はじめに
概要
本調査は、有給休暇の「年5日取得義務」がいつから始まったか、その対象や条件、企業側の対応、違反時の罰則までを分かりやすく整理したものです。結論として、この制度は2019年4月1日から働き方改革関連法により施行されました。
背景と目的
年5日取得義務の目的は、急増する長時間労働を抑え、労働者が計画的に休めるようにすることです。休暇取得を当たり前にすることで、健康維持や多様な働き方の実現を目指しています。
本記事の読み方
以下の章では、開始時期、対象者の範囲、対象期間、企業が取るべき具体的措置、違反時の対応、取得率の推移、退職時の取り扱いまで順を追って説明します。労働者・人事担当者・経営者のいずれにも役立つよう具体例を交えて解説します。
有給消化義務が開始された時期
施行日と目的
2019年4月1日から、働き方改革関連法の一部として「年5日以上の有給取得義務」が施行されました。狙いは従業員のワークライフバランスを高め、休暇を取りやすい職場環境をつくることです。企業側は従業員が有給を取得できるよう配慮する必要があります。
施行前後の取得率の変化
法改正前の2018年の有給取得率は52.4%でした。施行後の2019年は56.3%に上がり、その後も向上を続け、2023年には65.3%に達しています。数字は法の効果や企業の取り組みが徐々に浸透したことを示しています。
企業と従業員への影響イメージ
実務では、会社が取得日を指定したり、取得を促す仕組みを作ったりする例が増えました。たとえば、忙しい部署では上司が休暇スケジュールを調整して従業員に休みを割り当てることがあります。従業員は意識的に休暇を使うことで、心身のリフレッシュや生産性向上につながります。
注意点
ここで示したのは施行開始の時期とその影響の概観です。具体的な適用の対象や手続きは別章で詳しく説明します。
有給消化義務の対象者と条件
概要
年間10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者が対象です。対象になるためには、入社(または同一事業所での雇用開始)から6カ月が経過し、その6カ月の間に所定労働日の8割以上出勤している必要があります。
対象者の条件(具体例付き)
- 継続勤務期間:入社から6カ月以上経過していること。例:1月1日入社なら7月1日以降に有給が発生します。
- 出勤率:6カ月間の所定労働日のうち出勤した日が80%以上。例:6カ月で150日が所定日なら、120日以上の出勤が必要です。
勤務形態別の付与日数
- フルタイム:勤続年数に応じて10日から20日まで変わります。一般的には、勤続年数が長くなるほど付与日数が増えます。
- パートタイム:所定労働日数に応じて按分(割合で計算)して付与されます。例:週5日がフルタイムで週4日勤務の人は、フルタイムの付与日数の4/5が目安になります。
注意点
- 契約や雇用形態が変わっても、継続勤務が認められれば勤続年数は引き継がれます。
- 6カ月未満や出勤率が80%未満の場合は、有給が付与されないか日数が調整されることがあります。
年5日取得義務の対象期間
対象期間のルール
有給休暇が付与された日から起算して1年以内に、最低5日以上を消化する必要があります。たとえば、2024年6月1日に有給10日が付与された場合、2025年5月31日までに5日以上取得しなければなりません。
具体例
- 付与日:2024年6月1日、期限:2025年5月31日。5日取得義務はこの期間内で満たします。
- 付与ごとに個別に計算します。複数回付与された場合は、それぞれの付与日から1年が対象期間になります。
時効(消滅期限)
有給休暇の権利自体は、付与日から2年間で時効により消滅します。1年以内に5日を消化できなかった場合でも、権利は最大2年間有効ですが、企業には1年のうちに5日取得を促す義務があります。
複数年の扱いと注意点
- 対象期間はカレンダー年ではなく、付与日を起点にします。
- 半日や時間単位の取得が認められる場合は、その取り扱いにより日数計算が変わります。勤務形態や就業規則で確認してください。
企業側の義務と実施方法
企業の基本義務
企業は、従業員が希望する時季に有給休暇を与える義務があります。企業が一方的に取得日を決めることは原則できません。従業員の希望を尊重しつつ、業務に支障が出ない範囲で調整します。
時季指定が必要になる場合
従業員が消極的で年5日以上の取得に至らない場合、企業は「時季指定」により取得時季を定める義務があります。これは労働者の取得機会を確保するための措置です。
実施の手順(具体例)
- 対象者の有給残日数と過去の取得状況を確認します。
- 従業員に事前に通知し、希望日を複数提示してもらいます。希望がない場合は企業側が候補日を提示します。
