はじめに
目的
この文書は、源泉徴収票(以下「源泉票」)について、発行場所や発行時期、発行責任者、提出先、発行されない場合の対応、確定申告との関係などを分かりやすく解説するために作成しました。給与所得者が年末調整後にどこで受け取るか、所得税とどのように結びつくかを中心に説明します。
想定読者
会社員やアルバイト、派遣社員、経理担当者など、源泉票の取り扱いや受け取り方を知りたい方を想定しています。税務の専門家でなくても理解できる表現を心がけています。
本書の読み方
第2章から第9章まで順に読めば、源泉票の基本から実務的な対応まで一通り理解できます。まず第2章で基礎を押さし、必要に応じて該当章を参照してください。
注意点
源泉票は所得税の重要な証拠書類です。受け取り・保管を怠ると、確定申告や税務手続きで困ることがあります。必要に応じて勤務先の給与担当に確認してください。
源泉徴収票とは何か
概要
源泉徴収票は、会社が従業員に対して発行する1年間の給与と所得税の記録です。会社が毎月給与から差し引いた所得税の合計や、年末調整で確定した税額が記載されます。個人の税金の履歴として大切な書類です。
源泉徴収票に書かれている主な項目
- 支払金額:年間の給与総額です。ボーナスも含まれます。
- 所得控除の額:社会保険料や扶養控除など、差し引かれる金額です。
- 源泉徴収税額:会社が納めた年間の所得税額です。
どんなときに使うか
- 確定申告をする際の基礎資料になります。税務署へ提出する書類の一部として使います。
- 住宅ローンの審査や各種給付金の申請で、収入証明として求められることがあります。
実際の例(簡単)
例えば、年間給与が400万円で社会保険料が50万円なら、源泉徴収票には支払金額400万円、控除合計50万円が記載されます。源泉徴収税額は年末調整で決まり、税務署に納付された額が示されます。
保管とチェックポイント
発行後は大切に保管してください。記載内容に誤りや漏れがあれば、勤務先の経理担当に確認し訂正を依頼します。確定申告の際に必要になるので、紛失しないように注意してください。
所得税額の計算方法
計算の流れ
源泉徴収票にある「所得税額」は次の順で求めます。
1. 年間の給与(年間収入)から給与所得控除を差し引き、給与所得を出します。
2. 給与所得から社会保険料や配偶者控除などの所得控除の合計を差し引き、課税所得を算出します。
3. 課税所得の金額に応じた税率と控除額を当てはめて税額を計算します。
税率の適用(具体例)
税率は課税所得の区分で変わります。たとえば「課税所得が1,950,000円〜3,299,000円」の場合、税額は「課税所得×10%−97,500円」です。簡単な計算例を示します。
例:課税所得が2,500,000円の場合
課税所得×10%−97,500円=250,000円−97,500円=152,500円
月々の源泉徴収と年末調整
所得税は1年分の確定収入で最終税額が決まるため、毎月の給与からは概算で源泉徴収します。年末調整で控除の正確な額や年間の収入を反映し、過不足を清算します。過不足があれば還付や追加徴収が発生します。
※具体的な控除額や給与所得控除の計算方法は個人の状況や法令で変わります。ここでは計算の流れと考え方を分かりやすく示しています。
源泉徴収票の発行場所
概要
源泉徴収票は給与を支払う勤務先が発行します。通常は会社の総務部・人事部・または経理部門が担当します。給与所得に関する源泉徴収票は勤務先以外では入手できません。
発行する部署と役割
- 総務・人事部:社員の情報管理と年末調整を行い、一人ひとりに源泉徴収票を作成して渡します。
- 経理部:給与計算や支払証明の作成を担当する場合があります。
発行のタイミングと受取方法
正社員なら年末調整が終わった後、12月末から翌年1月中旬ごろに配布されるのが一般的です。給与明細に同封して渡す、もしくは窓口で手渡し、あるいは郵送する会社もあります。
アルバイト・パート、退職者の場合
アルバイトやパートでも勤務先が発行します。退職時は最終出勤日の前後に発行するか、退職後に郵送で送る手続きが必要です。会社に請求書類や送付先を伝えると速やかに対応してもらえます。
受け取れないときの対応
受け取れない場合はまず総務・人事部へ問い合わせてください。再発行や郵送での送付を依頼できます。会社側で発行が難しい場合は税務署や市区町村で相談窓口を案内してもらえます。
発行時期と法的義務
発行時期
源泉徴収票は、会社に在籍しているときは年末調整後に発行され、一般に12月の後半から翌年1月ごろに届きます。例として、12月時点で在籍している人は翌年1月上旬に受け取ることが多いです。退職した場合は、通常は退職後2〜3週間程度で発行されます。
法的な期限
企業には源泉徴収票を翌年1月31日までに交付する義務があります。これは税法で定められているため、会社は期日を守る必要があります。年末調整の対象者に限らず、全従業員に対してこの期限が適用されます。
退職時の特別な取り扱い
年末調整の前に退職した場合は、勤務先は退職後1カ月以内に源泉徴収票を発行する義務があります。たとえば、11月に退職した場合は12月中に受け取れるはずです。退職時は給与や控除の調整が必要になるため、早めに発行される仕組みです。
受け取り方と企業の義務
