はじめに
本書の目的
本調査結果は、源泉徴収票の書き方や作成方法を分かりやすくまとめたガイドです。源泉徴収票の基本構成、各項目の記入手順、計算方法、控除の種類や注意点まで、経理担当者が正確に作成できるように配慮して解説します。
対象読者
経理や総務で給与の処理を担当する方、給与計算や年末調整を初めて行う方に向けています。専門用語をできるだけ抑え、具体例を交えて説明します。
準備するもの(具体例)
- 給与明細(毎月の支払内訳)
- 社会保険料の支払証明(健康保険・厚生年金など)
- 扶養親族の情報(続柄、マイナンバー、生年月日)
- 生命保険料控除や住宅ローンの証明書
本書の使い方
各章を順に読めば、源泉徴収票の作成に必要な手順が身に付きます。実際の記入例を参考にしながら、ご自身の給与データで確認してください。
注意点
源泉徴収票は税額や年末調整に直結しますので、数値は必ず根拠資料で突き合わせてください。疑問が残る場合は税理士や税務署に確認することをおすすめします。
源泉徴収票の基本的な構成と必須項目
全体の構成
源泉徴収票は大きく3つのセクションに分かれます。会社(支払者)の情報、支払いを受ける者(従業員)の情報、支払金額や各種控除・税額をまとめた部分です。それぞれ役割がはっきりしており、後で見返すときに必要な情報がすぐ見つかります。
支払いを受ける者の情報
ここには住所、受給者番号、個人番号(マイナンバー)、役職名、氏名、フリガナなどを記載します。氏名や住所は雇用契約時の情報と一致しているか確認してください。
マイナンバーの扱い
税務署提出用の様式にはマイナンバーを記載します。従業員に交付する用の様式では、通常マイナンバーは記載しません。
主要な11項目と具体例
- 支払金額:その年に支払った総額(例:年間3,000,000円)。
- 給与所得控除後の金額:給与所得控除を引いた金額。控除後の実額を示します。
- 所得控除の額の合計額:社会保険料や各種控除の合計。
- 源泉徴収税額:実際に差し引かれた所得税の合計。
- 控除対象配偶者の有無:配偶者がいるかどうか。いる場合は控除額も記載。
- 配偶者控除額:該当する控除額を記載。
- 扶養親族数:扶養している家族の人数。
- 社会保険料等の金額:健康保険・厚生年金などの本人負担分。
- 生命保険料控除額:年末調整で認められた生命保険料の控除額。
- 地震保険料控除額:支払った地震保険料に対する控除額。
- 住宅借入金等特別控除額:住宅ローン控除がある場合の金額。
各項目は誤記があると税務や年末調整に影響します。受け取ったら早めに内容を確認してください。
支払金額の記入方法
支払金額とは
支払金額は、その事業者が給与所得者に1年間に支払った給与の総額です。源泉徴収票の基準となる最重要項目で、課税対象となる給与をすべて合算して記入します。金額は円単位で整数で記入します。例:年間400万円なら「4,000,000」。
具体例
・月給20万円、賞与50万円(年1回)の場合:20万円×12+50万円=2,900,000と記入します。金額は明細や振込記録で確認してください。
ボーナス・手当の扱い
賞与や残業代、家族手当など課税対象の手当は合算します。非課税の通勤手当や福利厚生費は含めません。どの手当が課税か不明な場合は給与明細の区分を確認してください。
複数の勤務先がある場合
源泉徴収票の支払金額欄には、その発行事業者が支払った金額を記入します。複数の源泉徴収票がある場合は、それぞれの金額を確認し、確定申告では全て合算します。
記入手順と注意点
- 年間の給与明細や振込履歴で総額を確認する。2. 非課税額を除いて合算する。3. 円未満は切り捨てるか、事業所の指示に従う。誤りがあれば速やかに訂正源泉徴収票を発行してもらい、記録を保管してください。
給与所得控除後の金額の計算と記入
概要
給与所得控除後の金額は、支払金額から給与所得控除額を差し引いた金額です。源泉徴収票ではこの金額を正確に記入する必要があります。
計算の考え方
計算式はシンプルです。
支払金額 − 給与所得控除額 = 給与所得控除後の金額
給与所得控除額は支払金額に応じて段階的に定められています。会社の給与計算担当者は該当する区分を確認して控除額を決めます。
具体例(支払金額550万円の場合)
支払金額:5,500,000円
