はじめに
本レポートは「有給消化 期間」に関する情報を分かりやすくまとめたものです。法定有効期限(付与からの時効)や、年5日と定められた有給消化義務、時季指定での消化方法、付与日数と勤続年数の関係、繰り越しのルール、違反時の罰則、退職時の有給扱いなど、実務で押さえておきたいポイントを順に解説します。
目的
– 会社と労働者が有給の期限や取り扱いを正しく理解するための手引きです。実務で起きやすい疑問に対して、根拠となる考え方や例を示します。
読むときの注意点
– 法律の専門用語は最小限にし、具体例で補足します。実際の対応は就業規則や労使協定で変わることがありますので、最終確認は社内規定を参照してください。
本レポートは全9章で構成します。まずは基礎知識を押さえ、その後に具体的な計算や運用方法、違反時の対応まで順に見ていきます。
有給消化の法定期間:付与から2年間
概要
有給休暇には法定の有効期限があり、付与された日から起算して2年間で消滅します。企業が一方的に短くすることはできませんが、規定より長く設定することは可能です。
具体例
例えば、2024年4月1日に年次有給休暇が付与された場合、有効期限は2026年3月31日までです。この間に取得しなければ時効で消えてしまいます。
期限の数え方
付与日を含む1日目から2年後の前日までが有効期間です。付与日が明確でない場合は、雇用契約書や就業規則で確認してください。
会社の対応と労働者の注意点
会社は有給の消滅を防ぐために取得を促す措置を取る義務があります。労働者は定期的に残日数を確認し、スケジュールに組み込むと無駄を防げます。退職時には未消化分の取り扱いも確認してください。
よくある誤解
有給は自動で消えると思われがちですが、消滅するのは期限内に取得しなかった場合だけです。会社の運用で延長された場合は、その延長に従います。
年5日有給消化義務の背景と対象者
背景
2019年4月の労働基準法改正で、年次有給休暇の取得促進が強化されました。年間付与日数が10日以上の労働者に対して、企業は年5日以上の有給取得を確実にさせる義務を負います。狙いは、休暇を取りやすい職場環境の促進と、労働者の健康確保です。
対象者
対象は「年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者」です。通常は入社後6か月で年10日付与される場合が多く、その後の勤続年数に応じて日数が増えます。パートタイムも付与日数が10日以上であれば対象になります。試用期間中や付与前の者は対象外です。
企業の義務と対応例
企業は対象者に対し、年5日分を取得させるための具体的措置を講じる必要があります。主な対応は次のとおりです。
– 取得状況の把握と記録の保存
– 労働者への取得促進の周知と相談窓口の設置
– 会社が時季指定して休ませる(従業員が取得しない場合)
例:年10日付与の従業員が自発的に2日しか取らなかった場合、会社は残り3日を時季指定して取得させます。
注意点
関連規定や労使協定により運用細目が異なる場合があります。制度運用は社内ルールと法令を照らして進めてください。
年5日消化義務の計算方法
計算の基本
年5日の消化義務は、付与した基準日から1年以内に達成する必要があります。企業は従業員が自ら取得した日数を差し引き、足りない分を時季指定で消化させます。
実際の手順
- 付与日と付与日数を確認します。2. 基準日から1年以内に従業員が自主的に取得した有給日数を数えます。3. 企業が指定すべき日数は「5日 − 自主取得日数」です。0未満になれば指定は不要です。
具体例
・付与10日で自主取得0日:企業は5日を時季指定します。
・付与10日で自主取得3日:企業は2日を時季指定します。
・自主取得が5日以上:企業による指定は不要です。
注意点
半日や時間単位の取得がある場合は、社内ルールで日数換算します。時季指定した日は必ず書面や記録で残し、従業員に通知してください。
時季指定による有給消化の進め方
時季指定とは
企業が従業員の有給休暇取得日を指定する制度です。本人が消極的な場合でも、企業は年5日消化義務を果たすために時季指定を行えます。
適用される場面
従業員が自発的に休まない、あるいは取得計画を出さない場合に適用します。例:有給申請が1年間ほとんどない場合など。
進め方(手順)
- 事前に就業規則や運用ルールに基づき方針を確認します。
- 対象者へ書面やメールで時季指定の通知を出します。通知には取得日と理由を明記します。例:業務繁忙を避けるため、6月20日〜22日の間で1日指定。
- 従業員と面談して業務への影響や事情を聞きます。異議や合理的な事情があれば日程を調整します。
- 取得後は記録を残し、年5日消化の達成を確認します。
注意点
- 通知は具体的に行い、急すぎない期間を設けます。一般的には1〜2週間前が望ましいです。
- 病気など正当な理由がある場合は柔軟に対応します。
