はじめに
この文書は、源泉徴収票の配布時期や年末調整との関連、2025年の税制改正に伴う変更点、企業の給与担当者が押さえておくべき実務対応をわかりやすく整理したものです。日常の業務で迷いやすいポイントを具体例を交えて説明します。
対象者
- 企業の給与・経理担当者
- 転職者や年末調整に不慣れな従業員
目的
- 源泉徴収票の役割と記載項目の基本を理解する。2. 配布タイミングや法定期限、税務署への提出方法を実務レベルで把握する。3. 2025年の改正や新様式への対応を準備する。
本文の読み方
第2章以降で基本事項と具体的手順を順に解説します。第4章・第5章は提出や期限に関する実務上重要な章です。転職者対応は第7章、改正や新様式は第8・9章、控除計算は第10章で扱います。現場で使えるチェックポイントを随所に示しますので、必要な章を参照して実務に役立ててください。
源泉徴収票とは何か
定義
源泉徴収票は、会社がその年(1月1日〜12月31日)に従業員へ支払った給与や源泉徴収した所得税を記載した書類です。税金や控除の状況を示す公式な証明書で、退職や確定申告の際によく使われます。
主な記載項目(わかりやすく)
- 給与の総額:1年間で受け取った給与の合計。例)年収300万円。
- 源泉徴収税額:会社が給与から差し引いた所得税の合計。
- 各種控除:社会保険料や扶養控除など、税金計算で差し引かれる金額。
何のために使うか
- 確定申告の根拠書類になります。医療費控除や副収入がある場合に必要です。
- 退職時は次の勤務先や失業給付の手続きで求められることがあります。
受け取り方と保管のポイント
会社が年末調整後に交付します。紛失しないよう大切に保管してください。税務署や年金・雇用保険の確認で提示を求められる場合があります。
源泉徴収票が配布されるタイミング
- はじめに
給与や年金、退職金に関わる源泉徴収票は種類ごとに配布時期が異なります。以下に、一般的な目安と実務上よくある状況を分かりやすくまとめます。
- 給与所得の源泉徴収票
年末調整が終わった後に交付されるのが原則です。実務では12月末から翌年1月中旬ごろに渡されることが多く、1月末までに交付されるケースが一般的です。年末調整の処理や給与締め日により前後します。
- 退職所得の源泉徴収票
退職後1ヶ月以内に交付されるルールが基本です。退職時にまとめて清算するため、退職日から比較的早く手元に届きます。
- 公的年金等の源泉徴収票
年金支払者が1月中旬から下旬にかけて交付することが多いです。支払回数や手続きのタイミングで差が出ます。
- 受け取りの注意点
電子交付に対応する会社もあります。交付が遅れる、または届かない場合は給与担当や年金機関に問い合わせてください。源泉徴収票は確定申告や手続きで重要な書類なので、受け取ったら内容を必ず確認しましょう。
年末調整後の発行が基本
発行の基本
源泉徴収票は、会社が年末調整を終えた後に交付します。年に1回が基本で、多くの場合は12月分の給与明細と一緒に配られます。年末調整でその年の税額が確定するため、確定後にまとめて発行するのが理由です。
受け取りのタイミングと例
通常は12月の給与と同時か、年明けすぐに受け取ります。たとえば12月に在籍していれば、12月の給与明細と同封されることが多いです。退職した場合は退職時に発行されることがあります。
電子交付と紙の請求
近年は電子データで交付する会社も増えました。電子で受け取る場合でも、紙の源泉徴収票を希望すれば会社に請求できます。希望の方法を事前に人事や総務に伝えておくとスムーズです。
受け取れないときの対応
受け取りが遅れる、あるいは届かない場合はまず勤務先の担当部署に問い合わせてください。会社には従業員に交付する義務がありますので、状況を説明して対応を求めましょう。
まとめ代わりの注意点(簡潔)
年末調整後に一度まとめて交付されるのが基本です。電子・紙のどちらでも受け取れますので、自分の希望を早めに伝えてください。
法定期限と税務署への提出
1. 基本的な交付期限
源泉徴収票は、原則としてその年分の支払が終わった翌年の1月31日までに従業員へ交付します。これは法定期限であり、令和7年(2025年)分についても翌年(令和8年/2026年)の1月31日が交付期限です。
2. 税務署への提出対象と期限
