)
- 会社と労働者が話し合い、退職日や条件に合意して契約を終えます。就業規則に沿って申出と承諾で手続きするのが一般的です。
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例えば、本人が希望退職を申し出て会社が承諾し、退職日を決めるケースです。
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辞職(一方的な解除)
- 労働者が会社の承諾を得ずに契約を一方的に終了させます。民法の規定に従って手続きや通知が必要です。
- 会社の同意がなくても退職できますが、事前の通知や期間についてのルールがあります。
実務上の注意点
合意退職は条件を調整しやすく、慰労金や引継ぎ日程を決めやすい利点があります。一方、辞職は手続きが単純な反面、周囲との調整が難しくなることがあります。
※ 次章以降で、正社員・契約社員それぞれの具体的なルールを詳しく説明します。
正社員(無期雇用)の退職ルール — 2週間の予告期間
概要
正社員など無期雇用者が会社の了承を得ずに退職する場合、民法(第627条1項)により「少なくとも2週間前」の予告が必要です。退職の意思表示をしてから2週間が経過すれば、会社の同意がなくても退職が成立します。
退職の成立とタイミング
例えば5月1日に「退職します」と届け出ると、5月15日に自動的に退職となります。会社が「出勤してほしい」と言っても、原則として拒めません。ただし就業規則に長い期間の定めがあっても、民法が優先します。
会社が拒む場合の対応
会社が退職を認めない・引き留める場面でも、暴力や不当な拘束は労働基準法に反します。借金や未払い金を理由に退職を強制的に止めることも許されません。紛争になったら労働基準監督署や労働相談窓口に相談してください。
実務的な手続きと注意点
退職届は書面で出し、日付と署名を入れて控えを取ります。手渡しなら受領印をもらうか、内容証明郵便やメールの送信履歴を残すと安心です。急な退職を考える場合は、次章で扱う例外や即時退職の条件も確認してください。
具体例
・口頭で伝えた場合:伝えた日から数えて14日後に退職成立
・書面で出した場合:書面の日付を基準に計算(控えを保存)
契約社員(有期雇用)の退職ルール — 原則と例外
原則
有期雇用(契約社員)は、契約期間中に原則として途中で退職できません。契約は期間満了まで働くことを前提に成立しています。
民法第628条:やむを得ない事由がある場合
例外として「やむを得ない事由」があるときは途中で退職できます(民法第628条)。具体例を挙げます。
– 病気やけがで業務継続が困難になった場合
– 家族の介護や看護でどうしても職務を続けられない場合
– 賃金未払いや職場環境の重大な悪化(安全配慮義務違反)など、会社側に重大な問題がある場合
裁判例では、個別の事情(病状の重さ、代替手段の有無、勤務先との協議状況など)を総合的に判断します。
契約期間が1年超の例外(労働基準法附則第137条)
契約期間が1年を超える場合、1年を経過すると退職の自由が認められる規定があります。長期の有期契約なら、一定期間後に自己都合で辞めやすくなります。
実務上の手続きと注意点
まず会社に退職意思を早めに伝え、やむを得ない事由がある場合は医師の診断書などの証拠を用意します。会社と話し合いで退職日や引継ぎを決めるとトラブルが少なくなります。違法な引き止めや不当な扱いがあれば労働基準監督署や労働相談窓口に相談してください。
労働条件の相違があった場合の即時退職
法的根拠と趣旨
労働基準法第15条第2項により、雇用契約で明示された労働条件と実際の労働条件が著しく異なる場合、労働者は2週間の予告なしに契約を解除できます。要は、入社時の約束が守られないときに例外的に即時退職が認められるということです。
典型的な例
- 給与が約束より大幅に低い(口頭の提示や書面と実際の賃金が違う)
- 勤務時間や休日が明示と大きく異なる
- 業務内容が入社時とまったく違い、専門性が損なわれる
- 勤務地が通知なしに遠方へ変更された
実務的な進め方(簡潔に)
- 証拠を集める:雇用契約書、内定書、メール、給与明細など。
- まずは会社に事実を伝える:できれば書面で申し入れをしてください。
- 解決しない場合は即時退職の意思を通知する:理由と該当箇所を明示し、契約解除を通知します。
- 証拠を残す:送付記録や受領確認を保管してください。必要なら労働基準監督署や弁護士に相談します。
注意点
- 小さな食い違いでは即時退職が認められないことがあります。
- 会社が争う可能性があるため、証拠と手順の慎重な準備が重要です。
退職手続きの実務的な流れ
1. 退職の意思表示(目安:1~3ヶ月前)
- まずは上司に口頭で退職の意思を伝えます。理由は簡潔で構いません。伝えにくい場合はメールを使ってもよいです。
2. 退職届の提出
- 退職の意思を文書で残すために退職届を提出します。内容は氏名、退職希望日、提出日を明記します。会社にフォームがあればそれに沿ってください。
3. 退職日と14日ルールの扱い
- 労働者が申し出た場合、会社は申し入れから少なくとも14日後に退職を認める説明をします。双方の合意があれば14日未満でも退職できます。
- 会社が代替日を提案することが多いので、業務の繁忙期や引継ぎ状況を考えて日程調整します。
4. 業務引き継ぎの進め方
- 引き継ぎリストを作成し、業務内容・進行中の案件・関係者連絡先・重要資料の場所を明記します。
- マニュアルやメールの整理、口頭での引き継ぎミーティングを行います。可能なら後任に実務を一緒に行って教えます。
5. 貸与物の返却と精算手続き
- 社員証、業務用PC、備品などは退職日までに返却します。データの消去やパスワードの引継ぎも忘れずに行います。
- 最終給与、未払い残業代、有給の扱い、交通費精算は人事・経理と確認しておきます。
6. 会社側の事務手続き(受け取り側)
- 会社は離職票や保険の手続き、退職日の確定書類を準備します。必要書類や期日を確認しておきましょう。
7. チェックリスト(退職までにやること)
- 退職届提出、退職日確定、引き継ぎリスト作成、関係者への連絡、貸与物返却、最終精算の確認、必要書類の受け取り。
実務は会社ごとに異なりますが、この流れを基準に準備するとスムーズです。丁寧に引き継ぎを行うことで職場の関係も良好に保てます。
重要な注意点 — 会社が退職日を一方的に決めることは違法
原則
会社が従業員の退職日を一方的に決めることは原則として認められません。退職は労働者の意思に基づく行為であり、民法や労働法の下で退職の自由が守られます。会社は希望する退職日を調整する立場にはなれますが、最終決定権は労働者にあります。
よくある誤解と例外
会社が “引き留め” や “引継ぎのために延長を求める” ことはありますが、同意しない限り強制できません。解雇や雇用契約に別段の定めがある場合には扱いが変わることがあります。重大な規則違反などで会社側が対応する場合は別です。
実務的な対応方法
退職する際は、退職届に退職希望日を書いて提出し、控えを取ってください。会社から別日を提示されたら、理由を聞いて話し合いで決めます。応じられない場合は、原則どおり退職できます。会社が不当な扱いをする場合は、労働基準監督署や労働相談窓口、弁護士に相談してください。
具体例
例えば「3月末で辞めたい」と書面で伝え、会社が4月末を一方的に指定して受け入れを強要するなら、それは認められません。両者で合意すれば4月末に変更できます。
必要な手続きや相談先を早めに確認して、冷静に対応してください。


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