発行は会社の義務ですから、こちらから改めて請求する必要は原則ありません。万が一届かないときは、まず勤務先の総務や人事に連絡してください。対応がない場合や紛失した場合は、再発行を依頼できます。
源泉徴収票の提出先と種類
概要
源泉徴収票は、従業員や行政に対して所得や税額を示す重要な書類です。提出先と用途に応じて複数の写しが必要になります。
提出先の内訳
- 従業員用:1部(受給者に交付)
- 税務署用:1部(税務署へ提出)
- 市区町村用:2部(給与支払報告書として市区町村へ提出)
市区町村へ出すものは住民税の計算に使われます。
種類と記載の違い
給与計算ソフトからは主に2種類が出力されます。”税務署提出用”には受給者のマイナンバーと会社の法人番号が記載されます。一方、”受給者交付用”にはマイナンバー等の番号は記載しません。これは個人情報保護の観点からです。
実務上の注意点
- 従業員には受給者交付用を必ず手渡してください。
- 税務署用には番号の記載漏れがないか確認してください。
- 市区町村用は自治体の様式や提出方法に合わせて準備します。
具体例
会社Aが従業員Bに給与を支払う場合、従業員Bには受給者交付用を1部渡し、税務署用と市区町村用をそれぞれ所定の部数提出します。番号の取り扱いに注意すると手続きがスムーズです。
源泉徴収票がもらえない場合の対応
1. まずは会社に依頼
まずは文書やメールで労務担当者に発行を依頼してください。口頭だけでなく記録が残る方法が望ましいです。例えば「源泉徴収票の発行をお願いします。発行日と発送方法を教えてください」といった簡潔な依頼文を送ります。
2. 発行拒否への対応
発行を拒まれた場合は、その理由を文書で求めます。発行拒否は所得税の手続きに関わるため、発行義務を果たしていない可能性があります。拒否が続くときは次の手続きをとります。
3. 税務署への届出(源泉徴収票不交付の届出書)
住民票のある税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出します。届出と一緒に雇用契約書、給与明細、振込記録などを添付すると手続きがスムーズです。税務署は事実関係を確認し、企業へ税務指導を行う等の対応を取ることが一般的です。
4. 会社が倒産した場合
会社が倒産・解散しているときは、破産管財人や清算人に源泉徴収票の有無を確認します。管財人がいる場合は管財人へ請求し、それでも得られないときは税務署へ相談してください。
5. 代替資料の活用と相談窓口
確定申告などで源泉徴収票が必要な場合は、給与明細や振込履歴を証拠として使えます。税務署の無料相談や税理士に相談すると、申告方法や添付書類について具体的に教えてもらえます。労働相談窓口も利用可能です。
6. 注意点
証拠は保存しておき、やり取りは記録を残してください。早めに行動するほど手続きが円滑になります。
源泉徴収票と確定申告の関係
源泉徴収票の役割
源泉徴収票は、1年間に受け取った給与と会社が差し引いた所得税の証明書です。確定申告では、ここに書かれた金額を基に所得税の最終的な計算を行います。納めた税額の確認や還付請求の根拠になります。
確定申告での使い方(手順)
- 内容を確認:支払金額・給与所得控除後の金額・源泉徴収税額が重要です。
- 申告書に転記:給与所得欄に金額を記入し、源泉徴収税額を反映させます。
- 控除を申告:医療費や寄付、扶養などの控除を加えます。
- 税額の確定:過不足があれば還付または追納になります。
- 提出:税務署へ持参・郵送、またはe-Taxで送信します。紙で提出する場合は源泉徴収票の写しを添付することがあります。e-Taxでは入力で済む場合もありますが、原本は保管してください。
会社員の具体例
- 1社で年末調整が済んでいる場合は原則、確定申告が不要です。しかし、医療費控除や副収入があるときは申告して還付を受けられます。
- 年の途中で転職し複数の源泉徴収票がある場合や副業がある場合は、すべての源泉徴収票を用意して申告してください。
注意点
記載ミスや金額の不一致は処理に時間がかかります。期限があるため早めに準備し、必要なら勤務先へ再発行を依頼してください。
納税者としての意識
源泉徴収票が教えること
源泉徴収票には年間の支払金額、各種控除額、源泉徴収された税額が記載されています。会社員にとっては事実上の確定申告書となる部分があり、自分が納税者であることを明確に示します。
納税者としての心構え
源泉徴収票は受け取るだけでなく、内容を必ず確認してください。不明点があれば給与担当者や税務署に問い合わせる権利があります。自分の所得や控除が正しく反映されているかを見ることが、納税者としての最低限の責任です。
日常でできる具体的な行動
- 受け取ったらすぐ中身を確認する。金額や氏名、振込先などの誤りをチェックします。
- 資料は数年間(目安として5〜7年)保管する。後で税務上の確認が必要になることがあります。
- 誤りを見つけたらまず勤務先に連絡し、必要なら訂正した源泉徴収票を発行してもらう。確定申告が必要な場合は速やかに手続きします。
身近な例
年末調整で医療費控除を申請し忘れた場合、源泉徴収票を基に確定申告すると税金が戻ることがあります。こうした対応ができるのも納税者の権利と責務です。
納税は社会の仕組みに参加する行為です。源泉徴収票を通して自分の立場を把握し、必要な確認や手続きを行う習慣をつけてください。


コメント