第1章: はじめに
本資料の目的
本資料は、退職後に会社が離職票を発行してくれない場合の原因と対処法を分かりやすく解説することを目的としています。離職票は雇用保険の手続きや生活設計に直結する重要な書類です。早めに対応するための手順を段階的に示します。
想定する読者
退職したが離職票が届かない方、会社からの説明に不安がある方、人事や労務の対応を検討している方を想定しています。専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
本章での内容
本章では本資料の全体像と読み進め方を案内します。続く章で「離職票とは何か」「企業が交付しない理由」「違法性」「実際の対処法」と順に解説します。
読み方のポイント
まず現状を整理し、時系列で対応を進めると効果的です。必要に応じてハローワークや専門家に相談する手順も後章で詳しく説明します。
離職票とは何か、そして自動発行されない理由
離職票とは
離職票はハローワークが発行する書類で、失業手当(失業給付)を申請する際に必ず必要になります。退職した日、雇用保険の加入状況、離職理由などが記載され、受給の可否や給付額の判断材料になります。
発行の仕組み(簡単な流れ)
会社が退職者の情報をハローワークへ提出します。ハローワークはその情報を基に離職票を作成し、本人に送付します。つまりハローワーク発行ですが、会社の手続きが出発点です。
なぜ自動で届かないのか
- 発行はハローワークが行うため、会社からの申請が必要です。会社が申請しなければ進みません。
- 退職理由や最終給与の精算など確認事項があり、事務処理に時間や確認が必要です。
- 全ての企業が退職時に離職票の有無を自動確認するわけではありません。会社によっては本人に希望を確認する運用を取っています。
したがって、退職時に自分から離職票の発行を依頼しておくと手続きがスムーズになります。会社が対応しない場合はハローワークに相談することもできます(対応方法は後の章で詳しく説明します)。
会社が離職票をくれない主な理由
はじめに
離職票が届かないと不安になります。ここでは企業側のよくある理由を、例を交えて分かりやすく説明します。
主な理由と具体例
-
交付希望を伝えていない
口頭だけで退職を伝えた場合、会社が離職票の発行を認識していないことがあります。例:退職後に「郵送してください」と言っていない。 -
会社内部の手続きが遅れている
総務担当者の不在や退職届の処理遅延で手続きが止まることがあります。例:担当者が人事異動で不在、必要書類が回っていない。 -
ハローワーク側の処理遅延や不備照会
会社が書類を提出しても、ハローワークで確認や修正を求められると時間がかかります。例:離職理由の記載が不明確で差し戻される。 -
連絡先や住所のミス
申請時の住所や氏名が間違っていると郵送されません。例:旧住所のまま登録されている。
まずやるべきこと
- 会社に正式に請求する(メールや書面で残す)。
- 発行状況を担当部署に確認する。証拠を残すと後の手続きが楽になります。
最後に
多くは手続き上の遅れや認識不足が原因です。まずは冷静に会社へ確認し、それでも進まなければ次の対応を検討してください。
悪質なケース|意図的に離職票を交付しない
概要
会社が意図的に離職票を渡さないケースは残念ながらあります。退職をやめさせるために脅す、嫌がらせやパワハラで文書を渡さない、ハローワーク宛の郵便物を従業員に渡さず保管するなど、故意の妨害が典型です。
具体例
- 退職を告げると「離職票は出さない」と脅される。
- ハローワークからの封書を会社が回収し渡さない。
- 「返却するまで給料差し止め」など不当な条件を付けられる。
見分け方
同じ理由で何度も交付を拒む、証拠となる郵便物が会社に残っていることを確認できる、言葉や態度が威圧的なら悪質な可能性が高いです。
取るべき行動
1) 日付・会話内容を記録し、請求はメールや書面で行う。2) 内容証明で交付を求める。3) ハローワークに事情を伝え、交付状況を確認してもらう。4) 証拠を保全し、必要なら労基署や弁護士に相談する。
注意点
感情的に対立すると不利になることがあります。まず証拠を確保し、公的機関に相談する流れを優先してください。
離職票を交付しないことは違法である
法的根拠と罰則
雇用保険法第76条第3項は、事業主が離職者に対して必要な書類を交付する義務を定めています。正当な理由なく離職票を交付しない行為は法律違反です。違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
どのような行為が違法になるか
- 退職後に離職票の交付請求を無視する
- 争いごとを理由に交付を意図的に遅らせる
- 書類の不備を理由にいつまでも再発行しない
これらはいずれも正当な理由がなければ違法となります。
被保険者(元従業員)の対応
- まずは会社に書面で交付を請求してください。記録が証拠になります。
- 応じない場合は最寄りのハローワークに相談・申告できます。行政は状況を確認し、事業主に是正を促します。
- 必要なら弁護士に相談し、刑事告訴や民事的な請求を検討してください。
ポイント
離職票の交付拒否は軽視できない違法行為です。本人の生活や失業給付の受給に直結するため、早めに手続きを進めることが大切です。
離職票がもらえないときの対処法
まず会社に問い合わせる
退職後2週間以上たっても離職票が届かない場合は、まず会社に連絡して交付をお願いしましょう。電話で伝えた後、メールや書面で「離職票の交付を希望する」旨と退職日を明記して送ると話がはっきりします。例:「退職日:2025年4月30日。離職票の発行をお願いします。いつまでに送付いただけますか?」といった具体的な期限を求めると良いです。
ハローワークに相談する
会社に対応がないときは、最寄りのハローワークに相談してください。ハローワークは企業に手続きを促したり、必要な案内をしてくれます。訪問時は退職日、雇用期間、給与明細や交わしたやり取り(メールやメモ)を持参するとスムーズです。
証拠を残す
