はじめに
本資料の目的
この資料は「有給消化と消滅」に関する調査結果を分かりやすくまとめたものです。法律上の基本ルールと、実務でよく生じる疑問点について具体例を交えながら解説します。
読者と使い方
会社で有給管理を担う人事担当者、日々の勤務で有給制度を知りたい社員の方に役立つ内容です。各章は独立して読みやすく整理していますので、関心のある章からお読みください。
この資料で学べること
- 有給休暇の消滅時効と繰り越しルール
- 会社が負う有給消化の義務と実務上の対応
- 退職時や買い取りの取り扱い例、具体的な消滅計算の方法
章ごとに具体例と手続きのポイントを示します。分かりやすく、実務で使える情報を心がけて作成しました。今後の章へお進みください。
有給休暇の消滅時効は2年間
概要
有給休暇は、付与された日から2年間で時効により消滅します(労働基準法第115条)。付与日数の多い少ないにかかわらず、一律にこのルールが適用されます。期限内に取得しなければ、その分の権利は無くなります。
具体的な考え方
付与日を基準にして2年を数えます。たとえば、2023年4月1日に10日間の有給が付与された場合、その有給は2025年4月1日に時効となります。実際の運用では、会社の就業規則や管理方法で扱い方が異なることがありますが、法的には付与日から2年が消滅時効の基準です。
パートや日数が少ない場合
パートタイマーや短時間勤務者にも同じルールが適用されます。付与された日数が比例付与であっても、付与日から2年で消滅します。たとえば半年ごとに付与される場合は、それぞれの付与分ごとに2年の期限を数えます。
注意点
- 有給は自動で消えるので、こまめに残日数を確認してください。
- 会社側に請求すれば買い取りや別の対応がされるケースもありますが、原則は時効で消滅します。したがって、権利を失わないように早めの取得や記録の確認をおすすめします。
繰り越しルール~1年間の延長が可能
概要
消化されなかった有給休暇は、原則として翌年度に1年間繰り越せます。繰り越した分も含めて有給休暇の時効は2年です。繰り越しは1回だけ認められ、継続的な繰り越しはできません。
繰り越しのしくみ
付与された有給は付与日から2年で消滅します。もしその年度内に使い切れなかったら、翌年度に限り残日数を持ち越せます。ただし翌年度の終わりまでに使わないと消滅します。
消化の順序(優先)
繰り越した分から先に使うことをおすすめします。優先的に消化すると、古い日数から順に消滅するリスクを低くできます。会社の就業規則で別のルールがある場合は、それに従ってください。
実務上の注意点
・繰り越し可能な日数は会社の規定で変わらないか確認してください。
・繰り越し忘れや管理ミスで消滅することがあるため、個人で記録を保つと安心です。
具体例
例えば、2023年に10日付与されて7日使った場合、残り3日は2024年末まで繰り越せます。2024年にさらに3日使わなければ、2025年1月1日以降に消滅します。
会社の有給消化義務~年5日は必須
概要
2019年4月から、有給休暇が年10日以上付与される従業員については、会社に「年5日以上の取得を確保する義務」が課されました。これは本人任せにせず、会社が未取得分を把握して時季指定で取得させることを求める制度です。
対象者と範囲
- 年10日以上の有給が与えられている全ての従業員(正社員・条件を満たすパート等)。
- 会社はその年に付与された有休日数のうち、少なくとも5日を消化させる必要があります。
会社の具体的義務
- 従業員の取得状況を確認し、未取得がある場合は会社が時季を指定して取得させます。
- 従業員との話し合いで取得日を決めることが望ましいですが、合意できない場合は会社が指定できます。
- 取得の記録を作成し保存する必要があります。
具体例
- 例1:年20日付与のAさんがその年に2日しか取得していない場合、会社は不足する3日を指定して消化させます。
- 例2:繁忙期で休めないと言われても、会社は別日に時季指定する義務があります。
違反時の扱い
会社が義務を果たさない場合、労働基準法に基づき罰則(30万円以下の罰金)が科される可能性があります。従業員は労基署に相談できます。
従業員へのアドバイス
- 自分の有給残日数を定期的に確認してください。
- 早めに希望日を出して、会社と調整することで時季指定を避けやすくなります。
- 取得を会社が妨げる場合は、証拠を残して労基署に相談しましょう。
繰り越し分の消化順序と管理方法
繰り越し分と新規付与の順序は会社が決められる
有給の消化順序は労働基準法で会社に一定の裁量が認められます。前年度からの繰り越し分と当年度付与分のどちらを先に使うかは就業規則や運用ルールで定めます。
繰り越し分から優先的に消化する利点
繰り越し分は消滅時効(通常2年)で失効する恐れがあります。繰り越し分から消化する運用にすると、失効を防ぎやすくなります。従業員にとっても公平で分かりやすい運用です。
実務上の管理方法(具体的な手順)
- 就業規則に消化順序を明記する:労使で合意し周知します。
- 勤怠システムで区分表示:繰り越し分と新規付与分を別枠で管理し、自動優先消化の設定を行います。
- 定期的な残日数通知:メールや社内ポータルで繰り越し分の残日数を早めに知らせます。
- 管理者の承認運用:休暇申請時に管理者が繰り越し分を優先して承認するルールを作ります。
- 年間スケジュール提案:早めに休暇計画を立てるよう案内し、消化を促進します。
