はじめに
「就業規則に賞与規定がないと、どうなるのだろう?」と不安に思っていませんか?
本記事は、就業規則に賞与(ボーナス)に関する規定が記載されていない場合の法的扱いや、実務上の注意点をわかりやすく解説します。企業の人事担当者、経営者、そして従業員の方々に役立つ内容です。
この記事を読むと、次のことがわかります。
- 賞与規定がない場合の法的な考え方と記載の必要性
- 「賞与なし」と明記する場合や「支給する場合がある」とする場合のポイント
- 規定がないことで起きやすいトラブルとその対処法
- 実際に使える記載例や運用上の注意点
各章では具体例を交えて、できるだけ専門用語を使わずに説明します。どの立場の方でも読みやすいように、手順や注意点を丁寧に整理しました。まずは本章で、この記事の目的と全体の流れを把握してください。
就業規則に賞与規定が「記載なし」の場合の法的根拠と記載義務
概要
賞与は法律で必ず支給しなければならない賃金ではありません。そのため、就業規則に賞与についての規定を置く義務も基本的にありません。ただし、規定の有無は労使の誤解やトラブルに影響します。
法律上の位置づけ
賞与は「臨時の賃金」や「一時金」として扱われることが多く、支給の要否や算定方法は当事者間の取り決めによります。口頭や慣行で継続的に支給してきた場合、従業員が支給を期待する根拠になることがあります。
記載義務の有無と留意点
就業規則に記載しなければならない義務はありませんが、雇用契約や労働協約で賞与支給が定められている場合は、それに従う必要があります。また、慣行で支払ってきた事実があれば、後に争いになる可能性があります。
実務上のリスクと対策
記載がないと「支給する/しない」が不明確になり、従業員との誤解や紛争に発展しやすいです。対策としては、就業規則や雇用契約に明確に記載する、あるいは就業規則に「賞与については別途定める」といった運用ルールを示すと良いでしょう。
規定を追加・変更する際の手続き(ポイント)
就業規則を新たに作成・変更する場合は、従業員への周知や届出手続きが必要です。実務では具体的な支給基準や時期、支給の有無を明確にし、従業員に分かりやすく説明することをお勧めします。
「賞与なし」と記載する場合の注意点
就業規則に「賞与は支給しない」と明記する企業は、従業員の期待を避け、労務管理を簡潔にします。ここでは記載時のポイントと注意点を具体例で説明します。
メリット
- 従業員が賞与を期待しにくくなり、トラブル予防につながります。
- 会社の方針を明確に示せます。
デメリット・注意点
- 過去に継続して賞与を支給していた場合、慣行として争いになる可能性があります。たとえば数年間支給が続いていると、「慣行で支給される」と主張されることがあります。
- あまりに断定的な文言は、将来制度を導入する際に従業員の反発を招きやすくなります。
- 管理職や募集時の口頭説明と矛盾すると問題になります。就業規則と実務の整合を必ず取ってください。
記載上の工夫例
- 厳格型:
- 「賞与は支給しない。」(明確だが変更が難しくなる)
- 柔軟型(将来の導入余地を残す):
- “原則として賞与は支給しないが、会社が別途定めて支給することがある。”(導入の余地を残す)
変更時の注意
- 就業規則を変更する際は、手続きと従業員への説明を丁寧に行ってください。慣行との整合性や、労働基準監督署への届出も確認してください。
「賞与を支給することがある」と記載する場合のポイント
意味と効果
「賞与を支給することがある」と書くと、会社に支給義務は生じません。会社は業績や個人の成績を踏まえ、支給の有無や額を経営判断で決められます。一方で、まったく裁量が無制限というわけではありません。合理性のない恣意的な不支給や過度の減額は認められません。
書き方のポイント
- 判断基準をできるだけ具体化する(業績指標、評価期間、評価者)。
- 決定手続きと決定者を定める(例:代表取締役、役員会)。
- 支給時期や計算方法の例示を入れると透明性が高まる。
想定されるトラブルと予防策
- 慣行化のリスク:長年支給していると慣行と見なされるため、突然の廃止は反発を招きます。事前通知や従業員説明を行ってください。
- 不支給理由の説明責任:業績不振や個人評価の内容を記録し、説明できるようにします。
例文(簡易)
「賞与は会社の業績および従業員の勤務成績を勘案し、支給することがある。支給の有無及び額は代表取締役が決定する。」
賞与規定が記載されていない場合のトラブルと対応
よくあるトラブル
- ある年は支給、別年は不支給となり従業員が不満を持つ。
- 業績悪化を理由に不支給にすると「期待権」が生じたとして争いになる。
労働慣行としての認定
長年にわたり継続して賞与を支給すると、慣行として支給義務を認められる場合があります。具体例:同一額や同じ算定方法で毎年支給し、従業員側に期待が形成されていると判断されやすいです。ただし認定は稀で、個別の事情で左右されます。
トラブルが起きたときの対応(実務)
- 支給履歴を確認する(過去3〜5年分を目安)
- 就業規則や雇用契約書の文言を点検する
- 従業員への説明を丁寧に行う。理由や基準を示すと納得が得やすいです
- 必要なら社内で支給ルールを決め、書面で通知する
- 紛争が深刻な場合は労働基準監督署や労働相談窓口、弁護士に相談してください。
予防策(事前にできること)
- 賞与の有無、支給条件、算定方法、支給時期を就業規則や雇用契約書に明記する
- 支給しない場合の判断基準や例外規定も書いておくとよいです
- 支給ルールを変更する場合は従業員に説明し、合意や労使協議を行う
実務では「形を整える」ことがトラブル防止になります。丁寧な説明と書面化を心がけてください。
賞与規定の具体的な記載例
