はじめに
本書の目的
この文書は、源泉徴収票に関する会社の役割や実務をわかりやすくまとめたガイドです。実務担当者や人事・総務の方が日常業務で迷わないよう、具体的な項目と手続きのポイントを整理しています。
想定読者
- 会社の人事・総務担当者
- 経理担当者
- 源泉徴収票を受け取る従業員で仕組みを知りたい方
本書の構成と読み方
全11章で、定義から発行時期、見方、電子交付や中途採用者対応まで順を追って説明します。まず第2章で基礎を押さし、第4章以降で実務的な記載例や対応手順をご覧ください。
注意点
専門用語はできるだけ避け、具体例で補足します。各章は独立して読めるように配慮していますので、必要な箇所だけ参照していただいて構いません。
源泉徴収票とは?その基本的な役割
概要
源泉徴収票は、1年間の給与・賞与などの収入と、会社が従業員に代わって国に納めた所得税や各種控除額が記載された公式な証明書です。会社は給与から所得税を差し引き、本人に代わって納付する「源泉徴収」を行います。所得税法第226条に基づき、年度末に作成して従業員に交付する法的義務があります。
主な役割
- その年の収入と差し引かれた税額を証明します。
- 年末調整や確定申告の基礎資料になります。
- 住宅ローンや各種手続きでの収入証明として使えます。
従業員側の注意点
交付を受けたら、記載内容(支払金額、源泉徴収税額、社会保険料控除など)を必ず確認してください。誤りがあれば会社に訂正を依頼しましょう。確定申告が必要な場合は、源泉徴収票を添付して税務署に提出します。
会社側の責務
会社は正確に作成し、期限内に交付する義務があります。万が一未交付や誤記があれば、速やかに再発行して対応する必要があります。保管義務もあるため、社内で適切に保存してください。
源泉徴収票の種類
概要
源泉徴収票には主に3種類あります。給与所得の源泉徴収票、退職所得の源泉徴収票、公的年金等の源泉徴収票です。会社が発行するのは前者2つで、年金は年金支払機関が発行します。
給与所得の源泉徴収票(会社が発行)
給与や賞与に対して発行されます。年末調整で使う書類で、1年分の支払金額や控除額、差し引かれた税額が記載されます。例:会社員が年末にもらう書類です。
退職所得の源泉徴収票(会社が発行)
退職金に関する書類です。退職金の支払額と源泉徴収された税額が記載され、退職後の確定申告時に用いることが多いです。例:会社を退職して退職金を受け取ったときに受け取ります。
公的年金等の源泉徴収票(年金支払者が発行)
国民年金や厚生年金、その他年金の支払いを行う団体が発行します。年金受給者が確定申告や年金収入の確認に使います。
主な違いと使い分け
記載される対象、発行者、利用場面が異なります。給与用は年末調整や確定申告、退職用は退職所得の申告、年金用は年金収入の確認に使います。
受け取ったら確認するポイント
支払者名、受給者名、金額、源泉徴収税額、発行日。誤りがあれば発行者に早めに問い合わせてください。
源泉徴収票の記載内容
源泉徴収票には、給与や控除の重要な情報がまとまって記載されています。ここでは主な項目をわかりやすく解説します。
支払金額(総支給額)
会社がその年に従業員に支払った給与の合計です。基本給や残業代、賞与のうち源泉徴収票に含まれる部分がここに入ります。例:年収5,000,000円。
社会保険料等の金額
健康保険や厚生年金、雇用保険など従業員が負担した保険料の合計です。給与から差し引かれた実額が記載されます。例:600,000円。
所得税の源泉徴収額
給与から差し引き、会社が国に納めた所得税の合計です。年末調整で精算される前後で変わることがあります。例:年間で80,000円。
給与所得控除後の金額
支払金額から給与所得控除を差し引いた額で、課税対象となるおおよその所得を示します。給与所得控除は収入に応じて自動計算されます。
所得控除の額の合計(各種控除)
扶養控除や配偶者控除、生命保険料控除、基礎控除など、適用された控除の合計が書かれます。具体的には控除の種類ごとの金額も記載されます。
扶養親族の数、本人の情報、支払者の情報
扶養親族の数や従業員の氏名、住所、支払者(会社)の名称・所在地などが載ります。マイナンバーは源泉徴収票には原則記載しません。
