はじめに
本資料の目的
本資料は、複数の勤務先から退職した場合に、各離職票に記載された雇用保険の加入期間を合算して失業保険(基本手当)を申請できるかどうかを分かりやすく説明します。合算の基本原則や受給条件の違い、算定基準、合算可能となる条件やできないケース、ハローワークでの手続き、必要書類、基本手当の計算方法までを一冊で確認できます。
想定する読者
・直近で複数の会社を退職した方
・パートやアルバイトを掛け持ちしていた方
・雇用保険の手続きに不安がある方
人事担当者や相談窓口の方にも実務上のポイントが役立ちます。
本章の読み方
まずは全体像を掴んでください。各章で具体例や手続きの流れを示しますので、手元に離職票や雇用契約の写しを用意すると理解が早まります。次章から順に、合算のルールや申請方法について丁寧に説明します。
離職票合算の基本原則
基本的な考え方
複数の勤務先で雇用保険に加入していた期間は、原則として合算して考えます。これは、1社だけの在籍期間では失業給付の受給条件を満たさない場合でも、合算によって条件をクリアできることを意味します。
合算の対象となる期間
合算できるのは、雇用保険に実際に加入していた期間(被保険者期間)です。雇用契約がなく保険に加入していなかった期間は合算できません。つまり、在職中に保険料がかかっていた期間だけが合算されます。
具体例
例えば、前職で8か月、再就職先で4か月働いた場合、合計で12か月となり受給要件を満たすことがあります。別々の会社で働いた期間が短くても、合わせれば条件に達することが多いです。
注意点
- 各期間が雇用保険の加入期間であることを確認してください。雇用保険に加入していなかった短期のアルバイト等は含まれません。
- 合算は受給要件の判定に使いますが、給付の開始時期や金額、給付制限などは離職理由やその他の条件で変わります。詳細はハローワークで確認してください。
自己都合退職と会社都合退職での受給条件
自己都合退職の場合
自己都合で退職したときは、原則として離職日以前の2年間に通算して雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上あることが必要です。例えば、転職のために自ら辞めた場合はこの基準が適用されます。
ただし「特定理由離職者」に該当する場合は扱いが緩和されます。特定理由には病気や家庭の事情などハローワークが認める理由が含まれます。該当すれば、離職日以前1年間に6ヶ月以上の加入があれば受給できます。具体的な該当可否はハローワークで判断されますので、該当を考える場合は相談してください。
会社都合退職の場合
会社都合(倒産・解雇など)のときは「特定受給資格者」として扱われ、離職日以前1年間に6ヶ月以上の被保険者期間があれば基本手当の受給対象になります。会社側の理由による退職はこの扱いになるため、自己都合より受給しやすくなります。
具体例と注意点
例:直近1年に9ヶ月働いて退職→会社都合なら受給可、自己都合で特定理由に該当しなければ原則不可。受給開始の時期や給付日数は理由や年齢で変わります。判断に迷ったら、離職票や事情を持ってハローワークに相談してください。
被保険者期間の算定基準
算定基準の概要
合算の対象となる被保険者期間は、月単位で判断します。令和2年8月1日以降の基準では「その月に11日以上出勤する、または80時間以上働く」ことが満たされれば、その月を被保険者期間として算定します。満たさない月は期間に入りません。
月ごとの判定方法(具体例)
- 週に数日だけ働く人:月に11日以上出勤すれば、その月はカウントされます。たとえば週3日出勤で月12日になれば該当します。
- 短時間の連日勤務:1日当たりの労働時間が少なくても、合計が80時間以上あればカウントされます。例:1日4時間を月20日勤務=80時間で該当します。
短期間勤務の実情と注意点
短期間の単発雇用や勤務日が少ないパートは、1か月の出勤日数や時間が基準に達しにくく、合算対象にならないことが多いです。離職票や給与明細で出勤日数・労働時間を確認し、必要なら勤務先に記載の確認を依頼してください。
手続き上のポイント
月ごとの該当・非該当が争点になることがあります。ハローワークに相談する際は、出勤記録やタイムカード、雇用契約書を揃えて説明すると手続きがスムーズです。
合算が可能となるための3つの条件
失業保険の離職票を合算するには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。ここでは各条件を分かりやすく説明します。
1. 前職と前々職の離職日の間隔が1年以内であること
離職日の間に空白期間(就業していない期間や無職期間)が1年を超えると合算できません。たとえば、前々職を2019年1月に退職し、前職を2020年2月に退職していれば間隔は13か月になり、合算不可です。
2. 前々職を退職したときに失業手当を受給していないこと
前々職をやめた際に既に基本手当(失業手当)を受給していると、その被保険者期間は合算対象外になります。受給していなければ、その期間を合算に含められます。
3. 再就職先(前職)を1年未満で離職したこと
前々職→前職→再就職先という流れのうち、前職から再就職先へ行き、再就職先を1年未満で離職した場合に限り合算が認められます。短期間で辞めたことが条件です。
実務上は、離職票の日付や収受状況をハローワークで確認します。具体的な該当性に不安があれば、離職票を持って早めに相談してください。
合算できないケース
以下のようなケースでは、離職票の合算ができません。分かりやすく順に説明します。
-
前々職で既に失業手当を受給している場合
前々職の被保険者期間を使って、すでに基本手当を受け取っているときは、その期間を再度合算に使えません。二重に受給できない仕組みです。 -
