はじめに
目的
本章は、本報告書の目的と読み方をやさしく説明します。会社から源泉徴収票が受け取れない場合にどう対応すればよいかを、実務的かつ段階的にまとめています。税務手続きや法的手段が必要な場面も扱いますが、まずは落ち着いて取るべき行動を示します。
対象読者
給与や報酬を受け取る方、退職した方、フリーランス、そして人事担当者や経理担当者にも役立つ内容です。専門用語はなるべく少なく、具体例で補足します。
本書の構成と読み方
全10章で、源泉徴収票の基礎、発行されない正当な理由、会社への催促方法、税務署への相談、会社倒産時の対応、確定申告や紛失時の対処、会社のペナルティまで順に解説します。まずは第2章から順に読むと理解が深まりますし、急ぎの場合は該当の章だけ読んでも対応できます。
源泉徴収票とは何か、なぜ重要なのか
概要
源泉徴収票は、会社が従業員に支払った給与や賞与、そこから差し引いた所得税の金額を記載した公式の書類です。毎年の所得や税金の証明になります。
記載されている主な項目
- 支払金額(給与・賞与)
- 源泉徴収された所得税額
- 社会保険料や各種控除の情報
具体例:年収300万円で毎月の源泉徴収合計が10万円なら、その合計額が源泉徴収票に記載されます。
なぜ重要か
- 年末調整や確定申告で必須の証明書になります。税金が正しく計算されているかを確認できます。
- 転職や退職時に前職の所得と税額を証明し、新しい勤務先の年末調整に使います。
- 住宅ローンや公的手続きで収入証明として求められることがあります。
会社の義務と受け取り時期
会社は従業員に源泉徴収票を交付する義務があります。一般的には年末(12月)か年明けに交付されますが、退職時は速やかに発行されるべきです。受け取れない場合は会社へ問い合わせることをおすすめします。
源泉徴収票が発行されない正当な理由
以下では、源泉徴収票が発行されない代表的な理由を分かりやすく説明します。該当するケースがあれば、必ずしも会社の怠慢ではないことがあります。
1) 給与所得がない場合
1月から12月の間に勤務先から給与の支払いを受けていない場合や、休職や長期無給のために給与がまったく発生していない場合、源泉徴収票は発行されません。源泉徴収票は「給与の支払いがあったこと」を前提に作成されるためです。
2) 日雇いで日給が9,300円未満の場合
日雇い労働で、支払われた日給が少額(9,300円未満)の場合は、給与として通常の源泉徴収の対象とならないことがあり、結果的に源泉徴収票が発行されないことがあります。短期の臨時雇用であれば対象外となるケースが多いです。
3) 業務委託契約や個人事業主の場合
業務委託契約(フリーランスや個人事業主としての受注)では、雇用関係が成立しません。雇用主が発行する源泉徴収票は本来、給与支払者が従業員向けに発行する書類です。業務委託では請求書や支払調書が用いられることが一般的です。
4) 請負契約に基づく報酬(特定業務を除く)
請負契約での報酬も、原則として源泉徴収票の対象外です。翻訳やデザインなど一部の業務では源泉徴収の扱いが異なる場合があるため、支払者に確認すると安心です。
ただし、具体的な状況によって取り扱いが変わることがあります。自分のケースが当てはまるか不安なときは、会社や税務署に相談してください。
会社が源泉徴収票を発行しない場合の最初の対応
まず行うこと
源泉徴収票が届かないと気づいたら、まず勤務先に直接連絡します。年末になっても届かない場合は、人事部や給与担当に発行を依頼してください。会社には発行義務があるため、遠慮せずにストレートに伝えて構いません。
誰に連絡するか
- 給与担当・人事・総務
- 直属の上司(まず確認してもらうと早い)
連絡手段と例文
- 電話:要点を簡潔に伝し、相手の担当者名と対応期限を確認します。
例:「源泉徴収票が届いておりません。発行と郵送をお願いできますか?」 - メール:記録が残るためおすすめです。
例文:件名「源泉徴収票の発行依頼(202X年度)」本文に氏名、社員番号、送付先住所、連絡先、希望受取方法を記載します。 - 書面:郵送や窓口での依頼が確実です。到着確認できる方法を使いましょう。
伝えるべき情報
- 対象の年度、氏名、社員番号(あれば)
- 送付先住所または手渡し希望の場所
- 連絡できる電話番号/メールアドレス
- 再発行や郵送を希望する旨
