はじめに
目的
本資料は「懲戒解雇」について、基本的な定義から手続き、従業員への影響までを分かりやすくまとめた入門ガイドです。専門用語をなるべく避け、具体例を交えて解説します。
対象読者
・人事担当者や管理職
・懲戒処分に関心のある従業員
・初めて学ぶ法務担当者
本書の構成
第2章で懲戒解雇の定義を示し、第3章で段階的な懲戒処分を説明します。第4章は諭旨解雇との違いを整理し、第5章で有効要件と手続きについて詳述します。第6章は解雇予告と予告手当、第7章は退職金の扱いを扱います。
読み方のポイント
実務で使いやすいよう、具体例や典型的なケースを挙げます。法的な最終判断は個別事情で変わるため、必要なら専門家に相談してください。
注意事項
本資料は一般的な解説を目的とし、個別の法律相談には代わりません。
懲戒解雇とは?基本定義
定義
懲戒解雇は、従業員が重大な規律違反や不正行為を行った場合に、会社が労働契約を一方的に終了させる懲戒処分です。懲戒処分の中で最も重い制裁にあたり、事実上の解雇と扱われます。目的は企業秩序の維持と再発防止です。
対象となる具体例
- 横領や会社資金の不正流用:会社の金を私的に使う行為。
- 贈賄や賄賂の受領:取引先から金銭を受け取る行為。
- 暴力行為や深刻なハラスメント:職場での暴力や性的嫌がらせ。
- 長期の無断欠勤や重要な業務命令の拒否:職務を放棄する行為。
- 経歴や資格の詐称:採用時に虚偽の申告をする行為。
各例では、行為の悪質さや会社への影響の大きさを重視します。
性質と効果
懲戒解雇は即時に雇用関係を終わらせます。場合によっては退職金の全額支給を拒めることがあり、労働者の今後の就職に影響します。懲戒の記録は社内に残るため、慎重な判断が必要です。
注意点
懲戒解雇を行う際は、就業規則に該当規定があることが前提です。事実関係の確認や本人への弁明機会を確保し、感情的に決めないことが大切です。争いになれば裁判で有効性が問われることもあります。
懲戒処分の段階構成
概要
懲戒解雇に至る前に、企業は段階的に処分を行います。段階を踏むことで、社員に改善機会を与えつつ、処分の公平性を保てます。就業規則で基準を定めることが大切です。
軽度の懲戒:戒告・けん責
- 戒告(口頭や書面): 不注意や軽い規律違反に対して口頭または文書で注意します。例:遅刻が続く場合、まず戒告を行います。
- けん責: 戒告より一歩進めて始末書の提出を求めることがあります。本人の自覚と再発防止を促します。
中度の懲戒:減給・出勤停止・降格
- 減給: 賃金から一定額を差し引く処分です。法令上の制限(賃金の一定割合を超えないなど)を守る必要があります。例:業務上の重大なミスで一部減給。
- 出勤停止: 一定期間の就労を禁じ、無給扱いとなることが多いです。安全や秩序確保が目的のときに用います。
- 降格処分: 役職や職位を下げる処分です。責任の所在を明確化して再発防止に繋げます。
判断のポイント
処分は違反の程度と前歴、業務への影響を総合的に見て決めます。証拠を揃え、本人の弁明機会を与えることが重要です。段階を踏むことで、最終的な懲戒解雇を避けられる場合が多くなります。
諭旨解雇(諭旨退職)について
定義
諭旨解雇は、会社が従業員に自発的な退職届の提出を促し、それを受領したうえで解雇扱いにする手続きです。懲戒解雇の次に重い処分と位置づけられます。従業員が退職届を出さなければ、会社は通常、懲戒解雇へと進みます。
手続きの流れと注意点
- 事実の通知:違反行為の内容を明確に伝えます。書面で記録を残すことが重要です。
- 退職届の提出期限:通知書に期限を明記します。例:7日〜14日程度の猶予を設けることが多いです。
- 未提出時の扱い:期限内に提出がない場合は懲戒解雇にすると明記します。通知書(懲戒処分通知書)にこれらを記載してください。
退職金の扱い
諭旨解雇では、反省や情状を考慮して退職金が支給される場合があります。一方、懲戒解雇では原則として不支給か減額されることが多い点が大きな違いです。支給の有無や額は就業規則や個別の事情で変わるため、書面で条件を確認してください。
従業員が取るべき対応
- 通知内容を保存し、事実関係の証拠を集めます。
- 会社と話す際は録音やメールなど書面化できる手段を使います。
- 退職届を出す前に、退職金や雇用保険、再就職の見通しを確認します。
- 不当だと感じたら労働相談窓口や弁護士に相談してください。
具体例
社内の重要情報を外部に漏らした従業員へ、会社が「7日以内に退職届を提出しない場合は懲戒解雇とする」と書面で通知。本人が退職届を出せば、事情を酌んで一部の退職金を支払うケースがあります。
