はじめに
退職代行サービスは近年注目を集めています。仕事の人間関係や業務上の問題で退職が難しいと感じる方にとって、第三者に手続きを任せられる点が魅力です。本記事は、そんな退職代行の「合法性」に焦点を当て、日本の現行法に基づいて分かりやすく解説します。
本記事の目的
退職代行が法律上どこまで認められているのか、業者や利用者にどんなリスクがあるのか、安全に利用するためのポイントを明確にします。専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
誰に向けているか
・退職を考えているが会社とのやり取りが不安な方
・退職代行の利用を検討している方
・人事や管理職として対応を考える方
この記事で分かること
・退職代行の基本的な仕組みと法的な位置づけ
・非弁行為などの違法性に関する注意点
・安全な業者の選び方や企業側の対応方法
まずは基礎知識から丁寧に説明しますので、順を追ってご覧ください。
退職代行サービスは合法?法律上の正当性
退職の自由と民法627条
日本の民法第627条は、雇用期間の定めがない労働契約について、労働者も使用者もいつでも契約を解約できると定めています。実務上は「退職を申し出てから原則14日」で退職可能です(例:今日伝えれば14日後に退職)。この点から、退職の意思を第三者に伝えること自体は法律で禁じられていません。
第三者による意思表示は許容される
退職代行サービスは、利用者の意思を会社へ伝える第三者的な手段です。本人が直接伝えにくい場合、代行業者が電話やメールで「退職の意思」を伝えることは法的に問題ありません。実例として、Aさんが直接言いづらいため代行に依頼し、会社へメールで退職を通知するケースが多く見られます。
就業規則での禁止は無効
会社が就業規則で退職代行の利用を明示的に禁止しても、民法上の退職の自由を侵す規定は無効となる余地が大きいです。つまり、内規だけで「退職代行の利用禁止」を有効にすることは難しいと考えられます。
実務上の注意点
しかし、退職後の給与精算や有給消化、社会保険や貸与物の返却などは別問題です。これらは会社とやり取りが必要になるため、代行サービスを使う場合でも事務処理の方法を事前に確認してください。トラブルが予想される場合は、弁護士など専門家へ相談することをおすすめします。
合法と違法の境界線 ― 非弁行為とは?
非弁行為の意味
非弁行為とは、弁護士資格のない人や業者が、依頼者の代理や法律的な交渉を行うことを指します。簡単に言うと、法律の専門家でない人が「代理して相手と話をつける」行為が該当します。依頼者の代わりに条件交渉をすることが問題です。
合法とされる行為の具体例
・本人が書いた退職届や意思表示を会社に届ける(送付代行)
・「退職したい」という意志だけを伝える連絡
上記はあくまで伝達であり、弁護士法に抵触しません。
違法になり得る具体例
・退職日や有給、残業代の取り扱いについて会社と交渉する
・未払い賃金の請求や和解条件を提示する書面を作成する
こうした交渉行為は非弁行為となり、弁護士以外が行うと違法です。実際に2024年10月には退職代行業者が弁護士法違反の疑いで家宅捜索を受ける事件も起きています。
利用者が注意すべき点
サービスを使う前に、業者の業務範囲を書面で確認してください。交渉を行うと明記している場合は弁護士が関与しているかを確認しましょう。疑わしい場合は弁護士に相談することをおすすめします。
利用者の法的リスク
概要
退職代行を使った利用者(依頼者)が刑事責任を問われることは基本的にありません。違法行為の主体は代行業者側になることが多く、利用者が直接罪に問われるケースは稀です。ただし、実害や民事上のトラブルに発展するリスクはあります。
刑事責任について
故意に犯罪行為(例:文書の偽造、窃盗、名義の不正使用など)を業者に依頼した場合は、利用者自身も責任を負う可能性があります。たとえば、偽造した退職届を提出してもらうよう頼むと、依頼者側にも不利になります。
民事的・実務的リスク(具体例)
- 手続きが滞る:違法業者だと会社が応じず退職が長引く。給与や社会保険の手続きに影響します。
- 金銭トラブル:過剰な成功報酬や返金不可の契約で金銭的損失を被る例があります。
- 情報漏えい:個人情報や退職理由が第三者に漏れるリスク。
- 会社からの損害賠償請求:鍵や備品を返さない、重大な契約違反があると請求され得ます(例:会社の資産を持ち出した場合)。
被害を避けるためにできること
- やり取りは記録する(メール、メッセージ)。
- 退職の意思表示は自分でも残す(メール送信など)。
