はじめに
目的
本資料は「退職代行 認めない」というキーワードを中心に、会社側が退職代行を認めない場合の法的な位置づけや実務上の対応について分かりやすく整理します。労働者側と会社側、双方の視点から考えやすいようにまとめています。
対象読者
・退職を考えていて退職代行の利用を検討している方
・退職代行からの連絡を受けた企業の人事担当者
・労働問題に関心のある一般の方
本資料の構成(全6章)
第1章 はじめに(本章)
第2章 退職代行サービスの合法性と違法リスク
第3章 会社は退職代行からの連絡を拒否できるか?
第4章 違法なおそれのある退職代行に対する会社の対応
第5章 退職代行を認めないと言われても退職自体は拒否できない理由
第6章 会社側から見た退職代行への実務対応
注意事項
本記事は一般的な解説です。個別の事案は事情が異なるため、必要な場合は弁護士や労働相談窓口にご相談ください。
退職代行サービスの合法性と違法リスク
概要
退職代行の利用自体は労働者の自由で、原則違法ではありません。本人の退職の意思を会社に伝える行為は、弁護士でなくても可能な範囲です。
合法とされる行為の例
- 退職の意思表示を本人に代わって伝える
- 退職手続きに関する案内や手配(例:必要書類の受け渡し)
具体例:代行業者が「本日付で退職届を提出します」と会社へ連絡する場合は問題になりにくいです。
違法となるおそれのある行為(非弁行為)
- 有給休暇の消化や未払い残業代の請求を報酬を得て代理交渉する
- 労働条件の変更や金銭請求を法律的に主張する行為
例:業者が「未払い残業代を請求して回収します」と有料で約束すると、弁護士法違反のおそれがあります。
利用時の注意点
- 業者のサービス範囲を確認し、書面やメールで記録を残すこと
- 法的請求を望む場合は、弁護士や労働組合に相談すること
- 会社とのやり取りは記録(メールやLINEの保存)しておくと安心です
安全に使うには、業者に何を頼むかを明確にし、法的な部分は専門家に任せるのが賢明です。
会社は退職代行からの連絡を拒否できるか?
背景と結論
無期雇用の労働者は、民法627条1項により退職の申出から2週間で退職できます。法律上の要件が満たされれば、会社は退職自体を拒否できません。会社が「退職代行だから認めない」と主張しても、退職の効力を消すことはできません。
到達の要件と具体例
退職が成立するには、退職の意思表示が会社に到達していることが必要です。到達と認められる例を挙げます。
– 退職代行が会社の担当者に口頭で伝え、その担当者が受け取った場合
– 書面や内容証明郵便が会社に届いた場合
– 会社の業務用メールアドレスに通知が届き、送受信記録がある場合
会社の主張と実務上の注意点
会社は「代行からの連絡は受け取らない」と言うことがありますが、到達事実があれば退職は成立します。届いたかどうか争いになれば、最終的に裁判で判断されます。
証拠の残し方と対応策
- 内容証明や配達記録など届いたことを示す記録を残してください。
- 退職代行のやり取りや領収書、メールの送信履歴を保管してください。
- 会社に受領確認を求め、応答がない場合は証拠を基に労働相談窓口や弁護士に相談すると安心です。
ただし、特殊な就業規則や契約で別段の定めがある場合は個別に確認してください。
違法なおそれのある退職代行に対する会社の対応
概要
弁護士資格のない退職代行業者が、有給休暇の取得調整や未払残業代の請求、損害賠償請求などの法的交渉を代行すると非弁行為となり、弁護士法72条に抵触するおそれがあります。企業はこうした違法なおそれのある代理交渉を拒否できる場合があります。
企業が取るべき具体的対応
- 業者の資格を確認する
- まず連絡元が弁護士かどうかを確認します。弁護士であれば事務所名や登録番号の提示を求めます。
- 法的主張の代理交渉は拒否する
- 未払賃金や損害賠償の代理交渉を求められたら、本人または弁護士からの連絡を求める旨を伝えます。例:「当社は弁護士資格を持たない第三者による法的代理交渉には応じられません。本人または弁護士からのご連絡をお願いします。」
- 退職の意思表示は受け止める
- 退職そのものの意思表示は原則として有効です。代行からの連絡であっても、会社は退職の届け出を受理する準備をしておく必要があります。本人確認のために社員番号や本人からのメール等で確認すると安心です。
実務上の注意点
- やり取りは書面やメールで記録し、日時を保存します。
- 威圧的な言動や脅迫があれば速やかに顧問弁護士や警察に相談します。
- 代行業者との応対は法務部門や顧問弁護士を通して行うと安全です。
具体例
- 例1:業者が未払残業代の請求を代行してきた場合→代理交渉は断り、本人または弁護士を指定する。
- 例2:業者が「退職します」と連絡してきた場合→退職届の提出方法を案内し、本人確認を行った上で手続きを進める。
これらを踏まえ、違法なおそれのある退職代行には慎重に対応してください。
退職代行を認めないと言われても退職自体は拒否できない理由
法的な基礎
労働者の退職の自由は民法と判例で強く守られています。雇用契約は一方的に終了を申し入れられる性質があり、会社が一方的に「退職を認めない」と言っても、それだけで契約を続けさせる法的根拠にはなりません。
無期雇用(2週間ルール)
正社員など無期雇用では、退職の意思表示から原則2週間経てば雇用関係は終了します。会社の承諾は不要です。具体例:月初に退職を申し出て2週間後に出勤しなければ退職が成立します。
有期雇用の扱い
有期雇用でも、やむを得ない事情があれば中途解約が認められます。例えば、長時間の未払い賃金や過重な労働があれば退職できるケースがあります。
会社が拒否したときの対応
会社が退職代行だから認めないと言うのは法的根拠に乏しいです。書面で退職届や退職の意思を残し、日時を記録してください。未払い賃金や有給消化の請求は別途求められます。
実務上の注意点
退職の意思表示をメールや内容証明で行うと証拠になります。会社側が引き止めや威圧をする場合は証拠を集め、必要なら労働基準監督署や弁護士に相談してください。
会社側から見た退職代行への実務対応
はじめに
退職代行から連絡が来たとき、会社は冷静かつ事実を確認して対応する必要があります。感情的に応じず、手順に沿って事実を記録してください。
初動対応(確認する項目)
- 業者名・担当者名・連絡先を記録します。電話やメールのやり取りはすべて保存します。
- 本人からの委任状や委任を示す書面があるか確認します。例えば本人の署名入りの委任状やメール本文の明示的な委任記載です。
- 業者が弁護士か一般の代行業者かを確認します。弁護士であれば所属事務所と名簿照会も検討します。
交渉・対応方針
- 業者が一般業者で、委任状が不十分、または非弁行為が疑われる場合は、交渉は本人か代理権のある弁護士に限定します。口頭での応答は避け、書面でのやり取りを基本とします。
- 退職条件や賃金・未払金など金銭請求がある場合は、本人または弁護士と直接交渉してください。代行業者と金銭面の合意を進めないようにします。
記録と対応の流れ
- 受信記録を作成(日時、方法、担当者)
- 委任の有無を確認し、必要なら委任状の提示を請求
- 弁護士であれば弁護士名と事務所確認、一般業者なら業者の責任範囲を文書で求める
- 金銭的請求は本人または弁護士と直接の協議に限定
- 記録を保存し、社内で方針共有する
注意点
- 法的な判断が必要な場合は社外の法律顧問に相談してください。裁判外での合意にリスクがある場面では、書面化を徹底してください。


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