注意点
- やり取りはできるだけ記録に残しましょう(メールや送付控え)。
- 相手の対応が遅い場合は、次の段階(労務担当への再依頼や税務署への相談)を検討します。
以上が最初に取るべき具体的な対応です。丁寧に、しかし確実に発行を求めてください。
会社が応じない場合の法的対応
概要
会社に何度催促しても源泉徴収票を受け取れないときは、住民票のある地域を管轄する税務署へ「源泉徴収票不交付の届出書」を提出します。税務署が間に入って調査・指導を行います。手順を押さえて証拠をそろえることが大切です。
届出の準備(証拠の収集)
- 給与明細や通帳の振込記録の写しを用意します。支払い額が分かるものが重要です。
- 交付を求めたメールや送付証明の写しを添付します。電話のみのやり取りはメモを残してください。
- 雇用契約書や雇用期間が分かる書類もあると説得力が増します。
届出の方法
- e-Taxソフトで作成・提出できます。パソコン操作に不安がある場合は税務署の窓口で相談しながら作成できます。
- 用紙を印刷して記入し、管轄の税務署に持参または郵送も可能です。郵送する場合はコピーを取っておきましょう。
届出後の流れと期待できる対応
税務署は届出内容を確認し、勤務先に対して源泉徴収票の交付を求めます。税務署からの照会で会社が応じれば解決します。通常、数週間から1〜2か月程度かかる場合があります。
会社がなお応じない場合の次の手段
- 税務署の指導で改善しないときは、弁護士に相談して文書で督促してもらう方法があります。正式な通知は効果が高まります。
- 必要に応じて、内容証明郵便で交付を求める、または民事手続き(支払明細や交付請求を求める訴訟)を検討します。
注意点
届出の写しや証拠は必ず保管してください。税務署や弁護士に相談する際、用意した資料が手続きの早さに直結します。早めに行動することで確定申告や各種手続きに支障を出さないようにしましょう。
税務署の行政指導の効果
行政指導とは
「源泉徴収票不交付の届出書」を受け取った税務署は、会社に対して源泉徴収票の交付を促す行政指導を行います。行政指導は命令ではなく、税務署が法令の解釈や対応方法を示して改善を促すものです。
届出後のおおまかな流れ
- 税務署が届出内容を確認します。
- 会社に対して交付を促す連絡や訪問を行います。
- 必要に応じて交付期限の提示や指導内容の書面化が行われます。
実際の効果
多くの場合、会社は税務署の指導を受けて源泉徴収票を発行します。会社は所得税法違反を避けたいので、行政からの指摘があれば対応する傾向があります。ただし、小規模事業者や対応が遅れる会社もあります。
行政指導で足りないときの対応
税務署の指導で解決しない場合は、税務署が書面での警告や強い措置を検討することがあります。それでも交付されない場合は、次の段階として法的手続きや別の窓口への相談が必要です(この点は第5章・第7章で詳述します)。
実務的な留意点
届出時に給与明細や契約書の写しを添えると税務署の調査がスムーズになります。連絡先を明確にして、税務署と適宜連絡を取り合ってください。
会社が倒産している場合の対応
支払い先の会社が倒産して源泉徴収票が入手できない場合の具体的な対応を、段階を追って説明します。
現状確認
会社が「倒産」しているかどうかをまず確認してください。破産、民事再生、特別清算など手続きの種類で対応先が変わります。可能なら官報や裁判所の手続き名を控えておきます。
集めるべき書類
源泉徴収票がなくても、支払いを証明する書類を集めます。給与明細、振込の通帳記載、契約書、領収書、支払調書などです。これらが確定申告や税務署での手続きに役立ちます。
税務署への相談と届出
所轄の税務署に相談し、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出します。届出書と収集した証拠を持参すると税務署の職員が状況に応じた手順を教えてくれます。税務署は代替資料で所得を確認して確定申告の方法を案内してくれます。
破産管財人・清算人への対応
倒産手続き中なら、破産管財人や清算人が窓口になります。連絡先が分かれば給与や支払記録の交付を求め、可能なら書面での証明を依頼してください。
未払い賃金など別の窓口
賃金の未払いがある場合は労働基準監督署や弁護士に相談する選択肢があります。税務と労働の手続きは別なので、両方で対応を進めると安心です。
