はじめに
本調査報告書は、会社が源泉徴収票を発行してくれない場合に、原因の特定から法的な対応、実務的な手続きまでをやさしく整理したガイドです。勤務先から源泉徴収票が届かないと、年末調整や確定申告で困ることが多く、税金や手続きの誤りにつながる恐れがあります。本書はそうした事態を未然に防ぎ、問題が起きた場合には速やかに解決できるように作成しました。
想定する読者は、現職・前職の給与所得者、派遣やアルバイトで源泉徴収票が届かない人、税務手続きに不慣れな方です。専門用語は最小限に抑え、具体的な手順や連絡例を示してありますので、初めての方でも実行しやすくしています。
本書の構成は次の通りです。まず発行されない主な理由を挙げ、次に法的な発行義務を確認します。その後、会社への連絡方法や税務署への届出、会社が倒産している場合の特殊対応、源泉徴収票がない場合の確定申告方法、紛失時の対応を順に解説します。章末では、問題解決のための推奨対応フローを提示します。
この章では、全体の目的と使い方を示しました。以降は各章で具体的な手続きと実例を丁寧に説明します。必要な書類や連絡の文例も掲載していますので、実務でそのまま活用できます。
源泉徴収票が発行されない主な理由
以下は、源泉徴収票が届かない代表的な理由とそれぞれの簡単な説明です。
- 事務手続きの遅れ
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年末調整や総務の繁忙などで発行手続きが遅れることがあります。例:担当者が休暇中で処理が止まる。
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住所不明や転居の未届
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送付先が古いと郵送事故で戻ってくることがあります。例:転居届を出していない元社員。
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送付ミスや封入漏れ
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封筒に入れ忘れや誤配送が起きることがあります。例:同僚の書類と入れ替わった。
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支払側の判断や契約形態
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給与以外の報酬や外注費の扱いで誤解が生じる場合があります。例:フリーランスの報酬で源泉票が未発行と説明される。
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故意の不交付(嫌がらせやトラブル)
- 退職者やトラブル相手に対し意図的に送付を遅らせたりしないケースもあります。例:退職後に会社が発行を渋る。
どの場合でも、まずは会社に確認して再発行を依頼することをおすすめします。状況によっては税務署への相談が必要です。
源泉徴収票の発行は法律で義務付けられている
概要
給与や報酬を支払った者は、支払った金額と源泉徴収した税額を記載した源泉徴収票を発行し、受給者に交付する義務があります。これは所得税法で定められた法的義務です。
法的な目的と具体例
源泉徴収票は税務上の証拠書類として使います。年末調整や確定申告で必要になります。例えば、会社Aが従業員Bに給与を支払った場合、AはBに源泉徴収票を渡し、Bはそれを年末調整や確定申告で使います。
発行しない場合の罰則
発行義務を果たさないと、所得税法に基づき罰則が科される可能性があります。具体的には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金があり得ます。多くは手続きの漏れや認識不足が原因です。したがって、まずは会社に確認してください。
実務上の注意点
- 退職した後や短期間の契約でも発行義務は変わりません。
- 個人事業主に支払う報酬にも該当する場合があります。
- 受け取った側は紛失しないよう保管し、必要なら早めに会社へ請求してください。
ステップ1:会社に直接連絡する
概要
まずは勤務先に源泉徴収票の発行を正式に依頼します。多くの場合、会社側の手続きミスや発送忘れが原因ですから、直接の確認が最短の解決策になります。
連絡手段と進め方
- メール:件名を明確にします。例「源泉徴収票の再発行依頼(山田太郎)」。本文に氏名、社員番号、在籍期間、送付先住所を必ず記載してください。
- 電話:総務または経理に直接つなぎ、担当者名と対応期限を確認します。電話した日時と担当者名はメモします。
- 書面(配達記録郵便):再発行の正式な依頼として有効です。証拠が残るため後の手続きがスムーズになります。
再発行依頼のポイント
- 明確な期限を提示する(例:2週間以内)。期限を示すと対応が促進されやすいです。
- 必要情報を簡潔に伝える(氏名・社員番号・在籍期間・送付先)。
- 返信期限と連絡先(電話番号・メール)を明記します。
よくあるトラブルと対処法
- 担当者不在や繁忙期で音沙汰がない場合は、メールと郵便の両方で再度通知します。\n- 住所変更で届いていないときは、最新の送付先を明示して再送を依頼します。
証拠の保存
送信したメール、配達記録、通話メモは必ず保管してください。後で税務署に相談する際に重要になります。
ステップ2:税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出する
いつ行うか
前章で会社に直接依頼しても源泉徴収票が届かないときに行います。発行を何度もお願いしても音沙汰がない場合、早めに税務署へ相談しましょう。
どの税務署に出すか
前職の会社の所在地を管轄する税務署が担当です。国税庁のホームページや市区町村の案内で確認できます。所在地の管轄が分からないときは最寄りの税務署に問い合わせると教えてくれます。
