はじめに
本書の目的
本書は、就業規則における有給休暇の記載方法と実務上の注意点を分かりやすく示すために作成しました。労働基準法に基づく基本的なルールを踏まえ、具体例を交えて実務担当者が使いやすい形でまとめています。
本調査の範囲
有給休暇の付与条件や付与日数、パートタイマー対応、取得時季、5日間取得義務、計画年休、時間単位取得、基準日の設定、時効・繰越など、多方面から整理しています。条文の引用は最小限にし、記載例を中心に取り上げます。
読者の想定と使い方
人事担当者、労務管理に携わる管理職、社労士の方などを主な対象としています。就業規則を作成・改定する際や、従業員に説明する資料作りにそのまま使える表現例を提供します。
注意点
運用の仕方で効果が変わります。実際に運用する際は所轄の労基署や専門家と確認のうえ、自社の実情に合わせて修正してください。
就業規則における有給休暇の基本的な記載事項
目的と重要性
就業規則に有給休暇の取り扱いを明記すると、従業員の権利と企業の義務がはっきりします。記載はトラブル防止と職場の安心感につながります。
法律で求められる基本事項
就業規則には、付与の基準日、付与日数、取得方法、消滅(時効)に関する扱いなど、労働基準法で定める要素を記載します。具体的な数値や条件を曖昧にしないことが大切です。
具体的に記載する項目(例)
- 付与の条件:入社後の経過年数や出勤要件
- 付与日と付与日数:何年目に何日付与するか
- 取得方法:申請方法や承認手続き
- 時季指定・計画年休:会社が指定する場合の手続き
- 時効・残日数の取り扱い:繰越や消滅の時期
例として「入社6か月後に10日付与、以後1年ごとに付与」といったように具体例を示すと分かりやすくなります。
注意点
表現は具体的にし、運用と実務が一致するようにします。従業員への周知方法(書面や社内掲示)も定めると実効性が高まります。
有給休暇の付与条件
法的な基本条件
有給休暇を付与するための第一の条件は「入社から継続して6か月間勤務」することです。さらに、その6か月間における所定労働日のうち80%以上出勤していることが必要です。これらの要件を満たした時点で、法定の年次有給休暇が発生します。
出勤率の具体的な計算例
例えば、6か月間の所定労働日数が120日だった場合、80%は96日です。したがって96日以上出勤していれば付与条件を満たします。遅刻や早退の取り扱いは就業規則で定めますので、実務上は出勤日数をどう数えるかを明確にしておくとトラブルが減ります。
休業期間の扱いと就業規則での明記
産前産後休業や育児・介護休業など、一定の休業を出勤とみなす扱いを就業規則に記載しておくことが望ましいです。就業規則に具体的に書くと、出勤率の算定でどの休暇を含めるかが明確になり、従業員にも分かりやすくなります。
実務上の注意点
本人の申告や出勤記録の確認をきちんと行い、付与判定の根拠を残してください。不明点は労務担当や社会保険労務士に相談すると安心です。
フルタイム労働者の付与日数
概要
フルタイム労働者には、継続勤務期間に応じて有給休暇を段階的に付与します。付与日数を明確にすることで、従業員が自分の権利を把握しやすくなります。
付与日数の一覧
| 継続勤務期間 | 年次有給休暇日数 |
|---|---|
| 6か月以上 | 10日 |
| 1年6か月以上 | 11日 |
| 2年6か月以上 | 12日 |
| 3年6か月以上 | 14日 |
| 4年6か月以上 | 16日 |
| 5年6か月以上 | 18日 |
| 6年6か月以上 | 20日 |
就業規則への記載例
「当社は、継続勤務期間に応じて年次有給休暇を付与する。付与日数は上表のとおりとする。付与の基準日は雇入れ日から起算する。」のように簡潔に示します。
注意点
- 付与は継続勤務を基準とします。休職期間や契約形態で調整が必要な場合は別途規定を設けます。
- 付与日数の管理は給与システムや勤怠管理で明確にしてください。こうすることで従業員からの問い合わせが減ります。
パートタイマーや短時間労働者への対応
概要
週所定労働時間が30時間未満で、週の所定労働日数が4日以下、または年の所定労働日数が216日以下の労働者には、フルタイムと別に定めた日数の有給休暇を付与する必要があります。これらの取り扱いは就業規則に明記します。
対象の判定
対象かどうかは、会社が定める「所定労働時間」「所定労働日数」「年間所定労働日数」で判断します。雇用契約書やタイムテーブルを基に判定してください。
付与日数の決め方(具体例)
一般的には、フルタイムの付与日数を基準にして、所定労働日数の比率で按分します。例えば、フルタイムが週5日で年10日付与の場合、週3日の勤務なら10×(3/5)=6日とします。算出方法や端数処理は就業規則で明確にしてください。
就業規則への記載例(必須事項)
- 対象となる条件(時間・日数・日数の判定方法)
- 付与日数の算定方法と付与日
- 勤続要件や出勤要件(例:6か月継続勤務、8割以上出勤)
- 変更時の取り扱い(勤務日数の増減時の按分)
- 賃金計算や欠勤扱いのルール
実務上の注意点
雇用形態や勤務日が変わる場合は付与日数を見直します。付与の記録や従業員への説明を丁寧に行い、誤解を防いでください。必要があれば就業規則の別表で職群ごとに日数表を付けると分かりやすくなります。
有給休暇の取得時季に関する規定
説明
有給休暇の取得には「時季指定権」と「時季変更権」があります。時季指定権は従業員が取得する日を指定できる権利です。一方、時季変更権は使用者が事業の正常な運営を妨げるとき、取得日を別の日に変更できる権利です。
就業規則に書くべき標準的な文言例
「従業員は有給休暇の取得時季を指定できます。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には使用者は他の時季に取得させることがあります。」
