はじめに
目的
この章は、本資料の目的を短く示します。年金手帳の会社による保管義務の有無、保管の背景、退職時や紛失時の対応、正しい保管方法、そして制度変更(年金手帳廃止と基礎年金番号通知書への移行)について分かりやすくまとめます。
対象読者
会社の人事担当者、これから就職する方、退職予定の方、年金手帳の管理に不安がある方に向けています。専門知識がなくても読みやすいように具体例を交えて説明します。
本書の構成と読み方
全10章で構成し、順を追って制度の基本から実務、トラブル対応まで解説します。まずこの「はじめに」で全体像をつかみ、必要な章を順にお読みください。重要な手続きは各章で手順を明確に示します。
年金手帳は個人にとって大切な情報が含まれます。本資料を通じて、適切な管理と対応方法を身につけていただければ幸いです。
年金手帳は本人の私物であり、会社保管の法的義務はない
趣旨
年金手帳は被保険者本人の所有物です。厚生年金保険法施行規則第十六条により、会社は提出された年金手帳を確認した後、本人に返付しなければならないと明記されています。これは原則として会社が手帳を長期間保管する法的根拠がないことを意味します。
会社の立場と対応
会社は入社手続きで年金手帳を確認し、記載事項を記録して返すのが通常の流れです。給与計算や社会保険手続きのために一時的に預かることはありますが、原本を常時保管する義務はありません。本人が返却を求めれば、会社は速やかに応じるべきです。
返却を求める具体的な方法
まずは人事・総務担当に口頭で依頼します。応じない場合は書面(メール可)で返却を請求すると証拠が残ります。それでも返却しない場合は、最寄りの年金事務所へ相談するか、労働関係の相談窓口に相談してください。
実務上の注意点
会社がコピーを取る場合があります。その際は原本を確認した上で返してもらうよう伝えましょう。転職や退職時には特に手帳の返却を確認してください。
会社が年金手帳を保管する主な理由
概要
会社が年金手帳を退職まで保管する主な理由は、紛失リスクの軽減と住所・氏名変更手続きの効率化です。ここではそれぞれを具体例を交えて説明します。
紛失リスクの軽減
個人で保管すると、引越しや書類の整理で年金手帳を見失うことがあります。会社が一括で保管すれば、入社・退職や社会保険加入時に手帳をすぐ取り出せます。例えば、入社日の社会保険加入手続きで手帳が手元にないと手続きが遅れ、処理に時間がかかる場合があります。
住所・氏名変更手続きの効率化
結婚や引越しで氏名や住所が変わったとき、会社が手帳を持っていると変更届の作成や年金事務所への連絡を速やかに行えます。社員が変更届を出し、会社が手帳の記載内容を確認して必要書類をまとめる流れが一般的です。
その他のメリットと注意点
入退社処理や扶養手続きと合わせて管理できる点も利点です。なお、年金手帳は本人の私物ですから、返却や確認を求めれば会社は対応するべきです。保管してもらう場合は、誰が預かっているかを確認し、受領書をもらうと安心です。
入社時の年金手帳提出の実務
概要
入社手続きで会社は厚生年金の加入に必要な情報を確認します。具体的には年金手帳(または基礎年金番号が分かる書類)を提示するよう求められますが、手続き後に手帳を必ず会社が保管する義務はありません。
入社時に求められるもの
- 年金手帳そのもの
- 年金手帳紛失時は基礎年金番号が分かる通知書や年金事務所での再発行手続きの案内
提出の流れ(実務例)
- 人事が年金手帳で基礎年金番号を確認します。2. 必要書類に番号を記入して手続きを行います。3. 手続き完了後、会社は番号だけ控えて手帳を返却するケースもあります。
提出後の対応と注意点
- 会社ごとに保管方針が異なります。必ず入社時に人事に確認してください。記録を残してもらう(控えや受領印)と安心です。
- 手帳を会社に預ける場合は、保管場所や返却のタイミングを事前に確認しましょう。個人情報の扱いに配慮するよう求めて構いません。
人事への確認事項(例)
- 年金手帳を保管するかどうか
- 保管する場合の管理責任者と返却手続き
- 紛失時の対応方法
必要な書類を用意し、疑問は入社前に人事に聞いておくと手続きがスムーズになります。
扶養配偶者の年金手帳について
概要
扶養配偶者の年金手帳は、原則として会社に預ける必要はありません。扶養手続きの際に基礎年金番号の提出を求められる場合がありますが、年金手帳の現物を会社が保管する法的義務はない点をまず押さえてください。
提出が必要な場面
- 健康保険などの扶養手続きで基礎年金番号を確認する必要があります。
- 多くの会社は番号を書いた用紙やコピー、番号が分かる書類の提出を求めますが、現物の預かりを求めるケースは標準ではありません。
会社に預ける必要がない理由
年金手帳は個人の財産です。会社側に保管義務はなく、預かることで紛失や個人情報の漏えいリスクが高まります。必要な情報は番号で十分です。
実務上の注意点
- 提出する場合は番号が分かる部分だけを出すか、コピーに必要な箇所を限定してください。
- 個人情報保護の観点から、会社に預けるときは取り扱い方法を確認しましょう。
年金手帳を紛失したとき
年金事務所や市区町村窓口で再発行や基礎年金番号の証明を取得できます。手続き方法は役所で案内されるので、速やかに相談してください。
退職時の年金手帳返却
返却は必ず受け取ること
会社に保管されていた年金手帳は、退職時に必ず受け取ってください。転職先に提出したり、自分で保管する必要があるためです。手帳は本人の私物なので、受け取る権利があります。
返却の時期の目安
一般的に退職日当日から1か月程度で返却されることが多いですが、会社によって差があります。退職手続きの際に返却時期を確認しておくと安心です。
返却を求める方法(実務的な手順)
