はじめに
本資料の目的
本資料は、就業規則におけるボーナス(賞与)の取り扱いを分かりやすく整理したものです。企業が規定を作る際の注意点や、従業員に説明する際のポイントを具体例を交えて説明します。
対象読者
・人事担当者や経営者
・労務管理に関心のある管理職
・就業規則の見直しを検討している方
本資料の構成
第2章以降で、ボーナスの定義、法的位置づけ、就業規則への記載方法、支給条件、算定方法、減額・不支給の可否、退職者の扱い、企業の確認事項を順に解説します。実務でよくあるケースも取り上げます。
読み方のポイント
就業規則に明記すると会社と従業員の双方にルールが生まれます。例として「年2回支給」「支給基準は業績連動」といった文言があると具体性が増します。本文では、記載例や注意点を丁寧に示しますので、実務での活用を想定してお読みください。
ボーナス(賞与)とは何か
定義
ボーナス(賞与)は毎月の給料とは別に企業が従業員へ支払う特別な報酬です。通常は業績や個人の評価、会社の業績見通しなどを踏まえて支給されます。例えば夏と冬の年2回支給する企業が多く見られます。
従業員にとっての意味
ボーナスは生活費や貯蓄、住宅ローン返済などに役立つ大切な収入源です。月給だけでは対応しにくい出費をカバーできます。具体例として、家族旅行や年度末の税金支払いにあてる人がいます。
企業にとっての意味
企業はボーナスを使い、従業員のモチベーション向上や業績連動の報酬設計を行います。固定費を抑えつつ、業績に応じた報酬を実現できます。採用や定着の面でも効果があります。
支給の形態と例
支給は年1回・年2回・臨時の特別支給などさまざまです。計算方法も、月給の何か月分を基準にする、評価点に応じて額を決める、業績連動で比例させるなどがあります。
税金・社会保険の扱い
ボーナスも所得税や社会保険の対象です。給与と合算して年末調整や確定申告で扱われます。企業は源泉徴収を行いますので、手取り額は額面より少なくなります。
注意点
ボーナスの支給は企業ごとに運用が異なります。支給時期や条件は就業規則や労使協定で確認してください。
法的な位置づけ:支給義務の有無
労働法の原則
労働基準法は賞与(ボーナス)を支給することを直接義務づけていません。つまり、法律上は企業が支給するかどうかを自由に決められます。会社が支給する場合も、必ずしも法律が定めるものではない点を理解してください。
就業規則や労働契約で定めた場合
就業規則や個別の労働契約に賞与の支給を明確に記載した場合、企業に法的な支給義務が生じます。例えば「年2回、6月と12月に賞与を支給する」と明記されていれば、その通り支給する必要があります。就業規則に記す場合は、社員への周知や届出といった手続きも重要です。
文言の違いで変わる例
- 明確な記載: 「年1回、○月に賞与を支給する」→ 支給義務が生じやすい
- 条件付きの記載: 「業績に応じて支給する」→ 企業の裁量が残るが、合理的な基準が必要
- 曖昧な記載: 「支給することがある」→ 企業の裁量が大きいが、運用実績によっては義務とみなされることがある
運用実績(慣行)の影響
長年にわたり定期的に支給してきた場合、たとえ就業規則に明記がなくても「慣行」として社員に支給権が認められる可能性があります。企業は過去の支給実績と運用を見直す際に注意が必要です。
実務上の注意点
- 会社側: 支給の有無や基準は就業規則や労働契約に明確に書き、変更時は手続きを踏んで周知する
- 労働者側: 就業規則や雇用契約を確認し、不明点は人事や労働相談窓口に尋ねる
この章では、賞与が法律で原則義務付けられていないことと、記載内容や運用によって支給義務が生じる点を中心に説明しました。
就業規則への記載方法
目的・趣旨
ボーナス制度の目的(業績還元、成果報酬、生活支援など)を簡潔に書き、制度の趣旨を明確にします。従業員に制度の意図が伝わると運用での誤解を防げます。
記載すべき主要項目
- 支給時期:例)「年2回、6月及び12月に支給する」
- 算定基準:例)「支給額は基本給×支給率+役職手当」や「業績連動で算出」など具体的な算式を示す
- 査定期間:例)「前年4月1日から当年3月31日まで」
- 支払方法:例)「銀行振込により、各支給月の末日までに支払う」
- 支給目的・要件:例)「在籍要件、勤怠条件、評価基準」
- 支給対象者:例)「正社員、契約社員、パートタイマー別に対象範囲を明示」
具体的な文例(短め)
「賞与は年2回支給する。支給額は基本給の当該期支給率により算定し、査定期間は前年4月1日から当年3月31日とする。支給は銀行振込で行う。支給対象は在籍かつ所定の勤務条件を満たす従業員とする。」
運用上の注意点
記載はできるだけ具体的にし、評価基準や算式は例示を入れて透明にしてください。変更時は従業員に周知し、運用実績を記録しておくとトラブルを避けやすくなります。
ボーナスの支給条件
支給の基本条件
主な条件は二つです。1) 査定期間中に勤務実績があること、2) 支給日(基準日)に会社に在籍していること。会社は就業規則や支給規程で具体的な要件を定めます。
査定期間中の勤務実績
査定期間は会社ごとに決まります(例:4月〜9月)。この期間に勤務した実績がなければ通常は支給対象になりません。部分的にしか勤務していない場合、就業規則で「一定日数以上の出勤」や「試用期間後のみ対象」などの基準を設けることが多いです。例えば、査定期間の半分しか在籍していないと支給対象外、あるいは按分して支給する会社があります。
支給日(基準日)に在籍していること
