はじめに
背景
源泉徴収票は、給与や報酬から差し引かれた所得税の金額を示す大切な書類です。本調査は、この源泉徴収票の再発行について、法律上の位置づけや企業の対応、再発行に関する手続きと注意点を分かりやすく整理します。
本調査の目的
本書は、従業員・元従業員・企業の担当者が再発行の必要性を理解し、適切に対応できるようにすることを目的とします。再発行を求める際の流れや必要情報、拒否された場合の対処法も取り上げます。
読者対象
- 源泉徴収票の再発行を検討している従業員や元従業員
- 人事・総務担当者や経理担当者
- 労務問題に関心がある方
本書の構成と読み方
第2章以降で法的な位置付け、手続き、保存期間、区分別の対応、拒否時の対応策などを順を追って解説します。具体例を交えて実務で使える知識を提供しますので、必要な章から読み進めてください。
注意事項
本調査は一般的な解説を目的とします。個別の法律相談が必要な場合は専門家へ相談してください。
源泉徴収票再発行の法的位置付け
概要
源泉徴収票の再発行は、企業に課せられた法的な対応と考えられます。特に所得税法第226条第1項の「交付義務」に含めて解釈することが一般的です。つまり、従業員や退職者から請求があれば、原則として企業は応じる必要があります。
法的根拠と意義
所得税法第226条第1項は、給与等の支払者に対して源泉徴収票を交付する義務を定めます。再発行はこの交付義務の延長線上にあり、受給者が手元に書類を欠く場合に税務手続きや年末調整、確定申告を支える役割を果たします。
企業の基本的対応
企業は請求を受けたら本人確認のうえ再発行するのが原則です。電子交付している場合は、再ダウンロードや印刷の案内で対応できます。過去分や退職後の依頼にも対応する必要があります。
具体例
- 在職中に紛失した社員が再発行を求める場合
- 退職後に確定申告のため再発行を求める元社員の場合
注意点
個人情報保護に配慮して本人確認を行ってください。再発行の方法や手数料を就業規則や社内規程で明確にしておくと対応がスムーズになります。
再発行が必要となるケースと法的背景
再発行が必要な代表的なケース
- 在職中に紛失した場合:保管場所を忘れた、郵送物が届かなかったなど。確定申告や住宅ローン申請で必要です。具体例:市役所に提出するために再発行を依頼する。
- 退職後の確定申告:年末調整を受けていない人や、退職後に所得証明が必要な場合。退職後でも企業は交付に応じます。
- 年の途中で退職した場合や再雇用で過去の給与明細が必要な場合:複数年分をさかのぼって求められることがあります。
法的背景と企業の対応義務
源泉徴収票は所得税法に基づく交付書類です。会社は従業員に対して発行・交付する義務があります。実務上、紛失等で再発行を求められたら速やかに対応するのが通例です。理由の確認や再発行手続きの実務(本人確認、発行日や再発行の明記)を行うことでトラブルを防げます。
ポイントと注意点
- 本人確認を確実に行う。代理人の場合は委任状が必要です。
- 再発行の際は「再発行」と明記し、発行年月日を入れると安心です。
- 期限が過ぎた記録の扱いは会社の保存義務に左右されます。必要なら早めに依頼してください。
企業が再発行を拒否した場合のペナルティ
概要
企業が正当な理由なく源泉徴収票の再発行を拒否すると、刑事罰や税務署からの行政指導の対象になります。従業員が必要な書類を受け取れないおそれがあります。
法的根拠
所得税法第242条に基づき、源泉徴収票の交付や再交付を怠る行為は罰則の対象です。これは書面での証明を確保するための規定です。
具体的なペナルティ
刑事罰として、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。加えて税務署は企業に対して是正や行政指導を行うことがあります。
税務署の対応と影響
従業員の申告や通報を受けて税務署が調査を行うと、企業に対する指導や追徴課税の検討につながる場合があります。企業の信用にも悪影響が出ます。
従業員が取るべき行動
まず書面で再発行を依頼し、依頼の写しを保管してください。応じてもらえない場合は最寄りの税務署に相談し、必要なら労働相談や弁護士に相談してください。
源泉徴収票の再発行手続きの流れ
概要
再発行依頼を受けた企業は、依頼の受付から本人確認、データの確認・作成、交付という順で対応します。個人情報の取り扱いと所得税法上の交付義務を踏まえ、正確かつ安全に進めることが重要です。
1. 依頼受付
- 依頼は書面・メール・社内システムで受け付けます。
- 受け付け日時、依頼者の氏名、社員番号、再発行理由を記録します。
2. 本人確認