運用上のポイント
- 使用者が変更する場合は、具体的な理由(繁忙期、重要な業務の遂行、代替要員不在など)を明確にします。説明と代替案の提示を行うとトラブルが減ります。
- 従業員の事情(子どもの看護、通院など)も考慮し、安易に否定しないようにします。
- 事前の申請ルール(提出期限や方法)を就業規則や運用ルールで示すと実務が円滑になります。
具体例
- 繁忙期(決算期など)に同時に複数名が申請し業務に支障が出る場合、使用者は別日を指定できます。
- 従業員が病院の予約など不可欠な事情を示した場合は、できるだけ希望日に認める配慮が必要です。
以上を踏まえ、就業規則では従業員の権利を尊重しつつ、事業運営上必要な変更権の行使基準を明確にしておくことが望ましいです。
5日間の有給休暇取得義務(時季指定義務)
法改正の背景
2019年4月の改正で、年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、使用者は最低5日を時季指定して取得させる義務を負いました。目的は、休暇が事実上取れない状況を防ぐことです。
対象者
付与日(基準日)において年10日以上の有給が発生する労働者が対象です。パートや短時間労働者も日数基準を満たせば対象になります。
使用者の具体的義務
使用者は、まず労働者の意見を聞いて取得時期を調整します。意見がまとまらない場合や労働者が申し出ない場合は、使用者が具体的な5日間の時季を指定して与えます。指定は付与日から1年以内です。
就業規則への記載例(簡潔に)
・年次有給休暇の付与を受ける者に対して、付与日から1年以内に5日を会社が時季を指定して取得させる旨を定める。
・時季指定に当たっては労働者の意見を聞くこととする。
実務上のポイント
・取得計画を事前に提示するとトラブルが減ります。例:年間スケジュール表に5日を候補日として示す。
・記録を残す(時季指定通知、労働者の意見、取得実績)。
・業務の繁忙期は考慮しますが、会社都合で一方的に取り消さないよう配慮してください。したがって柔軟な振替や分割取得のルールを用意するとよいです。
トラブル対応
労働者が取得を拒む、または会社が指定を怠ると、労基署からの指導対象になります。まずは話し合いで時季を決め、記録を残すことを優先してください。
計画年休制度の導入
概要
計画年休(計画的付与制度)を導入するには、労使協定を締結し、その内容を就業規則に反映します。具体的には、年次有給休暇のうち事前に定めた時季に取得させる日数や対象者を明文化します。
労使協定のポイント
- 協定相手は過半数代表など適切な代表者を選びます。
- 対象となる日数や時季、運用方法を明確にします。
- 協定は書面で残し、従業員に周知します。
就業規則の記載例(例文)
「当社は、別に定める労使協定に基づき、年次有給休暇のうち○日を会社が指定する時季に取得させることがある。」
運用上の注意点
- 事前に取得時季を通知し、業務調整を行います。
- 取得希望と会社指定が重なる場合は調整ルールを用意します。
- 強制的にならないよう就業規則と協定の整合性を確認します。
実務の流れ
- 協定案を作成する
- 過半数代表と合意する
- 就業規則に反映し、従業員に周知する
- 運用状況を定期的に見直す
導入前に労務担当や顧問と確認しておくと安心です。
時間単位での有給休暇取得
概要
有給休暇は通常1日単位で取得しますが、労働基準法の運用と労使協定により時間単位での取得も可能です。就業規則に具体的な運用を記載すると、従業員は細かい用事や通院などで柔軟に休めます。
法的なポイント
・法では半日単位の取得が認められています。労使協定を結べば、時間単位の取得を導入できます。\n・時間単位の付与は、1年につき5日分の範囲内で行うことが一般的です(就業規則で明示します)。
就業規則に書くべき事項(例)
・対象者(パート含むか、勤続期間の条件など)
・時間単位の上限(例:1年につき5日分、1回あたり1時間以上、30分単位など)
・算出方法(1日の所定労働時間を基準に時間換算)
・手続き(申請方法、承認フロー、取り消しの取り扱い)
・労使協定の存在と保管場所
例文(簡潔)
「第○条(年次有給休暇の時間単位取得) 労働者代表との協定に基づき、年次有給休暇のうち1年につき5日を限度として時間単位で取得できるものとする。」
取得の実務(計算例)
・1日の所定労働時間が8時間の場合:1時間取得は年休の1/8日分に相当します。
・半日休を併用する場合は、日数換算を明確にします(例:半日=4時間)。
注意点
・給与支払いは通常の有給と同様に扱います。\n・管理は勤怠システムで時間単位で記録してください。\n・労使協定がないと導入できないため、従業員代表との協議と書面化が必要です。
有給休暇の基準日の設定
基準日とは
有給休暇の基準日とは、付与日や年度を決める基準になる日です。各社員を入社日ごとに管理する方法と、会社で一律の基準日を設ける方法があります。後者は管理が簡単になります。
設定方法の例
例:基準日を毎年4月1日とする。就業規則に「基準日時点で勤続6ヶ月に満たない従業員はその年の付与対象としない」と明記します。こうすると入社時期にかかわらず、付与日を統一できます。
就業規則に書くポイント
- 基準日の明記(例:4月1日)
- 対象となる条件(勤続期間や出勤率)
- 基準日に満たない場合の取扱い(次回基準日での付与など)
- 例外や特別ルールの有無
明確に書くことで誤解を防ぎます。
実務上の注意点
- 年の途中に入社した社員への説明を用意する
- 給与計算システムで基準日を反映する
- 有休の繰越や計画年休との整合性を確認する
このように基準日を定めると管理が効率化しますが、就業規則の記載を丁寧に整え、社員に周知することが大切です。


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