はじめに
この章では、本記事の目的と読み方をやさしく説明します。離職票に書かれる「退職理由」は、失業給付の受給や手続きに直接関係します。本記事は、退職理由の分類(会社都合・自己都合・特定理由離職)ごとに特徴と具体例を示し、離職票の確認や記載時の注意点まで丁寧に解説します。
対象読者
- 離職票を受け取る求職者
- 雇用主や人事担当者
- 社会保険手続きに不慣れな方
本記事の使い方
- 第2章で「退職理由」が何を指すかを理解します。
- 第3〜6章で具体例を確認し、自分のケースに当てはめます。
- 第7章で記載や確認の注意点を学び、申請準備に役立てます。
注意点
- ここで示す例は代表的なものです。個別の判断は管轄のハローワークや専門家にご相談ください。
以降の章で、具体的な文言例や実務ポイントを順に解説します。
離職票における「退職理由」とは
概要
離職票(特に離職票-2)には、退職者が何故会社を離れたのかを「退職理由」として記載します。これは雇用保険の給付要件や給付期間、給付額に直接関わる重要な欄です。
なぜ重要か
退職理由によって、会社都合か自己都合か、特定理由に該当するかが判断されます。判断が変わると、受けられる失業給付の開始時期や期間、給付日数が変わります。
記入者と立場
離職票-2は原則として事業主(会社)が作成します。従業員側の事情説明を踏まえて事実に基づき記載することが求められます。従業員は必要な説明や証拠を提出してください。
正確さの重要性
虚偽やあいまいな記載は認められません。誤りがあると給付が遅れたり、後で不利益を被る場合があります。判断に迷うときはハローワークに相談すると安心です。
記載時の実務的ポイント
・事実を簡潔に記す(退職日、退職方法、具体的な事情)
・文言は客観的に。感情的な表現は避ける
・必要なら証拠(退職届、懲戒処分の記録、病気の診断書等)を添付
不明点があれば必ずハローワークや社会保険労務士に確認してください。
退職理由の主な分類
概要
離職票に記載する退職理由は、主に次の3つに分かれます。会社側の事情で退職する「会社都合退職」、本人の意思で退職する「自己都合退職」、やむを得ない事情で自己都合に当たるが特例として扱う「特定理由離職」です。
会社都合退職
会社の経営悪化や解雇、契約期間満了で更新されなかった場合などが該当します。例:倒産、リストラ、懲戒解雇、雇止め。
自己都合退職
本人の希望や事情で辞める場合です。例:転職、家庭の事情、就業継続が難しい個人的理由(職場の不満を含む)。
特定理由離職
病気・ケガ、家族の介護、配偶者の転勤など、本人の責めに帰さないやむを得ない事情を理由に退職する場合です。一定の条件を満たすと失業保険で優遇されます。
判定のポイント
- 主体の確認:退職を決めたのは会社か本人かを明確にする。
- 事情の客観的事実:診断書や通知書など証拠があるかを確認する。
- 給付影響:区分によって失業給付の開始時期や金額が変わるため注意する。
会社都合退職の具体的な退職理由一覧
倒産・事業所の閉鎖
会社が倒産したり、事業所を閉鎖して続けて働けない場合は会社都合です。例えば本社の営業停止や工場の廃止で職場がなくなったケースです。
解雇(重大な懲戒事由を除く)
業績不振や配置転換の失敗で解雇される場合は会社都合に当たります。懲戒解雇など本人の重大な非行が原因でないことが前提です。
経営難・リストラによる人員整理
業績悪化で人工整理を行う場合は会社の事情での退職です。整理解雇は合理性や手続きが重要になります。
退職勧奨
会社が繰り返し退職を促し、事実上退職に追い込む場合は会社都合に該当することがあります。強い圧力や合理的な代替手段の欠如が目安です。
契約期間満了による終了
有期契約が更新されず契約満了で終了する場合、会社側の事情であれば会社都合になります。更新の期待が合理的だったかも判断されます。
事業所移転・転勤で勤務継続が困難
転居を伴う大幅な移転や通勤が著しく困難になる転勤で退職する場合は会社都合です。家族事情と会社指示の兼ね合いで判断します。
賃金未払い・大幅な減額、長時間労働や法令違反
賃金不払いや劣悪な労働条件、法律違反が理由で退職する場合は会社都合になります。例えば数ヶ月の賃金未払い、法定労働時間の著しい超過などです。
セクハラ・パワハラ等で就業環境が著しく悪化
