はじめに
本資料の目的
本資料は「退職勧奨と弁護士相談」について、実務で役立つ情報を分かりやすくまとめたものです。退職勧奨の意味や違法な退職強要との違い、使用者側・労働者側それぞれが弁護士に相談する利点、弁護士の同席の可否、相談時の費用などを順に解説します。
対象読者
- 会社の人事担当者や経営者
- 退職勧奨を受けた、または検討している労働者
- これから相談先を探す方
具体例を交えて説明しますので、法律の専門知識がない方でも理解しやすい内容です。
本書の読み方
各章は独立して読みやすく作成しています。まず第2章で基礎を確認し、該当する章に進んでください。実際の対応に不安がある場合は、個別事案として弁護士に相談することをおすすめします。
注意事項
本資料は一般的な情報提供が目的です。事案ごとの具体的な判断には、弁護士など専門家の意見が必要です。
退職勧奨とは何か
定義
退職勧奨とは、使用者(会社や上司)が労働者に対して「辞めてください」と促す行為を指します。形式上は労働者の意思に任せる形ですが、実際には会社側から離職を促すための働きかけです。
形式と本質の違い
表面上は「希望退職」「自己都合での退職」を勧めるため、解雇とは異なります。ただ、勧奨のやり方次第では強制に近くなり、違法と判断されることがあります。
違法となる具体例
- 複数の上司に囲まれて説得される
- 「辞めないなら不利益を与える」と明示的に脅される
- 業務から排除したり、意図的に職場環境を悪化させる
これらはいずれも退職強要に当たる可能性があります。
労働者が取るべき初動
会話は可能な限り記録し、日時や内容をメモします。口頭のみで決めず、強い圧力を感じたら第三者(労働組合や労働相談窓口、弁護士)に相談してください。証拠があれば対応が有利になります。
使用者側が弁護士に相談するメリット
なぜ弁護士に相談するのか
使用者(企業側)が退職勧奨を行う際、法的な誤りや手続きの不備があると大きなトラブルになります。弁護士に相談すると、違法になるリスクを減らしつつ、会社の意図する方向で円滑に進められます。具体的な事例と対応方針を示してもらえる点が強みです。
主なメリット(具体例で解説)
- 法的リスクの回避:雇用契約や就業規則を確認し、違法な解雇や強要にならないよう助言します。例えば、十分な説明や代替措置が必要かを判断します。
- 適切な退職条件の設定:退職金、在職期間の扱い、合意書の文言などを適正に整えます。金銭面や秘密保持の条項を具体的に決められます。
- 退職勧奨後のトラブル防止:合意書の作成や記録の取り方、証拠保全の方法を指導し、後の紛争を防ぎます。口頭だけで済ませない手順を整えます。
- 計画的な進め方のアドバイス:面談の進め方、関係部署への周知、段階的な対応策を一緒に設計します。感情的な対立を避けるための言い回しも提案します。
- 同席や交渉の代行:必要なら弁護士が面談に同席したり、本人との交渉を代行したりして、冷静かつ合法的に手続きを進めます。
実務上の注意点
弁護士の助言は事前相談が有効です。問題が大きくなる前に状況を整理し、文書や事実関係を持参して相談してください。早めに対応することで余計なコストと時間を抑えられます。
労働者側が弁護士に相談するメリット
退職勧奨を受けたとき、弁護士に相談すると心強い支えになります。以下に主なメリットを分かりやすく説明します。
1. 違法性の判断ができる
会社の言動が違法かどうかを専門的に判断します。たとえば「辞めないなら降格する」といった脅しや、繰り返しの退職強要は違法になることがあります。弁護士は具体例を聞いて法的に説明します。
2. 退職強要の停止と責任追及
証拠の取り方や社内対応の方法を指示します。必要なら交渉や内容証明発送、行政機関への相談や訴訟の提起も行えます。会社の行為を止め、損害賠償を求める道も検討します。
3. より良い退職条件を獲得
退職金や解決金、退職日、雇用保険の手続きなど、条件面で有利な解決を目指して交渉します。弁護士の介入で会社が提示を見直す例がよくあります。
4. 冷静な判断のサポート
感情的になりやすい場面で、弁護士が代理人として対応します。感情的な応酬を避け、合理的な選択をしやすくなります。
5. 包括的なサポート
就業規則や労働契約書の確認、今後の転職や手続きに関する助言まで受けられます。相談時には就業規則、メール、メモ、給与明細などを持参すると話が早くなります。
弁護士の対応により、退職勧奨の取り下げや有利な和解が期待できます。まずは早めに相談することをおすすめします。
弁護士の同席について
原則
使用者側が退職勧奨の面談を行う場合、事業所の担当者が主に対応し、弁護士は裏方で助言するのが原則です。面談の主導権は使用者側にあり、弁護士は事前準備や書面チェックで力を発揮します。
同席が適切な場面
弁護士が同席するのは以下のような場合です。
– 面談中に職員が感情的になり、話が収拾しづらくなると予想されるとき
– 暴言や威嚇など問題行動が著しく、場を安全に保つ必要があるとき
– 即時に法的判断が必要で、誤解を避けたいとき
たとえば、退職合意の内容について争いが生じそうな場合や、過去の懲戒処分に関する法的解釈をその場で示す必要がある場合です。
弁護士の役割
同席した弁護士は次のような役割を担います。
– 話の整理と場の安全確保(交通整理)
– 法的な説明や会社の立場の明確化
– 発言の記録と後日の証拠確保
– 必要時に休憩を提案し冷静化を図る
注意点
弁護士が同席すると、職員が委縮して合意を急いでしまう可能性があります。面談の公平性を損なわないよう、同席の目的を明確に伝え、必要以上に威圧的にならない配慮が大切です。また、録音や録画は事前に同意を得て行ってください。
実務的な進め方
事前に面談の目的や進め方を文書で通知し、弁護士の同席があることを知らせます。人事担当者と弁護士で役割分担を決め、面談後は書面で合意内容をまとめるとトラブルを防げます。
弁護士に相談する際の費用
主な費用項目
- 初回相談料:無料〜1万円が多いです。初回無料の事務所も多く、まずは相談だけで費用がかからない場合があります。
- 着手金:交渉や手続きを始める際に支払う費用です。数万円〜数十万円が目安です。
- 報酬金:和解や裁判で成果が出たときに支払う成功報酬です。金額は取得額の何%という形が一般的です。
- 日当・実費:会議や出張がある場合に別途請求されることがあります。
相場の目安
労働問題に強い弁護士で、交渉中心なら着手金が小さく報酬は成果連動にする事務所もあります。裁判になると着手金・報酬ともに高めになります。事務所ごとに差があるため見積もりを必ず取ってください。
費用確認のポイント
- 見積もりを文書で受け取る。項目ごとに明示してもらうと安心です。
- 着手金・報酬の算出方法(定額か率か)を確認する。
- 分割払いや成功時のみ支払いといった弁護士の対応を尋ねる。
費用が不安な場合の対処法
- 初回無料の事務所を探す。短時間の相談で方向性が分かります。
- 法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助を利用すると、条件付きで費用の援助が受けられます。
- 労働組合や労働相談窓口でまず相談し、弁護士紹介を受ける方法もあります。
相談を効率よくするために持参するもの
退職勧奨の記録(メールやメモ)、雇用契約書、給与明細、就業規則などを持っていくと、具体的な費用見積もりが出やすくなります。


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