- 業務調整を行い、従業員と相談して日程を確定します。最終的に企業が指定する場合は、その旨を明確に通知します。
注意点(書面・記録・配慮)
- 指定や通知は書面または電子記録で保存してください。後の確認に役立ちます。
- 業務に重大な支障があると判断する場合は調整や代替案を提示することが望ましいです。
- 産休・育休など特別な事情がある場合は配慮を行ってください。
法律違反時の罰則
概要
企業が「年5日」の有給取得義務を履行しない場合、労働基準法違反として扱われます。労働基準監督署(監督署)が関与し、事実確認のうえで対応が進みます。
行政の対応例
- 指導・是正勧告:まずは監督署が改善を求めます。改善計画の提出や実施状況の報告を求められることがあります。
- 勧告・命令:改善が不十分な場合、是正命令などの行政処分につながります。
刑事罰の可能性
重大な違反や命令無視が続くと、労働基準法に基づく罰則の対象となることがあります。違反の内容や程度により、罰金や罰則が科される場合があります。具体的な処分は個別事案で異なりますので、監督署の指示に従う必要があります。
企業が取るべき対応(例)
- 記録を残す:有給取得状況や会社の手続きの記録を整えます。
- 早期対応:監督署から連絡があれば速やかに改善計画を提示します。
- 社内ルールの見直し:有給管理の運用を明確にして、取得促進の仕組みを作ります。
労働者の対処法
労働者は監督署に相談・申告できます。まずは職場の窓口や労働組合、監督署に相談して状況を伝えるとよいです。
有給消化率の推移
数字で見る推移
2018年の有給取得率は52.4%でした。2019年に法律で年5日取得が義務化されると、2019年は56.3%に上昇し、その後も増加を続けて2023年には65.3%に達しました。法的義務化が有効だったことが数値から読み取れます。
主な要因
- 法律による義務化が企業の対応を促しました。
- 企業側が取得管理や計画的付与を導入したことが寄与しています。
- 労働者の有給への理解と取得意識が高まったことも影響します。
残る課題
- 企業間や部署間で取得状況に差が残ります。特に長時間労働が常態化する職場では取得が進みにくいです。
- 中小企業では管理体制や代替人員の確保が難しく、取得率が伸び悩むケースがあります。
企業と個人への示唆
- 企業は計画的付与や取得状況の見える化、代替要員の手配を進めると効果的です。
- 個人は早めに上司へ相談し、連休や半日単位での取得も活用すると取りやすくなります。
これらを続けることで、さらに安定した有給取得が期待できます。
退職時の有給消化について
退職時の未消化有給休暇について、実務でよくある点を分かりやすく説明します。
基本ルール
- 原則として未消化の有給は会社が買い取ることはできません。退職日までに消化することが前提です。就業規則や労使協定で別途定めている場合はその規定に従います。
退職までに消化する方法
- 早めに上司や人事に申請し、退職日までのスケジュールを決めます。引き継ぎ日程と重ならないよう調整してください。
- 会社が一方的に指定する場合もあるため、指定日と業務影響を話し合って合意を取ると安心です。
企業との相談ポイント
- 残日数の確認(給与明細や勤怠システムで記録を残す)。
- 取得日程と引き継ぎ計画のすり合わせ。口頭だけでなくメールや書面で記録を残すことをおすすめします。
実務上の注意点
- 就業規則で買い取りが認められるかを確認してください。認められている場合は規定に沿って処理されます。
- 有給を取得すると通常の賃金と同様の扱いになるため、最終給与の内訳を確認しましょう。
トラブル時の対応
- 会社と合意できない場合は、労働相談窓口や労働基準監督署に相談してください。証拠としてやり取りの記録を用意しておくと話が進みやすいです。
まとめ
ポイントまとめ
2019年4月1日から年5日以上の有給取得が義務化されました。年間10日以上の有給が付与される従業員が対象で、付与日から1年以内に5日以上取得する必要があります。企業が管理を怠ると労働基準法違反となります。
企業が取るべき対応例
・取得状況を記録して定期的に確認する。例えば勤怠システムで月単位にチェックする。
・時季指定や計画年休の導入で取得を促す。書面やメールで通知することが効果的です。
・取得の取りづらさを解消するため、部署間で調整しやすい仕組みを作る。
従業員向けアドバイス
早めに申請し、年内に消化できないと感じたら人事に相談してください。会社から時季指定があれば応じることで未消化を防げます。
したがって、企業と従業員が協力して計画的に休暇を取ることが大切です。


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