第1章: はじめに
目的
本資料は、源泉徴収票における「退職日」の記載について、法的な要件と実務での扱いを分かりやすく整理することを目的としています。人事担当者、給与担当者、退職者や転職者が正しく対応できるように作成しました。
範囲と構成
全10章で構成し、退職日が記載される条件、記載箇所、退職所得との違い、発行期限、勤続年数の計算、転職先への提出、記載がない場合の問題、マイナンバーの取扱い、発行手続きの注意点まで扱います。具体例や実務上の注意点を交えて説明します。
利用上の注意
本資料は一般的な説明を目的とします。個別の判断が必要な場合は税理士や社会保険労務士などの専門家に相談してください。法令の解釈や運用は時期や状況で変わることがあります。
源泉徴収票における退職日記載の法定要件
法的根拠
源泉徴収票に退職年月日を記載する要件は、国税庁の手引きに基づきます。年の中途で退職した方(死亡退職を含む)については、退職年月日の記載が必要とされています。
対象となる場合
対象は暦年の途中で勤務を終了した方です。年の途中で退職した場合には、退職年月日を明確に書きます。年末まで在籍していた場合は日付の記載が不要になる場合がありますが、企業ごとの運用で扱いが異なることがあります。
記載が必要な理由
退職日は所得税の計算や、次の勤務先での年末調整に直接関わる重要な情報です。たとえば、3月に退職した場合と12月に退職した場合では、給与や源泉税の扱いが変わります。転職先が前年分の収入を把握する際にも退職日が判断材料になります。
実務上の注意点
退職年月日は「年-月-日」の形式で正確に記載してください。誤記や未記載があると年末調整や確定申告で手続きが遅れることがあります。疑問がある場合は、退職者か転職先へ確認してもらうと安心です。
退職日が記載される箇所と記載内容
記載される欄
源泉徴収票の中では「中途就・退職」欄に記載されます。年の途中で入社した場合は就職年月日、退職した場合は退職年月日が記載されるのが一般的です。
記載の形式と範囲
多くの書式では「年・月・日」単位で記入します。該当年度に発生した入社・退職のみが対象です。年末時点で在籍している場合は退職日の記載は入りません。
記載の目的
この欄の情報で転職先の企業は、その年の給与支払期間を正確に把握できます。年末調整や社会保険・税務処理に必要な基礎情報となります。
具体例
・3月31日に退職した場合:退職年月日欄に「3月31日」と記載されます。
・4月1日に入社した場合:就職年月日欄に「4月1日」と記載されます。
注意点
記載に誤りがあると年末調整で不都合が生じます。日付に抜けや誤記があれば、発行元の会社へ訂正を依頼してください。
退職所得の源泉徴収票との区別
概要
源泉徴収票には、給与所得用と退職所得用の2種類があります。退職所得の源泉徴収票は退職金を支払う際に発行され、記載項目や使い方が給与用と異なります。
記載項目の違い
- 退職所得用:勤続年数、入社年月日・退職年月日、支払った退職手当の金額、源泉徴収された所得税額などを記載します。退職所得控除後の扱いを前提に作成されます。
- 給与用:年間の給与総額、社会保険料などの控除額、給与所得控除後の金額、源泉徴収税額などが中心です。
発行タイミングと対象
退職金を受け取ったときに発行します。給与とは別に扱うため、同一年度に給与と退職金がある場合は両方の源泉徴収票が発行されることがあります。
実務上の注意点
退職金がある人は退職所得用の源泉徴収票を確実に受け取り、大事に保管してください。転職先や確定申告で必要になることが多いです。誤って給与用と混同すると所得計算がずれるため、内容が不明な場合は支払者に確認しましょう。
退職者への源泉徴収票発行の期限
概要
年の途中で退職した従業員には、退職日から1か月以内に源泉徴収票を交付する義務があります。通常の年末調整後に交付される書類ですが、退職者には最後の給与支給後できるだけ早く渡すのが一般的です。例:1月10日に退職したら2月10日までに交付します。
期限の適用例
- 退職日が6月15日の場合:7月15日までに交付
- 退職日が12月31日の場合:翌年1月31日までに交付
発行方法と実務上の注意
源泉徴収票は手渡しでも郵送でも構いません。郵送する場合は、退職後すぐに発送し、到着の確認をしておくと安心です。給与計算を外部に委託している場合でも、発行責任は会社にあります。退職者が再就職先に提出することが多いため、内容に誤りがないよう確認してください。
遅延した場合の対応
交付が遅れたら、まず会社に再発行を依頼してください。それでも解決しない場合は税務署に相談できます。書類紛失時は再交付を求めれば対応してもらえます。
勤続年数の記載と計算方法
勤続年数に含まれる期間
勤続年数は、入社日から退職日までの期間で計算します。長期の病気休業や育児・介護休職など、雇用関係が継続している期間は含めます。一方、いったん退職して再入社した場合は、その前後の期間を個別に数えるのが一般的です。
端数の取り扱い(切り上げ)
年数に端数がある場合は、1年未満の端数を切り上げて1年として計算します。たとえば在籍が5年2か月であれば「6年」として扱います。1年に満たない場合も「1年」となります。
退職所得控除の計算式
勤続年数に応じた退職所得控除は次の通りです。
– 勤続年数が20年以下:40万円×勤続年数(ただし最低80万円)
