はじめに
目的
本章は、無断欠勤が続く従業員に対する企業の対応と退職手続きについて、実務的な指針を分かりやすく示すことを目的とします。現場で迷わないよう、段階的な対応や書面の作成例を含めました。
対象読者
人事担当者、経営者、現場管理者、総務担当者など、無断欠勤対応に関わる方を想定しています。法律の専門家でない方にも使いやすいよう平易にまとめています。
範囲と構成
無断欠勤の法的基準、対応フロー、退職通知書の書き方、自然退職と懲戒解雇の違い、法的リスク、ハローワークや社会保険の手続き、給与処理まで全8章で解説します。
使い方
実際のケースに合わせて各章を参照し、必要に応じて労務の専門家に相談してください。具体例を挙げているので、現場でそのまま活用できます。
注意点
個別の事案によって判断が変わるため、本書は一般的な指針です。重大な対応を行う際は弁護士や社会保険労務士への相談をおすすめします。
無断欠勤の法的基準と退職判断
無断欠勤とは
連絡なく出社しない状態を指します。病気ややむを得ない事情で連絡が取れない場合でも、可能な限り連絡や証拠を残すことが重要です。
法的な目安(目安日数)
一般的には14日〜21日の無断欠勤があれば解雇が有効と判断される可能性が高く、正当な理由がないまま1か月以上続くと、退職の意思表示があったとみなされやすいとされています。これはあくまで目安で、個別事情で変わります。
就業規則と解雇の要件
解雇を行うには就業規則に具体的な解雇事由を明記しておく必要があります。記載がないと解雇が無効になるおそれがあります。解雇条項は具体的日数や手続きも示すと安心です。
企業が取るべき手続き
1) まず電話・メール・書面での確認を行い、記録を残します。2) 出勤促進のための督促や警告を書面で出します。3) 病気や災害など正当な理由があるか確認します。これらを経て判断すると、後の争いを避けやすくなります。
具体例
例1:10日間無断欠勤→まず書面での注意、事情確認。例2:30日間無断で連絡なし→証拠を整えた上で自然退職扱いまたは懲戒解雇の検討。
証拠とリスク
出勤記録、警告書、連絡履歴を保管してください。不十分な手続きで解雇すると無効となり、労働審判や損害賠償のリスクがあります。必要なら労務や弁護士に相談してください。
段階的な対応フロー
前提確認
まず就業規則や雇用契約を確認し、無断欠勤に対する自然退職や懲戒の規定を把握します。始めに社内ルールと過去の対応事例を参照してください。
対応タイムライン(具体例)
- 1~3日目:電話・メールで連絡を試みます。通話履歴や送信記録を残してください。例:「○月○日から出勤が確認できていません。至急ご連絡ください。」
- 4~7日目:緊急連絡先や家族へ安否確認の連絡を行います。無断欠勤の理由を丁寧に尋ね、記録を残します。
- 8~13日目:自宅訪問は慎重に実施します。直接対応が難しければ警察へ安否確認の相談を検討します。
- 14日目以降:就業規則に沿って退職通知書や懲戒手続きを検討します。通知は配達記録郵便や内容証明で送付し、証拠を確保します。
通知と記録のポイント
送付方法・日時・内容を詳細に記録し、社内ファイルで一元管理します。送付文書は事実関係に限定し感情的な表現は避けてください。
文例(簡潔)
- 電話:欠勤日と連絡希望時間を伝え、折返しを依頼します。
- メール:欠勤期間、出社予定の有無、回答期限を明記します。
- 退職通知書:欠勤開始日、就業規則に基づく手続き内容、回答期限を記載します。
注意点
懲戒や解雇は重大な処分ですので、手続きに誤りがないよう弁護士や労務担当者と相談してください。記録は後の争いで重要な証拠になります。
退職通知書の内容と記載事項
趣旨
無断欠勤で連絡が取れない場合は、内容証明郵便で正式に通知します。通知は事実関係を明確にし、会社の対応方針を示すために使います。
基本項目(先頭に記載)
- 宛先(氏名・現住所)と差出人(会社名・担当者名・連絡先)
- 発行日と件名(例:「退職通知書」)
記載すべき主な内容
- 出勤命令:出勤を求める日時・場所を具体的に記載します(例:○月○日までに出社)。
- 連絡要請:電話・メール・書面いずれで何日以内に連絡するかを明示します(例:7日以内)。
- 就業規則違反と処分予定:無断欠勤が規則上どの違反に当たり、どのような処分(懲戒、退職扱いなど)を予定しているかを簡潔に書きます。
- 退職日:一定期日までに応答・出勤がない場合に「退職とみなす日」を明記します。具体日を示すと効果的です。
- 未払い賃金・貸与物:未払い給与の精算方法、有給消化や貸与物の返却方法と返却先を案内します。
健康上の理由がある場合の対応
健康問題の申告がある場合は、診断書の提出を求める旨を記載します。診断書提出の期限と提出先を明確にしてください。
期限と措置の明示
一定の期日(例えば7日〜14日)を設定し、期日までに連絡・出勤がなければ退職扱いとする旨を明確にします。具体的な日付と理由を示すと法的にも有利になります。
送付方法と証拠保全
内容証明郵便に配達証明を付け、控えを必ず保管します。電子メールでの通知も併用できますが、法的証拠としては郵便が確実です。
短い文例(参考)
