はじめに
目的
この章では、本書の目的と使い方をわかりやすく説明します。就業規則に書かれていない事柄を調べたり、会社に対して主張したりするときの基本的な考え方を整理します。具体例を交えて、どこを確認すればよいかを示します。
読者の想定
- 会社員や派遣・アルバイトなど雇用されている方
- 人事や総務の担当者で、規則の補完を考えている方
- 労働条件について疑問がある方
実務に詳しくなくても理解できるように書いています。専門用語はできるだけ避け、必要な場合は具体例で補足します。
本書の使い方
各章は次の順で読み進めてください。まずよくある「載っていない」パターンを確認し、その後で自分のケースに当てはまるかを照らし合わせます。記載がない場合の対応策を示し、最後に法律上のポイントをざっくり解説します。例えば「残業手当の支払い方法が書かれていない」「育児休業の扱いが不明」など、実例に沿って考え方を示します。
読むときの注意点
就業規則は会社ごとに表現や範囲が違います。ここで示す方法は一般的な考え方です。まずは自社の規則や労働契約書を確認し、必要なら労働基準監督署や専門家に相談してください。
よくある「載っていない」パターン
1. 残業代・手当など「お金」に関するルールがない
就業規則に残業代の計算方法や各種手当の支給条件が書かれていないことがあります。たとえば「深夜手当」「通勤手当」「役職手当」の支給対象が明示されていないと、実務で混乱します。口頭の説明だけだと証拠になりにくいので、支払い根拠や計算方法を文書で確認すると安心です。
2. テレワーク・副業・服装・SNS利用などの新しい働き方に関する規定がない
テレワークや副業について明確なルールがないと、労働時間管理や情報漏えい時の対応があいまいになります。服装やSNSの利用も同様で、企業の期待と従業員の自由の境界が不明確になることがあります。
3. 休職・育休・介護休暇・特別休暇などの制度が具体的に書かれていない
法律で最低限の権利が保障されているものもありますが、会社独自の条件や手続きが未記載だと申請時に手間が増えます。例えば休職の期間や給付の扱い、復職の手続きが不明だとトラブルになりやすいです。
なぜこうした空欄があるのか
法律上「必ず書かなければならない事項」と、「定めがあるなら書くべき事項」があります。後者は会社がその制度を用意していなければ就業規則に載っていないことがあります。そのため、載っていないからといって必ず違法というわけではありません。
実務上の注意点(簡単な対処)
- 就業規則と雇用契約書をまず照らし合わせてください。口頭での説明は証拠になりにくいです。
- 不明点は人事に書面やメールで確認しておくと安心です。
- 労働時間や支払いの記録は自分でも残してください。
次章で、まず確認すべき具体的なポイントを順に説明します。
まず確認すべきこと
どこを探すか
まず就業規則の「本体」だけで終わらせないでください。給与規程、退職金規程、在宅勤務規程、育児介護規程などの別規程を探します。別紙、社内ポータル、誓約書やワークフローのマニュアルにもルールが隠れていることがあります。
最新版かどうかを確認する
ファイル名や改定日だけで安心しないでください。総務や人事に「最新版」をメールで確認し、受け取った日付を控えます。電子掲示やイントラの更新履歴も見てください。
労働契約書・労働条件通知書のチェック
個別の労働契約書や労働条件通知書に特別条項が書かれていることがあります。例えば、裁量労働や在宅勤務の適用範囲が個別に定められる場合です。契約書と規程の差異を見つけたら、いつ誰が合意したかを確認します。
実務上の注意点(簡単な手順)
1) 規程一覧を作る(ファイル名・改定日・入手先)
2) 規程同士・契約書と文言を比較する
3) 不明点は文書で質問する(口頭だけで済ませない)
よくある具体例
- 在宅勤務は就業規則に触れず、別規程で運用している
- 手当の算定方法が給与規程にだけ書かれている
これらは見落としやすいので、必ず別規程まで確認してください。
載っていない場合の対応
1. まずは事実確認を行う
上司や人事・総務に「就業規則や規程のどこに書いてあるか教えてください」と尋ね、口頭だけで終わらせずメール等で記録を残してください。具体的には「○月○日に減給の通知を受けたが、規定の箇所を教えてほしい」といった形で事実を整理します。給与明細や通知文、やり取りのスクリーンショットを保存しましょう。
2. 規定が見つからないときの相談先
どこにも規定がないのに不利益な扱い(減給、懲戒、欠勤扱いなど)を受けている場合は、相談を検討してください。主な相談先は次の通りです。
- 労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナー
- 労働組合(加入している場合)
- 弁護士(労働問題を扱う法律事務所)
相談時は、事実関係を示す書類を持参すると話が進みやすくなります。
3. 会社側に求めるべき対応
会社に対しては、運用を口頭や“慣例”だけで行わず、就業規則や個別の規程に明文化するよう求めてください。就業規則の不備でトラブルになるケースが多いため、次の対応を提案します。
- 規程を作るか既存規程を改定する
- 労働者への周知を文書で行う(説明会やメールの記録)
- 運用変更は就業規則・雇用契約に反映する
4. 実務的な注意点
不利益取り扱いを受けたと感じたら、感情的に対抗せず記録を整え、まずは相談機関に相談してください。会社との話し合いは書面で行い、回答が出ない場合は専門家に相談することが早期解決につながります。
法律上のポイント(ざっくり)
就業規則に何を載せるかは法律上の区分があります。ここでは分かりやすく三つに分けて説明します。
絶対的必要記載事項
労働時間・休日・賃金・退職など、労働者の権利に直結する事項は必ず書かなければなりません。具体例:始業・終業時刻、休日の規定、賃金の計算方法と支払日、解雇・退職の手続き。常時10人以上の事業場では就業規則の作成と届出が義務となります。
相対的必要記載事項
退職金・懲戒・表彰・安全衛生など、制度を設けるなら記載すべき事項です。たとえば「懲戒の種類と手続き」を設けるなら、基準を規則に明示しておくと後のトラブルを防げます。
任意記載事項
経営理念や行動指針、服装規定、福利厚生の詳細など、法律上の義務はないが記載して差し支えない事項です。社内の運用を明確にするために載せると良いでしょう。
相談対応について
具体的な相談内容に応じて、労基署や社労士、弁護士の窓口案内や、従業員向けの通知文例(変更通知、説明会案内など)を整理できます。簡単な文面例:
・変更通知:「就業規則の一部を改定します。詳細は説明会でご案内します。ご質問は人事まで。」
・相談案内:「ご不明点は労務担当または社労士までご連絡ください。」
必要なら、相談内容に合わせて窓口や文面例を具体的に作成します。


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