- 業者の評判や契約内容を確認し、弁護士が関与するサービスを検討する。
- 不安がある場合は労働相談窓口や弁護士に相談する。
上記を守れば、多くのトラブルは防げます。安心して退職できるよう、依頼前に少しの手間をかけることをおすすめします。
安全な退職代行サービスの選び方
1) 運営主体を必ず確認
業者が「弁護士」「労働組合」「一般企業(民間)」のどれで運営されているかを確認します。弁護士や労働組合運営なら、交渉や法的対応が可能です。例えば、労働組合名や弁護士事務所名が公式サイトに明記されているかを見てください。
2) 交渉の可否と範囲を確認
退職手続きだけか、未払い賃金や退職条件の交渉まで対応するかを確認します。弁護士や組合なら交渉や労働紛争の相談が可能です。具体的には「残業代請求」「有給消化」の対応可否を尋ねてください。
3) 契約内容と料金の透明性
料金体系、追加費用、返金規定を事前に書面で受け取りましょう。口約束だけではトラブルになりやすいです。見積もりを取り、内容に疑問があれば質問してください。
4) 連絡方法と対応スピード
メール・電話・LINEなどの連絡手段と担当者の対応時間を確認します。緊急時に連絡が取れない業者は避けた方が安全です。
5) 実績・評判と個人情報管理
過去の実績や利用者の声を確認し、不自然に良すぎる口コミは慎重に見ます。個人情報の取り扱い(保管期間、第三者提供の有無)も確認してください。
6) 利用前の相談を活用する
無料相談や初回面談で具体的な進め方を確認しましょう。例:いつ会社に連絡するか、給与や書類の受け取り方法などを事前に詰めます。
7) 避けるべき特徴(注意点)
- 会社名や代表者の記載がない
- 成功を保証する表現が多い
- 支払いが現金のみで領収書が出ない
これらがあれば別の業者を検討してください。
選ぶときは冷静に複数社を比較し、自分の希望とリスクに合う業者を選んでください。
企業側の対応と注意点
受理と本人確認
退職の意思表示は原則として拒めません。退職代行から連絡が来た場合でも、まず本人の意志を確認してください。電話だけで終わらせず、メールや書面での通知を求めると確実です。代理人が出す場合は委任状と本人の署名入りの身分証明書(例:運転免許証やマイナンバーカード)の提示を求めます。
退職日・有給の取り扱い
退職日や有給休暇の消化は法律的な判断が絡みます。退職代行が有給の買い取りや日付の調整を申し出るときは、弁護士資格の有無を確認してください。会社側でも判断に迷う場合は社内の総務担当者や顧問弁護士に相談しましょう。
違法業者への注意
法的代理権がない業者が法律業務を行うと非弁行為に当たる恐れがあります。相手が労働条件の交渉をしてくる場合は、弁護士事務所名や登録を確認し、不明確なら交渉を断るか弁護士に引き継いでもらってください。
書類・手続きの実務
最終的な給与や社会保険の手続き、貸与物の返却、雇用保険被保険者証の処理などは通常どおり行います。離職票や源泉徴収票は法定の期限内に準備し、本人に渡す手続きを進めてください。
トラブルを防ぐために
やり取りは記録を残します(メール、書面、通話記録)。退職理由や日付が不明瞭なら、本人に直接確認して合意を得ることを優先してください。必要なら労基署や顧問弁護士に相談し、適切な対応を取ってください。
退職代行の社会的背景と今後の注意点
社会的背景
近年、退職代行サービスの利用が増えました。長時間労働やパワハラ、上司との対立で直接話せない人が増えたためです。仕事を辞める際の心理的負担を代行が軽くする点が支持されています。
問題点と議論
退職手続きは本来、退職届の提出や口頭の申し出で済むことが多いです。そのため「費用に見合うのか」という議論が出ます。また、法律に触れる業務(未払い賃金の交渉や示談など)を行う業者が存在し、違法性の懸念が強まっています。
利用者が気を付ける点
・契約内容と費用を必ず書面で確認する。
・業務範囲(退職届の代行のみか、交渉まで行うか)を明確にする。
・弁護士や労働組合と連携しているか確認する。
・証拠(退職届の控えややり取りの記録)を自分でも残す。
企業・社会の対応
企業は退職手続きを分かりやすくし、退職希望者が相談しやすい体制を整えるべきです。公的機関や労働相談窓口の案内を充実させることも重要です。
今後の注意点
サービスは今後も一定の需要が続く見込みです。業者の質の差が問題になるため、利用者は慎重に選び、企業側も職場環境の改善に取り組む必要があります。安全な利用を第一に考えてください。


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