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)を提示またはコピー提出で確認します。
- 在職中の社員は社員番号や社内連絡で照合し、退職者は追加の身分証明を求めます。
3. データ確認・作成
- 給与台帳や過去データを照合し、源泉徴収票を再作成します。
- 電子で保管している場合は原本データを印刷し、再発行用にPDFを作成します。
- 誤りが見つかれば税務担当と確認して訂正します。
4. 交付方法と注意点
- 手渡し(封筒)・簡易書留・パスワード付きPDFのメール送付などを選べます。
- 個人情報保護のため封印や暗号化、送付手段の記録を行います。
- パスワードは別送(電話や別メール)で伝えます。
5. 記録・保存
- 再発行履歴(誰がいつ、どの方法で交付したか)を記録し保存します。
- 保存期間は社内規程に従い、監査に備えます。
6. コンプライアンスと業務効率化
- 社内マニュアルを整備して対応のぶれをなくします。
- 電子化やテンプレート化で工数を減らしつつ、本人確認は厳格に行います。
再発行に要する期間と事前連絡の重要性
概要
源泉徴収票の再発行に法的な期間の定めはありません。一般的には、依頼の受け付けから1〜2週間を目安に対応する会社が多いです。通常は数日から数週間で郵送されます。
一般的な流れと目安
- 受け付け確認(当日〜数日): 受け付けメールや電話で確認します。
- 社内手続き(数日〜1週間): 人事・経理で作成・承認を行います。
- 郵送(数日): 切手や宛名の手配、配送日数がかかります。
期間に影響する要因
- 年末や確定申告時期は処理が混み合います。
- 社内の承認フローが多い場合は時間が延びます。
- 転居中や宛先不明だと再送が発生し遅れます。
事前連絡の大切さ
依頼時に目安の期間や発送予定日を伝えると、受け取る側の不安を減らせます。たとえば「受け付け後7営業日以内に発送予定です」と明記すると安心感が出ます。発送が遅れる場合は新しい目安も早めに連絡してください。
迅速に受け取りたいときの対応例
- 郵送ではなく窓口での受け取りを希望する。
- 電子データ(PDF)での先行送付を依頼する。
どちらも会社の規程や個人情報保護の観点で対応可否が変わるため、予め確認してください。
遅延が生じた場合の次の一手
指定した期間を超える場合は、まず担当部署へ状況確認を行ってください。それでも解決しないときは上長や総務に相談すると手続きが進みやすくなります。
保存義務期間と過去分の再発行
保存義務期間の考え方
企業には源泉徴収票の保存義務があります。見解として「5年」とするものと「7年」とするものの両方があり、実務では7年を目安にすると安心です。保存期間は税務調査や照会に備えるための期間です。
過去分の再発行は可能か
保存期間内であれば、会社が存続している限り過去分の源泉徴収票は再発行可能です。退職後、数年が経過していても対応を受けられます。再発行を依頼するときは、氏名・在籍期間・再発行を希望する年を伝えてください。
会社が解散している場合の対応
会社が解散していると再発行は難しくなります。その場合は、確定申告の控えや給与明細、年金の加入記録などで代替できることがあります。手元資料がない場合は、退職当時の担当部署や関係者に確認してみてください。
実務上の注意点
依頼は書面やメールで記録を残すと安心です。本人確認書類を用意し、再発行にかかる期間や手数料についても事前に確認しましょう。早めに依頼すると対応がスムーズです。
従業員区分別の再発行対応
概要
源泉徴収票の再発行は、給与を支払う側に交付義務があります。正社員や契約社員、パート・アルバイトなどすべての給与支払者が対象です。ここでは区分ごとの対応方法を分かりやすく説明します。
正社員・契約社員
勤務先の人事・給与担当に再発行を依頼してください。氏名と在籍期間を伝え、本人確認書類を提示すると手続きがスムーズです。一般に費用はかかりませんが、会社によっては発行に日数を要します。
パート・アルバイト
正社員と同様に雇用主が交付義務を負います。短期の雇用でも対象です。連絡先が変わっている場合は、在籍時の事業所や給与担当をたどって依頼してください。
派遣社員
派遣元(派遣会社)が源泉徴収票を交付します。勤務先(派遣先)ではなく派遣元に再発行を依頼してください。問い合わせは派遣元の総務や給与担当へ行います。
年金受給者・共済受給者
年金から給与的に支払われる場合は、日本年金機構や共済組合が発行主体です。各機関の窓口やコールセンターに問い合わせて再交付を依頼してください。
役員や退職者