支給日当日に在籍しているかが重要です。支給日が2025年12月20日で、同月19日に退職した場合は原則として支給されません。逆に支給日に在籍していれば受給権が発生します。退職の意思表示だけでは権利が消えるわけではなく、実際の退職日で判断します。
入社・退職、休職の扱いと注意点
入社日が遅いと査定対象外になりやすいです。長期の病気休職や育児・介護休業中の取り扱いも会社規程で異なります。出向や配置転換で別会社扱いになる場合は別途規定が必要です。
疑問があれば就業規則や支給規程を確認し、人事に相談してください。規程が不明瞭な場合は早めに確認することをおすすめします。
ボーナス額の決定方法
概要
ボーナス額は就業規則や給与規程で決めます。代表的な方式は「基本給連動型」と「業績・個人評価連動型」、両者を組み合わせた「ハイブリッド型」です。以下で具体的な決め方と注意点を分かりやすく説明します。
1 基本給連動型(計算がシンプル)
- 方法:支給基準を「基本給×支給月数」や「等級ごとの支給率」で決めます。
- 例:基本給30万円、夏季0.5か月→30万円×0.5=15万円
- 特長:従業員が予測しやすく安定します。業績変動を反映しにくい点に留意します。
2 業績・個人評価連動型(貢献を反映)
- 方法:支給基準額に「会社業績係数」や「個人評価係数」を掛け合わせます。
- 例:支給基準額=基本給×1か月、会社係数1.2、個人係数1.1→30万×1×1.2×1.1=39.6万円
- 特長:努力や成果が反映されモチベーションにつながります。評価基準を明示して運用することが重要です。
3 ハイブリッド型
- 方法:基本給連動の基礎額に業績連動の増減を加えます。安定性と成果反映を両立できます。
実務上の注意点
- 算定式や係数、評価方法を就業規則や給与規程に明記しておきます。
- 欠勤や遅刻の扱い、端数処理(四捨五入など)を定めます。
- 支給手続き(算出、承認、通知、記録保存)を整備するとトラブルを防げます。
以上を踏まえ、会社の方針や業種に合った方式を選び、ルールを分かりやすく示してください。
ボーナスの減額や不支給の可否
概要
支給基準が明確に定められている場合、企業が一方的に減額や不支給にすると違法になるリスクがあります。曖昧な規定だけなら企業の裁量で支給の有無や金額を決められます。
支給基準が明確な場合の扱い
就業規則や給与規定で「支給額」「支給条件」が具体的に決まっていると、従業員はその権利を主張できます。基準を満たしているのに支給しないと不当利得や契約違反の問題になります。
曖昧な規定や裁量が示されている場合
「会社の業績に応じて支給する」など裁量が書かれていると、企業は支給の有無や金額を判断できます。ただし裁量でも恣意的な運用は問題です。
実務上の注意点
- 支給ルールを就業規則や契約で明示し、従業員に周知する。
- 減額・不支給の理由を文書で説明し、記録を残す。
- 一方的な遡及変更は避ける。事前通知や協議を行うとトラブルを減らせます。
具体例
- 明確基準あり:個人成績で〇〇点以上なら△△円→基準満たすのに不支給は争点になります。
- 裁量あり:業績連動で変動→業績悪化で支給見送りは合理的な場合があります。
最後に
透明で公正な運用が重要です。従業員とルールを共有し、不透明な対応を避けてください。
退職予定者のボーナス受給権
■ 概要
支給条件を満たしていれば、退職予定者でもボーナスを受け取る権利があります。一般には査定期間の評価を受け、支給日に在籍していることが要件です。就業規則に特別な扱いがなければ受給は当然の権利と考えます。
支給要件(わかりやすく)
- 査定対象期間の勤務実績や評価を満たしていること
- ボーナスの支給日(または支給対象期間)に会社に在籍していること
- 就業規則や労働協約に別段の定めがないこと
具体例
- 例1:査定は4~9月、支給は10月1日。退職日が10月15日なら支給対象になります。支給日に在籍しているためです。
- 例2:同じ会社で退職日が9月30日なら支給対象になりません。査定期間は満たしても支給日に在籍していないためです。
特別なケース
- 自己都合退職・定年退職・解雇で扱いが異なることがあります。
- 懲戒や重大な背信行為があれば就業規則で不支給とする場合があります。規定が合理的でないと争いになることもあります。
- 休職中や育休中の扱いは規定で定められるため、確認が必要です。
企業・従業員への実務上の注意
- 企業は就業規則や支給要件を明確にし、従業員に周知してください。
- 従業員は退職手続き前に支給日や規定を確認し、必要なら書面で問い合わせてください。
以上を踏まえ、疑問があれば就業規則の該当条項を確認し、人事担当に相談することをおすすめします。
企業の責任と確認事項
法令遵守と正確な計算
企業はボーナスにかかる社会保険料や源泉徴収を正しく計算する責任があります。例:賞与支給時の社会保険料は標準報酬の扱いと異なるため、給与計算ソフトや専門家で確認してください。
就業規則と支給条件の整備
支給基準や支給日、算定方法を就業規則や給与規程に明記してください。記載漏れがあると従業員とのトラブルに発展する恐れがあります。
手続きと記録の保持
支給決定の根拠(評価表、承認書、計算表)を保存してください。内部監査や税務調査で説明が必要になります。
従業員への説明と窓口
支給基準や支給予定日をわかりやすく伝え、疑問は総務・人事や社労士に相談できる窓口を設けてください。
定期的な点検
給与計算フローや就業規則を定期点検し、法改正や運用上の課題があれば速やかに見直してください。必要なときは外部の専門家に相談することをおすすめします。


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