上司による嫌がらせや安全配慮義務の欠如で働けなくなった場合は会社都合です。相談先への対応が不十分なことも評価されます。
妊娠・出産・育児・介護に関する法令違反や不利益取扱い
妊娠や育児を理由に不利益扱いを受けた場合は会社都合になります。例えば育休取得の妨げや降格・減給などです。
会社の長期休業
会社が長期間休業して勤務が継続できない場合も会社都合です。休業手当や復職見込みの有無が判断材料になります。
自己都合退職の具体的な退職理由一覧
自己都合退職は本人の意思による離職を指します。以下に典型的な具体例と、離職票に記載する際の書き方の例を挙げます。各項目は短く、正直に書くことを心がけてください。
- 一身上の都合により離職
- 概要:個人的な事情全般を指す汎用表現です。
-
記載例:「一身上の都合により離職」
-
転職のため
- 概要:より良い条件や職種変更を目指す場合。
-
記載例:「転職のため」
-
家庭の事情のため
- 概要:配偶者の転勤、引っ越し、家族の都合など。
-
記載例:「家庭の事情のため(配偶者の転勤等)」
-
定年退職
- 概要:企業の定年に達したための退職。ただし定年は会社都合で扱われる場合もあります。
-
記載例:「定年退職」
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キャリアアップ(資格取得・進学など)
- 概要:専門性向上や進学のため自己都合で退職する場合。
-
記載例:「資格取得のため」「進学のため」
-
妊娠・出産・育児のため
- 概要:出産や育児に伴い一時的に離職する場合。育児休業が取れない等の事情で自己都合となることがあります。
-
記載例:「妊娠・出産のため」「育児のため」
-
家族の介護のため
- 概要:家族の介護を理由に退職する場合。介護休業が使えない等で自己都合になることがあります。
-
記載例:「家族の介護のため」
-
職場環境への不満
- 概要:人間関係や労働条件への不満。ただし客観的に重大な問題がない場合は自己都合になります。
-
記載例:「職場環境への不満のため」
-
通勤困難(自己都合の場合)
- 概要:引越し等で通勤が困難になった場合。ただし会社側の配慮次第で扱いが変わることがあります。
- 記載例:「通勤困難のため(引越し等)」
記載時は簡潔に、嘘や過度な説明は避けてください。状況によっては会社都合や特定理由に該当する場合もあるため、不安があればハローワーク等で確認すると安心です。
特定理由離職の具体例と扱い
概要
特定理由離職とは、本人の意思で退職したものの、やむを得ない事情があって自己都合と同様には扱えない場合をいいます。扱いとしては、失業給付の受給要件や給付制限が緩和される点が特徴です。
具体例と簡単な説明
- 健康上の理由で業務継続が困難になった場合
- 長期の療養や通院が必要で業務に支障が出ると認められると対象になります。
- 家族の看護・介護が必要になった場合
- 同居家族の介護や看護で仕事を続けられないと判断される例です。
- 配偶者の転勤に伴う転居
- 世帯の事情で居住地を移す必要があり通勤不能となる場合です。
- 契約期間満了や雇止め(有期契約労働者)
- 更新がされず継続就業が不可能になった場合が該当します。
- 自然災害や不可抗力で通勤ができない場合
- 道路の寸断や住宅被災などで通勤が著しく困難になった場合です。
- 親族の死亡や家庭事情の急変
- 葬儀や急な家庭対応で退職を選んだ場合など
証拠や手続きのポイント
- 医師の診断書や療養証明、介護が必要なことを示す書類、配偶者の転勤を示す通知、契約書や雇止め通知、被災を示す写真や公的証明などを用意します。
- 離職票やハローワークへの申請時に、事情を説明し証拠を添付して提出します。
離職票での扱いと実務上の助言
- 退職理由は事実に即して具体的に記載してください。あいまいな表現は避けます。
- 会社側と相談して、どの資料を添付するか確認してください。
- ハローワークは提出書類を基に判断します。早めに相談し、必要書類を整えて申請してください。
注意点
- 事情がやむを得ないかは個別に判断されます。書類と事情説明を丁寧に整えることが重要です。
離職理由記載時の注意点
記載の基本方針