懲戒解雇の有効要件と手続き
概要
懲戒解雇を有効にするには、複数の要件を満たし、意思表示が従業員に到達することが重要です。民法第97条1項により、意思表示は相手に通知が到達した時点で効力を生じます。通常は文書で通知します。
有効とする主な要件
- 事実関係の存在と重大性:横領や重大なセクハラなど、就業継続が困難な程度の行為であることが必要です。具体例を示すと分かりやすいです。
- 就業規則等の根拠:懲戒解雇の規定が就業規則に明記されていること。規則を従業員が認識していることも重要です。
- 手続の適正(調査と聴聞):公正な調査を行い、従業員に弁明の機会を与えること。聴聞を開いて事情を聞くことが望ましいです。
- 相当性(比例原則):処分の重さが違反の程度に見合っていることを確認します。
通知方法と記載項目
懲戒解雇は口頭でも可能ですが、通常は懲戒解雇通知書を交付します。通知書には次を記載します。
– 解雇の根拠(就業規則の条項や事実の要約)
– 解雇日(効力が生じる日)
– 事実の要点と証拠の有無
– 弁明の機会の有無とその結果
文書により記録を残すことで、後の争いを避けやすくなります。
手続きの流れ(実務的)
- 事実確認と証拠収集(関係者の聞き取り、書類・ログの保存)
- 従業員からの聴取(弁明の機会を与える)
- 処分決定(担当者または委員会で判断)
- 通知書の交付(到達を確認)
- 必要な退職手続きの実施
ポイントと注意点
- 証拠と手続きの記録を丁寧に残してください。
- 処分の理由と程度が不相当だと無効になる可能性があります。労働紛争につながる恐れがあるため、慎重に進めてください。
実務では社内の就業規則や労務担当者と相談し、手順を明確にして進めることが大切です。
解雇予告と解雇予告手当
概要
解雇する場合、原則として30日前までに対象者に通知する必要があります。通知を行わないときは、30日分に相当する解雇予告手当を支払います。解雇予告手当は、解雇予告期間が30日に満たないときに、不足日数分の平均賃金を支払うものです。
解雇予告の原則
雇用者は解雇日を30日以上前に告げるか、告げないなら30日分の手当を支払います。たとえば、解雇の通知を当日行えば、30日分の手当が必要です。10日前に通知したなら、残る20日分を支払います。
解雇予告手当の計算方法(簡潔例)
平均賃金は、直近3か月の総支給額をその期間の日数で割って算出します。例:3か月で総支給額が90万円、期間が90日なら1日あたり1万円。通知が10日分不足なら、1万円×20日=20万円を支払います。
労働基準監督署長の認定(例外)
業種や事業の特殊事情で労基署長の認定を受けると、解雇予告手当の支給が不要になる場合があります。認定は例外扱いで、雇用者側が申請して許可を得る必要があります。
支払時期と注意点
手当は通常、解雇日までに支払うか、退職時に精算します。計算や支払いに不明点があるときは、労働基準監督署や労働問題に詳しい専門家に相談してください。
第7章: 退職金の扱い
概要
退職金の支給は、解雇の種類や会社の就業規則で異なります。本章では懲戒解雇・普通解雇・諭旨解雇それぞれの扱いと、実務上の注意点をわかりやすく説明します。
懲戒解雇の場合
懲戒解雇では原則として退職金を支給しないことが多いです。例えば重大な横領や暴行などで懲戒解雇となれば、就業規則に「不支給」と明記されていれば支給しません。ただし、就業規則で減額や一部支給の定めがある場合は、そのとおり処理します。
普通解雇の場合
やむを得ない事由(業績悪化や配置転換の失敗など)での普通解雇では、会社が退職金を支給することがあります。就業規則に基づき算定し、在籍期間や最終給与を基準に支払います。
諭旨解雇(諭旨退職)の場合
諭旨解雇は事実上の自主退職を促すもので、反省や情状を考慮して退職金を支給することが多いです。会社と本人で合意しやすいため、話し合いで減額や満額支給を決めます。
手続きと注意点
就業規則の規定をまず確認してください。支給や不支給の基準を明確にし、書面で根拠を残すことが大切です。支給に関して争いが生じた場合は労働基準監督署や弁護士に相談してください。
実務上の例
- 横領で懲戒解雇→就業規則により不支給
- 会社都合の整理で普通解雇→規定どおり支給
- 諭旨退職で合意→減額で和解するケースがある
丁寧な記録と合意形成が、後のトラブルを防ぎます。


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