「貴殿は○月○日より無断欠勤が続いております。○月○日までに出社または当社指定の連絡先に連絡ください。期日までにない場合は○月○日をもって退職とみなします。」
上記を基に、事実を簡潔にまとめ、感情的な表現は避けてください。
自然退職と懲戒解雇の選択
判断基準
無断欠勤が続く場合、まずは就業規則に従って『本人の退職申し出があったものとみなす』扱いが可能かを確認します。通常は出勤停止日や欠勤開始日を基準に退職日を決めます。例えば最終出勤日が4月10日なら退職日は4月10日、欠勤開始が4月11日であれば4月12日を退職日とします。
自然退職で進める手順
- 就業規則・雇用契約書で扱いを確認します。2. 欠勤状況や連絡履歴を記録します。3. 退職届扱いの旨を文書で通知し、本人宛てに送付します。4. 給与・年休・保険の処理を準備します。具体例:欠勤が続き、医師の診断書も無い場合、就業規則に基づき退職扱いにして書面で通知します。
懲戒解雇を選ぶ場合の注意
懲戒解雇は重い処分です。解雇予告手当を避けるには少なくとも30日前に予告するか、30日分の平均賃金を支払う必要があります。重要なのは経緯の整理です。口頭指導・始末記・面談記録などを時系列で残し、解雇理由を明確に文書で示します。比例性を欠くと無効になるリスクが高くなります。
リスクと実務上の配慮
懲戒解雇は争いになりやすいです。証拠が不十分だと不当解雇と判断されることがあります。したがって、事前の指導や改善機会を示す記録を残し、労務担当や顧問弁護士に相談して進めることをお勧めします。
法的な注意点と無効化のリスク
従業員に帰責事由がない場合
従業員に「会社都合ではない」と判断できる理由がないと、退職扱いは無効になります。例えば、連絡が取れない理由が病気や交通事故であることが後で判明した場合、会社側の一方的な退職処理は認められません。
病気・事故など正当な理由
病気や怪我、交通事故、災害などやむを得ない事情があるときは、自然退職や懲戒解雇にするべきではありません。証拠(医師の診断書、領収書、現場写真など)を確認し、復帰の見込みを含め個別に対応します。
有期雇用契約の注意点
有期契約の労働者は原則として契約期間中に退職できません。ただし、契約開始から1年経過後に退職申し出が認められるケースがあります。契約内容をよく確認し、無断で契約を打ち切ると違約とされる恐れがあります。
証拠の保存と早めの相談
退職手続きを進める前に、出勤記録、連絡履歴、医療証明などを保存してください。労働基準監督署や弁護士、社労士へ早めに相談すると無効化リスクを減らせます。
無効となる具体例
無断欠勤に正当な理由があると認められた場合や、手続きが不十分で労働者の弁明機会を与えていない場合は、会社の処分が無効となることがあります。感情的な判断を避け、公正な手続きを重視してください。
ハローワークと社会保険の手続き
提出先と期限
退職が確定したら、会社は退職日の翌日から10日以内にハローワーク(公共職業安定所)へ必要書類を提出します。主な書類は離職証明書です。離職証明書を提出すると、ハローワークが離職票を交付し、会社は労働者へ渡します。
離職理由の書き方の注意
離職理由は失業給付の受給に直結します。自己都合か会社都合かの区分を明確に記載してください。例として、無断欠勤での退職は「自己都合」に該当することが多いですが、事実関係によって異なります。判断が難しい場合は労務担当や顧問弁護士と相談してください。
連絡が取れない場合の対応
無断欠勤で労働者と連絡が取れないときは、事業主の押印で手続きが進められます。押印する際は、これまでの出勤記録や連絡履歴、本人へ送った内容証明などを保存し、理由欄には事実に基づいた簡潔な記載を心がけてください。
社会保険の手続き
健康保険・厚生年金などの資格喪失手続きを速やかに行ってください。被保険者資格喪失届や関連書類を加入先(協会けんぽ・年金事務所など)へ提出します。手続き方法や提出先は加入先の指示に従い、不明点は速やかに確認してください。
社会保険と給与の処理
社会保険の資格喪失手続き(退職日から6日以内)
退職が確定したら、速やかに年金事務所で資格喪失手続きを行います。事業主が手続きを行うのが原則です。期限は退職日から6日以内なので、早めに書類を準備してください。
保険証の返却
従業員から健康保険証を必ず受け取り、保管または返却手続きをします。受け取りの記録を残すとトラブル防止になります。未返却の場合は督促文を出すなど記録を取ってください。
給与の最終精算(実務チェックリスト)
- 最終出勤日までの労働時間・残業代を計算します。
- 無断欠勤日数は給与から控除するかを就業規則に沿って判断します。
- 未消化の有給休暇があれば金銭で清算するケースが多いです。
- 社会保険料は資格喪失日までの負担分を精算します。
解雇予告手当と無断欠勤の扱い
2週間以上の無断欠勤で出勤督促に応じない場合、労働基準監督署に除外認定を申請し解雇予告手当の支払不要を認めてもらう手続きが可能です。手続きと記録(督促の日時・方法、返答の有無)を整えてから進めてください。
必要な書類や計算が不明なときは、社労士や労基署に早めに相談すると安心です。


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