はじめに
本章の目的
有給休暇の取得に関する基本的な考え方をやさしく説明します。労働者が持つ権利と、会社が日程を指定できる例外的なケースの輪郭を最初に示します。
有給休暇の原則
労働者は、原則として有給休暇をいつ取得するかを自分で決める権利があります。たとえば、家族の行事や体調に合わせて休みを設定できます。会社が一方的に取得日を決めることは基本的にできません。
例外とその根拠
ただし、法律上の義務や労使協定に基づく指定は認められています。たとえば、事業所全体の操業停止(年末年始や工場の定期休業)で全員を休ませるケースや、労使で取り決めたルールに従って時季を指定する場合があります。これらは例外であり、理由と手続きが重要です。
本書の読み方
以降の章で、基本ルール、認められる具体例、違法になり得る指定、実務上の注意点、困ったときの相談先を順に解説します。まずは「権利がある」という点を押さえておいてください。
有給消化・会社指定の基本
概要
有給消化とは、会社から付与された年次有給休暇を取得して消化することです。年休は労働者の権利であり、原則として本人が取得日を決めます。例えば、入社後に10日付与された場合は、自分の予定に合わせて休めます。
労基法の改正と会社の義務
労働基準法の改正により、年10日以上付与される労働者に対して、会社は年5日分の有給を取得させる義務があります。会社は労働者が希望する日だけで5日確保できないときに、会社が日にちを指定して取得させることが認められます。
会社指定の目的と範囲
会社指定は業務の運営や労働者の健康確保が目的です。指定できるのは合理的な範囲に限られ、繁忙期の調整やシフト調整など具体的な理由が必要です。極端に一方的な指定は問題になります。
実務上の流れ
- 会社が年5日取得の方針を周知します。
- 労働者に希望日を聞きます。
- 希望日が足りない場合、会社が指定日を通知します。通知は十分な猶予と書面・メールで行うとよいです。
留意点
- 指定が不当かどうかは理由や通知の方法・時期で判断されます。
- まずは会社と話し合い、解決しない場合は労働基準監督署や専門家に相談してください。
「会社指定」が認められるケース
概要
会社が有給休暇の時季を指定できるのは、法律で定められた範囲内に限られます。主に次の二つのケースで認められます。
1. 年5日取得義務を満たすための時季指定
有給のうち最低5日を取得させる義務がある場合、従業員が自ら取得しないときは会社が時季を指定できます。具体例として、従業員が年に2日しか取得していなければ、会社は残り3日について時季を指定して使用させることができます。会社は業務運営上の必要性を説明し、事前に通知してなるべく従業員の事情も考慮します。
2. 労使協定に基づく計画年休
労働組合や代表者との協定で、特定の日を計画的に年休として扱うことが合意されている場合、会社はその日を有給扱いの休暇日として指定できます。たとえば夏季休業や一斉休業日に合わせて全員に数日を割り当てるケースです。協定内容を明確にし、対象者に周知することが必要です。
指定するときの注意点
指定は有給の範囲内で行い、従業員の権利を不当に制限してはいけません。事前通知や合意の有無、業務上の理由を丁寧に説明することが大切です。
違法になり得る会社指定
この章では、会社が行う「有給の一方的指定」で違法になり得る典型例を分かりやすく説明します。労働者の申請や同意を無視して残日数を減らす行為や、希望を全く聞かず日程を押し付ける指定はトラブルの原因になります。
原則:本人の意思が大切
会社は有給の管理や取得の調整を行えますが、基本は労働者の意思に基づいて取得されるべきです。本人が申請していないのに勝手に有給扱いにするのは問題になります。
具体的な違法になり得る行為(例)
- 労働者が申請していないのに会社が一方的に「有給扱い」にして残日数を減らす。例えば、欠勤を有給に振り替えて記録するケース。
- 休暇の希望を全く聞かず、社員に選択の余地を与えずに特定の日程を強制する。
- 一度決めた取得を労働者の同意なく取り消したり、変更を認めない扱いをする。
- 特定の社員だけに有給指定を繰り返し、不利益を与える(不当な差別扱い)。
なぜ問題になるのか
本人の同意がないまま残日数を減らすと、労働者の権利を侵害し、信頼関係を損ねます。記録の不一致や賃金計算のトラブルにもつながります。
起きたときの対応(簡単)
- まず上司や人事に書面(メールなど)で確認を求め、指示の根拠を記録しましょう。
- 自分の出勤記録や申請履歴を保存しておきます。
- 解決しない場合は労働基準監督署や社労士に相談してください。
よくある実務上のポイント
年5日を超える有給の取り方
年5日を超える有給は、労働者が取得したい日を指定して申請します。会社は業務に支障がない限り、原則としてその指定を認める必要があります。自分で日を選べる権利を意識してください。
申請のポイント
- 早めに希望日を出す:計画が立てやすくなり、調整もしやすくなります。
- 代替対応を提案する:業務引継ぎや代理の手配案を添えると通りやすくなります。
- 書面で残す:メールや申請システムで記録を残しておきます。
会社が認めない場合の対応
会社は業務に著しい支障があると判断した場合にのみ拒否できます。拒否されたら、理由の具体的説明を求め、代替日を相談しましょう。納得できないときは就業規則や労使協定の該当部分を確認してください。
実務上の注意点(例)
- 繁忙期やシフト制では調整が必要になります。事前にチームで共有しておくと円滑です。
- 年度末や有給の繰越ルールを確認して、失効を避けましょう。
確認すべき書類や手続き
就業規則、労使協定、社内の有給申請ルールをチェックしてください。年5日を超える部分について、自分で日を指定したい旨を明確に伝えると安心です。
困ったときの相談先
社内でまず確認する相手
- 人事・総務・労務担当:会社の規則や過去の運用を確認できます。具体的な「会社指定」の理由や日時を書面で求めると整理しやすいです。
- 労働組合:加入している場合は相談と支援を受けられます。仲介してくれることが多いです。
外部に相談するとき
- 労働基準監督署:法令違反の疑いがあるときに相談・是正指導を受けられます。匿名での相談も可能です。
- 弁護士(労働問題に強い弁護士):法的な対応や交渉、訴訟の検討を助けます。初回相談は無料または有料の事務所があります。
- 社会保険労務士(社労士):就業規則や手続き、労務管理の専門家です。労使折衝の実務支援をしてくれます。
相談時に用意するとよい具体的情報
- 会社指定の通知(メール・書面)、日時、指示内容
- 有給の残日数、取得履歴(日付や申請の証拠)
- 就業規則や雇用契約書、出勤管理表の写し
- やり取りの記録(上司とのメールやメモ)
相談の流れと期待できること
- まず事実関係を整理して相談します。相手が何を求めているか、法的に問題があるかを判断します。
- 行政は事実関係の調査や指導を行い、専門家は交渉や文書作成で支援します。
相談先の選び方と費用の目安
- 小さな疑問は労基署や無料窓口へ。複雑な交渉や損害賠償を検討するなら弁護士へ相談します。
- 弁護士は初回相談で5千〜2万円程度、着手金や報酬は内容で変わります。社労士も業務により費用が異なります。
相談前の簡単チェックリスト
- 会社指定の文書は保存しましたか?
- 有給の残日数と直近の取得状況を確認しましたか?
- 相談で何を望むか(是正、交渉、説明)を整理しましたか?
必要があれば、会社指定の内容や有給の残日数、取得状況を教えてください。整理して説明します。


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