有給消化と時間単位の取得方法や注意点を詳しく解説

目次

はじめに

目的

この資料は、有給休暇を時間単位で取得する制度(時間単位有給休暇)について、実務で使える形でわかりやすく整理したものです。制度の基本から運用上の注意点まで、段階的に学べる構成にしています。

対象読者

・人事・総務担当者
・管理職(勤怠管理を行う方)
・制度を利用する従業員
具体例を交え、専門用語は最小限にして解説します。

本資料の構成と読み方

第2章以降で制度の全体像、取得単位、年間の上限、労使協定の必要性、運用方法、繰り越しの扱い、将来の改正見込みまで順に説明します。まずは第2章で制度の基礎を押さし、第6章で実務フローを確認すると業務に取り入れやすくなります。

注意点

制度の運用には労使の合意や就業規則の整備が必要です。本資料は実務参考として提供しますので、具体的な導入時は社内のルールや専門家の確認をお勧めします。

時間単位有給休暇制度の基本概要

目的と位置づけ

時間単位有給休暇制度は、従来の1日単位の年次有給休暇を補う仕組みです。短時間の私用や体調不良、育児・介護の調整など、短い時間単位で休みを取りたい従業員を支援します。柔軟な働き方を促進し、職場への定着や生活の両立を図る目的で導入されます。

法的なポイント(概略)

原則として年次有給休暇は1日単位で付与されますが、労使協定を結ぶことで時間単位で取得できるようになります。企業は労働者代表と協議して協定を作成し、運用ルールを明確にする必要があります。

対象となる従業員

短時間勤務の方だけでなく、フルタイムで働く方も利用できます。各社の協定で対象範囲を定めるため、就業規則や労使協定の内容を確認してください。

日単位との違いと使いどころ

日単位は半日以上の休みや連続した休暇に向きます。一方、時間単位は病院受診や学校行事の参加、急な家庭の事情など数時間だけ休みたい場面で便利です。具体例として、午前中だけ病院に行く場合や、子どもの保護者面談で2時間抜ける場合などが挙げられます。

利点と留意点

利点は利用しやすさと柔軟性の向上です。ただし、運用ルール(取得単位、申請方法、残日数管理など)を明確にしないと混乱が生じます。次章で取得単位や上限などの詳細を説明します。

取得単位は1時間が最小

概要

時間単位での有給取得は、最小単位が1時間です。労働基準法施行規則第24条の5により、15分や30分といった1時間未満の取得は認められていません。つまり30分だけ休みたい場合でも、法的には1時間分の有給を使う必要があります。

具体例

  • 通院で30分遅刻した場合:1時間の有給減になります。
  • 午後に45分外出した場合:1時間で計算します。

実務上の注意

  • 就業規則や勤怠システムは1時間単位に合わせて設定してください。
  • 社内運用で短時間の休みを認めるときは、欠勤扱いか時間外調整で対応するなど、給与計算との整合性を確認してください。
  • 不明点があれば労務担当や社労士に相談してください。

年間取得上限は5日分(40時間)

概要

時間単位で取得できる年次有給休暇は、1年間に「5日分」までしか認められていません。1日分を時間に換算すると、所定労働時間に応じて異なります。標準的な8時間労働の場合は5日で40時間となりますが、勤務時間が短い場合は合計時間も小さくなります。

時間数の換算ルール

  • 所定労働時間が5時間以上6時間以下:1日=6時間
  • 6時間超〜7時間以下:1日=7時間
  • 7時間超〜8時間以下:1日=8時間
    このルールに沿って、5日分の上限時間を計算します。

具体例

  • 1日の所定労働時間が8時間の社員:5日=40時間
  • 1日の所定労働時間が6.5時間の社員:1日=7時間→5日=35時間
  • 1日の所定労働時間が5.5時間の社員:1日=6時間→5日=30時間

5日を超える取得

5日分を超えて時間単位で取得したい場合は、その超過分を日単位の有給休暇として取得する必要があります。事業者は取得時間を正確に管理し、従業員へ残日数や残時間を明確に伝えることが大切です。

運用上の注意点

管理は時間で計算したうえで、社員の所定労働時間に基づいて1日分を定めてください。帳簿や勤怠システムで累計を把握するとミスが減ります。年の途中で所定労働時間が変わる場合は、変更後の基準で調整する必要があります。

労使協定の締結が必須

概要

時間単位の有給休暇を導入するには、使用者と労働者の間で明確な労使協定を結ぶ必要があります。企業が単独で決めることはできません。協定は書面で作成し、関係者の合意を得ておきます。