離職理由は事実に基づき、簡潔かつ具体的に書きます。主観的な感情やあいまいな表現は避け、誰が見ても同じ事実と分かるように記載してください。
本人と事業主での確認
必ず本人と事業主の認識を合わせます。口頭だけで済ませず、文書やメールで確認を取ると後のトラブルを防げます。ハローワーク提出前に本人の署名や押印を受けることが必要です。
書き方のポイント(具体例)
- 事実を短く:例)「業務縮小に伴う解雇」
- 状況を補足:例)「業績悪化により人員削減のため、2024年4月末で解雇」
- 個人的理由は具体的に:例)「単身赴任終了による転居のため退職」
提出前のチェック項目
- 記載が事実と一致しているか
- 本人の署名・押印があるか
- 日付や期間に誤りがないか
トラブル防止の実務的対策
書面での確認、退職理由についての簡単な説明書を添える、証拠となる資料(配置転換の通知や業績資料など)を保存することを推奨します。離職理由が会社都合か自己都合で争いになると、給付条件や期間に影響します。争いが生じた場合は法的手続きに発展することもあるため、慎重に対応してください。
提出後に変更が必要になった場合
記載内容に誤りが見つかったら速やかにハローワークと相談し、訂正の手続きを行います。記録を残し、やり取りは文書で行ってください。
まとめ:離職理由選択・記載の実務ポイント
離職票に記載する理由は、分類の確認、事実確認、当事者合意、影響の確認という順で進めます。以下の実務ポイントを丁寧に行ってください。
1. 分類を明確にする
- 会社都合/自己都合/特定理由のどれに該当するかをまず判断します。該当基準を会社と退職者で共有してください。
2. 事実を確認して簡潔に書く
- 日付や出来事を具体的に記載します(例:業務縮小に伴う配置転換の中止、○年○月○日に発令予定の解雇通知等)。
- 感情や推測は避けます。事実だけを簡潔に書いてください。
3. 退職者との合意を得る
- 記載内容は退職者に説明し、認識の相違がないか確認します。必要なら文面を調整して合意を取ります。
4. 記載後のチェックリスト
- 離職票の控えを保管する
- 雇用保険の手続きや助成金の要件に合うか確認する
- 関連する書類(解雇通知、就業規則、診断書等)を添える
5. よくある注意点
- 曖昧な表現は避ける(例:「その他」だけで済ませない)
- 会社側の一方的判断で不利な記載をしない
- 後日トラブルにならないよう、証拠を残す
6. 専門家に相談するタイミング
- 退職理由が争点になりそうな場合や助成金の適用が絡む場合は、労務担当者や社会保険労務士に早めに相談してください。
参考:離職理由の記入例(離職票-2など)
以下は離職票(離職票-2等)に記入する際の具体例と、作成・確認や失業給付の手続きで役立つ注意点です。
記入例(会社都合)
– 事業所閉鎖のため
– 人員整理のため(リストラ)
– 解雇(懲戒解雇、整理解雇など)
記入例(自己都合)
– 一身上の都合により退職
– 転職のため
– 家庭の事情のため(配偶者の勤務地変更、育児など)
記入例(特定理由)
– 介護のため通勤困難になり離職
– 健康上の理由により業務継続不可(診断書等あり)
– 雇用契約期間満了による離職(契約期間終了)
記入時の実務ポイント
– 原因を簡潔かつ正確に記載する。あいまいな表現は避ける。
– 事実を裏付ける書類を添付または保管する(解雇通知、診断書、雇用契約書など)。
– 会社都合か自己都合かで失業給付の受給条件や給付開始が変わるため、判断根拠を明確にする。
– 記入後は労働者と会社で内容を確認し、相違があれば速やかに修正する。
失業給付手続きでの注意
– 離職票の記載内容がそのまま給付審査に影響するため、申請前に内容を必ず確認してください。
– 特定理由(病気・介護等)の場合は、医師の証明や介護の事実を示す書類が必要になることが多いです。
– 雇用期間満了など明確な事実がある場合は、雇用契約や更新記録を提示すると手続きがスムーズです。
最後に
この一覧と分類をもとに、離職票の作成や確認、失業給付の手続きに役立ててください。疑義がある場合は、労働基準監督署やハローワーク等の窓口で相談すると安心です。


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