はじめに
目的
本資料は、公務員が懲戒免職(懲戒解雇)になった場合の退職金の取扱いについて、わかりやすく整理することを目的とします。法律や判例、実務の考え方を踏まえ、退職金の不支給・減額、既に支給された場合の返納、年金や失業給付への影響などを順に説明します。
対象となる読者
・公務員本人やその家族
・人事担当者や相談窓口の方
・弁護士や労務担当者に相談を考えている方
専門用語はなるべく抑え、具体例を交えて解説します。
読み方の注意点
懲戒免職時の退職金は原則として不支給や一部不支給となる傾向がありますが、事案ごとに判断が分かれます。ここで示す内容は一般的な説明であり、個別の事情によって結論が変わる場合があります。必要な場合は所属機関の人事部や専門家に相談してください。
公務員の懲戒免職と退職金の基本的な考え方
はじめに
懲戒免職は公務員が規律や法令に重大に違反した場合に行われる処分です。退職金(退職手当)の扱いは民間とは異なり、処分の重さによっては支給されないことが多い点が特徴です。
基本的な原則
退職金は勤務年数や給与に基づいて算定されますが、懲戒免職の場合は自治体や国家機関の規定で支給を減額したり、不支給としたりできます。すべてのケースで不支給になるわけではなく、個別事情で判断されます。
判断で重視される点
- 行為の内容と社会的影響:横領や汚職のように重大な不正は不支給になりやすいです。
- 被害の有無と程度:被害金額が大きければ厳しく扱われます。
- 反省の態度や再発防止策:事情が酌量される場合もあります。
具体例
- 例1:公金を横領した場合は、ほとんど不支給になります。
- 例2:職務怠慢で注意処分に至らず免職になった場合は、事情により一部支給されることがあります。
手続き上の注意
処分は所属機関が決定します。決定前後で扱いが変わるため、通知や審査手続きには必ず対応してください。既に支給された場合は返還が求められることがあります。争う場合は行政不服申立てや訴訟の可能性がありますので、記録を残し専門家に相談することをおすすめします。
法的根拠:国家公務員退職手当法
条文の趣旨
国家公務員退職手当法第12条1項は、懲戒免職による退職の場合に退職手当の全部または一部を支給しないことができると定めています。ここでは職務や責任の程度、非違行為の内容・程度、国民の信頼への影響などを総合的に勘案する点が重要です。
運用の基本方針
運用では、非違行為の抑止効果を重視し、原則として退職手当を全部不支給とする取り扱いが示されています。ただし、すべての事案で自動的に全部不支給になるわけではありません。
判断のポイントと具体例
判断では(1)職務上の地位や責任、(2)違反の重大性、(3)国民の信頼への影響を比較します。例えば単なる遅刻や軽微な規律違反では一部支給や減額になる余地があります。これに対し、横領や職権乱用のように重大な非違行為では全部不支給が相当と判断されやすいです。
手続き上の留意点
不支給の処分は調査と事実関係の確認を前提とします。被処分者に意見を述べる機会を与えることが通常の手続きです。具体的な返還や手続きの扱いは後の章で説明します。
退職金不支給の判断基準
判断の基本方針
退職金の不支給や減額は、複数の事情を総合して決定します。個別の事情を見落とさず、職務の性質と責任の重さに照らして均衡を取ることが大切です。
主な考慮事項
- 職務および責任の大きさ:重要な職務であれば不支給の可能性が高まります。例として、資金や人事を扱う管理職の不祥事は重く判断されます。
- 非違行為の内容・程度:違法行為や悪質な横領・背任は厳しく評価します。単なる事務上のミスと意図的な不正は区別します。
- 国民の信頼への影響:公務の信用を著しく傷つけた場合、不支給となる傾向があります。マスコミ報道や社会的反響も考慮します。
- その他政令で定める事情:特定の事情が政令により規定されています。
判断の流れ(実務)
担当部門が事実関係を整理し、上司や人事委員会が意見をまとめます。最終的には任命権者が決定します。手続きでは意見聴取の機会を保障することが重要です。
具体例での区別
- 軽微な手続き違反→減額や支給(例:書類の不備)
- 故意の横領や重大な背任→不支給(例:公金の着服)
注意点
判断は総合評価です。個別事情を十分に反映させるため、証拠や本人の説明を丁寧に確認して決定します。
既に支給された退職金の返納
国家公務員が懲戒免職となった後で、懲戒前に退職金が支給されていた場合、国家公務員退職手当法第15条1項に基づき返納を命じられることがあります。返納は人事担当部局が決定し、通常は書面で金額と期限を示します。
返納額の決め方は事案により異なります。全額を求められることが多い一方で、懲戒の程度や在職期間、支給の状況を勘案して一部で済む場合もあります。たとえば支給額が100万円で、非違行為が重大と認められれば全額返納、軽微な場合は半額や分割払いが認められることがあります。
対応の流れは次の通りです。まず通知が届いたら内容をよく確認し、金額や根拠を文書で求めます。納付が難しい場合は分割払いや減免を申請できます。行政不服申立て(審査請求や訴訟)で争うことも可能です。審査請求を行っても自動的に返納が止まるわけではないため、預金差押え等の強制執行が現実的な手段となる前に相談と手続きの検討をお勧めします。
未払いに対しては行政が民事的な回収手段を取る場合があります。対応が遅れると利息や追加費用が発生するため、通知を受けたら早めに人事担当、弁護士、労働組合などに相談してください。
地方公務員の場合
概要
地方公務員の退職金は国家公務員と異なり、国の一律法ではなく各自治体の条例で定めます。自治体ごとに計算方法、支給要件、懲戒処分時の扱いが異なる点が特徴です。
条例による違いと具体例