前職と前々職の離職の間が1年以上空いている場合
離職間に1年以上の空白があると、原則として合算の対象になりません。期間が離れていると、継続した被保険期間と見なされないためです。 -
前職の在籍期間が被保険者期間としてカウントされないほど短い場合
短期間のアルバイトや勤務日数が極端に少ないと、被保険者期間に該当しないことがあります。その場合は合算できません。 -
離職票がそろっていない場合
合算申請には前職・前々職いずれの離職票も必要です。どちらか一方でも提出できないと、合算手続きはできません。
実務上の対処例
– 前々職の受給記録があるか心配なときはハローワークで照会してください。
– 離職票がない場合は、まず前の勤務先に交付を依頼します。交付が難しいときは、事情を説明して代替の証明(給与明細や在籍証明)で相談してください。
合算できる勤務形態と企業数
概要
パートやアルバイトでも、週20時間以上勤務し雇用保険に加入していた期間は被保険者期間として合算できます。短時間勤務や日雇いで加入していなかった期間は合算対象になりません。
合算できる勤務形態
- 正社員、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなど、雇用保険に加入していれば原則合算できます。
- 週の所定労働時間が20時間以上で、雇用契約が継続的なことが条件です。
企業数の扱い
- 合算できる会社数に上限はありません。複数の職場での加入期間を合算して計算できます。
具体例
例:A社で2年、B社で6カ月、C社で3カ月の雇用保険加入期間があれば、合計2年9カ月として扱います(各期間が加入要件を満たす場合)。
注意点
- 週20時間未満や加入手続きがなかった期間は合算対象外です。
- 同時に複数勤務していた場合、それぞれの加入状況を確認してください。
ハローワークでの手続き方法
事前準備
離職票(合算する会社分すべて)、本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード)、印鑑、証明写真、銀行口座情報を用意します。離職票が到着していない場合は、発送状況や会社名をメモして持参してください。
窓口での手続きの流れ
- 相談窓口で「複数の会社を合算して申請したい」と伝えます。職員が合算の可否を確認します。
- 離職票などの書類を提出し、被保険者期間の確認を受けます。職員が内容に不明点があれば追加確認を求めます。
- 合算が認められれば、求職申込書の記入と雇用保険の説明会や職業講習会の案内を受けます。
- 説明会に参加後、求職活動を開始し、決められた認定日に受給手続きが進みます。
受給までの注意点
・説明会や認定日は必ず出席してください。欠席すると受給が遅れます。
・求職活動の記録を忘れずに残しましょう。職員が確認します。
よくある質問
Q: 離職票が1社分しかない場合は?
A: 未着の離職票は会社に確認し、到着後に再度窓口で手続きを進めます。
必要書類と提出時の注意点
必要書類(基本)
- 離職票(在籍した各社分の原本)
- マイナンバーカード、または個人番号確認書類+身元確認書類(運転免許証など)
- 印鑑(認印で可)
- 写真2枚(縦3×横2.4cm、顔写真。マイナンバーカード提示で不要)
- 預金通帳(通帳の表紙と名義が分かる箇所)
退職後の離職票受け取り
退職後は各勤務先から確実に離職票を受け取ってください。届かない場合は勤務先へ再確認し、発送記録を残すと安心です。
短期勤務を合算したいときの追加書類
短期勤務や日雇いの合算を希望する場合、給与明細、タイムカードの写し、雇用契約書など勤務実態が分かる書類を持参し、ハローワークで相談してください。
提出時の注意点
- 原本を持参することを優先してください。コピーでも受け付ける場合は事前確認を。
- 書類の記入漏れや署名不足がないように確認してください。
- 個人番号を扱うため、コピーの取り扱いに注意し、不要な情報は黒塗りするなど配慮してください。
その他(ケース別)
外国人の方は在留カードやパスポートが必要になることがあります。必要な書類は事前にハローワークに確認すると手続きがスムーズです。
基本手当の計算方法
概要
基本手当(失業保険)の総額は、次の3つの手順で求めます。1) 賃金日額の算出、2) 基本手当日額の算出、3) 基本手当総額の算出です。合算された期間は賃金の計算対象に含まれます。
計算手順
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賃金日額の計算
退職前6ヶ月間の賃金合計を180で割ります。これが1日あたりの賃金(日額)です。 -
基本手当日額の計算
賃金日額に給付率を掛けます。給付率は年齢や賃金水準で決まりますので、ハローワークの案内に従ってください。 -
基本手当総額の計算
基本手当日額に給付日数を掛けます。給付日数は雇用保険の加入期間や退職理由で変わります。
合算された期間の扱い
複数の勤務期間が合算される場合は、合算後の期間全体の賃金が計算に使われます。つまり、合算された被保険者期間の賃金合計を基に賃金日額を算出します。
具体例
例:直近6ヶ月の賃金合計が1,080,000円の場合
賃金日額=1,080,000÷180=6,000円
給付率を60%とすると基本手当日額=6,000×0.6=3,600円
給付日数が150日なら総額=3,600×150=540,000円
注意点
賃金に含まれる項目や給付率の判定は細かい規定があります。個別の金額確認はハローワークで相談してください。


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