書類の入手方法
「源泉徴収票不交付の届出書」は税務署の窓口で配布しています。多くの税務署はウェブサイトからダウンロード可能です。電話で取り寄せることもできます。
記載項目と添付書類
- あなたの氏名・住所・連絡先
- 前職の会社名・住所・代表者名(分かれば)
- 勤務期間・給与支払の事実が分かる書類(給与明細や雇用契約書の控え)
- 本人確認書類(運転免許証など)の写し
簡単なチェックリストを用意しておくと手続きがスムーズです。
提出方法と注意点
窓口持参、郵送、または担当税務署の案内に従って提出します。原則として郵送でも受け付けますが、書類の不備があると差し戻されるためコピーは控えを残してください。
提出後の流れ
税務署は会社に対して行政指導や確認を行います。多くの場合、税務署の働きかけで源泉徴収票が発行されます。期間は状況により異なりますが、概ね数週間程度が目安です。税務署が対応しても発行されない場合、後続の手続き(確定申告など)について税務署へ相談してください。
ワンポイント
届出の際、会社に自分の連絡先を伝えていないことが原因で届かないケースがあります。会社へも再度連絡したことを伝えると手続きが円滑になります。
特殊なケース:前職の会社が倒産している場合
状況の確認
会社が倒産して連絡が取れないときは、まず倒産手続きの状況を確認します。倒産手続きには管財人(破産管財人)が選任されることが多く、管財人が給与関係の書類を管理している場合があります。
破産管財人への問い合わせ方法
- 官報や裁判所の破産手続き記録で、管財人の氏名・所属を確認します。
- 管財人やその所属弁護士に電話やメールで、源泉徴収票の有無を問い合わせます。
- 管財人が書類を保有していれば、交付を依頼します。書面での請求や身分確認が必要になることがあります。
税務署への相談
- 会社に連絡できない、管財人からも入手できない場合は、所轄の税務署に相談してください。税務署はあなたの状況を聞き、取れる手続きや代替方法を案内します。
- 税務署は会社側に確認を促したり、必要に応じて別の書類で代替処理をする助言をしてくれます。
受け取れない場合の対応と準備書類
- 管財人・会社から入手できないときは、「源泉徴収票不交付の届出」など次の手続きに進みます(第5章、第7章参照)。
- 準備しておくと役立つ書類:給与明細、振込記録、雇用契約書、退職慰労金や控除の記録など。これらが確定申告や税務署での相談時に証拠になります。
税務署と破産管財人の両方に相談すると解決の糸口が見つかりやすくなります。まずは記録を整理して、速やかに問い合わせしてください。
ステップ3:源泉徴収票がない場合の確定申告
概要
源泉徴収票が手元にないと年末調整を会社で受けられません。その場合は自分で確定申告を行い、還付を受けます。再就職した場合は新しい会社の年末調整担当者に事情を伝え、前の会社に連絡してもらう手段もあります。
必要書類
- 給与明細(年間の合計が分かるもの)
- 最終給与支払時の明細や通帳の振込履歴
- 社会保険料や生命保険料の控除証明書
- 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
具体的な手順
- 給与明細で年間収入と源泉徴収税額を集計します。税額が不明なら支払者に確認か、明細の合算を添付します。2. 国税庁の確定申告書を作成します。e-TaxならPCやスマホで送信でき、添付書類はスキャンで提出可能です。3. 書類を提出して控えを保管します。
期限と還付
確定申告の期限は通常毎年3月中旬です。還付は申告後、数週間から数か月かかることがあります。
実務上の注意
- 給与明細を保存しておくと手続きがスムーズです。
- 不明点は税務署に相談するか、税理士に依頼してください。
紛失した場合の対応
まずやること
源泉徴収票を紛失したら、まず勤務先に再発行を依頼してください。会社には再発行する義務があります。口頭で伝えるよりも、メールや書面で依頼すると記録が残り安心です。
再発行の依頼方法(実例)
- 依頼書に氏名・社員番号・該当年度・再発行希望を明記します。
- メールなら件名に「源泉徴収票再発行のお願い」と入れて送ります。
会社が応じないとき
会社が拒否したり連絡が取れない場合は、会社所在地を管轄する税務署に相談してください。税務署は事情を聞き、必要な手続きを案内してくれます。
再発行が難しい場合の代替資料
給与明細、振込記録、源泉徴収簿などで所得を確認できれば、確定申告に使えます。税務署に相談して、どの書類が代替できるか確認しましょう。
注意点
再発行は早めに依頼してください。紛失の事実と再発行の依頼を記録として残すと、念のため役立ちます。
まとめと推奨対応フロー
以下は、源泉徴収票がもらえない場合の実務的で分かりやすい対応フローです。できるだけ速やかに対応してください。
1) まず会社に直接連絡
– 総務・経理に電話とメールで依頼し、再発行を期限付きで求めます(例:7営業日)。発行予定日を書面で確認します。
2) 文書での正式請求
– 期限を過ぎたら配達記録郵便など記録が残る方法で改めて請求します。やり取りは保管しておきます。
3) 税務署への届出
– 自社が応じない場合は、最寄りの税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出して相談します。税務署は会社に対して行政指導を行えます。
倒産や行方不明の場合
– 倒産時は税務署に相談し、破産管財人や清算人への確認を依頼します。場合によっては税務署の助言で確定申告を進めます。
確定申告や紛失時の対応
– 源泉徴収票が間に合わない場合は給与明細や振込記録を用意して確定申告を行います。紛失なら再発行と同時に税務署へ相談してください。
ポイント
– 会社には発行義務があります。税務署の介入で解決するケースが多いので、一連の記録(電話・メール・郵便)は必ず残してください。


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