– 勤続年数が20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
具体例:
– 勤続1年 → 最低80万円
– 勤続3年 → 40万円×3=120万円
– 勤続10年 → 40万円×10=400万円
– 勤続22年 → 800万円+70万円×2=940万円
源泉徴収票への記載と注意点
源泉徴収票には整数で勤続年数を記載します。計算は入社日と退職日を基準にし、休職期間などを含めた在籍実績を確認してください。記録(雇用契約書、休職届、出勤簿など)を保存し、計算に不安がある場合は総務や税理士に確認すると安心です。
転職先への提出と年末調整
いつ提出するか
退職した会社の給与については、同じ年に転職した場合、転職先に速やかに源泉徴収票を提出します。入社時や年末調整前までに提出すれば、転職先がまとめて計算できます。
提出する書類
給与所得に関する源泉徴収票(給与所得の源泉徴収票)を提出します。退職所得(退職金)用の源泉徴収票は年末調整の対象外なので、転職先には提出不要です。ただし転職先が確認を求める場合は提示してください。
手続きの流れ
新しい勤務先は提出された源泉徴収票を基に、その年の給与合計で年末調整を行います。源泉徴収票がないと年末調整で正しい控除や税額計算ができず、あなたが確定申告をする必要が出ることがあります。
注意点と具体例
例:A社を6月に退職しB社へ7月入社した場合、A社の給与分が記載された源泉徴収票をB社に出します。紛失したときは前の勤務先に再発行を依頼してください。扶養控除等申告書は入社先にも提出する必要があります。
退職日記載がない場合の問題点
概要
中途退職したのに源泉徴収票に退職日が記載されていないと、税務上の書類としては金額や所得税の控除に使えることがありますが、公的な「退職日の証明」にはなりません。市区町村や年金・保険の手続き、転職先や社内規定で求められる確認書類としては受け取ってもらえない場合があります。
税務上の取り扱い
源泉徴収票は給与や税額の証明を主目的とします。退職日が空欄でも、給与総額や源泉徴収税額が明記されていれば確定申告や年末調整で使えることが多いです。たとえば、退職金の支払がない給与のみの場合、税務処理に支障が出にくいです。
公的手続きでの不備
市区町村の手続き、健康保険や年金の資格喪失、失業給付の申請などでは、退職日を明確に示す書類を求められます。源泉徴収票に日付がないと「退職日はいつか」が証明できず、受理されない、手続きが遅れるといった問題が起こります。
転職先や社内規定への影響
副業申請や再雇用審査、転職先の入社手続きで退職日を確認する必要がある場合、日付がない源泉徴収票では証明になりません。結果として書類の再提出や会社間の確認作業が増え、手続きが長引きます。
対処方法(従業員向け)
不足を見つけたら、まず発行元の会社に訂正を依頼してください。口頭だけでなくメールや書面で求めるとやり取りが明確になります。訂正が難しい場合は、在職証明書や退職届の写しを添えると代替になります。
企業向けの注意点
企業は退職日を正確に記入し、発行前に確認することが重要です。記載漏れがあると社員に不利益を与え、再発行や説明対応の手間が増えます。退職者からの訂正要請には速やかに対応してください。
マイナンバー記載の禁止事項
法的な扱い
退職所得の源泉徴収票を本人に交付する際は、マイナンバー(個人番号)や法人番号を記載してはいけません。個人情報保護の観点から明確に禁止されています。会社が保管する内部台帳では番号を扱っても、本人交付用の書類には書かないよう徹底します。
本人交付時の具体的対応
- 交付用の用紙は番号欄を空欄にするか、ソフトで出力しない設定にします。
- 例:給与ソフトで「マイナンバー非表示」を選ぶ、印刷前に番号欄を消すなど。
万一記載して交付してしまった場合の対応
- 速やかに回収して破棄し、番号を消した訂正済みの源泉徴収票を再交付します。
- 本人に経緯を説明し、必要なら取扱い状況を報告します。
実務上の注意点
- マイナンバーは別の安全な台帳で管理し、アクセス制限をかけます。
- 電子メールで番号を送らない、保存ファイルに暗号やアクセス制御を施すなど対策を講じます。
- システム設定や印刷工程にチェックリストを設け、誤交付を防ぎます。
上記を守ることで、退職者の重要な個人情報を守れます。
発行手続きと実務上の注意点
事前準備
・従業員の氏名、個人番号を除く必要情報(退職日、支払金額、控除額、勤続年数)を確認します。例:退職日が「2024年3月15日」の場合、その日付で記載します。
実務フロー(例)
- 人事から退職届を受領し退職日を確定
- 締め内の給与計算と最終支払額を確定
- 源泉徴収票に退職日・金額等を記入
- 従業員へ交付または同意のもと電子交付
- 交付記録を保管(紙・電子とも保存)
よくあるミスと対応
・退職日漏れ:転職先で年末調整ができなくなるため即時再発行
・金額誤記:給与台帳と照合して訂正し再交付
・勤続年数誤算:入社日・休職期間を確認して再計算
電子交付と保存の注意点
電子で交付する際は従業員の同意を得てください。保存は検索できる形で管理し、誤りが見つかった場合は訂正票を速やかに発行します。
連絡と記録
従業員には交付前に内容を確認してもらい、受領の証跡を残してください。訂正や再発行の経緯も社内で書類化しておくと安心です。


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