運用例(簡単な数字で示す)
例:繰り越し5日+当年付与10日。優先消化ならまず繰り越し5日を使い、残りは当年分から差し引きます。これで2年後の失効リスクを下げられます。
退職時の有給休暇の扱い
概要
退職時点で残っている有給休暇は、退職前に消化する権利があります。消化した日数は出勤扱いとなり、通常どおり賃金が支払われます。退職日をまたいで有給を使うことはできません。退職後は未消化の有給を使えないため、注意が必要です。
退職前の消化方法
退職の意思を伝える際に、有給を使いたい日を申し出てください。会社の就業規則や引継ぎの都合で調整が必要なことがありますが、基本的に労働者には有給を請求する権利があります。早めに相談すると調整がスムーズです。
賃金の扱い
有給を消化した日は出勤扱いになるため、その期間の給与が支払われます。給与計算は通常どおり行われ、社会保険や税金も同様に扱われます。
退職後の扱い
退職日までに申請・取得しなかった有給は、原則として消滅します。退職後に会社へ請求しても使用できません。退職前の計画が重要です。
申請時の注意点と具体例
申請は書面(メール可)で残すと安心です。例えば有給が10日残っていて退職日が月末の場合、退職日までに10日分を取得すれば給与として受け取れます。取得できなければ残日数は消滅します。引継ぎや業務調整は言葉でなく書面で確認しましょう。
有給休暇の買い取りが認められるケース
原則と例外
有給休暇の金銭買い取りは、原則として認められていません。労働者の休む権利を奪うおそれがあるためです。ただし、例外的に買い取りが認められる場合があります。
主な例外ケース
- 退職時の未消化分:退職時には未消化の有給を金銭で精算することが一般的です。これは労働の対価として支払われます。
- 会社が法定より多く付与した分:会社が就業規則などで独自に付与した追加の有給は、規程で買い取りを認めることが可能です。
- 時効で消滅する分への対応:会社が任意で、期限切れになる前に買い取りや金銭補償を行うことがあります。ただし、従業員の同意や規程整備が重要です。
実務上の注意点
会社が任意で買い取りを行うこと自体は違法ではありません。買い取りの扱いは就業規則や労使協定に明記し、従業員の同意を得てから実行してください。日給換算の基準や所得税の取扱いを確認し、疑問があれば労働基準監督署に相談すると安心です。
有給休暇消滅の具体例と計算方法
有給休暇は付与日から2年間で消滅します。ここでは付与ごとに「付与日数」「有効期間内の取得」「期限時の残日数(=消滅日数)」を具体例で示します。
| 付与日 | 付与日数 | 期限(消滅日) | 有効期間内の取得合計 | 期限時の残日数(消滅日数) |
|---|---|---|---|---|
| 2021-04-01 | 10 | 2023-04-01 | 7 | 3 |
| 2022-04-01 | 11 | 2024-04-01 | 4 | 7 |
| 2023-04-01 | 12 | 2025-04-01 | 3 | 9 |
計算方法は単純です。消滅日数 = 付与日数 − 有効期間内の取得合計。上の例では、2021年4月1日付与の10日分は、期限(2023年4月1日)までに7日使われたため、3日が消滅します。
ポイントの説明
- 付与単位で管理する:消滅は付与日から起算します。年度末の繰越日数とは別に考えてください。
- 消化順序:実務上、多くの事業所は古い付与分から使う運用を取ります。そのため古い分が先に消滅することが多くなります。
- 計算のコツ:各付与ごとに「付与日」「期限」「有効期間内の取得」を追えば、消滅日数を正確に出せます。必要なら年ごとの合計表で管理すると分かりやすくなります。
管理上の注意点
有給休暇の付与日が従業員ごとにバラバラだと、管理が煩雑になりミスや未消化につながります。付与日を統一して運用することをおすすめします。以下に、具体的な注意点と実務手順をわかりやすくまとめます。
付与日の統一メリット
- 管理がシンプルになります。勤務表やシステムで一括処理できます。
- 従業員にとって分かりやすく、問い合わせが減ります。
導入の手順(実務的な流れ)
- 方針決定:経営や労務担当で付与日をいつにするか決めます(例:毎年4月1日)。
- 就業規則の整備:就業規則や雇用契約書に明記し、必要なら労働基準監督署へ届出を行います。
- 社内周知:全社員へ変更内容と理由、適用日を通知します。Q&Aを用意すると安心です。
- システム設定:勤怠・給与システムで付与日と繰越処理を設定します。紙管理ならテンプレートを統一します。
- 試行とチェック:初年度は定期的に集計し、差異や漏れがないか確認します。
管理時のポイント
- 繰越分と新規付与分を区別して記録してください。どちらから使われたか分かると良いです。
- 退職者の精算や休職中の扱いをルール化してください。例外処理を明確にしておくと混乱が減ります。
- 小規模事業所は外部の勤怠サービスを利用すると負担が軽くなります。
具体例
例:従業員100名の会社が、付与日を全員4月1日に統一。結果として毎年4月に一括で付与処理を行い、年1回の確認で済むため業務負担が大幅に減りました。
上記を参考に、まずは現状の付与日と管理方法を洗い出し、実行可能な範囲から順に改善していくことをおすすめします。


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