一定の条件に該当する従業員の源泉徴収票は、従業員への交付と同じく翌年1月31日までに所轄の税務署へ提出する必要があります。具体的には、退職者や年の途中で支払が終了した方など、税務署での確認が求められるケースが該当します。不明な点は所轄税務署に確認してください。
3. 提出方法と準備のポイント
・従業員用と税務署提出用で控えを用意します。電子申告(e-Tax)を利用すると手続きが簡単になります。
・氏名・金額など記載事項の誤りがないか必ず確認します。
4. 期限に間に合わない場合の対応
期限を過ぎると過怠税や行政上の指導対象になることがあります。やむを得ず遅れる場合は、速やかに所轄税務署へ連絡し、理由と提出予定日を伝えてください。
源泉徴収票に記載される重要な項目
支払金額
支払金額は1年間に支払った給与や賞与の総額を示します。給与担当者は給与明細の合計と照合してください。たとえば月給30万円なら年間で360万円(賞与は別途加算)です。
給与所得控除後の金額
給与所得控除を差し引いた後の所得です。課税標準の基礎となるため、源泉徴収税額の算定に影響します。控除の計算方法は年齢や金額によって変わる点に注意してください。
所得控除の合計額
社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除などを合算した金額です。従業員から提出された証明書類(保険料証明書、扶養控除等申告書など)と照らし合わせて確認します。
源泉徴収税額
その年に実際に差し引かれた所得税(復興特別所得税を含む)の合計です。年明けに発行される源泉徴収票は年末調整後の確定値になります。過不足があれば還付や追徴の対象になるため、金額の根拠を確認してください。
その他の重要項目
支払者の名称・所在地、支払年月日、支払区分や雇用期間なども記載されます。転職者や年の途中で退職した従業員は特に誤記載が起きやすい項目です。
給与担当者のチェックポイント
- 支払金額が給与明細と一致しているか
- 所得控除の根拠書類が揃っているか
- 源泉徴収税額が年末調整後の確定額か
- 氏名・マイナンバー等の記載に誤りがないか
これらを確認することで、従業員からの問い合わせや税務申告に備えられます。
転職者の場合の対応
概要
年内に転職した従業員は、前職の給与も含めて1年分の給与で年末調整を行います。12月31日時点で在籍している会社が、その年の源泉徴収票を発行します。
提出してもらう書類
- 前職の源泉徴収票(原本または写し)
- 必要に応じて扶養控除等の届出書類
提出は年末調整の準備段階で依頼してください。早めに受け取れば控除の反映もスムーズです。
会社側の対応
- 前職分を合算して年末調整を実施します。給与や税額は合計して計算します。
- 12月末在籍の会社が最終的に源泉徴収票を作成し交付します。
注意点(具体例含む)
- 例:前職で年収300万円、新職で200万円の場合、合算して500万円で計算します。
- 前職の源泉徴収票が届かないと年末調整できないことがあります。その場合は従業員に再発行を依頼してください。
- 年内に複数回転職した場合も同様にすべて合算します。
- 前職が交付を怠るときは従業員が確定申告で対応することもあります。
実務的なアドバイス
- 従業員へ早めの提出を促してください。書類不備は年末調整の遅れや従業員負担につながります。
2025年の税制改正と実務対応
概要
2025年の税制改正で、基礎控除が従来の48万円から最大95万円へ段階的に引き上げられ、所得要件も緩和されます。本章では実務で押さえるべき点と具体的な対応を分かりやすく説明します。
実務の基本方針
- 1月〜11月の源泉徴収事務は従来どおり行います。月々の計算や徴収はこれまでの税額表に基づきます。
- 12月の年末調整で1年分を改めて再計算します。改正後の基礎控除額で年税額を算出し、既に徴収した税額との差額を精算します。
具体的な手順(簡単な流れ)
- 12月に各社員の年間支払額を確定する。
- 改正後の基礎控除を適用して年間の税額を再計算する。
- 既に毎月徴収した税額合計と比較し、多ければ還付、少なければ追徴します。
具体例(イメージ)
年間給与が400万円の社員で基礎控除が48万円→95万円に増えた場合、課税所得が減り年税額が下がります。結果として12月の年末調整で差額が還付されることが多くなります。
システムと社内対応
- 給与計算ソフトの設定変更を必須で行ってください。12月の年末調整計算ルールを更新します。
