はじめに
目的
本資料は、労働基準法に基づく有給休暇(年次有給休暇)の基本ルールを分かりやすく整理しています。労働者と企業の双方が知っておくべき法的なポイントを、具体例を交えて丁寧に説明します。
対象読者
- 有給休暇について基礎から知りたい労働者
- 就業規則や人事管理を担当する企業の方
本書の使い方
各章で一つのテーマに絞り、定義・付与条件・取得方法・賃金の扱い・違反時の対応などを順に解説します。実務でよくある疑問には具体例で答えますので、必要な章だけを参照しても理解できる作りです。
この章では、まず全体の目的と構成を把握してください。続く章で、具体的なルールや手続きの詳細を順に確認していきましょう。
有給休暇とは何か
定義
有給休暇(有給休暇)は、労働基準法で保障された労働者の権利です。一定の要件を満たした労働者に対して、企業が賃金を支払いながら休暇を与える制度を指します。法律上の根拠は労働基準法第39条です。
目的
主な目的は心身のリフレッシュと生活の質の向上です。病気や家庭の事情、旅行など、働く人が自由に使える休みを保障することで長期的な健康や生産性を支えます。
特徴と働き方への影響
有給休暇は休んでも給与が支給される点で普通の欠勤と異なります。雇用期間や出勤実績に応じて付与され、企業は一定日数を与える義務を負います。また、労働者は理由を問わず私的な用事にも使えます。
具体例
週5日勤務の会社で1年働いたAさんは条件を満たし、有給休暇を取得して旅行に行き、休んだ日も給与が支払われます。
次章で付与の条件や日数について詳しく説明します。
有給休暇が付与される条件
要件の概要
有給休暇を受けるには、雇入れ日から6か月間の継続勤務と、その基準期間中における出勤率が80%以上であること、この2点が必要です。事実上、両方を満たすと法的に有給が付与されます。
継続勤務の扱い
休職や長期の病欠があっても、継続勤務とみなされる場合があります。たとえば産前産後休業や育児休業の期間は基本的に継続勤務に含まれます。
出勤率の計算例
基準期間の“全労働日”は会社が通常働く日数です。例として6か月で全労働日が120日の場合、80%は96日です。96日以上出勤していれば条件を満たします。逆に出勤が95日だと基準未達です。
注意点
出勤の扱いは会社の就業規則で定められます。具体的な日数の扱いや休暇の種類で判断が分かれることがあるため、不明な点は人事に確認してください。
有給休暇の付与日数
概要
有給休暇の日数は勤続年数に応じて段階的に増えます。初回は雇用開始から6か月が経過したときに10日が付与され、その後は勤続年数に応じて増え、最大で20日までになります。パートやアルバイトも条件を満たせば働き方に応じて比例的に付与されます。
初回の付与
雇用開始から6か月間、欠勤が少なく所定の出勤率を満たしていれば、最初に10日が付与されます。入社日を基準に付与日が決まりますので、勤務開始日を確認してください。
勤続年数に応じた増加例
一般的な付与日数の目安は次の通りです。
- 6か月経過時:10日
- 1年6か月経過時:11日
- 2年6か月経過時:12日
- 3年6か月経過時:14日
- 4年6か月経過時:16日
- 5年6か月経過時:18日
- 6年6か月経過時:20日
各社で細かい運用に違いがある場合がありますが、大枠はこのように増えていきます。
パート・アルバイトの比例付与
週の所定労働日数や労働時間が正社員より短い場合、付与日数はその割合に応じて決まります。例えば、週3日勤務の人は、週5日勤務の人の10日を基準にすると10×(3/5)=6日程度が目安です。具体的な計算方法は会社の就業規則や労使協定で定められます。
注意点
付与日数には上限があり、最大で20日です。付与される日や増える時期は入社日を基準に計算されますので、付与日を会社に確認しておくと安心です。
有給休暇の取得方法
取得の原則
労働者は原則として有給休暇を自由に取得できます。会社は正当な理由がない限り申請を拒めません。たとえば通院や家族行事、心身の休養など個人的な事情で取得できます。
申請の手続き
一般的には書面やメール、社内システムで事前に申請します。会社は合理的な範囲で申請時期の調整を求めることがあります。急な病気や事故は口頭連絡後に書面で報告する例が多いです。
取得の柔軟性
- 連続取得:連続した日数でまとめて休めます(例:夏休みを5日連続で取得)。
- 分割取得:年次を分けて取得できます(数回に分ける)。
- 時間単位取得:労使協定があれば1時間単位で取得できる場合があります(病院の通院などに便利です)。