この記事では、就業規則や雇用契約書に記載する具体的な文例と、その狙い・注意点を分かりやすく示します。
1. 賞与なしの場合
- 記載例:”賞与は支給しない。”
- 解説:明確に「支給しない」と記すと従業員の期待を抑えられます。例外を設ける場合は別途明示してください。
2. 業績等に応じて支給する場合
- 記載例:”賞与は会社の業績および従業員の勤務成績等を勘案し、支給することがある。支給の有無、支給額、支給基準および支給日は会社が定める。”
- 解説:柔軟な表現で予告なく変更しやすくなりますが、支給基準や支給日を別に定める旨を明記するとトラブルを避けやすいです。
3. 退職予定者への扱い
- 記載例A(在籍要件):”賞与は支給日に在籍している者に支給する。”
- 記載例B(按分):”賞与は算定期間中の在籍日数に応じ按分して支給する。”
- 解説:退職者の取り扱いは明確に示してください。支給しない旨を定める場合は合理的な基準が必要です。
作成のポイント
- 支給日・算定期間・支給基準の有無は明記する。
- 文言は具体的にして従業員に分かるようにする。
ボーナス(賞与)がない場合の実態と理由
厚生労働省の調査では、正社員の約30%の企業がボーナスを支給していません。ここでは、その実態と主な理由、社員にとってのメリット・デメリット、そして現場でできる対処法をわかりやすく解説します。
主な理由
- 年俸制で給与に含まれる:年俸を月割りにして支給するため、別途ボーナスを支払わない形です。契約書に明記されることが多いです。
- 業績悪化による支給停止:業績が下がると一時的にボーナスを見送る企業があります。
- 労働組合や交渉力の不在:支給を求める仕組みがないため、継続しにくいケースがあります。
- 企業方針や資金繰りの都合:小規模事業所や安定重視の企業で見られます。
メリット
- 月給が高めに設定される場合、安定した収入が得られます。
- ボーナス変動による家計の乱れが少なくなります。
デメリット
- 業績連動の上乗せがないと、総支給額で見劣りすることがあります。
- モチベーションや採用面で不利になる場合があります。
実務的な対処法(社員向け)
- 雇用契約書や就業規則でボーナスの有無を確認してください。
- 面接や入社時に給与体系(年俸か月給か)を必ず確認しましょう。
- 月給が低い場合は、基本給の引き上げや福利厚生で交渉する余地を探してください。
- 収入変動に備え、貯蓄や家計の見直しをおすすめします。
就業規則・雇用契約書に賞与規定を記載する際の注意点
就業規則や雇用契約書に賞与規定を記載する際は、社員との誤解を防ぎ、トラブルを減らすことが目的です。以下の点に注意して、具体的に記載してください。
- 支給の有無と性質を明示する
-
「支給する」「支給しない」「支給することがある」などを明確にします。例:「賞与は会社業績および個人評価に基づき支給することがある。」
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支給基準と計算方法
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支給額の算定方法(基本給×月数、評価点による配分など)を示します。具体例を提示すると誤解が減ります。
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支給時期と頻度
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支給月や年回数を明記します。例:「年2回(6月・12月)に支給することがある。」
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支給対象と条件
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正社員・契約社員・パートの別や試用期間中の扱い、出勤日数要件を記載します。
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退職・休職・欠勤時の扱い
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退職予定者の支給可否、按分計算の有無、休職期間中の取扱いを明記します。
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業績連動や裁量の明示
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経営判断で不支給となる場合や業績連動の旨を明記しておくと運用が楽になります。
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運用手続きと通知方法
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支給決定の手続きや基準変更時の社員への通知方法を記載します。
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表現の一貫性と専門家確認
- 就業規則と雇用契約書で矛盾がないよう統一し、判断に迷う場合は労務・法務の専門家に相談して定期的に見直してください。
短い例文:
“賞与は会社業績および個人業績に応じて支給します。支給時期は原則として年2回とし、在籍期間に応じて按分します。”
このように具体的かつ簡潔に記載すると、誤解や紛争を未然に防げます。
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