役員報酬や退職金に関する源泉徴収票も会社が交付します。退職後に住所が変わっている場合は、旧勤務先に再発行先の宛先を伝えてください。
業務委託・フリーランス
給与としての源泉徴収がない場合、支払調書が発行されることがあります。該当するか不明な場合は支払者に確認し、必要書類を教えてもらってください。
実務上のポイント
- 依頼は早めに行うと受け取りが速くなります。
- 本人確認や代理人による受領の手続き方法は事業所ごとに異なります。
- 紛失や長期保存期間経過で対応が変わる場合があるため、事前に確認してください。
再発行を拒否された場合の対処法
1. まずは文書で再度依頼しましょう
口頭だけでなく、メールや書面で再発行を正式に依頼します。記録が残ると後の手続きがスムーズです。例:「源泉徴収票の再発行をお願いします。理由:確定申告のため」。
2. 社内の担当者を確認する
総務・人事や経理の担当者名を確認します。担当者不明なら上司や社長に一度相談してください。外部委託(給与計算会社)であれば、その会社にも連絡します。
3. 税務署へ相談する
企業が正当な理由なく再発行を拒む場合、最寄りの税務署に相談できます。税務署は指導を行い、必要に応じて企業へ働きかけます。持参するとよいもの:本人確認書類、給与明細や雇用契約書など源泉票に代わる資料。
4. 問い合わせ窓口が不明な場合
企業内で窓口がはっきりしないときは、社会保険担当部門(年金事務所など)にも相談できます。支払証明が必要な場面は担当機関が案内してくれます。
5. 最後の手段
税務署の指導でも解決しない場合は、労働相談や弁護士に相談することを検討してください。費用や手続きの目安も事前に確認しましょう。
再発行依頼時の注意点と必要情報
はじめに
源泉徴収票の再発行を依頼するときは、必要情報を正確に伝え、本人確認を確実に行うことが大切です。準備をしておけば手続きが早く進みます。
依頼時に必ず伝える情報(具体例)
- 対象年度:例)「2023年分」など、年を明確にする
- 氏名:旧姓があれば併記する
- 社員番号や従業員番号(あれば)
- 発行部数と送付先:郵送先住所、電子データ希望の有無
- 連絡先:電話番号・メールアドレス
- 再発行理由:紛失・破損・旧住所で未着など簡潔に
本人確認書類(例)
- 運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、健康保険証
- 代理人が申請する場合は委任状と代理人の本人確認書類が必要です
年金受給者への注意点
年金受給者は手続きに時間がかかることがあります。年金受給である旨や住所・氏名の変更がある場合は、早めに伝えてください。
依頼方法と記録の残し方
- 書面やメールで依頼すると証拠が残り安心です。電話のみの場合は対応記録を自分でメモしておきましょう。
- 受領確認(いつ発送するか、いつ受け取れるか)を必ず求めてください。
そのほかのポイント
- 確定申告や手続きの締切に間に合わせるため、早めに依頼してください。
- 手数料は会社の方針で異なります。必要であれば事前に確認しましょう。
丁寧に必要情報を揃えて依頼すれば、スムーズに再発行が進みます。
企業のコンプライアンス対応と社内ルール整備
1. なぜ社内ルールが必要か
源泉徴収票の再発行は個人情報保護と税務の双方に関わる重要業務です。対応にばらつきがあると信用低下や法令違反につながります。社内で一貫したルールを定めることが信頼維持につながります。
2. 基本ルールの項目例
- 担当部署・責任者の明確化:窓口と代行者を決めます。具体例:人事(一次窓口)→経理(発行)。
- 申請フローの標準化:申請方法(メール/書面/社内フォーム)、本人確認方法、処理期限を定めます。
- 発行様式の統一:記載事項や押印の有無を統一します。
- 記録とログ管理:再発行理由と処理履歴を残します。
- 保管と廃棄:保存期間と安全な廃棄方法を決めます。
3. 教育と周知
マニュアルを作成し、定期的に担当者へ教育を行います。よくある質問集を用意すると現場の判断が早くなります。
4. 監査と違反時の対応
内部監査で運用状況を確認し、問題があれば改善計画を立てます。個人情報漏えいなど重大な違反が発生した場合は速やかに報告・対応手順を発動します。
5. 実務チェックリスト(簡易)
- 窓口は明確か
- 申請書類はそろっているか
- 本人確認は適切か
- ログを残したか
- 発行・送付方法は安全か
これらを社内ルールに落とし込み、定期的に見直すことでコンプライアンスと従業員の信頼を守れます。


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