交渉の過程でやり取りの記録を残してください。メールやメモ、送付した書面の控えが後の手続きで役に立ちます。確実に証拠を残したいときは内容証明郵便で交付を請求する方法もあります。
それでも交付されない場合
ハローワークで解決しないときは、労働基準監督署や労働相談窓口、弁護士に相談する選択肢があります。専門家に相談すると強制力のある手続きや次の進め方を教えてもらえます。
ハローワークでの確認請求と弁護士相談
概要
離職票が期日を過ぎても届かないときは、まずハローワークで「確認請求」を行います。ハローワークは会社に手続きを促すほか、状況によっては直接離職票を発行してくれることがあります。会社が対応を拒む、あるいは悪質な場合は弁護士に相談して法的手段を検討します。
ハローワークでの確認請求の手順(具体例)
- 受付に事情を伝え、確認請求の窓口を案内してもらいます。
- 窓口で申立書や必要書類を提出します(下記「持参物」を参照)。
- ハローワークが会社に事実確認や手続きを促します。場合によってはハローワーク側で離職票を作成・交付することがあります。
持参するもの
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 雇用保険被保険者番号が分かる書類(雇用保険被保険者証など)
- 退職日が分かるもの(退職届の控え、給与明細、最終出勤日が分かる記録)
- 会社とのやり取りが分かるメールや書面(未払いなどの証拠があれば持参)
ハローワークで期待できること
- 会社への手続き促進や状況確認
- 事実関係に問題がなければハローワークが離職票を発行する場合あり
- すぐに発行とならなくても、進捗や今後の対応を教えてくれます
弁護士に相談すべきケース(目安)
- 会社が意図的に離職票を交付しない、または虚偽の記載をする
- 未払い賃金や労働条件で争いがある
- ハラスメントや脅迫などで交渉が困難
このような場合は、弁護士が内容証明の送付や法的手続きを代行します。
弁護士に相談するときの準備
- 退職日や契約書、給与明細、メールのやり取りなどの証拠を整理します。
- 相談時に事実を時系列で説明できるようにまとめると助かります。
- 弁護士費用は事務所によって違います。初回相談が無料のところもありますので確認してください。
注意点
- まずはハローワークでの確認請求を試みるのが現実的です。弁護士は強力な手段ですが、費用や時間がかかることがあります。
離職票をもらえない例外ケース
離職票は退職した人が失業給付を申請するときに必要になる書類です。多くの場合は会社が発行しますが、例外として発行されないことがあります。ここでは身近なケースを分かりやすく説明します。
1) 雇用保険に加入していなかった場合
雇用保険に加入していない人には離職票が発行されません。たとえば、短時間で働いて雇用保険の加入要件を満たさなかったパートや、個人事業主として働いていた人が退職した場合です。給与明細に「雇用保険料」の記載がないか確認してください。
2) 交付を希望しない場合
退職時に本人が離職票の交付を希望しないと伝えたときは、会社は発行しないことがあります。転職先がすぐ決まっている、失業給付を受けるつもりがないなどが理由です。
3) その他の確認ポイント
・出向や契約更新で“退職”扱いになっていない場合は離職票が不要となることがあります。
・会社側の手続きミスで未交付になることもあるため、心配なら給与明細や雇用契約書を確認し、まず会社の総務に問い合わせてください。
もし自分は本来加入しているはずだと感じたら、ハローワークや労働相談窓口で記録を確認してもらうことをおすすめします。必要なら行政や専門家に相談して手続きを進めてください。
離職票が届かないことによる影響
1. 失業給付の申請ができない
離職票は失業手当(基本手当)を申請するための重要な書類です。届かないとハローワークで必要書類がそろわず、給付の手続きが進みません。結果として給付開始が遅れ、生活資金に直結する影響が出ます。
2. 生活・家計への影響
給付の遅れは収入減につながります。家賃や光熱費、ローン返済など定期的な支払いに支障が出る場合があります。貯金を切り崩す必要が生じ、家計の見直しを余儀なくされます。
3. 転職活動への支障
再就職先や求人によっては離職票の提示を求められることがあります。提出が遅れると書類選考や雇用契約手続きに影響し、内定後の入社時期調整が難しくなる場合があります。
4. 行政手続きや他の給付への影響
離職票は雇用保険の記録以外にも、住民税や健康保険の手続き、失業給付以外の公的支援の判断材料になることがあります。書類がないと適切な給付や手続きが受けられないことがあります。
5. 精神的負担と時間的コスト
手続きの遅れを放置すると、会社との交渉やハローワークへの相談、書類の再発行依頼などに多くの時間がかかります。不安やストレスが増し、再就職活動への集中力も低下します。
6. 早めの行動が重要です
影響を最小限にするには、届かないと気づいたらすぐに会社に連絡し、ハローワークに相談してください。具体的な対処法は第6章・第7章で詳しく説明します。
まとめ
以下に本書の要点と具体的な行動をまとめます。
要点
- 離職票が交付されない理由は、手続き漏れや認識不足、意図的な拒否などさまざまです。
- 会社が交付を拒む行為は原則として違法です。雇用保険の手続きや失業給付に必要な書類です。
具体的な対応(段階的)
- まず会社に文書やメールで請求し、記録を残します。例:送付日や担当者名を明記したメール。
- 社内の人事担当や上司に再確認します。口頭だけで終わらせないことが重要です。
- ハローワークに相談し、事実確認や交付請求の手続きを依頼します。
- それでも解決しない場合は弁護士に相談し、必要なら内容証明郵便や法的手続きを検討します。
注意点
- 証拠(メール、給与明細、雇用契約書)を保存してください。
- 早めに動くことで失業給付などの不利益を避けられます。
権利を守るためには、冷静に段階を踏んで対応することが大切です。必要であれば専門家の助けを早めに求めてください。


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