- 企業は必要性と合理性を説明できるようにします。
具体例
- 例1:申請がなく、会社が6月15日を指定。従業員と調整し了承を得て消化。
- 例2:従業員が介護で取得不可を主張したため別日で調整し消化。
以上の手順で、従業員の権利を守りつつ会社の義務を果たします。
有給休暇の付与日数と勤続年数の関係
基本ルール
有給休暇の付与日数は勤続年数に応じて増えます。一般的には入社後6か月で10日が付与され、以降は勤続年数に応じて段階的に増え、勤続6年6か月(6年半)で最大の20日になります。
具体的な付与日数の目安
- 入社6か月:10日
- 1年6か月(入社から1年半):11日
- 2年6か月:12日
- 3年6か月:14日
- 4年6か月:16日
- 5年6か月:18日
- 6年6か月以上:20日
各段階での増え方や間隔は、法令や就業規則で細かく定められますので、自社の規定も確認してください。
最高保有日数と企業ルール
通常、未消化の有給は所定の期限で消滅しますが、保有できる日数の目安として「40日」がよく挙げられます。企業は就業規則で上限を定め、40日を超えて保有できるよう運用することも可能です。
注意点
付与日数は雇用形態や所定労働日数で変わります。パートや短時間労働者は日数を按分することが多いので、具体的な計算は就業規則や労務担当に確認してください。
繰り越しルールと時効
繰り越しの仕組み
当年度に消化しきれなかった有給休暇は、原則として翌年度に繰り越されます。繰り越された日数は、次の年の残日数として扱われ、合わせて使用できます。
時効(消滅)ルール
有給休暇は「付与日から2年」で時効により消滅します。繰り越し自体は可能ですが、付与日から2年を過ぎるとその分は消えてしまいます。つまり、繰り越しは時効期間を延ばしません。
優先的消化の考え方
企業側も従業員側も、時効が近いものから優先して消化するのが基本です。多くの就業管理システムは「先に付与された日から順に」差し引くため、消滅期限が迫っている日から使うよう自動で処理されます。
実務上の注意点
- 自分の有給の付与日と消滅日を確認してください。
- 会社は残日数や消滅日を把握し、従業員に通知する義務があります。職場で確認を促しましょう。
具体例
2023年4月1日に10日付与→2025年3月31日に時効。2023年中に5日しか使わなければ、残り5日は翌年度に繰り越されますが、消滅日は2025年3月31日のままです。
違反時の罰則
違反となる行為
年5日の有給休暇取得義務を履行しないことは、労働基準法第39条第7項の違反に該当します。具体的には、対象となる労働者に対して年5日を確保させない、あるいは企業が時季指定を行わず取得を促さない場合などが含まれます。
罰則の内容
同法第120条により、違反した事業主には30万円以下の罰金が科される可能性があります。罰則は事業主を対象とした刑事罰であり、監督署の指導・勧告の後に科されることがあります。
具体例
・対象者が多数いるのに年5日を付与・取得させなかった場合、監督署が介入し改善命令や罰金となる可能性があります。
違反を防ぐための実務対応
- 対象者リストを作成し取得状況を定期的に確認する
- 取得しない社員には時季指定で取得させる
- 社内規程や手続きを明文化し周知する
- 取得記録を保存して説明できるようにする
相談先
問題が起きたら最寄りの労働基準監督署へ相談・通報してください。労使で解決できない場合、監督署が調査・指導します。
退職時の有給消化
退職時の基本ルール
退職日までに消化しない有給は原則として消滅します。残日数がある場合は、退職前に計画して消化するか、就業規則や会社の取り扱いを確認してください。
準備と確認事項
- 残日数を正確に確認します。直近の給与明細や勤怠システムの記録を見ましょう。
- 就業規則や退職時の取り扱いを確認します。会社によっては未消化分を金銭で清算する規定や、特別な手続きがあることがあります。
- 上司や人事と早めに相談し、書面(メール等)で合意を取り付けます。口頭だけだと後で証明が難しくなります。
具体的な進め方(例付き)
- 例1: 残5日、退職まで20営業日ある場合
- 計画的に有給を5日間取得して退職します。業務調整は余裕をもって行います。
- 例2: 残5日、退職まで3営業日しかない場合
- 会社と相談し、最終出勤日を調整するか、会社の規定で扱いを確認します。合意が得られれば退職日を後ろ倒しにして消化できます。
手続きと証拠づくり
有給の取得申請や会社とのやり取りはメールや書面で残しましょう。最終的な合意や未消化の扱いは、退職証明書や最終の給与明細で確認します。
注意点
有給の付与日からの時効(通常2年)や、会社独自のルールが絡むことがあります。早めに確認し、円満に退職できるよう計画的に進めてください。


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