各欄の金額は年末調整や確定申告で使う重要な情報です。疑問があれば会社の給与担当に確認してください。
会社が作成・発行する部数と提出先
作成する部数
会社は従業員1人につき合計4部の源泉徴収票を作成します。内訳は次のとおりです。
- 従業員交付用:1部
- 税務署提出用(国税):1部
- 市区町村用(住民税用):2部
各部の提出先と目的
- 従業員交付用:従業員に渡します。確定申告や収入証明(住宅ローン申し込みや融資審査など)で使います。
- 税務署提出用:会社が税務署に提出します。所得税の行政手続きに使われます。
- 市区町村用:市区町村(または都道府県)へ提出し、住民税の計算・通知に使います。
マイナンバーの記載について
税務署提出用には従業員のマイナンバーと法人番号を記載します。一方、従業員交付用にはマイナンバーを記載しません。個人情報保護の観点から、従業員に渡す書類にマイナンバーを載せない扱いが基本です。
実務上の注意点
- 印刷枚数や提出先を確認し、漏れがないようにします。
- 提出書類に記載する番号は正確に確認してください。法人番号や従業員の氏名、生年月日などの誤りは後手間になります。
- 紛失や誤交付を防ぐため、交付記録(誰にいつ渡したか)を残すと安心です。
源泉徴収票の発行時期
発行と提出の期限
令和7年(2025年)分の源泉徴収票は、年末調整が完了したら翌年1月31日までに従業員へ交付し、同日までに税務署へ提出します。提出は電子(e-TaxやPDF)または紙で行えます。
年末調整完了後の流れ
年末調整が終わり次第、会社は速やかに源泉徴収票を作成します。できるだけ早く交付することで従業員の確定申告や住宅ローン手続きなどを支援できます。
中途入社・退職者の取り扱い
途中で退職した社員には原則として退職時に源泉徴収票を交付します。在職中の社員分は前述の1月31日までに交付します。中途入社の場合は、前職分が必要なときに案内を行ってください。
訂正・再発行の対応
記載ミスに気付いたら速やかに訂正し、従業員へ再交付、税務署へ訂正の提出を行います。期限が過ぎても放置せず、早めに対応してください。
電子提出・交付の注意点
電子で提出する場合も期限は同じです。電子交付を行う際は従業員の同意が必要になる場合があるため、事前に確認して準備してください。
期限を守る重要性
期日を守ることで従業員の手続きが円滑になり、税務上のトラブルや行政指導のリスクを避けられます。必ずスケジュールを明確にして作業してください。
源泉徴収票の見方
概要
源泉徴収票には「税務署提出用」と「受給者交付用」の2種類があります。種別欄には支払った金額の種類が書かれ、一般的には「給与・賞与」と記載されます。役員報酬など給与形態により表記が変わることがあります。
主な欄の見方
- 支払金額:その年に支払った総額です。手取りではなく総支給額を確認してください。
- 所得税の源泉徴収税額:源泉徴収した税額が載ります。確定申告で使う数字です。
- 社会保険料等の金額:給与から差し引かれた健康保険・厚生年金などの合計が分かります。
- 種別欄:給与・賞与・退職金などの区分が書かれます。例えば賞与だけ別に記載されることがあります。
- 支払者/受給者情報:会社名や氏名、住所、マイナンバー(交付用では一部非表示)を確認します。
具体例で見るポイント
賞与が何回分かまとめてある場合、賞与欄に合算額が載ることがあります。役員報酬は「役員報酬」と明記される場合が多いです。
受け取ったときのチェックリスト
- 給与明細と支払金額が一致するか
- 源泉徴収税額が妥当か(給与と税率を照らす)
- 氏名やマイナンバーが正しいか
訂正や再発行が必要な場合
金額や氏名に誤りがあれば勤務先に訂正を依頼し、再発行してもらってください。確定申告に使うため早めの対応をおすすめします。
中途採用者への対応
前職分の源泉徴収票の受領
入社時には、前職の源泉徴収票の提出を依頼してください。支払金額・源泉徴収税額の合計が年内の課税対象額になります。社員側が提出できない場合は、前職に請求するよう案内し、最終的には確定申告で精算する可能性を説明します。
自社の源泉徴収票の摘要欄への記載
