はじめに
目的
本調査結果は、源泉徴収票をメールで従業員に交付する方法や手続きについて、わかりやすく整理したガイドです。企業の総務・人事担当者や給与業務に携わる方、従業員の皆さまに向けて作成しました。
本書で扱う内容
電子交付の法的根拠、実際に使える交付方法、従業員の同意手続き、企業・従業員それぞれのメリット、注意点などを網羅しています。具体例や手順を示し、実務にすぐ役立つ形で解説します。
読み方の案内
章ごとに順に読めば導入から運用、注意点まで理解できます。まずは第2章で法的な位置づけを確認し、第4章の必須要件で実務準備を進めることをおすすめします。問題が生じた際のチェックリストも各章で提示します。
源泉徴収票のメール交付は法的に認められている方法
概要
源泉徴収票は電子化が可能で、メールを用いた交付は法的に認められた正式な方法です。企業がPDFや画像ファイルを従業員にメールで送信すれば、紙の原本と同様に扱われます。
法改正のポイント
平成31年(2019年)4月以降、税務手続きで源泉徴収票の原本添付が不要になりました。これにより、メールで送付されたデータやスキャンしたコピーを確定申告や各種手続きに使えます。法的にはメール交付が正当な交付方法として認められています。
実務上の扱い(具体例)
- 会社が従業員にPDFをメール送付し、従業員がそのPDFを印刷して税務署に提出する。
- メールに添付されたファイルをそのまま電子データとして確定申告の添付書類に使う。
なお、送信の記録やファイルの真正性の担保、誤送信への対策など実務上の注意点は第4章で詳しく説明します。
源泉徴収票の電子交付方法は3つ
以下の方法が主に使われます。企業の規模や従業員の環境に合わせて選びます。
1) 電子メールでの交付
源泉徴収票をPDFなどにして従業員のメールアドレスへ添付して送ります。手順の例:
1. 源泉徴収票をPDFに変換する
2. 添付ファイルにパスワードを設定する(可能なら暗号化)
3. メールで送信し、送信記録を保存する
個人情報が含まれるため、添付前にパスワード付与や送信先の確認を行うと安全です。
2) 社内LAN・WANやインターネットでの閲覧提供
社内ポータルやクラウド上にファイルを置き、従業員がログインして閲覧・ダウンロードします。特徴:
– ログインやアクセス履歴で配布状況を管理できます
– ユーザーごとに閲覧権限を設定できます
運用例としては、従業員IDでの認証やSSLによる通信暗号化を行います。
3) CD・USBなどの媒体で交付
源泉徴収票をCDやUSBに記録して交付します。配布方法は郵送や手渡しです。利点はネット接続を必要としない点ですが、紛失や不正利用のリスクがあります。媒体に対してもパスワード化や封印で対策するとよいでしょう。
各方法には利点と注意点があります。従業員の利便性と情報保護のバランスを見て選んでください。
メール交付を実施するための必須要件
メール交付を行うには、いくつかの要件を満たす必要があります。ここでは実務で押さえるべき点を分かりやすくまとめます。
1) 従業員の同意取得
まず従業員の同意を必ず取得します。令和5年度の税制改正で、事前に回答期限を設けて周知し、その期限内に回答がない場合は同意とみなせる扱いが認められました(手続きが簡素化)。例:配布文に「○年○月○日までに拒否の回答がない場合、メール交付に同意したものとみなします」と明記します。
2) 同意書や通知に必ず記載する項目
同意を得る際の文書やメールには、次の情報を含めます。
– 交付方法(添付ファイル/ダウンロードURL等)
– ファイル形式(例:PDF)とファイルが編集不可である旨
– 交付予定日
– 閲覧・印刷方法の説明
– 回答期限と拒否手続きの方法
– 問い合わせ先
具体例:”交付方法:PDF添付、交付日:○年○月○日、印刷可能。拒否する場合は○月○日までに返信してください。”
3) 閲覧および印刷が可能なシステムの構築
従業員が確実に閲覧・印刷できる環境を用意します。具体的にはウェブ上のビューアやPDFダウンロード、印刷ボタンを用意し、スマートフォンでも見やすい表示にします。アクセス制限やパスワード、送信ログを残しておくことで本人確認と交付履歴の証拠になります。