- 社員への周知を早めに行い、必要書類(扶養控除等申告書など)が最新の扱いであることを確認します。
注意点
- 転職者や副業がある社員は年間合算が必要になるため、追加の確認が生じます。税額精算が発生するケースを想定して準備してください。
- 年末調整で差額が大きくなる場合、給与の12月分で処理しきれないときは別途精算方法を検討します。
新様式の源泉徴収票について
概要
国税庁が源泉徴収票の様式を改正しました。新様式は、記載内容の見直しに合わせて、令和7年12月1日以降に支払が確定する給与から適用されます。特に特定親族特別控除の適用開始に合わせた変更点が含まれます。
適用時期の具体例
- 例1:給与の支払が令和7年11月30日に確定した場合は旧様式を使用します。
- 例2:給与の支払が令和7年12月1日に確定した場合は新様式を使用します。
この「支払が確定する日」が基準になります。
企業の対応
給与システムや給与計算フローを更新する必要があります。基本は令和7年12月以後の使用ですが、社内システムが整っている企業は同年の早期から新様式を使うことも認められる見込みです。導入前に影響範囲を確認し、従業員への周知を行ってください。
実務上の注意点
新様式は控除項目などが変わるため、控除額の反映や氏名・マイナンバーの記載欄などを事前にチェックしてください。支払確定日の扱いを誤ると誤った様式で発行する恐れがありますので、経理・人事の連携を密にしてください。
発行時のチェック項目(簡潔)
- 支払が確定した日付が基準になっているか
- 特定親族特別控除の欄が正しく反映されているか
- 氏名・住所・マイナンバーなどの基本情報が正確か
- 給与システムの出力様式が新様式に対応しているか
必要があれば、次章で新様式の具体的な記載例や運用フローを詳しく説明します。
給与所得控除額の計算
概要
源泉徴収票の「給与所得控除額」は、給与等の収入金額に応じて段階的に決まります。ご提示のとおり、たとえば「1,900,000円以下は650,000円」「1,900,001円〜3,600,000円は収入金額×30%+80,000円」といった区分で算出します。給与担当者はこれを正しく示せるようにしておくと、従業員からの問い合わせに迅速に対応できます。
計算の手順(実務向け)
- 年間の給与等の収入金額を確認します。
- 収入が該当する区分の計算式を適用します。
- 算出した金額を源泉徴収票の該当欄に記入します。
具体例
- 収入1,800,000円の場合:1,900,000円以下の定額で650,000円になります。
- 収入2,500,000円の場合:2,500,000×30%+80,000=830,000円になります。
実務上の注意点
- 小数点や端数処理は社内ルールに従って円単位で扱ってください。
- 転職や賞与の有無で年収合算の方法が変わることがあります。給与担当者は年収ベースで確認し、必要な説明を行ってください。
以上を踏まえ、給与所得控除額の計算方法を明確にしておくと、源泉徴収票に関する説明がスムーズになります。
まとめと実務的な注意点
要点の整理
源泉徴収票は年末調整完了後に交付し、従業員交付と税務署提出の目安は12月から翌年1月31日までです。給与担当者は記載項目(支払金額、源泉徴収税額、各種控除)を正確に把握し、従業員からの問い合わせに備えてください。2025年改正対応は、11月までは従来手続き、12月の年末調整で改正後の控除額を反映して差額を精算することが重要です。
実務チェックリスト
- 従業員の扶養・保険料などの申告内容を事前に確認する。
- 源泉徴収票の各欄(支払額・控除額・税額)を照合する。
- 交付・提出期限(1月31日)を守る。
- 記載漏れや誤りが見つかったら速やかに訂正票を発行する。
- 年末調整での差額は12月給与で調整するか、別途精算する方法を明確にする。
- 交付控えや電子データは適切に保存する。
問い合わせ対応のコツ
具体例を示して説明すると理解が早くなります。たとえば控除が増えて税額が減った場合は「年末調整で差額を返金または調整する」と伝えます。転職者や退職者は前職の源泉徴収票との合算や処理時期に注意してください。複雑なケースは税務署や税理士と相談して対応してください。
最後に、正確さとタイミングが最も大切です。従業員への丁寧な説明と迅速な対応を心がけてください。


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