給与所得控除額:1,540,000円(該当する区分を適用)
控除後の金額:5,500,000 − 1,540,000 = 3,960,000円
金額は円単位で記入し、端数が出る場合は基本的に1円単位で処理します。
記入手順(実務上の流れ)
- 源泉徴収票の「支払金額」を確認する。
- 支払金額に対応する給与所得控除額を税法の区分表で調べる。
- 引き算をして給与所得控除後の金額を算出する。
- 算出した金額を源泉徴収票の該当欄に記入する。
注意点
- 複数の勤務先がある場合は、それぞれで別に計算します。
- 控除額の区分は制度変更があり得るため、最新の区分表を使用してください。
- 給与以外の所得がある場合は別途扱いになります。
以上の手順で正しく計算・記入してください。
所得控除の額の合計額
説明
所得控除の額の合計額は、従業員が受けるすべての控除を合算した金額です。源泉徴収票ではこの合計を正しく記入することで、課税対象となる給与所得が決まります。金額が誤っていると税額にも影響しますので、注意して扱ってください。
含まれる主な項目
- 基礎控除(例:480,000円)
- 配偶者控除・配偶者特別控除(該当があれば)
- 扶養親族控除(子どもや親など)
- 社会保険料控除(健康保険、厚生年金など)
- 生命保険料控除、地震保険料控除
- 住宅借入金等特別控除(年末調整で対応する場合)
記入手順(簡潔)
- 各控除ごとに証明書類や従業員の申告内容を確認します。
- 金額を算出して控除ごとに一覧にします。
- すべて合算して「所得控除の額の合計額」欄に記入します。
具体例(イメージ)
基礎控除 480,000円
配偶者控除 380,000円
扶養控除(1人)380,000円
社会保険料控除 600,000円
生命保険料控除 40,000円
地震保険料控除 5,000円
住宅借入金等特別控除 40,000円
合計 = 1,925,000円(この金額を合計欄へ記入)
注意点
- 控除を裏付ける証明書類を必ず保管してください。
- 同じ控除を二重に計上しないよう確認してください。
- 年の途中で入退社があれば、該当期間の金額で調整します。
正確に合算することで、従業員にも会社にも安心です。わからない点は従業員に確認してから記入してください。
源泉徴収税額の計算と記入
計算の全体像
源泉徴収税額は「年末調整後の源泉所得税」と「復興特別所得税」の合計です。最終的な金額は10円未満を四捨五入して記入します。
計算手順(順を追って)
- 課税される所得金額を出す
- 給与所得控除後の金額 − 所得控除の額の合計額
- 結果がマイナスなら課税される所得は0円とします。
- 所得税を計算する
- 課税される所得金額に対して、速算表や税率表を使って所得税を求めます。
- 例:課税所得が195万円以下なら税率は5%(税額 = 課税所得 × 5%)になります。
- 復興特別所得税を計算する
- 所得税額に対して2.1%を乗じます(復興特別所得税 = 所得税 × 0.021)。
- 合計して四捨五入する
- 年末調整後の源泉所得税 + 復興特別所得税 = 源泉徴収税額
- 最後に10円未満を四捨五入して記入します。
具体例(支払金額400万円、所得控除合計246万円の例)
- 事前に求めた給与所得控除後の金額を2,640,000円とすると、
- 課税される所得金額 = 2,640,000 − 2,460,000 = 180,000円
- 所得税 = 180,000 × 5% = 9,000円
- 復興特別所得税 = 9,000 × 0.021 = 189円
- 合計 = 9,000 + 189 = 9,189円
- 四捨五入(10円未満を四捨五入)→ 9,190円
記入時のポイント
- 源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄に、四捨五入後の金額を記入します。
- 所得税の計算は速算表を使うと確実です。税率や控除額に不安がある場合は、税務署や税理士に確認してください。
控除対象配偶者と扶養親族の記入
説明
控除対象配偶者がいる場合は、配偶者欄に必要事項を正確に記入します。扶養親族がいる場合は人数と氏名を必ず記載してください。以下は各項目の書き方と注意点です。
控除対象配偶者欄
