はじめに
目的
この章では、源泉徴収票に記載される「年調未済」が何を意味するか、全体の流れと本稿で扱う内容を簡潔にご説明します。専門用語は最小限にとどめ、具体例を交えて分かりやすく解説します。
対象読者
会社の給与担当者や経理初心者、給与明細や源泉徴収票を受け取った個人の方を想定しています。税務の専門家でなくても理解できるように書きます。
本稿で学べること
・「年調未済」が示す状態とその背景
・どのようなケースで年調未済になるかの具体例
・源泉徴収票での見分け方と確認ポイント
・放置した場合の影響と、個人・会社のそれぞれの対応方法
・経理担当者向けの実務的な対処法
この後の章で順を追って説明しますので、まずは全体像をつかんでください。分からない点は章ごとに戻って確認しやすい構成にしています。
年調未済の基本的な意味
定義
年調未済(ねんちょうみさい)とは、勤務先で年末調整の手続きが完了していない状態を指します。年末調整は給与からの源泉徴収税額を精算する手続きで、未済はその精算が行われていないことを意味します。
年末調整の役割(要点)
年末調整は年間の給与所得に対する税額を確定し、過不足を精算します。会社が手続きを行うと、従業員は通常確定申告をしなくて済みます。
なぜ未済になるのか(具体例)
- 年の途中に入社して必要書類を間に合わせられなかった場合
- 年内に退職して会社で精算できない場合
- 扶養控除などの申告書を提出していない場合
これらの場合、会社は年末調整を行わず「未済」と扱うことがあります。
源泉徴収票での扱い
源泉徴収票の摘要欄に「年調未済」と記載されることが多いですが、会社によっては別の注記や空欄で示す場合もあります。
簡単な影響説明
年調未済だと、その年の税金の過不足は自分で確定申告で調整する必要が生じることがあります。給与明細や源泉徴収票を確認して対応を検討してください。
年調未済として処理される主なケース
年末調整が未済になる主なケースは次の4つです。以下でそれぞれわかりやすく説明します。
1. 年収が2,000万円を超える場合
高額所得者は年末調整の対象外です。たとえば年収2,500万円の人は会社で年末調整を受けられず、自身で確定申告を行います。対応:源泉徴収票を受け取り、翌年2月16日〜3月15日の確定申告期間に申告します。
2. 住宅ローン控除を受ける初年度
住宅ローン控除は初年度に確定申告が必要です。2年目以降は年末調整で処理できます。対応:領収書や登記事項証明書などの添付書類を用意して確定申告を行ってください。
3. 自社以外に本業の勤務先がある場合
複数の会社から給与を受けると、主たる勤務先以外は乙欄(高い税率)で源泉徴収され、年末調整は主たる勤務先のみが行います。対応:副業分の給与がある場合は、自分で全体を合算して確定申告するか、主たる勤務先で手続きを確認してください。
4. 年の途中で退職した場合
年末時点で在籍していない従業員は、その年の年末調整の対象外です。たとえば11月に退職した人は会社で年調されず、年末調整未済になります。対応:退職後に転職先があればそちらで年末調整を依頼するか、自分で確定申告を行います。
各ケースでは必ず源泉徴収票や必要書類を保管し、申告期限や手続き先を確認してください。
源泉徴収票での見分け方
1. 摘要欄の表記を確認
まずは摘要欄を見てください。会社が明示している場合、ここに「年調未済」と書かれます。見つかれば判定は簡単です。記載がないからといって必ず年調済とは限りません。
2. 所得控除の額の合計が空欄か
年末調整が済んでいないと、扶養控除や生命保険料控除などの合計欄が空白になりがちです。具体例:生命保険料控除の欄に金額が入っていなければ、その控除が反映されていない可能性があります。
3. 乙欄にチェックがあるか
複数の勤務先がある場合、主たる勤務先以外の給与は「乙欄」扱いになりやすく、年調未済となることがあります。源泉徴収票に“乙”と表示されているか確認してください。
4. 摘要欄に「普通徴収」とある場合
中途退職などで年調未済になると、住民税の納付方法が自分で払う「普通徴収」になることがあります。摘要欄にその表記があれば、年調未済の可能性が高いです。
5. 見分けがつかないときの対処
不明な点はまず会社の人事・経理に確認してください。源泉徴収票を見せつつ、年末調整が済んでいるかを尋ねると早く解決します。税務署に相談するのも一つの方法です。
年調未済の放置による影響と対応方法
放置したときの主な影響
- 税金の還付を受けられない可能性があります。年末調整で還付される税額は自分で申告しないと戻りません。
- 追徴課税や延滞金が発生するリスクがあります。所得が正しく報告されていないと税務署から確認や追徴が来ることがあります。
- 住民税の納付忘れで不利益を被ることがあります。特に中途退職者は注意してください。
年調未済の源泉徴収票を受け取った場合の対応
- 翌年に自分で確定申告を行い、源泉徴収票を給与所得として申告します。
- 用意する書類:源泉徴収票、各種控除の証明書(生命保険料、社会保険料、医療費など)。
- 提出期間を確認し、期限内に申告・納税してください。
中途退職時の注意点
- 源泉徴収票の摘要欄に「普通徴収」とあれば、住民税は会社が天引きせず自分で納付します。
- 翌年6月ごろに市区町村から納税通知書が届きます。通知を見落とさないでください。
- 期限内に納付しないと延滞金が発生します。納付方法(窓口、コンビニ、口座振替)を確認しましょう。
すぐできる具体的な対応
- まず会社に年末調整の状況と源泉徴収票の発行時期を確認する。
- 源泉徴収票を受け取ったら大切に保管し、確定申告の準備を進める。
- 不安があれば早めに税務署や税理士に相談する。自治体の無料相談窓口も活用できます。
経理担当者向けの対応方法
確認すべき事項
- 年内に退職したか、給与が年間2,000万円を超えるか、複数の勤務先があるかをまず確認します。
- 扶養控除等申告書の提出有無や、源泉徴収税の累計額も合わせて確認します。
源泉徴収票の記載方法
- 該当する源泉徴収票の摘要欄に「年調未済」と明記します。退職者は退職年月日を記載してください。
- 支払金額や源泉徴収税額は通常通り記入し、従業員が確定申告で使えるよう正確に発行します。
- 発行時期は速やかに行い、従業員が確定申告準備できるよう配慮します。
従業員への案内例
- 簡潔な案内文を添えて交付します。例:「年末調整が未済のため、摘要欄に『年調未済』と記載しております。お手数ですが確定申告をお願いいたします。源泉徴収票は申告時に必要です。」
- 不明点があれば相談窓口(担当者名・連絡先)を明記してください。
内部処理と注意点
- 年調未済の理由を記録し、再発防止のためのチェックリストを整備します(入退社手続き、扶養申告書の回収など)。
- 発行前に数字を二重チェックし、誤りがないよう確認します。
- 従業員に安心して手続きを進めてもらえるよう、丁寧に説明できる体制を整えてください。


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