はじめに
目的
本資料は、退職に関する手続きを進める際に出てくる「退職届」と「退職願」の違いをわかりやすく示すことを目的としています。両者の法的性質や書き方、提出のタイミング、撤回の可否などを比べ、円満退職と確実な退職成立の両方をかなえる選び方を紹介します。
対象読者
- 退職を考えている方
- 人事・総務担当者や上司で対応が必要な方
- 退職手続きに不安がある方
本書の読み方
各章で一つのテーマを取り上げ、ポイントと具体例を提示します。まず第2章で基本的な定義と法的性質を説明し、その後、撤回可能性や効力発生のタイミング、書き方や提出の目安を順に解説します。実務でよくあるケースも取り上げます。
注意事項
企業ごとの就業規則や個別の事情で取り扱いが変わることがあります。具体的な判断が必要な場合は、社内の人事担当者や労働相談窓口、専門家に相談してください。
退職届と退職願の基本的な定義と法的性質の違い
定義
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退職願:従業員が会社に「退職をお願いします」と申し入れる文書です。会社の承諾を得て退職が成立するという考え方が背景にあります。円満な相談や交渉を目的に使うことが多いです。
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退職届:従業員が「退職します」と通知する文書です。会社の承認を待たずに意思表示として効力を持たせるために用います。退職の意思を明確に伝える正式な書類と見なされます。
法的性質の違い(簡潔な説明と具体例)
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法的効力:労働関係では、原則として従業員は退職の意思を示せば退職できます。労働基準法により、2週間前の意思表示で退職できる点が基礎となります。退職届はこの意思表示を形式化したものとして強い効力を持ちます。退職願はあくまで「お願い」ですから、会社の合意が必要になります。
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具体例:上司に退職をお願いして会社が承諾した場合は、退職願で成立します。一方、期日を指定して退職届を出し、相手が応じなくても期日後に退職するケースもあります。
実務上の注意点
- まずは話し合いで退職願を使い、合意が得られないときや期日を明確にしたいときに退職届を提出する流れが一般的です。書式や一枚の紙でも効力は生じますので、内容は簡潔に日付と退職日、氏名を書くことをお勧めします。
退職届と退職願の撤回可能性の違い
結論
退職願は会社が承諾する前であれば撤回できます。一方、退職届は原則として撤回できません。提出後に退職の効力が発生するため、注意が必要です。
なぜ違うのか(やさしい説明)
退職願は“会社に対する申し出”のような性質を持ちます。申し出を出しても会社が承諾しなければ成立しないため、事情が変われば取り下げられます。退職届は“効力が生じる宣言”に近く、一度提出して効力要件が満たされると撤回は難しくなります。
具体例
- 退職願:家庭の事情で出したが状況が改善したため、会社が受理する前に取り下げた。
- 退職届:正式に提出し、会社側の手続きが進んだ後で取り下げを申し出ても認められないことが多い。
撤回する際の実務ポイント
- 撤回したいときは速やかに口頭と文書で会社に伝え、会社の承諾を得ることを目指してください。
- 会社が書面で撤回受理を書いてくれれば後のトラブルを避けられます。
- 労働契約や就業規則を確認し、場合によっては労働組合や労働相談窓口に相談してください。
注意点
会社の同意が必要な点は忘れないでください。例外的に会社が同意すれば撤回できることもありますが、期日や業務引継ぎの状況によっては認められない場合があります。
退職届と退職願の効力が発生するタイミングの違い
退職願の効力
退職願は「会社に辞めたいという申し入れ」です。会社が承諾することで合意が成立します。つまり、退職願を出しても会社が受け入れなければ退職は確定しません。例えば、6月1日に退職願を出し、会社が6月10日に承諾すれば、双方の合意は承諾時点で成立します。承諾の有無で退職日や手続きが変わるため、会社との折衝が必要になります。
退職届の効力
退職届は「退職の意思表示」を書面で示したもので、会社の承諾を前提としません。意思表示が会社側に届いた時点で効力が生じます。よくある例は、書面を手渡して受領印をもらった時点や、メールで送って受信確認が取れた時点です。届いた日を基準に退職の扱いが始まります。
実務上の注意点
- 会社の就業規則や雇用契約に退職の予告期間がある場合は、それに従うこと。
- 退職届でも退職日を明記すると誤解が少なくなります。
- 会社が混乱する場合は、口頭で確認を取り、書面で記録を残してください。
具体的な手順を確認して、トラブルを避けてください。
退職届と退職願の書き方と文言の違い
基本の考え方
退職願は会社に許可を求める依頼文、退職届は意思を示す宣言文です。文末の表現で区別します。一般に理由は『一身上の都合により』と簡潔にします。
書式の共通項目
- 日付(提出日または退職希望日)