会社が拒否できる場合と対応
業務に著しい支障があると会社が合理的に示せる場合のみ拒否できます。拒否されたと感じたら、理由を文書で確認し、労働組合や労働基準監督署に相談する方法があります。
労使協定に基づく特殊な取得方法
労使で合意すれば、特定日を有給扱いにする、取得要件を柔軟にするなどの取り決めが可能です。会社の規程や協定を確認してください。
企業の取得義務化:年5日以上の確実な取得
概要
2019年4月の法改正により、年間10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、使用者は年5日以上の有給休暇を確実に取得させる義務を負います。労働者が自ら取得しない場合、使用者が時季を指定して付与します。
企業の義務
- 対象者の把握:年間10日以上付与される労働者を確認します。
- 希望の聴取:取得の希望日を事前に聞き、可能な限り配慮します。
- 時季指定:希望がない、あるいは取得日数が5日に満たない場合、使用者が取得日を決めて通知します。
- 就業規則への明記と記録保存:手続きや運用を就業規則に記載し、取得状況を記録します。
手続きの流れ(簡潔)
- 年度開始時や付与時に対象者を特定
- 労働者に取得希望を確認
- 希望に沿う調整を行う
- 取得が不足する場合、会社が時季指定して通知
時季指定のポイント
- 業務に支障が出ない範囲で配慮します。
- 通知は書面やメールで明確に行い、記録を残します。
具体例
例えば、Aさんは年10日の有給を付与され、自己申請で2日しか取得しませんでした。会社は残り3日を時季指定し、事前にAさんへ通知して取得させます。
注意点
労使で十分に話し合い、業務調整や代替手配を行うと円滑です。就業規則や運用方法を整え、記録をきちんと残してください。
有給休暇取得日の賃金
概要
有給休暇を取った日は賃金を支払う義務があります。企業は「どの方法で計算するか」を就業規則や賃金規定で明示し、従業員に周知しておく必要があります。支払額は、普段の給与体系に合わせて決めます。
支払いの3つの方法(代表例)
- 通常の賃金で支払う
- 日給・月給など普段支払っている額をそのまま支払います。例:月給制の従業員が1日の有給を取った場合、月給を通常どおり支払うか日割りで換算します。
- 平均賃金で支払う
- 直近一定期間(例:3か月)の給与を基に日額や時間単価を計算して支払います。残業代や変動手当が多い場合に用います。
- 所定労働時間に応じた支払(時間単位)
- 時給労働者や時間単位の取得で使います。例:時給×休んだ時間数で計算します。
手当や歩合の扱い
通勤手当のように通常定期的に支給する手当は含める場合があります。成果連動の歩合や一時金は通常含めません。具体的な扱いは就業規則で明記してください。
運用上の注意点
- 就業規則で方法を定め、一貫して運用してください。
- 計算方法が不明確だとトラブルになります。具体例を示して従業員に説明しましょう。
実務では、給与体系に合わせて最も分かりやすい方法を選び、明確に示すことが大切です。
違反時の罰則
罰則の概要
企業が有給休暇に関する義務に違反すると、刑事罰が科されることがあります。主な罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。これらは法律に基づく措置であり、違反の程度に応じて適用されます。
対象となる行為(具体例)
- 年5日以上の有給取得を確保しなかった場合。たとえば、会社が年5日の取得を促さず、労働者が必要な日数を使えない状況を放置した場合です。
- 事実上、時季指定を不適切に運用し、労働者が取りやすい時期に休めないようにした場合。
- 労働者が請求したにもかかわらず、有給を取得させなかった場合。申請を却下したり、理由なく応じなかったケースが該当します。
罰則の適用と手続き
違反が疑われると、労働基準監督署が調査・指導を行います。是正命令に従わない場合や重大な違反があれば、刑事告発につながり得ます。逮捕や起訴は状況次第で行われます。
労働者が取れる行動
まずは社内で相談し、記録を残してください。解決しない場合は労働基準監督署に相談・申告できます。監督署は調査し、必要なら企業に是正を求めます。必要時は弁護士に相談する選択肢もあります。
罰則は労働者の権利保護のために設けられています。企業は適正な運用を心がけ、労働者も権利を理解して行動することが大切です。


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