はじめに
本調査は、退職代行サービスの利用状況や統計データを企業と個人の視点から詳細にまとめたものです。2024年度の利用者数や企業の経験率、年代別・業種別の利用傾向、企業への影響や対応策、利用者の心理など、多角的なデータを示しています。
目的
本レポートの目的は、退職代行の実態を分かりやすく伝え、企業と働く人が現状を正しく把握できるようにすることです。企業の人事担当者は対応策の検討に、個人は利用の判断材料に活用できます。
本レポートの範囲
本書は以下の項目を扱います。
– 利用者数とその推移(2024年度データ)
– 企業が経験した退職代行の実態と影響
– 年代別・業種別の利用傾向
– 企業規模ごとの差異と対応策
– 利用者の心理や理由
本書の読み方
各章で調査結果を示し、企業・個人それぞれの視点から解説します。第2章では利用者の全体像、第3章以降で企業側の経験や業種別の傾向、最後に企業への影響と具体的な対応策を取り上げます。次章から順にご覧ください。
退職代行利用者の全体像
利用者数と全体像
2024年度の退職代行サービス利用者は21,104人にのぼります。新卒社員の利用率は8.6%、転職者では16.6%が退職代行を利用しており、退職代行は転職市場で一般的な選択肢となっています。
属性別の傾向
- 年齢層は若年層が多く、特に20代の利用が目立ちます。企業文化や労働条件のミスマッチが背景にあります。
- 新卒は比較的割合は低いものの、早期離職の際に選ばれるケースが増えています。
利用の主な理由
- 職場の人間関係の悪化やパワハラ対応を避けるため
- 長時間労働や待遇への不満を直接対話で解決できない場合
- 精神的負担を軽減して円滑に退職したいというニーズ
連絡のタイミングと方法
多くは退職を決断した直後に代行に依頼します。依頼方法は電話や専用フォームが一般的で、迅速な対応を重視する利用者が多いです。
企業への示唆
退職代行の増加は、職場の課題を可視化する機会でもあります。企業は離職理由を丁寧に分析し、早期対応や相談窓口の整備で対応を進めることが望まれます。
企業側が経験した退職代行利用の実態
概要
2024年1月以降、退職代行を利用した退職を企業が経験した割合は全体で7.2%でした。一方で長期的には増加傾向が明確で、2019年以前の15.7%から2024年上半期には23.2%に上昇しています。年ごとに着実に増えているため、企業は対応を検討する必要があります。
発生パターン
- 事前連絡なしに代行が連絡を入れ、その日のうちに出社しなくなるケース。業務引継ぎが不十分になります。
- 本人は直接連絡せず、代行業者と企業だけでやり取りが進むケース。書面での退職届提出を求められることがあります。
- 有給消化や貸与物の返却交渉が長引き、対応負担が増すケース。
企業側の影響
- 人員穴が急に発生して業務に支障が出ることが多いです。代替人員の確保や残業増加につながります。
- 人事・総務の対応工数が増え、対応ノウハウがないと混乱します。
- 社内の雰囲気や管理職のメンタルにも影響が出る場合があります。
企業の対応例
- 退職届や連絡手順を就業規則で明確化し、窓口を一本化します。
- 代理からの連絡は記録に残し、証拠を保全します。
- 速やかに引継ぎ計画を立て、外部採用や派遣を検討する企業が増えています。
注意点
対応は法令に沿って行い、過度な対立を避けることが重要です。感情的にならず、記録と手続きを優先して対応してください。
企業規模による利用経験の差
調査の要点
複数の調査で、企業規模によって退職代行の利用経験に差が出ています。大企業では15.7%(別調査では18.4%)が退職代行での退職を経験しているのに対し、中小企業は6.5%(別調査8.3%)と低めです。数字は一貫して大企業の利用が多いことを示しています。
背景にある理由
大企業で利用が多い理由は主に二つあります。一つは福利厚生や雇用制度が整っているため、退職手続きや相談窓口が複雑になりがちで、個人で手続きを進めにくい点です。もう一つは心理的要因で、匿名性を保ちたい、顔を合わせずに終えたいというニーズが高いことです。例えば社内に人事や総務が多く、誰に相談すればよいか分からない場合に退職代行を選ぶ傾向があります。
中小企業で利用が低い理由
中小企業では経営者や上司と顔を合わせる機会が多く、直接話して解決する文化が残ることが多いです。また業務が密接につながっているため、退職の影響が目に見えやすく、双方が対話で納得するケースが多くなります。