前職分は自社発行の源泉徴収票の摘要欄に明確に記載します。記載例:「前職(○○株式会社)支払金額 2,400,000円、源泉徴収税額 120,000円」。こうしておくと年末調整で合算し、正しい税額になるよう処理できます。
求職中の社会保険料(控除)の扱い
求職中に支払った国民年金や国民健康保険料は社会保険料控除の対象です。社員から納付証明書や領収書の提出を受け、年末調整時に控除として反映します。証明書がなければ控除が認められないため、保管を促してください。
企業と社員の実務手順
企業側は入社時に必要書類一覧を渡し、年末調整までに回収します。社員側は前職の源泉徴収票と保険料の納付証明を確実に保管・提出してください。書類が揃わない場合は確定申告での精算方法も案内します。
電子交付への対応
概要
多くの企業で源泉徴収票をPDFなどの電磁的ファイルで交付できます。パソコンやスマートフォンで素早く確認でき、保管もしやすい点がメリットです。
メリット
- すぐ閲覧・ダウンロードできるため、確定申告や住宅ローンの申請時に便利です。
- 紙のコストや配送時間を削減できます。
企業側のポイント
- 交付方法を従業員に周知し、同意を得ることが大切です。
- ファイルの改ざん防止やアクセス制限、通信の暗号化など情報管理を徹底してください。
- 保管期限や電子データのバックアップ体制を整えます。
従業員側の注意点
- 受け取り方法やパスワードの有無を確認してください。
- ダウンロード後は安全な場所に保管し、必要時に印刷して提出できるよう準備しましょう。
トラブル対処
- ファイルが開けない、内容に誤りがある場合はまず人事・給与担当に連絡してください。再発行や紙での交付に応じてもらえる場合があります。
まとめ代わりに
電子交付は利便性が高い一方、情報管理と受領時の確認が重要です。企業と従業員が手順を共有して運用すると安心して利用できます。
源泉徴収票と源泉徴収簿の違い
概要
源泉徴収票は従業員に交付する公式な証明書で、1年間の給与・賞与や差し引かれた所得税額が記載されています。金融機関の書類提出や確定申告の際に使います。一方、源泉徴収簿は会社が給与支払いや税額計算のために内部で記録する帳簿で、従業員や税務署に渡すものではありません。
主な違い(項目ごと)
- 目的:源泉徴収票は対外的な証明、源泉徴収簿は社内の記録。
- 対象:源泉徴収票は従業員一人ひとりに交付。源泉徴収簿は会社がまとめて保持。
- 記載内容:源泉徴収票は年間の合計額を示す。簿は毎月の支払額や税額、控除の内訳など細かな履歴を残します。
- 提出の要否:源泉徴収票は交付義務がある場面がありますが、簿は通常外部提出しません。
実務例
例1)人事担当者は源泉徴収簿で月々の税額を確認し、年末に源泉徴収票を作成します。例2)従業員は住宅ローン申請時に源泉徴収票を提出し、簿は見ることができません。
保管と管理
簿は正確に記録し、法律で定められた期間保存します。源泉徴収票は交付後、従業員が大切に保管します。社内では情報の漏えいに注意し、適切に管理してください。
源泉徴収票の活用場面
確定申告の添付書類
源泉徴収票は確定申告で最も重要な書類です。給与所得や源泉徴収された税額を税務署に示すために使います。年末調整で処理しきれなかった控除や副収入がある場合、必ず用意してください。
住宅ローン・各種ローンの収入証明
銀行やローン会社は収入を確認するため源泉徴収票を求めます。特に住宅ローンでは過去数年分の提出を求められることがあります。原本や写しの扱いについては金融機関の指定に従いましょう。
転職時の給与実績証明
転職先から過去の給与実績の提示を求められる場面で使います。年収交渉や試算で信用力を示すために有効です。
年末調整や各種手続きの基礎資料
年末調整の根拠資料として、会社が保管するほか従業員もコピーを保管すると便利です。また、社会保険や児童手当、各種助成金の申請で収入証明を求められることがあります。
実務的な注意点
源泉徴収票は個人情報を含むため保管に注意してください。紛失した場合は前勤務先に再発行を依頼します。提出する際は原本を求められるかコピーで良いか確認すると手続きがスムーズです。


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