- 宛先(会社名・代表者名や上司名)
- 本文(退職の旨)
- 署名・印
文言の違い(例)
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退職願(依頼)例:
『私事ではございますが、一身上の都合により令和○年○月○日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。』 -
退職届(宣言)例:
『私事ではございますが、一身上の都合により令和○年○月○日をもって退職いたします。ここに届出いたします。』
書き方のポイント
- 理由は具体的に書く必要はありません。プライバシー保護のため簡潔にします。
- 有効日(退職日)は明記します。就業規則の規定に合わせてください。
- 署名は自署が望ましいです。押印が求められる場合もあります。
- 提出前に上司に口頭で相談すると円滑です。
手書きか電子か
正式な場面では手書き(自署)と押印を推奨します。会社が電子提出を認めている場合は規定に従ってください。
退職届と退職願の提出のタイミングの違い
概要
退職願は「退職したい」という意思を伝える段階の書面で、退職予定日の目安を伝えます。一般的に1か月前を目安に出すことが多いです。退職届は退職日が確定した後に正式に提出する書面で、原則として退職日前日までに出すことが多いです。
退職願を提出するタイミング
- 退職を決めた時点で上司に相談し、意思を文書で示します。
- 引き継ぎや調整の余地があるため、早めに出すほど会社側も対応しやすくなります。
- 就業規則に所定の期間があればそれに合わせますが、目安は1か月前です。
退職届を提出するタイミング
- 退職日が確定した段階で正式に提出します。会社が受理すると効力が明確になります。
- 提出方法は手渡しや郵送、メール添付などがあります。郵送の場合は受領の確認を取ってください。
- 契約や就業規則に特別な規定がある場合は、それに従います。
実務上の注意点
- まず口頭で相談したうえで書面を出すと誤解が少なくなります。
- 引き継ぎ期間や有給消化、最終出勤日の調整は早めに話し合って決めます。
- 退職届は受理した証拠(受領印やメール確認)を残すと安心です。
具体例
- 一般社員:退職願を1か月前に提出→調整後、退職日の1週間前に退職届を提出。
- プロジェクト責任者:重要な引き継ぎがあるため2〜3か月前に退職願を出すこともある。
以上を参考に、ご自分の状況や就業規則に合わせてタイミングを検討してください。
退職届と退職願の使い分けのポイント
概要
退職願は「相談/申請」的な性格で、話し合いや日程調整に向きます。退職届は「決意表明」で、撤回が難しいため確実に辞めたいときに使います。
退職願を使う場面
- 円満退職を目指すとき。上司と話し合って退職日や引き継ぎを決めたい場合に向きます。
- 引き止めが予想されるが調整の余地がある場合。例えば「来月中に辞めたいが引き継ぎが必要」というときに、まず願いを出して交渉します。
退職届を使う場面
- 転職先の日程が確定しており、退職日を変更できないとき。例:新職場が1日に始まるため前月末で辞める必要がある場合。
- ハラスメントや勤務継続が難しい事情があり、確実に離れたいとき。
使い分けの具体例
- 余裕があり関係を維持したい:退職願を出して話し合う。引き継ぎや推薦を頼みやすくなります。
- 余地がなく即時性が必要:退職届で明確に意思表示する。相手に変えさせにくくなります。
提出時の実務ポイント
- まず口頭で上司に相談してから書面を出すと誤解が少なくなります。
- 提出後は控えをもらう、退職日や有休消化の確認を人事に行ってください。
注意点
- 書き方や社内規定で扱いが変わることがあります。就業規則や人事に確認してください。
- どちらを選んでも、冷静に文言と日程を整えることが、円満な退職につながります。
退職届と退職願のまとめ
主要な違い
退職願は「退職をお願いします」という柔らかい意思表示で、会社と話し合いや撤回ができる点が特徴です。退職届は「退職します」と通告する確定的な意思表示で、原則として撤回できません。効力の生じ方も異なり、退職願は会社の受理や合意で確定し、退職届は提出で効果を発する場合が多いです。
使い分けの基準
職場環境や転職準備の状況、会社との関係性で判断します。転職先が確定しておらず交渉や引継ぎが必要なら退職願が適します。内定が決まり退職日が確定している場合は退職届で通告すると明確です。
一般的な手順(目安)
- まず上司に口頭で相談します。
- 調整が必要なら退職願を提出して話し合います。
- 合意が得られ最終決定したら退職届を出すと印象が良く、トラブルを避けやすいです。就業規則に従って提出期限や手続きも確認してください。
注意点
日付や退職希望日を明確に記載し、受領の証拠(受領印やメール)を残します。感情的な表現は避け、引継ぎや有給の扱いも事前に確認しましょう。
最後に
一般的には退職願→調整→退職届という流れが円満退職につながりやすいです。状況に応じて柔軟に判断し、誠実に対応することが大切です。


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