企業への示唆
企業規模に関係なく、退職の窓口をわかりやすくする、心理的負担を軽くする仕組みを整えることが大切です。大企業は手続きの簡素化と匿名で相談できる窓口を、中小企業は上司と相談しやすい環境づくりを意識するとよいでしょう。
年代別の利用者分布
現状の数値
退職代行利用者の年代別比率は、20代が60.8%と最も多く、次いで30代26.9%、40代11.0%、50代6.4%です。20代の割合は40代の約5倍に相当します。
20代の特徴
20代が突出して多い点が最重要の特徴です。若年層は雇用形態が流動的で、職場の人間関係や労働時間などに早く見切りをつける傾向があります。例えば、入社1〜3年以内に苦手な上司や長時間労働で悩み、退職代行を選ぶケースが目立ちます。
30代〜50代の特徴
30代はキャリアや家族の事情が関係して慎重に辞める人が多めです。40代・50代は割合は少ないものの、雇用維持や再就職の観点から相談を重視する傾向があります。
新卒・入社初期の動向
新卒者の利用は5月にピークを迎えます。入社直後の期待と現実のギャップが主な要因で、早期離職の課題が浮き彫りになります。例えば、研修体制が弱い職場では入社後すぐに離職が増えやすくなります。
企業が注目すべき点
若年層の離職を減らすには、入社後のフォローと働き方の見直しが有効です。オンボーディングの強化や相談窓口の整備、労働時間管理の改善などで、早期離職を抑制できます。
業種別の利用状況
概要
業種別では「各種商品小売業」が30.0%で最多、次いで「洗濯・理容・美容・浴場業」が20.8%と続きます。東京商工リサーチの別調査では「洗濯・理容・美容・浴場業」が33.3%で最多となり、調査によって上位が入れ替わります。いずれにせよ接客や販売、宿泊などBtoC業界での利用が目立ちます。
なぜBtoC業界で多いのか
接客業は顧客対応による心理的負担や労働時間の不規則さが大きく、退職を決めた従業員が直接上司と会うことを避ける傾向が強いです。人手不足で即戦力を求められる短期雇用やアルバイトの比率も高く、退職時の調整を代行に任せやすい背景があります。
具体例
- 小売店店員:シフト変更や人間関係の問題で、代行に依頼して円滑に退職手続きを進めるケース。
- 美容師・理容師:顧客との関係を理由に直接の対面での辞意表明を避ける例。
企業への示唆
対応策としては、退職時のルールを明確にし、面談の機会を柔軟に設けることが有効です。現場の負担軽減や労働環境の改善で、退職前の相談を促し、代行利用の抑制につなげられます。
企業への影響と対応策
影響の概要
退職代行による退職は、業務と組織に目に見える影響を与えます。調査では、残業増加が31.1%、退職手続きの遅延が21.8%、従業員士気の低下が14.0%と報告されています。採用面では20.8%の企業が転職回数や職歴をより厳しく見る対応を取っています。
具体的な影響例
- 残業増加:担当者が突然いなくなり、他の社員が業務をカバーして残業が増える。例)月末処理で人手が不足し、時間外対応が必要になる。
- 手続き遅延:書類回収や社会保険の手続きが滞る。例)退職届や雇用保険の処理が後回しになる。
- 士気低下:突然の離脱が不安を生み、チームの雰囲気が悪化する。例)引継ぎが不十分で責任感が偏る。
企業が取れる具体的対応策
- 手続きの標準化とテンプレート化
- 退職フローや書類テンプレートを用意し、オンラインで回収できるようにします。例)チェックリストで未済項目を可視化。
- 引継ぎルールと代替体制の整備
- 業務マニュアルを作り、代替担当者のリストを用意します。短期的にカバーできる外部リソースも検討します。
- 採用基準と面接の見直し
- 転職回数だけで判断せず、離職理由や業務適性を深掘りします。事前に想定離職リスクを把握します。
- 職場環境の改善と早期面談
- 残業削減や業務配分の見直しで離職予防を図ります。定期的な1on1で不満を早く取り上げます。
- 相談窓口とメンタルヘルス支援
- 社内外の相談窓口を整備し、退職リスクを下げる支援を行います。
- 早期対応と記録の徹底
- 退職意向が出た段階で速やかに対応し、記録を残してトラブルを防ぎます。
以上の対策を組み合わせることで、突発的な退職による業務負荷を軽減し、採用での過剰な排除を避けながら組織の安定を図れます。


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