4) 記録と運用ルール
同意の記録(メールの送信履歴、回答記録、ログ)は必ず保存します。万が一の確認時に提示できるよう管理体制を整え、社内手順(誰がいつ送るか、再送時の扱いなど)を決めておきます。
これらを整備すれば、メール交付を安全かつ確実に運用できます。
メール交付による企業側のメリット
概要
メールで源泉徴収票を交付すると、印刷や封入・郵送の手間を減らせます。紙に関わるコストと作業時間を同時に下げられ、業務負担を軽くできます。
主なメリット
- コスト削減
-
印刷代、封筒・切手代、人手による封入作業などの経費を削減できます。大量の明細を毎年発送する企業ほど効果が出やすいです。
-
業務効率化
-
テンプレート化や一括送信で作業が短時間で終わります。配布状況をメールログで確認でき、未配付の対応も迅速です。
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保管・検索の容易さ
-
電子データで保存すれば、過去の交付履歴を瞬時に検索できます。物理保管スペースと管理コストを削減できます。
-
環境配慮と企業イメージ
-
ペーパーレスで紙資源を節約でき、環境への配慮を社外に示せます。CSRの一環として評価されます。
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可用性と拡張性
-
災害時の紙紛失リスクを低減し、従業員数が増えても対応しやすくなります。
-
従業員満足度の向上
- 受け取りが早く、紛失時の再発行対応が簡単です。本人がいつでも確認できる利便性が高まります。
従業員側のメリット
概要
メール交付やマイナポータル連携で源泉徴収票を受け取る利点を、実際の使い方を交えて分かりやすく説明します。日常の手続きがシンプルになり、時間と手間を節約できます。
マイナポータル連携で自動取得
マイナポータルと連携すると、企業が交付した源泉徴収票の情報を自動で取り込めます。例えば、年末調整後に手動で入力する必要が減り、確定申告書の作成が速くなります。
確定申告の手間が軽減
電子で受け取ったデータはそのままe-Taxや申告書作成ソフトに使えます。紙を探したり原本を税務署に持参する時間が省け、申告ミスも減ります。
いつでもどこでも確認・印刷
メールやクラウドに保存すれば、自宅や職場、出先からでも確認・印刷できます。急な手続きや転職の際にもすぐ対応できます。
原本添付不要で利便性向上
電子交付が認められるケースでは、申告時に源泉徴収票の原本添付が不要になることがあります。これにより、原本の紛失や郵送の手間を避けられます。
保管とセキュリティの注意
データはパスワード管理やバックアップを行ってください。不安な場合は会社に再発行を依頼できる点も知っておくと安心です。
メール交付時の注意点
1. セキュリティ対策
- 添付ファイルは必ず暗号化やパスワード保護を行います。パスワードは別の手段(電話やSMSなど)で伝えます。
- 送信前に宛先メールアドレスを二重に確認し、誤送信を防ぎます。誤送信があった場合は速やかに受信者に連絡し、削除を依頼して対応記録を残します。
2. 紙での対応体制
- 紙での発行を希望する従業員に備え、郵送または窓口交付の手順を整えます。本人確認方法と郵送時の追跡手段を用意します。
- 紙発行の手続きや手数料の有無を明確に案内します。
3. 書面が必要な場面への対応
- ローン申請などで書面提出が求められる場合があります。事前に書面版の交付に対応できる旨を伝え、必要な形式(原本、押印など)を確認します。
4. 従業員への周知と同意
- メール交付の方法やセキュリティ対策、紙請求の手順を分かりやすく案内し、事前に同意を得ます。質問窓口を設けて不安を解消します。
5. 記録と保存
- 交付記録(送信日時、送信先、対応履歴)を保存して万一の問い合わせに備えます。保存方法は個人情報保護の観点で安全に管理します。


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