協定に必ず明記する事項

  • 時間単位の有給休暇を使える旨と年ごとの上限日数や時間数。具体例:年間40時間まで利用可。
  • 対象となる従業員の範囲(正社員・契約社員など)。
  • 1日の年次有給休暇に相当する時間数(多くの場合は8時間など)。
  • 時間単位付与の最低単位(例:1時間単位)。
  • 時間単位で取得した場合の賃金の取り扱い(通常は有給扱いで全額支給など)。

協定の手続きと保存

労働者代表や労働組合と協議し、署名・押印の日付を明記します。作成後は社内で共有し、所定の期間(企業の規定に応じた)保存します。自治体や労基署へ届け出るケースもあるため、必要に応じて確認してください。

合意形成のポイント

従業員が理解しやすい説明を行い、運用ルール(申請方法・取扱時間の丸め方・繰越の可否)を具体化すると混乱を防げます。例:申請は前日まで、30分未満は切り上げしない等、実務上の運用を協定に合わせて整えます。

実務的な運用方法

運用の基本方針

時間単位有給は法令上は1時間単位が最小です。実務では1時間単位で取得させつつ、実際の離席を30分で行う柔軟な運用が可能です。本人の同意を得て運用することが前提です。

勤怠記録との整合性

タイムカードや勤怠システムの記録と矛盾しない運用が重要です。例えば「有給1時間取得+実際の離席30分」という場合は、勤怠上は有給1時間で処理し、備考に実際の離席時間を残す運用が考えられます。丸めルール(15分単位/30分単位)を決め、就業規則や運用ルールに明記してください。

フレックスタイムとの併用

フレックスタイム制度があると始業・終業の調整で対応しやすくなります。コアタイムや清算期間の扱いを明確にして、時間休の申請と勤務時間の管理が混同しないようにします。

手続き・承認フロー

申請は事前に行い、上長が承認するフローを定めます。急な離席は事後申請を認めるルールを設けると現場で回りやすくなります。

周知と教育

運用ルールは書面で提示し、従業員に説明会やFAQで周知してください。勤怠担当者には例外対応の基準を共有しておくと統一的に処理できます。

具体例

・午前中に私用で30分離席:有給1時間で申請、勤怠は有給1時間。備考で実際の離席を記録。
・フレックスで調整:コアタイム外に出社時間を遅らせ、その分で帳尻を合わせる方法。

これらを踏まえ、就業規則と労使協定に沿って運用してください。

繰り越しと付与日数の考え方

基本的な考え方

時間単位で消化しきれなかった有給は次年度に繰り越されます。繰り越す際は「日」と「時間」を別々に管理する企業が多いです。日数は所定労働時間で時間に換算できますが、実務上は両方の残高を明示する方が分かりやすいです。

具体例(分かりやすく)

所定労働時間が1日=8時間の従業員を想定します。前年度に未使用の有休が3日分と、時間単位の未使用が4時間分あったとします。次年度に新たに12日が付与されると、翌年の始めには「15日と4時間」が利用可能な残高になります(前年の3日+新たな12日、時間の残りは4時間)。

計算と運用のポイント

  • 日→時間や時間→日の換算は「所定労働時間」を基準に行います。会社の就業規則で明確にしてください。
  • システム上は日数と時間を別項目で記録すると、誤差や誤解を防げます。
  • 時間を繰り越す場合の端数処理(切り捨て・切り上げ)や、年をまたいだ有効期限は就業規則で定めて、従業員に周知してください。

実務上の注意点

  • 給与明細や共通のポータルで残日数・残時間を見える化すると問い合わせが減ります。
  • 付与日や繰り越しのタイミングを統一し、個別の特例がある場合は記録を残してください。
  • 労使で運用ルールを合意して、誤解のない運用を心がけましょう。

今後の制度改正予定

概要

現在は年5日分(40時間)が時間単位有給休暇の上限ですが、2025年度中に上限緩和が本格化する見込みです。緩和後は、付与される年休の日数に応じて取得可能な時間数が増える方向で調整される可能性があります。例として、年次有給が14日付与される場合、最大で7日分まで時間単位で取得できる案が挙がっています。

企業・社員への影響(具体例)

  • 企業側:就業規則や労使協定の見直し、勤怠システムの設定変更、給与計算ルールの確認が必要になります。
  • 社員側:小刻みな休み取りがしやすくなり、育児・通院などでの柔軟な休暇活用が期待できます。

実務対応のポイント

  1. 就業規則と労使協定の改定案を用意してください。法改正後、速やかに整備できるよう事前準備が重要です。
  2. 勤怠・給与システムは時間数での管理が可能か確認してください。テスト運用をおすすめします。
  3. 社員向けの運用ルール(最小単位、申請手順、承認フロー)を明確にしてください。

注意点

  • 緩和の内容は法令の最終決定によります。最終的な上限や適用条件は変わる可能性があります。必要に応じて社労士や弁護士に相談してください。

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