- 記入する内容:配偶者の氏名、続柄、生年月日など基本情報に加え、配偶者が控除対象である旨をチェックします。
- 配偶者の合計所得:配偶者の1年間の合計所得金額を記載します。給与所得なら給与所得控除後の金額、年金や事業所得がある場合は合算した額を記入してください。
- 実例:配偶者に給与収入のみがある場合は、給与の源泉徴収票や年末調整資料で給与所得控除後の金額を確認して書きます。
国民年金保険料等、旧長期損害保険料
- 国民年金保険料等:配偶者が支払った国民年金や社会保険料の金額を記入します。領収書や証明書で確認してください。
- 旧長期損害保険料:該当する保険があればその支払金額を記載します。該当がなければ空欄や「0」とします。
基礎控除額、所得金額調整控除額
- 基礎控除額:配偶者に適用される基礎控除の額を記入します。通常の基礎控除のルールに従って記載してください。
- 所得金額調整控除額:給与所得者などで適用条件に当てはまる場合に記入します。会社の総務や税務窓口で確認の上、該当額を記入してください。
扶養親族の記入
- 記入する内容:扶養親族の人数、氏名、生年月日、続柄、控除対象かどうか(16歳未満は控除対象外)を明記します。
- 所得要件:扶養に入れるには原則として扶養親族の合計所得が一定額以下(一般には48万円以下)であることが必要です。該当するか確認してください。
注意点
- 金額は証明書類で裏付けてから記入してください。
- 配偶者や扶養の状況が年の途中で変わった場合はその旨を明確にし、会社に相談しましょう。
よくある間違いは、給与の支払金額を書いてしまい給与所得控除後の「合計所得」を記入していない点です。必ず控除後の金額を確認してください。
社会保険料等の金額
概要
社会保険料等の金額欄には、給与から差し引かれた「本人負担分」の社会保険料の合計を記入します。具体的には健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料(該当者のみ)などが該当します。
記入のポイント
- 記載するのは会社が天引きした金額の合計です。会社負担分は含めません。
- 給与明細や年末調整の控除証明書をもとに合算してください。
- 年の途中で加入・退職があった場合は、実際に差し引かれた総額を記入します。
具体例
例:月ごとの天引きが健康保険20,000円、厚生年金40,000円、雇用保険2,000円の場合、年間合計は(20,000+40,000+2,000)×12=744,000円ではなく、実際に差し引かれた年の総額を記入します。年によって変動がありますので、年間合計を確認してください。
注意点
- 自営業で国民年金などを自分で支払っている場合は、給与から天引きされていなければこの欄には記入しません。別途確定申告で控除します。
- 記入ミスがあると所得控除に誤りが出るため、金額は必ず給与明細や控除証明と照合してください。
住宅借入金等特別控除の記入
概要
住宅借入金等特別控除がある場合は、源泉徴収票の該当欄に居住開始年月日(和暦)、控除区分、控除対象者の氏名などを記入します。ここでは具体的な書き方と注意点をわかりやすく説明します。
居住開始年月日(和暦)の記入方法
居住を開始した日を和暦で記入します。例:2022年4月1日なら「令和4年4月1日」と書きます。日付が不明な場合は、入居日や鍵の受取日など実際に生活を始めた日を基準にしてください。
控除区分の記入
新築、中古、増改築など区分をチェックする欄があります。該当するものにチェックを入れてください。契約や登記の内容と一致させることが重要です。
控除対象者の氏名
住宅ローンの契約者や、実際に控除を受ける人の氏名を記入します。夫婦共有名義や連帯債務の場合は、記入方法が異なることがあるため、会社の総務や税務署に確認してください。
添付書類と注意点
住宅ローン残高証明書や登記事項証明書(登記簿謄本)が必要です。会社に提出する際は原本チェックやコピー提出の指示に従ってください。申告内容と書類が一致しないと控除が受けられない場合があります。
記入例
・居住開始年月日(和暦):令和4年4月1日
・控除区分:新築(チェック)
・控除対象者の氏名:山田 太郎
不明点があるときは、早めに総務担当や税務署に相談してください。


コメント