ある自治体では懲戒免職で退職金を全額不支給とする規定があり、別の自治体では減額や一部不支給にとどめる規定が存在します。具体例として、A市は免職で全額不支給、B町は一定割合を減額する、といった違いが考えられます。
懲戒処分と退職金の関係
懲戒免職や停職などの処分があれば条例に基づき退職金の支給要否を判断します。処分が軽微でも条例で減額規定があれば影響します。懲戒の事実確認や期間が重要です。
既に支給された場合の扱い
不正や違法行為が判明して既に退職金を受け取っている場合、条例や民法に基づく返納請求が行われることがあります。返納要件や時効については自治体ごとに異なります。
実務上の注意点と相談先
まず在職中や退職前に自治体の人事課で条例内容を確認してください。公務員組合や労働相談窓口、行政書士や弁護士にも相談すると安心です。証拠保全(処分通知や調査資料)の準備をお勧めします。
年金への影響
概要
懲戒免職で退職金が不支給になっても、原則としてそれまで納めた年金(基礎年金、厚生年金部分など)は別扱いであり、将来受け取る年金額に即時の影響はありません。年金保険料は本人の記録に基づいて計算されるため、納付実績があれば支給されます。
制限が生じる場合
ただし懲戒処分の程度や刑罰の内容によっては、退職年金や公務員特有の年金に制限がかかることがあります。具体例を挙げると:
– 停職以上の懲戒処分がある場合、退職年金の全部または一部が減額・不支給となる可能性があります。
– 禁固以上の刑に処された場合、退職年金や公務障害年金の支給が制限されることがあります。
具体的な対応
年金の扱いは事案ごとに異なります。処分通知や判決文を手元に用意し、市区町村の年金窓口や年金事務所に相談してください。受給資格や金額の計算方法、審査請求の方法について具体的に説明を受けられます。
注意点
年金と退職金は法的に別の制度です。混同すると誤った判断をしやすいので、個別の書類を確認し専門窓口で早めに相談しましょう。
失業保険の取扱い
概要
懲戒免職された公務員は、原則として失業保険(失業給付)を受けられません。懲戒免職は本人の重大な非違行為による退職と判断されるため、求職活動のための給付対象とならない扱いになります。
なぜ受給できないのか
失業給付は働く意思と能力があり、かつ失業が本人の責めに帰さないことを前提に支給されます。懲戒免職は自己の重大な違反による離職と判断され、「自己都合」や「不正行為」に該当するため不支給になることが多いです。
具体例
- 横領や業務上の重大な不正:通常、不支給となります。
- 職場の整理整頓などの軽微な規律違反:事情によっては支給となる場合もあります。
手続きと対応
懲戒免職後もまずはハローワークに相談してください。書類審査で不支給の判断が出ても、不服申立てや行政訴訟で結果が変わることがあります。懲戒処分の適法性を弁護士に相談するのも有効です。
救済の可能性
処分が取り消されたり不当性が認められれば、失業給付の受給資格が回復する場合があります。証拠を整理し、早めに専門家に相談してください。
民間企業との違い
概要
公務員と民間企業では、懲戒による退職金の扱いに明確な違いがあります。公務員は職務の公共性や信頼性を重視するため、懲戒免職に伴う退職金不支給の運用が厳しめです。民間では事案の程度や就業規則、裁判の判断で支払いや減額が認められることがあります。
支給判断の相違点
公務員は法令や人事規程に基づき原則不支給となるケースが多く、懲戒の種類や重大性が重視されます。民間企業は就業規則と判例により個別判断し、懲戒解雇でも退職金を減額・支給する裁判例が存在します。
裁判例と実務の差
民間では労働審判や訴訟で企業が敗訴し、退職金の一部支払いを命じられるケースが多いです。公務員の場合は行政手続きや公務員法・退職手当法の規定が強く影響し、裁判で覆りにくい傾向があります。
個人が取るべき対応
懲戒処分を受けたら、就業規則や処分理由の記録を確認し、証拠を残してください。民間なら労働組合や弁護士に相談し紛争解決手段を検討します。公務員の場合も専門家に相談して不服申し立てや異議申立ての可否を早めに確認してください。
実務的な対応
概要
懲戒免職の場面では、退職金の支給判断を速やかかつ正確に行う必要があります。個別事情を丁寧に確認し、人事部門・監査部署・法務と連携して判断します。
初動対応
- 事実関係の確定:調査報告書、懲戒理由、関係者証言を集めます。
- 一時的措置:再発防止や証拠散逸を防ぐための職務停止や端末調査を検討します。
証拠・書類整理
関係書類(勤務記録、処分歴、業務権限の範囲、懲戒委員会の議事録など)を時系列で整理します。具体例を付けて説明できるようにします。
人事判断の進め方
非違行為の重大性、職責、業務への影響、過去の処分歴を総合的に評価します。判例や内部規程を照らし合わせ、支給・不支給の根拠を文書化します。
既に支給された退職金の返納対応
支給済みの場合は返納請求の法的根拠と手続きを確認します。分割返納や協議の余地を含め、相手方と誠実に交渉します。
労働組合・相談窓口との連携
当事者に相談権があるため、説明責任を果たします。組合が介入する場合は手続きを共有し、公正な対応を保ちます。
外部専門家の活用
争いが予想される場合は弁護士や労務専門家を早期に参画させます。専門家の意見を記録として残します。
関係者への説明
当事者・関係部署・上司へは、判断理由と手続きを分かりやすく説明します。説明は文書でも行い、不明点は個別に対応します。
チェックリスト(実務用)
- 調査報告書の有無
- 懲戒理由の明確化
- 証拠の保存状況
- 内部規程・判例の照合
- 返納手続きの準備
- 外部相談の要否
これらを踏まえ、透明性と公正さを重視して判断してください。


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