- 退職届の提出時や最終出勤日に総務・人事に口頭で確認します。
- 返却が遅れる場合はメールや書面で期日を明記して依頼します。
- 退職面談がある場合は、その場で受け取りを申し出ましょう。
返却が遅れた・拒否された場合の対応
まずは総務窓口に再確認し、書面での依頼を行います。解決しない場合は年金事務所など公的窓口に相談することをおすすめします。
受け取り後の注意点
受け取ったら記載内容(氏名や記号番号)を確認し、転職先へ提出する可能性があればすぐに手元に用意してください。紛失防止のためコピーを取って別に保管すると安心です。
年金手帳の正しい保管方法
保管場所の基本
年金手帳は重要な本人書類です。家庭で保管する場合は、火災や水害に強い場所を選びましょう。たとえば耐火金庫や耐水性のファイル、家庭用の防湿ボックスが適しています。日常的には取り出しやすいが人目に付きにくい場所にしまってください。
具体的な保管例
- 専用のクリアファイルやプラスチックケースに入れる(ホコリや汚れを防げます)。
- 耐火金庫に入れる(災害対策として有効です)。
- 書類ケースにまとめて保管し、ラベルで「年金手帳」と明示する。
紛失・破損対策
- 年金手帳のコピー(写し)を一枚作り、別の場所に保管してください。コピーには個人番号など不要な情報は写さないよう注意します。
- 表面の汚れや折れを防ぐために、プラスチックスリーブに入れましょう。濡れに弱いので浴室や台所のそばは避けます。
デジタル管理の注意点
スマートフォンで写真を撮って保存する人もいますが、写真データは流出リスクがあります。クラウド保存する場合は二段階認証を設定し、パスワード管理に注意してください。
家族への伝え方・職場に預ける場合の注意
保管場所は一人で抱え込まず、信頼できる家族に伝えておくと安心です。会社が一時的に預かることは可能ですが、長期保管を求められた場合は返却を依頼しましょう。年金手帳は本人の私物であることを念頭に置いてください。
現在の年金手帳制度の変更
背景
2022年4月から年金手帳は廃止され、新規加入者には年金手帳の代わりに「基礎年金番号通知書」が交付されるようになりました。国の手続き簡素化が目的です。
主な変更点
- 年金手帳は新規交付されません。既に持っているものは原本として扱います。
- 年金手帳の再発行はできません。紛失時は基礎年金番号の通知書を請求します。
- 会社が年金手帳を保管する必要性は大きく減りました。
会社の対応ポイント
- 新入社員には基礎年金番号通知書の提出を求め、番号を正確に記録してください。
- 既存の年金手帳を会社が保管している場合は、従業員に返却を促すか、本当に保管が必要か見直してください。
個人の対応ポイント
- 既に持つ年金手帳は大切に保管してください。紛失した場合は年金事務所で通知書を再発行できます。
- 転職や退職時には、会社に保管されているか確認して受け取ってください。
注意点
年金番号は重要な個人情報です。取り扱いは慎重に行い、必要以上にコピーや保管をしないよう注意してください。
年金手帳紛失時の対処法
概要
年金手帳を紛失したら、加入している制度によって手続き先が異なります。国民年金は市区町村役場、厚生年金や健康保険に関する場合は年金事務所や被保険者の健康保険組合に連絡します。
基本の手順(簡単3ステップ)
- まず加入先を確認する(国民年金か、会社加入の厚生年金・健康保険か)。
- 運転免許証やパスポートなどの身分証明書を準備する。外国人は在留カードを持参してください。
- 担当窓口に「年金手帳再交付の申請」を行う。
申請方法
- 電子申請:自治体や年金事務所のオンライン窓口が使える場合があります。
- 郵送:申請書類を郵送して処理してもらいます。再交付は原則郵送で届きます。
- 窓口持参:直接窓口で申請してその場で確認を受けます。
破損で元の手帳がある場合は、古い手帳を添付するよう求められることがあります。再交付後は受領書や控えを必ず保管し、今後は自宅の安全な場所に保管する習慣をつけてください。
注意点と実用的なアドバイス
- 手続きに必要な書類や身分証は自治体で異なるため、事前に電話で確認してください。
- 会社が手帳を預かっている場合は、まず会社に返却を求めましょう。
- 紛失の届出は早めに行うと安心です。
まとめと推奨事項
年金手帳は本人の私物であり、会社に保管する法的義務はありません。会社が保管することで紛失防止や手続きの効率化といったメリットがありますが、会社側の紛失リスクや退職時の返却忘れといったデメリットもあります。
おすすめする具体的な対応は次の通りです。
- 入社時は提出の有無と保管場所を人事に確認してください。提出する場合は受領書や記録をもらうと安心です。
- 在職中は年に一度程度、保管状況を人事に確認しましょう。原本を会社に預けるなら、返却方法と責任の所在を明確にしておくと安心です。
- 退職・転職時は必ず年金手帳を受け取り、基礎年金番号をその場で確認してください。返却が遅れる場合は書面で依頼し、記録を残してください。
- 自宅で保管する場合はコピーを作って安全な場所(耐火金庫や信頼できる保管場所)に入れてください。紛失に備え、基礎年金番号を別途記録しておくと手続きが早くなります。
- 紛失が疑われるときや手帳の所在が不明なときは、速やかに会社の人事部と年金事務所に連絡してください。再発行の手続きや対応方法を案内してもらえます。
日常の手続きは少しの確認で大きなトラブルを防げます。したがって、人事部と適切にコミュニケーションを取り、退職時には必ず年金手帳の返却と基礎年金番号の確認を行ってください。安心して年金手続きを進められるよう、早めの確認と記録の習慣をつけることをおすすめします。


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