源泉徴収票がない場合の確定申告
概要
源泉徴収票を受け取れなくても、自分で確定申告できます。再就職した場合は新しい会社の年末調整担当者に事情を説明して、前の会社に連絡してもらう方法がまず考えられます。これで解決しないときの手順を説明します。
事前に集める書類(具体例)
- 給与明細(支給額・控除・源泉徴収の記載があるもの)
- 銀行の振込履歴(給与の入金記録)
- 雇用契約書や退職届のコピー
- 前の会社に請求した記録(メールや内容証明など)
会社が応じないときの手順
- 税務署に相談し、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出します。税務署は前の会社に交付を促すなどの対応を取ります。
- 届出を出しても入手できない場合は、手元の給与明細等を根拠にして確定申告を行います。年間の総支給額と源泉徴収額を明記し、明細を添付します。
確定申告の書き方の注意点
- 給与のみなら確定申告書A、他の所得があるなら申告書Bを使います。
- 源泉徴収額が不明な場合は給与明細を基に合理的に算出し、申告書にその旨を記載して添付資料を付けます。
期限と相談
- 確定申告の一般的な期間は毎年2月16日〜3月15日です。期限内に手続きを進めてください。
- 不安があるときは税務署か税理士に相談すると安心です。
源泉徴収票を紛失した場合の対応
概要
源泉徴収票を紛失したときは、まず勤務先に再発行を依頼します。「源泉徴収票不交付の届出書」は、会社が発行を拒む場合に提出するもので、紛失時の手続きには該当しません。
再発行を依頼する手順
- まず口頭で連絡し、再発行を依頼します。電話だけでなくメールや書面で依頼すると記録が残ります。
- 再発行が可能か確認し、可能なら受け取り方法(郵送・窓口)と日時を決めます。
- 受け取りまでに時間がかかる場合は、確定申告の期限に間に合うよう早めに依頼してください。
再発行が難しいときの代替資料
会社から再発行できない場合や退職後に連絡がつかない場合は、給与明細・源泉徴収額が分かる振込明細・年末調整の控えなどで金額を確認します。確定申告にはそれらの写しと、再発行を依頼した記録(メールや郵送の控え)を添付すると説明がつきやすくなります。
税務署への相談
再発行がどうしても得られないときは、最寄りの税務署に相談してください。状況を説明すれば、代替資料での申告方法や必要書類を教えてくれます。
注意点
・再発行依頼は書面で行うと証拠が残ります。
・紛失と不交付は扱いが異なる点を押さえてください。
・会社が応じない場合は第5章・第7章の対応も参考にしてください。
会社が源泉徴収票を発行しない場合のペナルティ
概要
会社が源泉徴収票の交付義務を怠ると、所得税法に基づき刑事罰(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)が科される可能性があります。ただし即時に罰則が適用されるわけではなく、通常は税務署の指導や是正措置を経て進みます。
実際の流れ
- 従業員からの請求や税務署への相談があると、税務署が会社に対して交付を促します。
- 税務署が改善を求め、それでも応じない場合に行政処分や罰則の対象になり得ます。
罰則の適用条件(イメージ)
- 故意や悪質な隠蔽がある場合に厳罰化されやすいです。
- まずは行政的な是正が優先され、刑事処分は最後の手段になります。
会社や代表者への影響
源泉徴収票の不交付は会社の信用を損ね、代表者が責任を問われる場合があります。税務調査で別の問題が見つかれば、追加の指導や処分につながる恐れがあります。
従業員が取るべき行動
- 発行を文書で請求し、やり取りを記録してください。
- 会社が応じない場合は最寄りの税務署に相談してください。税務署は発行を促し、必要に応じて指導します。
- 源泉徴収票が得られない場合は、自分で確定申告する準備を進めてください。給与明細や銀行取引の記録が役立ちます。
具体例
ある会社が長期間にわたり交付を拒み、税務署の指導にも従わなかったため、刑事告発に至ったケースがあります。多くはそこまで進まず、税務署の是正で解決します。


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